実技査定
第26話 実技査定
昼食を終えた僕たちは、約束の時間より少し早く冒険者ギルドへ戻っていた。
朝よりもさらに人が増えている。崩落した街道の影響で、樹海へ入る依頼を探している冒険者が多いらしい。受付で名前を告げると、そのまま建物の横にある訓練場へ案内された。
「広い」
石壁に囲まれた長方形の訓練場には、木製の人形や的、模擬戦用の区画がいくつも並んでいた。端では別の冒険者たちが剣を打ち合わせている。
ベラが周囲を見回す。
「ここで何をさせられるのじゃ」
「実技査定って言ってたでしょ」
「妾が人間に実力を測られるというのが気に入らぬ」
「F級だから仕方ない」
「ソル」
「はい」
「それ以上申したら燃やすぞ」
「今の魔力で?」
「……少しくらいなら燃やせる」
「怖いからやめて」
アンが静かに言う。
「陛下。人前です」
「分かっておる」
「あと、今日はベラです」
「お主まで言うようになったか!」
「必要ですので」
完全にアンは新しい呼び名に適応している。
ベラだけがしていない。
「三人とも来たな」
低い声。
振り返る。
四十代くらいの男が立っていた。短く刈った黒髪。左眉から頬にかけて古い傷がある。身体は大きいけど、ガイルみたいな重装備じゃない。腰に片手剣を一本だけ差している。
受付の女性も一緒だった。
「こちらが本日の査定官、ローディア支部所属のB級冒険者、グレンさんです」
「B級」
また。
高い。
グレンは僕たちを一人ずつ見る。
「ソル。ベラ。アン。全員F級。特例昇級査定で間違いないな」
「はい」
アンも頷く。
ベラだけ少し遅れて、
「……ああ」
「不満そうだな」
「別に」
「そうか」
グレン。
気にしない。
助かる。
「先に言っておく。今日見るのは派手さじゃない」
僕は少し背筋を伸ばした。
「特例査定は、今の階級と実力が大きく離れてる奴を適正な位置まで上げるためのものだ。強い技を一発撃てるだけじゃ評価しない」
「はい」
「武器の扱い。魔力制御。基礎体力。実戦での反応。それから、自分の力量を理解しているか」
最後。
少し。
気になる。
「自分の力量?」
「できることと、できないことを分かってるかってことだ」
グレンが僕を見る。
「特に若い冒険者は、強い技を一つ覚えると自分まで強くなったと勘違いする」
「……」
刺さる。
ものすごく。
星装。
明星。
シリウスの教え。
全部。
ここ数日で手にした。
「心当たりある顔だな」
「ちょっと」
「なら覚えとけ」
グレンは訓練場の奥を指した。
「最初は基礎。次に魔力制御。最後に模擬戦だ。順番はソル、アン、ベラ」
「何故妾が最後じゃ」
「受付順」
「くだらぬ」
「嫌なら帰っていいぞ」
「受ける」
早い。
僕は笑いそうになった。
「ではソル。中央へ」
「はい」
僕は荷物をアンへ預け、中央の区画へ入る。
腰には二本。
リュネで買った剣。
そして明星。
グレンがそれを見る。
「二本使うのか?」
「今はこっちです」
明星へ手を置く。
「もう一本は?」
「初めて自分で買った剣なので、持ってます」
グレンが少しだけ眉を上げた。
「そうか」
それだけ。
でも何となく、悪い反応じゃなかった。
「抜け」
明星。
鞘を押さえる。
スッ。
銀色の刀身。
工房で調整してもらった後、ちゃんと振るのは初めてだ。
手。
合う。
昨日までとは違う。
ドヴァン。
調整。
思い出す。
握りすぎるな。
右手を強くするな。
まず均等に。
「構えろ」
僕はシリウスに教わった基礎の構えを取る。
グレンは僕の周りを一周した。
「刀は最近か」
「分かります?」
「構えが剣と刀の中間だ」
「……」
一発。
見抜かれた。
「元は片手剣?」
「はい」
「誰かに刀を習ったか」
「少しだけ」
「どのくらい」
「二日くらい」
グレン。
止まる。
「二日?」
「はい」
「それで特例昇級受けに来たのか」
「刀を持ったのは最近ですけど、戦闘自体は前から少し」
「なるほど」
それ以上は聞かない。
「振れ。縦十、横十、斜め左右十ずつ」
「はい」
振る。
一。
二。
足。
止めない。
肩。
力。
抜く。
シリウスの真似をしすぎない。
自分。
身体。
明星。
重さ。
感じる。
十。
横。
刀。
返す。
ドヴァンが調整した重心のおかげで、昨日より明らかに止めやすい。
全部。
終わる。
グレンが言う。
「基礎はまだ浅い」
「はい」
「だが、変な癖が少ない」
「……それ褒めてます?」
「今は褒め言葉だ」
良かった。
「次」
壁際。
三つ。
的。
並ぶ。
距離。
五メートル。
十メートル。
十五メートル。
「魔法は?」
「生活魔法くらいです」
「なら強化系か」
「はい」
「見せろ」
「星装」
小さく。
呟く。
魔力。
胸。
熱。
身体へ流す。
金色。
光。
薄く。
全身。
覆う。
粒子。
周囲。
舞う。
グレン。
目。
僅かに動く。
受付の女性も。
「……珍しいな」
「そうみたいです」
「どこで覚えた」
「教えてもらいました」
嘘。
ではない。
レグルスから。
「その状態で何ができる」
「身体能力を上げられます。あと、魔力を一ヶ所に集めて強くできます」
「持続は?」
「まだ長時間はきついです」
「弱点は?」
「集めた場所が分かりやすいです。それと、動きが速くなりすぎると自分がついていけません」
グレン。
少し。
口元。
上がる。
「ちゃんと分かってるじゃないか」
「最近いっぱい転んだので」
ベラが後ろから言う。
「壁にも突っ込んでおったぞ」
「言わなくていいよ!」
「事実じゃ」
グレンが笑った。
「実体験なら忘れないな」
「忘れたいです」
「次。その強化を武器に流せるか」
「……はい」
明星。
握る。
ドヴァン。
言葉。
思い出す。
一層。
薄く。
均等に。
大量に流すな。
胸。
肩。
腕。
手。
柄。
魔力。
刀身。
金色。
光。
明星へ移る。
「……」
昨日。
工房。
初めて流した時より。
少し。
自然。
刃。
根元から。
先。
薄い金色。
纏う。
漏れない。
グレンの表情が変わった。
「その刀、魔力伝導がいいな」
「らしいです」
「らしい?」
「作った人に昨日教えてもらいました」
「昨日?」
「はい」
「……お前、最近覚えたものばっかりだな」
「僕もそう思います」
アンが小さく笑う。
ベラは、
「だから素人なのじゃ」
と余計なことを言う。
「誰が素人だよ」
「妾が前に言うたであろう。強い力を持った素人じゃ」
「ちょっとは成長したよ!」
「少しはな」
グレンが手を上げる。
「喧嘩は後にしろ」
「はい」
「次。刀へ流した魔力を身体へ戻せるか」
「できます」
流す。
刃先。
止めない。
戻す。
刀。
柄。
手。
腕。
胸。
金色。
循環。
一周。
二周。
三周目。
少し。
乱れる。
「っ」
粒子。
一部。
弾ける。
僕。
止める。
「ここまでです」
「何で止めた」
「崩れそうだったから」
「まだ続けられたんじゃないか?」
「多分。でも明星を傷めるかもしれないって言われたので」
グレン。
少し。
黙る。
「いい」
「いい?」
「止めた判断が」
「……」
エッダ。
朝。
言ってた。
強い奴より。
生きて帰る奴。
グレンも同じ。
無理。
する。
だけ。
強さ。
じゃない。
「次は動く」
訓練場。
端。
木製の装置。
グレンがレバーを引く。
ガコン。
前方。
五つ。
人型。
的。
現れる。
ただ。
普通。
違う。
床。
溝。
動く。
「三十秒。攻撃してくる標的を避けながら、胸の赤印だけ斬れ。星装は使っていい」
「全部倒す?」
「赤印だけだ。それ以外へ当てたら減点」
「分かりました」
五体。
木偶。
手。
棒。
持つ。
八階。
シリウス。
修行。
思い出す。
『八体全部が同時に攻撃できると思う?』
「始め!」
木偶。
動く。
一体目。
正面。
右。
二。
後ろ。
一。
全員。
見ない。
今。
来る。
二。
正面。
棒。
振る。
肩。
見る。
違う。
人形。
機械。
なら。
動く前。
床。
溝。
音。
カッ。
僕。
半歩。
左。
避ける。
明星。
振る。
胸。
赤。
一つ。
斬る。
木偶。
止まる。
二体目。
右。
突き。
来る。
受けない。
前。
入る。
身体。
横。
抜ける。
赤。
斬る。
二。
後ろ。
音。
金属。
擦れる。
振り返らない。
左。
一歩。
棒。
背中。
空。
切る。
三体目。
赤。
「……」
四。
五。
最後。
二体。
重なる。
正面。
一。
後ろ。
一。
なら。
正面。
僕。
踏む。
星装。
右脚。
少し。
粒子。
集める。
木偶。
攻撃。
その前。
横。
抜ける。
一体目。
邪魔。
後ろ。
木偶。
棒。
振れない。
『自分の攻撃で、相手の次を作る』
シリウス。
僕。
一体目。
胸。
斬る。
止まった木偶。
その横。
抜け。
最後。
胸。
赤。
斬る。
ガコン。
全部。
止まる。
「……」
鐘。
まだ。
鳴ってない。
「二十二秒」
グレン。
言う。
「合格」
「よし」
息。
吐く。
星装。
消す。
思ったより。
動けた。
でも。
腕。
少し。
震える。
「今の動き」
グレンが近づく。
「誰に習った」
「……刀を教えてくれた人です」
「二日で?」
「考え方だけ」
「考え方」
「敵を全部一個ずつ見るんじゃなくて、今動ける相手を見る、とか」
グレン。
僕。
少し。
長く。
見る。
「いい師匠だな」
「はい」
胸。
少し。
嬉しい。
「だが」
「?」
「最後、右脚に魔力集めただろ」
「はい」
「分かりやすい」
やっぱり。
「そこはまだ駄目です」
「自分で分かってるなら直せ」
「はい」
「次。模擬戦」
「もう?」
「ここからが本番だ」
グレンが訓練場の反対側を指す。
そこ。
一人。
若い男。
待っていた。
二十代半ばくらい。軽い革鎧。片手剣と丸盾。
「相手はD級冒険者、マルク。普段から査定補助をやってる」
マルク。
軽く。
手。
上げる。
「よろしく」
「お願いします」
「条件は三分。一本取る必要はない。どう戦うかを見る」
「本気で?」
「刃は潰してある。致命傷にならん範囲でな」
僕は明星を見る。
刃。
本物。
「僕の刀は?」
「鞘へ入れろ」
「え?」
「模擬刀を使え」
ですよね。
少し。
残念。
明星。
鞘。
戻す。
壁際。
模擬刀。
選ぶ。
刀型。
ある。
持つ。
「重い」
明星より。
少し。
前。
重心。
でも。
やる。
中央。
立つ。
マルク。
盾。
前。
剣。
後ろ。
明らか。
戦い慣れてる。
「始め!」
動かない。
マルク。
僕。
見る。
僕も。
見る。
肩。
足。
盾。
剣。
でも。
一つ。
見すぎない。
相手。
見る。
マルク。
一歩。
前。
盾。
来る。
「っ」
受ける。
違う。
盾。
押し。
僕。
下がる。
その瞬間。
剣。
右。
来る。
模擬刀。
受ける。
ガンッ。
重い。
腕。
痺れる。
「力あるな!」
マルク。
笑う。
もう。
次。
盾。
左。
僕。
足。
見る。
踏み込み。
浅い。
フェイント?
違う。
盾。
目線。
僕の肩。
上。
僕。
身体。
沈める。
盾。
頭上。
通る。
「お」
前。
空く。
模擬刀。
胴。
振る。
盾。
戻る。
止められる。
早い。
距離。
離す。
「星装」
金。
全身。
覆う。
マルク。
目。
動く。
「それが噂の?」
「噂?」
「さっき見てた」
あ。
そうか。
別。
場所。
いた。
「行きます」
「来い」
右脚。
粒子。
集める。
マルク。
盾。
少し。
下。
見る。
やっぱり。
見てる。
シリウス。
戦い。
思い出す。
『相手が自分の何を見てるかも見る』
集める。
見せる。
踏む。
右。
じゃない。
粒子。
戻す。
左脚。
移す。
反対。
抜ける。
マルク。
盾。
回す。
でも。
一瞬。
遅れる。
「そこ!」
模擬刀。
肩。
狙う。
ガンッ。
盾。
端。
弾かれる。
でも。
マルク。
体勢。
崩れる。
右腕。
粒子。
集める。
今度。
本当に。
打つ。
「っ!」
マルク。
盾。
受ける。
ドンッ。
音。
大きい。
一歩。
下がる。
でも。
倒れない。
「いいな!」
笑う。
こっち。
剣。
突き。
「……!」
見える。
肩。
剣先。
でも。
その前。
盾。
僕の右。
塞いでる。
左。
逃げ道。
作ってる。
行ったら?
剣。
変わる。
「……」
僕。
下がる。
一歩。
突き。
届かない。
マルク。
眉。
僅か。
上がる。
「来ないか」
「誘ってました?」
「さあな」
多分。
誘ってた。
二分。
過ぎる。
僕。
呼吸。
重い。
星装。
長時間。
まだ。
苦手。
マルク。
余裕。
ある。
勝つ。
必要。
ない。
三分。
どう戦うか。
見る。
なら。
無理。
一本。
取りに行く。
必要。
ない。
「……」
星装。
薄く。
全身。
戻す。
マルクが前へ出る。
盾。
圧。
僕。
正面。
受けない。
横。
逃げる。
追う。
剣。
来る。
避ける。
攻撃。
しない。
マルク。
笑う。
「急に慎重だな」
「三分でしょ?」
「そうだ」
「じゃあ無理に倒さなくていい」
グレン。
端。
少し。
表情。
変わる。
残り。
三十秒。
マルク。
攻める。
速い。
僕。
防ぐ。
避ける。
星装。
必要。
分。
脚。
少し。
腕。
少し。
一ヶ所。
集めすぎない。
二十。
十。
最後。
マルク。
盾。
大きく。
押す。
僕。
右。
逃げる。
剣。
来る。
その前。
足。
止まる。
来る。
分かる。
僕。
模擬刀。
剣。
ではなく。
手首。
軽く。
打つ。
マルク。
剣。
軌道。
ずれる。
鐘。
鳴る。
「終了!」
二人。
止まる。
僕。
息。
吐く。
「はぁ……」
星装。
消す。
疲れた。
マルクが盾を下ろした。
「最後、よく手首見えたな」
「多分」
「多分か」
「まだ自信ないです」
「いいんじゃないか」
マルク。
笑う。
「俺も最後、一本取りにいってた」
「やっぱり」
「そこ読まれた」
グレンが近づく。
「ソル」
「はい」
「戦闘能力だけならD級下位相当」
「……!」
胸。
跳ねる。
D。
「ただし」
やっぱり。
「基礎技能はE級寄り。経験も足りない。星装とその判断力でDへ食い込んでる」
「はい」
「つまり」
グレン。
僕。
見る。
「強い技を取ったらE級だ」
「……」
悔しい。
でも。
その通り。
「どうする」
「基礎やります」
即答。
グレンが頷く。
「ならいい」
少し。
安心。
した。
「特例査定としては、D級昇級候補に置く。最終判定は三人終わってからだ」
「ありがとうございます」
戻る。
アン。
水。
渡す。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
ベラ。
僕。
見る。
「最後、逃げに徹したのは悪くなかった」
「逃げじゃないよ。時間使ったの」
「同じようなものじゃ」
「違うって」
でも。
褒められてる。
多分。
「次、アン」
グレン。
呼ぶ。
アン。
前。
出る。
「頑張って」
「はい」
ベラが言う。
「やりすぎるでないぞ」
「承知しています、陛下」
グレン。
眉。
動く。
「あだ名か?」
僕。
即答。
「はい」
「変なあだ名だな」
「よく言われます」
言われた。
今日。
初めて。
アン。
中央。
立つ。
武器。
腰。
細身。
剣。
一本。
普段。
ほとんど。
使わない。
「武器は?」
グレン。
聞く。
「一応、剣を」
「得意は?」
「魔法です」
「属性は」
「複数」
「複数?」
「はい」
嫌。
予感。
グレン。
的。
指す。
「まず一番得意なものを見せろ」
「分かりました」
アン。
右手。
上げる。
魔力。
ほとんど。
感じない。
次。
瞬間。
十メートル先。
的。
中心。
穴。
開く。
「……」
音。
少し。
遅れて。
パンッ。
僕。
見えなかった。
「今何した?」
「風を圧縮して飛ばしました」
「……」
グレン。
的。
見る。
穴。
綺麗。
中心。
「もう一回。今度は威力を半分」
「はい」
次。
的。
へこむ。
割れない。
「四分の一」
へこみ。
浅い。
「八分の一」
表面。
傷。
だけ。
グレン。
アン。
見る。
「制御は問題ない」
「ありがとうございます」
その後。
基礎。
身体。
普通。
見せる。
本当。
絶対。
もっと。
できる。
でも。
アンは完璧。
「模擬戦」
マルク。
また。
出る。
少し。
疲れ。
ある。
「連続で大丈夫?」
僕。
聞く。
「査定補助舐めんな」
「すみません」
アン。
中央。
立つ。
「開始!」
マルク。
一歩。
前。
アン。
動かない。
盾。
来る。
アン。
半歩。
横。
避ける。
剣。
来る。
身体。
僅か。
傾ける。
避ける。
短剣。
抜かない。
マルク。
二撃。
三撃。
全部。
当たらない。
「……」
シリウス。
違う。
エッダ。
近い?
無駄。
ない。
「アン、こんな動けたんだ」
ベラ。
鼻。
鳴らす。
「妾の側近じゃぞ」
「次の魔王でもあるしね」
「当然じゃ」
マルク。
盾。
押す。
アン。
触れる。
手。
盾。
端。
少し。
押す。
方向。
ずれる。
マルク。
前。
出る。
足。
崩れる。
アン。
背後。
回る。
短剣。
鞘。
まま。
首。
軽く。
触れる。
「……」
マルク。
止まる。
「一本」
グレン。
言う。
開始。
二十三秒。
「……」
アン。
下がる。
「ありがとうございました」
マルク。
振り返る。
「お前、本当にF級か?」
「登録したばかりですので」
「そういう問題じゃねえ」
僕。
笑う。
予想。
通り。
グレンは笑ってない。
「アン」
「はい」
「今の、どのくらい抑えた」
「……」
一瞬。
アン。
止まる。
「何のことでしょう」
「誤魔化さなくていい」
グレン。
真っ直ぐ。
見る。
「本気じゃないだろ」
ベラ。
アン。
見る。
僕。
黙る。
「特例査定は実力を見る場だ。本当の実力を全部見せろとは言わない。事情がある奴もいる」
グレン。
少し。
間。
「ただ、わざと下へ合わせるなら、その理由だけ聞く」
アン。
静か。
答える。
「目立ちたくありません」
「犯罪絡みか?」
「いいえ」
「人に追われてる?」
「少し違います」
ちょっと。
危ない。
でも。
嘘。
難しい。
「害意は?」
「ありません」
「ならいい」
グレン。
記録。
書く。
「少なくともD級以上。実力上限は不明。今日の査定ではD級として扱う」
「構いません」
「C級実地審査へ進む資格はある」
「ありがとうございます」
戻る。
僕。
小声。
「危なかったね」
「はい」
「目立ちたくないって理由で通るんだ」
「冒険者には様々な事情を持つ者がいますから」
「便利」
ベラ。
言う。
「次は妾じゃな」
「ベラ」
僕。
呼ぶ。
「何じゃ」
「抑えてね」
「分かっておる」
「本当に?」
「妾を誰だと思っておる」
「それが心配なんだよ」
中央。
ベラ。
立つ。
小さい。
武器。
ない。
グレン。
見る。
「武器は?」
「いらぬ」
「魔法使いか」
「まあ、そんなところじゃ」
「得意属性」
「全部」
「……」
グレン。
僕。
見る。
僕。
首。
横。
「僕に聞かないでください」
「一番得意なのは?」
「破壊」
「属性を聞いてる」
「なら黒炎でよい」
「黒炎?」
ベラ。
手。
上げる。
アン。
即。
「陛――ベラ」
「分かっておる」
危ない。
ベラ。
指先。
黒。
小さな炎。
出る。
本当に。
小さい。
蝋燭。
くらい。
グレン。
少し。
困る。
「もっと出せるか」
「出せる」
「的を壊せる程度に」
「仕方ないのう」
炎。
少し。
大きく。
拳。
程度。
的。
向ける。
飛ぶ。
ボッ。
木製。
的。
中心。
黒く。
焼け。
穴。
開く。
それだけ。
「……」
僕。
アン。
見る。
アン。
ほんの少し。
頷く。
抑えてる。
よし。
「制御は?」
グレン。
的。
三つ。
出す。
「一つ目を燃やす。二つ目は焦がすだけ。三つ目には当てるな」
「簡単じゃ」
ベラ。
指。
動かす。
黒炎。
三つ。
分かれる。
一。
燃える。
二。
表面。
黒。
三。
炎。
直前。
消える。
「……」
グレン。
眉。
寄せる。
「上手いな」
「当然じゃ」
「どこで覚えた」
「自分」
「師匠は?」
「おらぬ」
本当。
多分。
「何年魔法使ってる」
「二千――」
僕。
咳。
大。
する。
「ゴホッ! ゴホッ!」
ベラ。
止まる。
「……二十年くらいじゃ」
「年齢いくつだ」
「……二十」
僕。
顔。
伏せる。
無理。
ある。
見た目。
十五。
くらい。
受付。
困惑。
アン。
静か。
「本人は年齢を気にしていますので」
「誰が気にしておる!」
「ベラ」
「……十八じゃ」
「下がった」
グレン。
ため息。
「年齢は後で登録確認する」
終わった。
多分。
大丈夫。
「模擬戦」
マルク。
出る。
顔。
少し。
引きつる。
「三人目か……」
「頑張って」
僕。
言う。
「お前ら全員癖強いんだよ」
「すみません」
ベラ。
中央。
立つ。
「剣はいらんのか?」
マルク。
聞く。
「いらぬ」
「じゃあ行くぞ」
「好きにせい」
「開始!」
マルク。
盾。
前。
踏む。
ベラ。
動かない。
盾。
来る。
「ベラ!」
僕。
思わず。
呼ぶ。
直前。
ベラ。
右。
一歩。
それだけ。
盾。
空。
マルク。
剣。
返す。
ベラ。
左。
半歩。
避ける。
「……」
違和感。
ある。
ベラ。
昨日。
シリウス。
修行。
してない。
でも。
長い。
戦い。
経験。
二千年。
以上。
当然。
見る。
知ってる。
マルク。
三撃。
四撃。
ベラ。
避ける。
でも。
動き。
シリウス。
違う。
綺麗。
じゃない。
必要。
最低限。
それだけ。
「攻撃しないの?」
僕。
言う。
ベラ。
こちら。
見る。
「攻撃したら終わるであろう」
「聞こえてる!」
マルク。
怒る。
「なら終わらせてみろ!」
「よいのか?」
「来い!」
「ベラ!」
アン。
少し。
声。
強い。
「分かっておる!」
ベラ。
手。
上げる。
黒炎。
小さい。
マルク。
盾。
構える。
炎。
飛ぶ。
盾。
当たる。
ボッ。
「熱っ!」
マルク。
一瞬。
盾。
下げる。
その時。
ベラ。
前。
いる。
「え」
指。
額。
触れる。
「終わりじゃ」
グレン。
手。
上げる。
「一本」
十五秒。
「……」
マルク。
盾。
見る。
焦げ。
小さい。
「全然威力ないのに」
ベラ。
笑う。
「目を逸らすには十分じゃ」
「……」
僕。
止まる。
シリウス。
先。
見る。
攻撃。
自分。
相手。
動かす。
ベラ。
普通。
やってる。
「昔からやってたの?」
「何をじゃ」
「今の」
「相手の視界を切っただけじゃ」
「……」
ベラ。
本当に。
強い。
魔力。
戻ってない。
今。
それでも。
経験。
消えてない。
グレン。
記録。
書く。
「ベラもD級以上。上限不明」
「何じゃ、不明とは」
「隠してるだろ」
「……」
「アンと同じだ」
「妾は別に」
アン。
見る。
「陛下」
「分かっておる」
「今はベラです」
「細かい!」
グレン。
三人。
中央。
呼ぶ。
僕。
アン。
ベラ。
並ぶ。
マルク。
後ろ。
盾。
腕。
回してる。
本当に。
お疲れ様。
「結果を言う」
少し。
緊張。
僕。
息。
吸う。
「アン。D級昇級認定。戦闘、魔力制御ともにD級基準を大きく上回る。ただし実力を意図的に伏せているため、今日だけでC級以上には上げない」
「異論ありません」
「ベラ。同じくD級。魔力制御、判断、対人対応は十分。ただし」
グレン。
ベラ。
見る。
「性格に難あり」
「何じゃと!?」
「冗談だ」
「貴様!」
「今ので評価下げてもいいぞ」
「……黙る」
「学習早いな」
僕。
笑う。
ベラ。
睨む。
「そしてソル」
「はい」
「D級昇級」
「……」
一瞬。
聞き返しそう。
なる。
「本当に?」
「査定で嘘ついてどうする」
「いや」
ギルド証。
F。
思い出す。
朝。
まで。
F。
今。
D。
二つ。
上。
「ただし、お前が一番ギリギリだ」
「はい」
「星装を使った状態ならD級下位の戦闘能力はある。使わなければE級上位程度だ」
「……はい」
「刀の基礎も足りない。経験も足りない。魔力制御もまだ荒い」
一つ。
一つ。
全部。
分かる。
「それでもDへ上げる理由は二つ」
「何ですか?」
「一つ。自分の弱点を認識している」
「……」
「二つ」
グレン。
少し。
笑う。
「最後の模擬戦で、勝とうとするのをやめた」
「三分だったから」
「そうだ」
「一本取らなくていいって言われたし」
「その判断ができた」
グレン。
僕。
見る。
「D級になると依頼の危険度が上がる。そこで毎回『倒して勝つ』しか考えない奴は早死にする」
エッダ。
朝。
同じ。
「戦う目的を忘れるな」
「はい」
「依頼を達成するために戦う。人を守るために戦う。逃げるために戦う。それ以外なら、戦わない方がいいこともある」
「……はい」
「特に樹海ではな」
その言葉。
重い。
「三人とも、今日付でD級へ特例昇級。これでC級実地審査を受けられる」
「やった」
声。
出る。
ベラ。
横。
「たかがD級で喜ぶでない」
「朝までF級だったんだよ!」
「妾もじゃ」
「じゃあ喜んでよ」
「嫌じゃ」
アン。
少し。
笑う。
「おめでとうございます、ソル」
「アンも」
「ありがとうございます」
「ベラも」
「……」
「おめでとう」
「……まあ、受け取っておく」
素直じゃない。
その後。
受付へ戻る。
ギルド証。
三枚。
更新。
魔力。
光。
文字。
変わる。
僕。
証。
見る。
《D》
「……本当にDだ」
「何度確認するのですか」
アン。
言う。
「だってFから二つ上がった」
「妾は何の感慨もない」
「D級魔王」
「その呼び方も許さぬ!」
「F級魔王より強そう」
「当たり前じゃ!」
受付の女性が笑っている。
「三名とも、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「これで明日からC級実地審査へ進むことが可能です」
「明日?」
「試験官の予定が合えば」
その時。
後ろ。
声。
「合うよ」
振り返る。
深緑。
外套。
弓。
エッダ。
壁。
寄りかかっていた。
「エッダさん」
「実技、見てた」
「いつから?」
「途中から」
「どこから?」
「金色になった辺り」
「ほぼ最初じゃん」
エッダ。
僕。
見る。
腰。
明星。
その隣。
剣。
「面白い戦い方するね」
「まだ全然です」
「それも見てれば分かる」
「……」
また。
見る。
この人。
多分。
シリウス。
違う。
でも。
本当に。
よく。
見てる。
エッダが受付へ書類を渡した。
「明日の朝、浅層へ出る」
「C級試験?」
「うん」
「何するんですか?」
「言わない」
「やっぱり」
「ただ」
指。
三本。
立てる。
「三日分の準備してきて」
「三日?」
「一泊じゃないんですか?」
アン。
聞く。
「予定は二泊三日」
「何を見るのじゃ」
ベラ。
聞く。
「それも言わない」
「面倒な女じゃ」
「帰っていいよ」
「行く」
ベラ。
早い。
エッダ。
少し。
笑う。
「あと、ソル」
「はい」
「明星だっけ。その刀」
「うん」
「明日はちゃんと使う」
胸。
少し。
高鳴る。
「実戦?」
「樹海だからね」
「……」
「試験だからって、魔物が手加減してくれると思わないで」
「分かりました」
エッダ。
表情。
少し。
変わる。
「でも」
「?」
「倒すことを目的にしないで」
朝。
聞いた。
言葉。
また。
「三日間の目的は」
エッダ。
僕たち。
三人。
見る。
「生きて帰ること」
「それが試験?」
「それが最低条件」
「最低」
「C級は、そこから」
エッダ。
窓。
向こう。
樹海。
見る。
「明日、教える」
夕方。
ギルド。
出る。
町。
向こう。
深緑樹海。
昼。
見た。
同じ。
巨大。
森。
でも。
明日。
そこ。
入る。
「三日か」
「食料を買い足す必要がありますね」
アン。
すぐ。
考える。
「毒消し、予備の水袋、虫除け、保存食。地図も」
「アンがいてよかった」
「お主は少し自分でも考えよ」
ベラ。
言う。
「ベラは?」
「食料」
「食べる方でしょ」
「重要じゃ」
「持つ方もやって」
「嫌じゃ」
「D級になったんだから」
「階級と荷物は関係ない!」
歩く。
宿。
向かう。
途中。
僕。
ギルド証。
また。
出す。
D。
「……」
二つ。
上がった。
でも。
グレン。
言った。
星装。
なければ。
E級。
基礎。
足りない。
経験。
足りない。
D級。
証。
貰った。
だから。
D級。
強さ。
身についた。
違う。
「明日」
腰。
明星。
触る。
初めて。
ちゃんと。
実戦。
使う。
ドヴァン。
一層。
だけ。
言った。
シリウス。
誰の真似もするな。
言った。
ガイル。
相手。
よく見ろ。
言った。
エッダ。
必要ないなら戦うな。
言った。
全部。
頭。
中。
ある。
使えるか。
分からない。
でも。
試す。
場所。
来る。
「ソル」
アン。
呼ぶ。
「何?」
「緊張していますか?」
「ちょっと」
「珍しいのう」
ベラ。
横。
歩く。
「塔ではあれだけシリウスへ向かっていったくせに」
「あれはシリウスだったから」
「樹海の方が怖いか?」
「見えないから」
樹海。
奥。
何。
いる。
分からない。
道。
分からない。
三日。
何。
起きる。
分からない。
「でも」
僕。
少し。
笑う。
「だから、見るんでしょ」
ベラ。
止まる。
一瞬。
僕。
見る。
それから。
小さく。
笑った。
「言うようになったではないか」
「シリウスに習ったから」
「明日からは自分で使え」
「うん」
アン。
前。
宿。
指す。
「まずは準備です」
「はい」
「それと、ソル」
「何?」
「今夜、明星の手入れを一度してください」
「まだ使ってないよ?」
「明日使う前に、自分で確認する習慣をつけた方がよいでしょう」
ドヴァン。
言った。
鞘。
入れる前。
刃。
見る。
使う前。
状態。
確認。
「分かった」
ベラ。
「妾の分の準備は?」
「自分でしてください」
「アンタレス!」
「アンです」
「お主、この名を気に入りすぎではないか!?」
「便利ですので」
僕。
笑う。
明日。
樹海。
C級。
実地審査。
強い。
だけ。
駄目。
三日。
生きて。
帰る。
エッダ。
何。
見る。
まだ。
分からない。
ただ。
一つ。
今。
分かる。
今日。
僕。
D級。
なった。
でも。
ここ。
ゴール。
違う。
むしろ。
ようやく。
樹海。
入口。
立つ資格。
手にした。
だけ。
明日。
ここから。
本当の試験。
始まる。




