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星喰らい

第47話 星喰らい

扉の向こうから聞こえた声に、僕は息を止めた。

「……来たのですね」

静かな声だった。

けれど。

その声を、僕は知っている。

船の上で聞いた声。

「星の声を聞くものよ」

あの時、確かに聞こえた。

「ベラトリクスを、私のもとへ」

そして今。

その声の主が、目の前にいる。

扉がゆっくりと開いていく。

その先から、淡い光が溢れ出した。

眩しさに目を細める。

やがて光が落ち着き。

その奥に、一人の女性が立っているのが見えた。

白い衣。

長い銀色の髪。

穏やかな表情。

その姿は、どこまでも美しかった。

けれど。

ただ美しいだけではない。

その場にいるだけで、空間そのものが静まり返っているような感覚があった。

「……」

僕は言葉を失った。

ベラも動かない。

アンタレスでさえ、珍しく黙っている。

女性は僕たちを見つめ。

そして。

ゆっくりとベラへ視線を向けた。

「……久しぶりですね」

ベラの赤い瞳が揺れる。

「……ルナ」

その名前が。

静かな部屋へ落ちた。

女性――ルナは、僅かに微笑んだ。

「ええ」

「五百年ぶりですね、ベラトリクス」

「……そうじゃな」

ベラは目を細める。

「随分と」

「老けたのう」

「ふふ」

ルナが小さく笑った。

「あなたは」

「相変わらずですね」

「妾は五百年寝ておったからのう」

「そうでしたね」

二人の会話は。

僕が想像していたものとは違った。

もっと重く。

もっと悲しい再会になると思っていた。

けれど。

そこにあるのは。

長い年月を隔てても消えなかった、何かだった。

僕は二人を見つめる。

「……本当に」

ルナが僕を見る。

「はい?」

「ルナ……なんだよね?」

「ええ」

「僕の聞いた声も」

「あなたが感じたものも」

「全て私です」

「……」

胸が高鳴った。

本当に。

五百年前の聖女が。

僕の目の前にいる。

「でも」

僕は首を傾げる。

「五百年前の人なのに」

「どうして……?」

「この姿なのか、ですか?」

「うん」

ルナは少しだけ笑った。

「それは」

「私がここにいるからです」

「……?」

「この場所には」

「時間の流れが、外とは少し違います」

「そして」

「私自身も」

「完全に生きているわけではありません」

「……」

その言葉に。

僕は息を呑んだ。

「じゃあ」

「ルナは」

「幽霊なの?」

「ふふ」

ルナは笑った。

「少し違います」

「なら……何?」

「今の私を」

「どう呼ぶべきなのか」

「私にも分かりません」

その答えに。

僕は何も言えなかった。

ルナはベラを見る。

「それより」

「あなたの中にあるものが」

「随分と騒がしくなっていますね」

ベラの表情が変わった。

「……妾の中?」

「はい」

「何のことじゃ」

ルナは答えない。

ただ。

ベラへ一歩近づいた。

そして。

ベラの胸元へ手を伸ばす。

触れてはいない。

それなのに。

空間が僅かに震えた。

「……」

ベラが胸を押さえる。

「なんじゃ」

「今」

「何かが……」

「感じましたか?」

「うむ」

ルナは目を伏せる。

「やはり」

「まだ封印は残っています」

「封印?」

僕は思わず口を挟んだ。

「ベラの中に?」

「はい」

ルナが僕を見る。

「五百年前」

「私たちは」

「あるものを」

「ベラトリクスの中へ封じました」

「……」

「何を?」

ルナは。

しばらく黙っていた。

そして。

静かに答えた。

「災厄です」

僕の背中に寒気が走った。

「……災厄?」

「はい」

「五百年前」

「魔族たちが人間界へ逃げてきた理由」

「あなたが教皇から聞いた話」

「その災厄です」

ベラが眉を寄せる。

「……妾の中に」

「あれがいるのか?」

「正確には」

「全てではありません」

「……?」

「封じたのは」

「災厄そのものではないのです」

「なら」

「一部です」

部屋が静まり返る。

「災厄の」

「一部……?」

僕が繰り返す。

「はい」

ルナは頷いた。

「私たち五人では」

「倒し切れませんでした」

「……」

「勇者レグルス」

「剣聖シリウス」

「守護騎士アルデバラン」

「賢者アークトゥルス」

「そして私」

「五人で力を合わせても」

「その存在を消し去ることはできなかった」

「だから」

「封じた」

「どこに?」

「ベラトリクスの中へ」

ベラが目を見開く。

「……なぜ」

「妾なのじゃ?」

ルナは。

悲しそうに微笑んだ。

「あなたしか」

「耐えられなかったからです」

「……」

「魔王であるあなたの身体と魔力だけが」

「あの存在の一部を受け止めることができた」

「だから」

「私たちは」

「あなたを器にしました」

ベラの手が。

僅かに震えた。

「……妾は」

「知らなんだ」

「当然です」

「あなたには」

「知らせませんでした」

「なぜじゃ」

「知れば」

「あなたは」

「自分から全てを背負おうとするからです」

「……」

ベラは黙った。

ルナは続ける。

「あなたは」

「昔からそうでした」

「自分が傷つけば済むのなら」

「他人を傷つけることを選ばない」

「妾を買い被りすぎじゃ」

「いいえ」

ルナは微笑んだ。

「私は」

「五百年前から」

「あなたを見てきましたから」

ベラは顔を逸らした。

「……そういうところが」

「昔から嫌いじゃ」

「それも」

「知っています」

「……」

二人の間に。

僅かな沈黙が流れた。

僕は。

ずっと気になっていたことを聞く。

「じゃあ」

「五百年前」

「ベラを封印したのは」

「災厄を封じるためだったの?」

「それだけではありません」

ルナは答えた。

「ベラトリクス自身を」

「守るためでもありました」

「……え?」

「災厄の一部を封じた器になったあなたを」

「そのままにしておけば」

「いずれ」

「あなた自身が」

「壊れてしまう可能性があった」

「だから」

「私は」

「あなたを眠らせました」

ベラが目を閉じる。

「……妾を」

「殺さなかった理由も」

「それです」

「殺すことは」

「できなかった?」

「違います」

ルナは首を横に振った。

「殺さなかったのです」

「……」

「あなたを殺せば」

「封じたものがどうなるか」

「分かりませんでした」

「そして」

「あなた自身が」

「最後まで」

「私たちの仲間だったから」

ベラは。

しばらく何も言わなかった。

やがて。

小さく笑う。

「……そうか」

「それで」

「妾を眠らせたのか」

「はい」

「五百年も?」

「はい」

「随分と長い眠りじゃった」

「ごめんなさい」

ルナが頭を下げた。

「……謝るな」

ベラは静かに言った。

「妾は」

「もう怒っておらん」

ルナが顔を上げる。

「……ありがとうございます」

「礼を言われるようなことではない」

「それでも」

二人の会話を聞いていると。

五百年前の時間が。

ほんの少しだけ戻ってきたような気がした。

けれど。

僕には。

もう一つ気になることがある。

「ルナ」

「はい」

「災厄って」

「一体何なの?」

ルナの表情が変わった。

今までの穏やかな笑顔が消える。

「……天使です」

「……天使?」

「はい」

僕は言葉を失った。

天使。

それは。

人間が神聖な存在として語るもの。

神の使い。

救いをもたらす存在。

それが。

五百年前の災厄。

「天使が」

「魔族を追ってきたの?」

「正確には」

「追ってきたのではありません」

「……?」

「彼らにとって」

「魔族も」

「人間も」

「この世界に生きる全てのものも」

「同じだったのです」

「同じ?」

「排除する対象として」

背筋が凍った。

「天使は」

「善ではありません」

ルナの声は。

静かだった。

だからこそ。

怖かった。

「神聖だから」

「正しいとは限らない」

「天使だから」

「慈悲があるとも限らない」

「五百年前」

「私たちは」

「それを知りました」

「……その天使の名前は?」

ルナは。

ベラを見る。

そして。

静かに口にした。

「大天使」

「ゼファリエル」

その名前が。

部屋に響いた瞬間。

ベラの身体が僅かに震えた。

「……ゼファリエル」

「知ってるの?」

「名前だけじゃ」

ベラは胸元を押さえる。

「何か」

「胸の奥が」

「嫌な感じがする」

ルナは頷いた。

「当然です」

「あなたの中には」

「彼の一部が眠っていますから」

「……」

僕は息を呑む。

「大天使ゼファリエル」

「それが」

「災厄の正体」

「はい」

「そして」

ルナの声が。

僅かに低くなる。

「私たちは」

「彼を」

「《星喰らい》と呼んでいました」

「星喰らい……」

僕が呟く。

「なぜ」

「そんな名前を?」

ルナは窓の外を見る。

塔の高い窓から。

夜空が見える。

無数の星。

「彼が」

「星を」

「喰らうからです」

「……」

「正確には」

「星そのものを食べるわけではありません」

「この世界に存在する」

「生命」

「魔力」

「魂」

「そして」

「星々がこの世界へ与えている力」

「それら全てを」

「奪っていく」

僕は言葉を失った。

「それが進めば」

「どうなるの?」

「世界が」

「静かになります」

「静かに……?」

「はい」

「命が消え」

「魔力が消え」

「最後には」

「星の光すら」

「届かなくなる」

「……」

「だから」

「私たちは」

「彼を」

「星喰らいと呼びました」

ベラが拳を握る。

「……妾たちは」

「そいつと戦ったのか」

「はい」

「そして」

「勝ったのか?」

ルナは。

少しだけ目を伏せた。

「……いいえ」

その一言で。

部屋の空気が変わった。

「勝ってないの?」

「私たちは」

「ゼファリエルを」

「倒してはいません」

「じゃあ」

「どうしたの?」

「封じました」

ルナはベラを見る。

「その一部を」

「あなたの中へ」

「……」

「残ったものは?」

僕が聞く。

ルナは答えなかった。

ただ。

夜空を見上げる。

「……」

「ルナ?」

「ゼファリエルは」

「この世界よりも」

「遥かに大きな存在です」

「……」

「私たちが戦ったのは」

「その一部に過ぎませんでした」

「一部……?」

「はい」

「では」

「ゼファリエル本体は?」

ルナの瞳が。

僅かに揺れる。

「分かりません」

「……え?」

「五百年前」

「私たちは」

「ゼファリエルの一部を封じることしかできなかった」

「その本体が」

「どこへ行ったのか」

「今も存在しているのか」

「それすら」

「分かっていません」

僕は黙り込んだ。

倒したわけではない。

完全に封じたわけでもない。

ただ。

一部をベラの中へ封じた。

それなら。

五百年経った今。

何が起きているのか。

「じゃあ」

「ベラの中の封印が弱くなってるっていうのは」

「はい」

ルナは頷く。

「五百年という時間」

「それだけではありません」

「あなたが目覚めたこと」

「そして」

「世界に再び現れ始めた」

「異常な魔力」

「それら全てが」

「無関係ではありません」

「……」

「ベラの中に封じたものが」

「少しずつ」

「外へ漏れ始めています」

ベラが自分の胸へ手を当てる。

「だから」

「最近」

「力の制御が」

「不安定だったのか……」

「そうです」

「でも」

「まだ」

「完全に破られたわけではありません」

ルナはベラを見る。

「だからこそ」

「時間が必要です」

「何の?」

「封印を」

「もう一度」

「強くするための時間です」

「できるの?」

「……」

ルナは答えない。

その沈黙が。

何よりも不安だった。

「ルナ」

僕は尋ねる。

「方法はあるんだよね?」

「あります」

「でも」

「私だけではできません」

「……」

「五百年前と同じように」

「一人の力では」

「どうにもならないのです」

「じゃあ」

「誰が必要なの?」

ルナは僕を見る。

一瞬。

その視線が。

僕の奥まで見透かしているように感じた。

「あなたには」

「まだ」

「知る必要がないことがあります」

「……僕の力?」

「はい」

「それについては」

「私からは」

「何も答えられません」

「どうして?」

「その答えを知るべき人は」

「私ではないからです」

「誰なの?」

ルナは。

ほんの少しだけ笑った。

「賢者アークトゥルス」

「……」

その名前に。

僕は息を呑んだ。

「彼なら」

「あなたの力について」

「私よりも多くを知っています」

「アークトゥルスは」

「今どこにいるの?」

「それは」

「まだ」

「私にも分かりません」

「……」

「ですが」

「あなたが」

「彼を探すことになるでしょう」

「どうして?」

「あなたの力と」

「五百年前の出来事は」

「どこかで繋がっています」

その言葉に。

胸の奥がざわついた。

レグルス。

シリウス。

アルデバラン。

アークトゥルス。

ルナ。

ベラトリクス。

五英雄と魔王。

そして。

僕。

ソル。

僕だけが。

五百年後の人間。

なのに。

どうして。

僕の力は。

五百年前の彼らと繋がっているのか。

「ルナ」

ベラが口を開いた。

「一つ」

「聞きたい」

「はい」

「妾の中にあるもの」

「いずれ」

「目覚めるのか?」

ルナは。

しばらくベラを見つめた。

「……封印が」

「何もしなくても永遠に続くことはありません」

「なら」

「いずれ」

「はい」

「目覚める可能性はあります」

ベラは目を閉じた。

「そうか」

「ですが」

ルナは続ける。

「それは」

「あなたの中にあるものだけが問題なのではありません」

「……?」

「ゼファリエルは」

「一人ではない可能性があります」

僕は顔を上げた。

「え?」

「一人ではない?」

ルナは答えを選ぶように。

ゆっくりと言葉を続けた。

「五百年前」

「私たちは」

「ゼファリエルを」

「大天使と呼んでいました」

「ですが」

「その言葉を」

「どういう意味で使っていたのか」

「私たちは」

「最後まで理解できませんでした」

「……どういうこと?」

「大天使」

「つまり」

「天使たちの中でも」

「特別な存在」

「そう思っていた」

「でも」

「違った?」

ルナは。

静かに頷いた。

「私たちが見たゼファリエルは」

「天使の頂点ですら」

「なかったのかもしれません」

「……」

「彼の上に」

「何かがいる」

「そう考えざるを得ない記録が」

「五百年前には存在していました」

僕は息を呑む。

「じゃあ」

「ゼファリエルより上に」

「いるってこと?」

「分かりません」

「ただ」

「ゼファリエル自身が」

「一度だけ」

「こう言ったことがあります」

ルナの声が。

少しだけ震えた。

「『我々は』

『ただ』

『御方の意思を』

『遂行するだけだ』」

「……」

「御方?」

「はい」

「その『御方』が」

「誰なのか」

「私たちは」

「知ることができませんでした」

「でも」

「それって」

「ゼファリエルより上の存在が」

「いるってことじゃ……」

「可能性はあります」

ルナは。

それ以上は語らなかった。

けれど。

その沈黙だけで十分だった。

ゼファリエル。

大天使。

星喰らい。

それですら。

最上位ではない可能性がある。

僕は。

言葉を失った。

ベラも黙っている。

アンタレスは。

ずっと腕を組んだまま、何かを考えていた。

「……」

やがて。

アンタレスが口を開く。

「ルナ」

「はい」

「五百年前」

「あなた方が戦った存在は」

「本当に」

「ゼファリエルだけなのですか?」

ルナはアンタレスを見る。

そして。

「……」

長い沈黙の後。

「分かりません」

と答えた。

「ただ」

「一つだけ」

「五百年前の最後の戦いで」

「私たちが見た空には」

「ゼファリエル以外にも」

「何かが」

「いた」

「……」

「人の形をしていたわけではありません」

「声も」

「姿も」

「はっきりとは分かりませんでした」

「ですが」

「私は今でも」

「その気配だけは」

「忘れられません」

ルナが。

窓の外の星空を見る。

「まるで」

「星の向こう側から」

「こちらを」

「見ているような」

その言葉に。

僕の身体が震えた。

「……星の向こう」

僕が呟く。

ルナが振り返る。

「はい」

「だから私は」

「あなたに」

「星の声を聞くものよ」

「そう呼びかけました」

「あなたが聞いているものが」

「何なのか」

「私にも分からない」

「でも」

「この世界の星々が」

「何かを伝えようとしているのなら」

「あなたは」

「それを聞くことができる」

「……」

「そして」

ルナはベラを見る。

「あなたは」

「その声に導かれるように」

「ここへ来た」

ベラが静かに笑う。

「随分と」

「回りくどい呼び方をしたものじゃ」

「ごめんなさい」

「妾は」

「もっと直接呼んでくれてもよかったぞ」

「それでは」

「あなたが来てくれるか」

「分からなかったので」

「……」

ベラは。

少しだけ笑った。

「相変わらずじゃな」

「はい」

ルナも笑った。

その二人の間に。

五百年という時間があるとは思えなかった。

けれど。

僕にはまだ。

一つだけ気になることがあった。

「ルナ」

「はい」

「五百年前」

「最後に」

「何があったの?」

ルナの笑顔が。

消えた。

「……」

「教皇から聞いた」

「ベラは封印された」

「五英雄はそれぞれの道へ進んだ」

「でも」

「それだけじゃないんだよね?」

「……」

「六人で世界を救ったのに」

「どうして」

「ベラだけが五百年も眠ることになったの?」

「……」

ルナは。

ベラを見る。

そして。

ゆっくりと目を閉じた。

「それを話すには」

「まだ」

「一つ」

「覚悟が必要です」

「覚悟?」

「はい」

「五百年前の最後に」

「私たちは」

「一つの選択をしました」

「その選択によって」

「今の世界が存在しています」

「そして」

「ベラトリクスの中に」

「ゼファリエルの一部が封じられた理由も」

「その選択にあります」

僕は息を呑んだ。

「じゃあ」

「教えて」

「……」

ルナは。

静かに僕を見る。

「ソル」

「はい」

「あなたは」

「これから」

「たくさんの真実を知ることになります」

「その中には」

「知った後では」

「もう元の世界には戻れないものもある」

「……」

「それでも」

「聞きますか?」

僕は迷わなかった。

「うん」

「知りたい」

ルナは。

小さく頷いた。

「……分かりました」

そして。

その瞳が。

五百年前の記憶を映すように。

遠くを見る。

「では」

「五百年前」

「私たち六人が」

「最後に何を選んだのか」

「そこから」

「お話ししましょう」

その瞬間。

塔の奥で。

何かが響いた。

――ドクン。

ベラが胸を押さえる。

「……っ」

「ベラ!」

「大丈夫じゃ」

けれど。

その赤い瞳の奥に。

一瞬だけ。

見たことのない光が宿った。

そして。

どこからともなく。

微かな声が聞こえた。

『……星が』

『また』

『目覚める』

僕は。

息を呑んだ。

ルナも。

その声を聞いていた。

「……」

そして。

ルナは静かに呟いた。

「始まってしまったのですね」

五百年前。

僕たちが知らなかった最後の選択。

そして。

ベラの中に眠る。

大天使ゼファリエルの一部。

さらに。

その天使さえも従えるかもしれない。

名も知らぬ存在。

僕は。

目の前にいるルナを見つめた。

五百年前の真実は。

まだ。

終わっていなかった。


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