六人の共闘
第51話 六人の共闘
白い翼が。
空を覆っていた。
その存在は。
ただ静かに。
僕たちを見下ろしている。
人間。
魔族。
勇者。
魔王。
そんな区別など。
最初から存在しないかのように。
『生命反応――六』
声が響いた。
冷たい。
感情のない声だった。
『魔力反応――確認』
『対象――六』
『排除対象として認識』
レグルスが剣を構える。
「……喋ったな」
「言葉というより」
アークトゥルスが呟く。
「ただの情報処理だ」
「どういう意味だ?」
「俺たちを見ているんじゃない」
「数えている」
「……」
ベラトリクスが。
空を睨む。
「気に入らぬ」
「何が?」
レグルスが聞く。
「妾たちを」
「虫か何かのように扱っておる」
「実際」
シリウスが刀に手を添える。
「そうなのかもしれないな」
「シリウス?」
「今のあれには」
「俺たちを敵と認識する意思すらない」
シリウスが。
空を見上げる。
「ただ」
「邪魔だから消す」
「それだけだ」
その瞬間。
『排除を開始します』
白い光が。
空から降ってきた。
「来るぞ!」
レグルスが叫ぶ。
――轟ッ!!
大地が。
一瞬で消し飛んだ。
巨大な光の柱が。
六人のいた場所を貫く。
「散れ!」
全員が。
同時に動いた。
レグルスが横へ飛ぶ。
シリウスが地面を蹴る。
アルデバランが盾を構えながら後退する。
アークトゥルスは杖を掲げ。
ルナは聖なる光を纏う。
そして。
ベラトリクスは。
一人。
空へ飛び上がった。
「――そこじゃ!」
黒い魔力が。
ベラトリクスの右手へ集まる。
「《黒炎》!」
巨大な黒い炎が。
空を覆いながら。
ゼファリエルへ向かっていく。
――ドォォォン!!
炎が。
白い翼を包み込んだ。
「どうじゃ!」
ベラトリクスが笑う。
しかし。
炎の中から。
白い翼が。
ゆっくりと姿を現した。
傷はない。
炎を纏ったまま。
何事もなかったかのように。
空に浮かんでいる。
『攻撃を確認』
『脅威度――低』
「……」
ベラトリクスの眉が。
ぴくりと動く。
「低い?」
レグルスが。
思わず笑った。
「おい」
「笑うでない!」
「悪い」
「じゃが」
ベラトリクスが。
ゼファリエルを睨みつける。
「妾の炎を」
「低いじゃと?」
「どうやら」
シリウスが刀を抜く。
「挑発するつもりはなくても」
「結果的には」
「十分な挑発になったようだな」
「全くじゃ」
ベラトリクスが。
魔力をさらに高める。
「ならば」
「少し」
「本気を見せてやろう」
「待て」
アークトゥルスが叫ぶ。
「一人で行くな!」
「分かっておる!」
その瞬間。
シリウスが。
ベラトリクスより先に走った。
「シリウス!」
レグルスが叫ぶ。
だが。
シリウスは止まらない。
地面を蹴る。
一歩。
二歩。
三歩。
その動きは。
人間のものとは思えないほど速かった。
ゼファリエルの懐へ。
一瞬で入り込む。
刀が。
ゆっくりと抜かれる。
「天星一刀流――」
空気が変わった。
「壱ノ太刀」
――閃。
一瞬だった。
シリウスの姿が。
ゼファリエルの横を通り抜ける。
次の瞬間。
白い翼に。
一本の線が走った。
「……!」
レグルスが目を見開く。
「入った!」
しかし。
シリウスは笑わなかった。
「……浅い」
白い翼から。
僅かな光が溢れる。
傷が。
消えていく。
『損傷を確認』
『修復を開始』
「やはり」
アークトゥルスが呟く。
「傷が消えている」
「なら」
レグルスが剣を構える。
「消える前に」
「もっと斬ればいい!」
レグルスが走る。
「シリウス!」
「合わせる」
二人が。
同時に跳ぶ。
「――聖光斬!」
レグルスの剣が。
眩い光を纏う。
その横を。
シリウスの刀が走る。
「天星一刀流――」
「弐ノ太刀」
二つの斬撃が。
同時にゼファリエルへ叩き込まれる。
――ガァァン!!
白い光が弾ける。
ゼファリエルの身体が。
初めて。
僅かに後ろへ揺れた。
「効いた!」
レグルスが叫ぶ。
「まだだ」
シリウスが着地する。
「来る」
ゼファリエルの翼が。
大きく開いた。
『対象の攻撃力を確認』
『危険度を再計算』
『修正――』
そこで。
声が途切れた。
「……?」
アークトゥルスが眉をひそめる。
次の瞬間。
『危険度――中』
「中?」
レグルスが笑う。
「さっきより上がったぞ」
「喜んでいる場合ではありません!」
ルナが叫ぶ。
「来ます!」
白い翼から。
無数の光が放たれた。
「アルデバラン!」
「任せろ!」
アルデバランが。
巨大な盾を前へ突き出す。
「《守護結界》!」
巨大な光の壁が。
六人の前へ展開される。
――ズドォォォン!!
光の雨が。
結界へ降り注ぐ。
一発。
二発。
三発。
無数の攻撃が。
結界を叩く。
「ぐっ……!」
アルデバランの身体が揺れる。
「まだだ!」
亀裂が。
結界へ走る。
「アルデバラン!」
ルナが。
その背中へ手を伸ばす。
「私が支えます!」
聖なる光が。
アルデバランへ流れ込む。
「……助かる!」
「耐えてください!」
「分かっている!」
アークトゥルスが。
その後ろから杖を掲げる。
「二人とも」
「三秒だけ」
「時間をくれ」
「三秒?」
レグルスが笑う。
「十分だ!」
アークトゥルスの足元に。
巨大な魔法陣が展開される。
「《天雷》」
空が。
一瞬で暗くなる。
そして。
巨大な雷が。
ゼファリエルへ落ちた。
――ドォォォン!!
雷が。
白い翼を包み込む。
「今だ!」
レグルスが叫ぶ。
ベラトリクスが。
空を見上げる。
「妾も混ぜてもらおうかの」
黒い魔力が。
周囲の大地から湧き上がる。
「《黒炎・連獄》!」
無数の黒炎が。
雷の中へ突っ込む。
炎と雷が。
空中で混ざり合う。
「シリウス!」
「分かっている」
シリウスが。
もう一度。
刀を構える。
「天星一刀流――」
一歩。
「参ノ太刀」
消える。
次の瞬間。
ゼファリエルの翼が。
斬り裂かれた。
「――今!」
レグルスが。
その中心へ飛び込む。
「これで――!」
剣を振り上げる。
「《聖光斬》!!」
――轟ッ!!
巨大な光が。
戦場を包んだ。
全てが。
白く染まる。
六人の視界から。
ゼファリエルの姿が消えた。
「……やったか?」
レグルスが。
息を切らしながら呟く。
「油断するな」
シリウスが答える。
煙が。
少しずつ晴れていく。
そして。
その向こうから。
一人の天使が。
ゆっくりと姿を現した。
翼は。
僅かに傷ついている。
しかし。
その傷も。
少しずつ消えていく。
「……」
誰も。
言葉を発せなかった。
『損傷――確認』
『修復――開始』
白い光が。
傷口を包む。
そして。
完全に消えた。
「……くそ」
レグルスが。
剣を握り直す。
その時だった。
『――訂正』
声が。
変わった。
今までの。
無機質な声ではない。
『……なるほど』
六人が。
一斉に空を見る。
「……?」
『そういうことですか』
声に。
初めて。
感情があった。
『この世界の生命は』
『私に』
『傷をつけることができるのですね』
ゼファリエルが。
自分の翼を見る。
そして。
初めて。
笑った。
「……笑った?」
ルナが呟く。
『ふふ』
「……」
『面白い』
『非常に』
『面白い』
声が。
少しずつ。
人間らしくなっていく。
『私は』
『この世界へ降りてきてから』
『ずっと』
『同じ景色を見ていました』
『逃げる者』
『叫ぶ者』
『祈る者』
『そして』
『消えていく者』
『どれも』
『同じでした』
ゼファリエルが。
六人を見下ろす。
『ですが』
『あなたたちは』
『少し違う』
「……」
『私に』
『牙を向ける』
『実に』
『愚かで』
『美しい』
レグルスが。
剣を構える。
「気に入らないな」
『何がです?』
「その喋り方だ」
『ほう?』
「俺たちを」
「見下している」
『当然でしょう?』
ゼファリエルが。
笑った。
『あなたたちは』
『虫けらなのですから』
空気が。
凍った。
『人間も』
『魔族も』
『勇者も』
『魔王も』
『私から見れば』
『等しく』
『小さな存在です』
ベラトリクスの瞳が。
細くなる。
「……言ってくれる」
『魔王』
「……」
『あなたも』
『同じです』
『いくら力を持とうと』
『いくら大きな魔力を持とうと』
『あなたは』
『ただの』
『虫けらです』
「……」
ベラトリクスが。
笑った。
「そうか」
「ならば」
「その虫けらに」
「殺される気分を」
「味わってみるか?」
『……ふふ』
ゼファリエルが笑う。
『いいでしょう』
『やってみなさい』
「上等じゃ」
ベラトリクスが。
魔力を解放する。
大地が。
大きく震えた。
「レグルス」
「なんだ」
「次は」
「妾が前に出る」
「分かった」
「シリウス」
「任せろ」
「アルデバラン」
「守る」
「アークトゥルス」
「準備はできている」
「ルナ」
「はい」
六人が。
自然と。
一つの陣形を作る。
それは。
まだ名前すらない。
けれど。
後に。
何度も世界を救うことになる。
六人の戦い方だった。
「行くぞ!」
レグルスが叫ぶ。
アルデバランが。
一歩前へ出る。
「《守護結界》!」
結界が。
六人を包む。
同時に。
ルナが両手を掲げる。
「《聖域》!」
淡い光が。
地面へ広がる。
仲間の身体が。
軽くなる。
魔力の流れが。
整っていく。
「……これなら」
レグルスが笑う。
「行ける!」
アークトゥルスが。
杖を掲げる。
「《星界封縛》!」
空に。
巨大な魔法陣が浮かぶ。
無数の光の鎖が。
ゼファリエルへ伸びていく。
『……また』
ゼファリエルが。
笑う。
『その程度ですか?』
鎖が。
翼へ絡みつく。
「今だ!」
レグルスが走る。
ベラトリクスも。
同時に飛び出した。
「《黒炎・連獄》!」
黒炎が。
地面を走る。
ゼファリエルの足元から。
巨大な炎柱が。
噴き上がる。
その炎を。
レグルスが駆け上がる。
「《聖光斬》!!」
剣が。
ゼファリエルの胸へ迫る。
しかし。
白い翼が。
レグルスの前へ割り込んだ。
――ガキィン!!
剣が。
翼に止められる。
『残念』
「……っ!」
『同じ技では』
『もう』
『私には届きませんよ』
「なら」
レグルスが笑う。
「同じじゃなきゃいい」
横から。
シリウスが現れる。
「天星一刀流――」
「肆ノ太刀」
一閃。
ゼファリエルの翼が。
大きく弾かれる。
「今じゃ!」
ベラトリクスが叫ぶ。
「――《魔王解放》」
空気が。
震えた。
ベラトリクスの魔力が。
一気に膨れ上がる。
黒い魔力が。
巨大な渦となって。
空を覆う。
『……!』
初めて。
ゼファリエルの表情が。
僅かに変わった。
「《冥界崩壊》!!」
巨大な黒い奔流が。
ゼファリエルへ襲いかかる。
同時に。
アークトゥルスが。
さらに魔法を重ねる。
「《天雷》――!」
雷が。
黒い奔流へ重なる。
ルナが。
二人の魔力を支える。
「《聖域》――強化!」
アルデバランが。
全員を守る。
「ここから先へは」
「行かせない!」
六人の力が。
一つに重なる。
――轟ォォォォン!!
爆発。
大地が。
大きく揺れる。
空が。
黒と白に染まる。
レグルスは。
その光景を見ながら。
剣を握る。
「……これなら」
しかし。
アークトゥルスが。
小さく呟いた。
「……まだだ」
「え?」
「来る」
煙の向こう。
白い光が。
少しずつ。
広がっていく。
そして。
その中から。
ゼファリエルが現れた。
翼は。
確かに傷ついている。
しかし。
ゼファリエル自身は。
笑っていた。
『……素晴らしい』
「……」
『本当に』
『素晴らしい』
『あなたたちは』
『ただの虫けらではないようですね』
レグルスが。
剣を構える。
『ですが』
ゼファリエルの笑みが。
深くなる。
『虫けらが』
『どれほど足掻こうと』
『空を飛ぶ者には』
『届かない』
「……言ってくれる」
『勇者』
ゼファリエルが。
レグルスを見る。
『あなたが』
『この中では』
『一番面白い』
「そうかよ」
『ええ』
『その目』
『気に入りません』
「……」
『私を』
『倒せると』
『本気で思っている』
「思ってるんじゃない」
レグルスが。
剣を構え直す。
「倒すんだ」
『……ふふ』
ゼファリエルが笑う。
『愚かですね』
「よく言われる」
『ならば』
『その愚かさが』
『どこまで届くのか』
『見せてください』
白い翼が。
大きく開いた。
『――次は』
『あなたたちを』
『まとめて』
『消してあげましょう』
六人が。
再び構える。
恐怖は。
消えていなかった。
勝てる保証も。
なかった。
それでも。
誰一人。
逃げなかった。
この日。
勇者と剣聖と守護騎士と賢者と聖女。
そして。
魔王。
五人の英雄と。
一人の魔王は。
初めて。
同じ敵へ向かって。
剣を。
魔法を。
盾を。
聖なる力を。
そして。
魔王の力を。
振るった。
まだ。
彼らは知らない。
この戦いが。
人間と魔族の歴史を。
大きく変えることを。
そして。
この日を境に。
魔王ベラトリクスと五人の英雄が。
本当の意味で。
六人の仲間になっていくことを。
五百年前。
世界を救った六人の物語は。
今。
始まったばかりだった。




