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樹海の街 ローディア

第25話 樹海の町ローディア

崩落した街道を離れてから、半日。

僕たちは北へ続く山道を歩いていた。一本道だったヴァルガルド方面とは違い、こちらは山を回り込むように緩やかな上り坂が続いている。右手には深い森。左手には切り立った岩山。道を行き交う人のほとんどが冒険者だった。

「やっぱり多いね」

腰に明星を差したまま、すれ違う四人組を見る。全員が武器を持ち、大きな荷物を背負っていた。

アンタレスが頷く。

「樹海へ向かう者でしょう。街道が崩れた影響もあると思います」

「みんなC級以上なのかな」

「横断目的なら、その可能性は高いですね」

「……C級かあ」

腰のギルド証へ触れる。

F。

一番下。

皇都へ行くだけだった僕が、勢いで冒険者になってからまだそんなに経っていない。当然といえば当然なんだけど。

「何を難しい顔をしておる」

前を歩いていたベラトリクスが振り返る。

「三つ上げるだけであろう」

「F級の人が言わないでよ」

「妾は本来なら階級などというものでは測れぬ」

「でも今はF級」

「だからその言い方をするな!」

何人かの冒険者がこちらを見る。

その中の一人が足を止めた。

「……今、ベラトリクスって言ったか?」

「え?」

僕も止まる。

男は僕たちを見た後、笑った。

「いや、悪い。聞き間違いか。五百年前の魔王と同じ名前に聞こえた」

「あ、ああ」

「珍しい名前だよな。最近じゃ子供につける親もいないだろうし」

「そ、そうですね」

僕は笑って誤魔化す。

男たちはそのまま歩いていった。

しばらく。

三人とも黙る。

僕はベラトリクスを見る。

「……やっぱり危ないよ」

「何がじゃ」

「名前」

「今更か?」

「今までもちょっと思ってたけど、これからギルドで色んな人と話すんだよ?」

「だから?」

「五百年前の魔王と同じ名前の女が、魔王本人として歩いてるんだよ」

「妾の顔など知られておらぬであろう」

「名前は知られてるでしょ!」

「む」

珍しく言葉に詰まる。

アンタレスも少し考えてから頷いた。

「一理あります。特に現在はアステリア東部で魔族への警戒が強まっています。余計な注目は避けた方がよいでしょう」

「お主まで」

「じゃあ決めた」

「何をじゃ」

僕はベラトリクスを指す。

「今日から人前ではベラ」

「却下じゃ」

「早っ」

「何じゃその気の抜けた呼び名は!」

「ベラトリクスのベラ」

「分かっておる! 安直すぎると言っておるのじゃ!」

「短くていいじゃん」

「もっとこう、妾に相応しい威厳のあるものを」

「偽名に威厳いらないよ」

「偽名ではなく呼び名であろう!」

「じゃあ、あだ名」

「なお嫌じゃ!」

僕は隣を見る。

「アンタレスはアン」

「構いません」

「即決!?」

ベラトリクスが勢いよくアンタレスを見る。

「お主、もう少し抵抗せぬか!」

「呼び名にこだわりはありませんので」

「ほら。アンはいいって」

「早速使うな!」

「じゃあベラも決定」

「妾は許可しておらぬぞ!」

「ベラ、声大きい」

「誰がベラじゃ!」

また前を歩く冒険者が振り返る。

ベラトリクス。

黙る。

僕は笑った。

「ほら」

「……貴様」

「人前だけでいいから」

「……」

「ベラ」

「……嫌じゃ」

「反応してる」

「うるさい!」

アンタレス――アンが小さく笑った。

「慣れると思いますよ、陛下」

「お主は絶対に妾をベラと呼ぶでないぞ」

「承知しました」

「僕は?」

「ベラトリクスと呼べ」

「危ないって話してたでしょ」

「ぐぬ……」

結局、そのままベラとアンで押し切った。

もっとも、アンは最初から何も気にしていなかったし、ベラだけが最後までぶつぶつ言っていた。

さらに一時間ほど進むと、道が開けた。

「……あれ?」

森の向こう。

思っていたより大きな町が見える。

高い石壁で囲まれ、その外側には何十台もの荷車。門の前には冒険者の列までできていた。

「あれがローディア?」

「そのようですね」

アンが答える。

町の背後。

そこだけ景色が違う。

森。

いや。

森なんて言葉では足りない。

「……あれが樹海?」

視界の端から端まで、木。

普通の森より遥かに高い木々が密集し、何層にも重なった緑が遠くの山まで覆っている。一部には霧のようなものまで浮かんでいて、昼なのに奥は暗い。

ベラが目を細めた。

「昔より広がっておるな」

「五百年前もあった?」

「あった。じゃが、ここまでではなかった」

アンも樹海を見る。

「魔力濃度も高そうですね」

「分かる?」

「外からでも僅かに」

僕にはまだ分からない。

でも。

嫌な感じ。

する。

巨大。

何がいるか。

見えない。

「ここを七日?」

「順調なら、でしょう」

「順調じゃなかったら?」

「分かりません」

「それ一番怖い答え」

町の門へ近づく。

ローディア。

樹海の南側に作られた冒険者の町。

中へ入って、すぐに意味が分かった。

武器屋。

防具屋。

薬屋。

食料品店。

地図屋。

ロープや天幕を専門に扱う店。

毒消し薬だけを大量に並べた露店まである。

そして。

冒険者。

多い。

アステリア王都のギルド周辺より、明らかに武装した人間の割合が高かった。

「なんか町全体がギルドみたい」

「樹海で成り立っているのでしょう」

アンが周囲を見る。

「採取、討伐、護衛、探索。仕事には困らなそうですね」

「妾は食事処が多い方が重要じゃ」

ベラ。

見る。

「ベラ」

「何じゃ」

「もう反応してる」

「……」

「完全にベラじゃん」

「今のは不意を突かれただけじゃ!」

「もう一回」

「やめよ!」

人前なので声を抑えてる。

ちょっと面白い。

ギルドは町の中心にあった。

三階建ての大きな建物。その横には訓練場らしい広場まで併設されている。入口の掲示板には大量の依頼書。

《深緑樹海浅層・薬草採取》

《赤尾猿討伐》

《毒牙蛇の巣確認》

《樹海北部・未帰還冒険者捜索》

《ヴァルガルド方面横断護衛》

最後。

見る。

「これ」

依頼書の右上。

《受注条件 C級以上》

やっぱり。

「行こう」

中へ入る。

広い。

受付。

六つ。

それでも列。

冒険者。

声。

酒場。

隣。

併設。

「人多いなあ」

「崩落の影響でしょうね」

しばらく並び、僕たちの番になる。

受付の女性が笑顔を向けた。

「お待たせしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ヴァルガルドへ行きたいんです」

「樹海横断でしょうか?」

「はい」

表情。

少し。

変わる。

「冒険者証を確認してもよろしいですか?」

「はい」

三人。

出す。

受付。

僕。

証。

見る。

F。

アン。

F。

ベラ。

F。

「……」

もう一回。

見る。

「三名ともF級でお間違いありませんか?」

「はい」

「妾は――」

僕はベラの袖を引く。

「ベラ」

「……なんじゃ」

「今は我慢」

「後で覚えておれ」

受付の女性が少し困ったように笑った。

「申し訳ありませんが、現在の階級では樹海横断許可を発行できません」

「関所で聞きました。C級まで上げたいです」

「……C級まで?」

「はい」

受付。

僕。

見る。

「現在F級ですよね?」

「はい」

「三階級上げたい、と?」

「はい」

後ろ。

誰か。

笑う。

「おいおい」

別。

冒険者。

「FからC?」

「樹海を舐めてんじゃねえか?」

聞こえる。

少し。

恥ずかしい。

でも。

仕方ない。

受付は笑わなかった。

「事情をお聞きしても?」

僕は街道が崩れていたこと。

半年以上かけてアステリアへ戻るルートは避けたいこと。

ヴァルガルドへ向かう必要があること。

全部。

簡単に説明。

もちろん。

塔。

話。

しない。

「なるほど」

受付。

頷く。

「同様の相談は、この十二日でかなり増えています」

「やっぱり?」

「はい。崩落した街道はカグラとヴァルガルドを結ぶ主要路ですから」

「じゃあC級になりたい人も?」

「多いです。ただ」

表情。

真面目。

「C級は、横断許可を取るためだけに取得できる階級ではありません」

「分かってます」

「通常、F級からC級まで上がるには相応の依頼実績と期間が必要です」

「どのくらい?」

「個人差があります。早い方でも数ヶ月。一般的には一年以上掛かる方も珍しくありません」

「……」

半年。

戻った方が早い可能性。

ある。

ベラが僕を見る。

「ほれ」

「まだ方法あるか聞いてない」

「そうじゃったな」

受付が続けた。

「ただし、ローディア支部では現在、特例の昇級査定を実施しています」

「特例?」

「街道崩落によるものです。実力が既に階級を大きく上回っている冒険者が足止めされているため、通常より短期間で現在の実力に見合った階級を認定する制度です」

アン。

反応。

「実績ではなく、実力を直接査定するのですね」

「はい。ただし、誰でもC級へ上がれる制度ではありません」

「もちろん」

受付。

紙。

一枚。

取り出す。

「まず実技査定。戦闘能力、魔力制御、武器技能などを確認します。その結果によってE級、あるいはD級相当までの特例昇級が可能です」

「C級は?」

「別です」

やっぱり。

「C級以上からは、単純な戦闘能力だけでは認定されません」

「どういうところ見るんですか?」

「判断力です」

「判断力」

関所。

兵士。

同じ。

言ってた。

「C級冒険者は一人で強いだけでは足りません。依頼内容を理解し、危険を判断し、必要なら撤退し、仲間や依頼人を生きて帰す。それが求められます」

「……」

見る。

見抜く。

先を見る。

また。

少し。

重なる。

受付は続けた。

「そのため、D級相当以上と認定された方でC級への昇級を希望する場合、実地審査を受けていただきます」

「実地?」

「樹海浅層です」

「もう入るの?」

「浅層であればD級冒険者も条件付きで入域できます。もちろん試験官が同行します」

「そこで何するんですか?」

「内容は試験官から説明されます。事前にはお伝えできません」

「なるほど」

「そして、実地審査に合格すればC級です」

「じゃあ」

僕。

少し。

前。

出る。

「最短で、実技査定と実地審査の二つ?」

「理論上は」

「どのくらいで?」

「全て一度で通れば数日です」

「……!」

半年。

違う。

「それやります」

即答。

受付。

少し。

目。

丸くする。

「説明はまだ終わっていません」

「あ、ごめんなさい」

ベラが鼻で笑った。

「落ち着きがないのう」

「ベラには言われたくない」

「ベラと呼ぶでない!」

受付。

「あの……」

「すみません」

「ベラさん、でよろしいですか?」

「……」

ベラ。

固まる。

僕。

吹きそう。

「はい」

僕。

答える。

「ベラです」

「勝手に答えるな!」

受付。

少し。

笑う。

「では、登録名ベラトリクス様、通称ベラ様として記録しておきますか?」

「そんなことできるんですか?」

「依頼時に使用する通称は登録できます。冒険者には本名を伏せて活動される方もいらっしゃいますから」

僕。

ベラ。

見る。

「ちょうどいいじゃん」

「……」

「ベラ」

「……好きにせい」

「やった」

「嬉しそうにするな」

「アンタレスもアンで」

「私は構いません」

受付。

手続き。

する。

「では、アン様ですね」

「はい」

「何故お主はそこまで自然に受け入れられるのじゃ」

「短くて便利ですので」

「妾だけ損しておらぬか?」

「気のせい」

「それ妾の台詞じゃ!」

受付の女性が笑いを堪えている。

少し。

恥ずかしい。

でも。

これで人前。

名前。

呼びやすい。

「ソル様は?」

「僕はソルで」

「ずるくないか?」

ベラ。

言う。

「四文字だもん」

「妾だけ四分の一近くまで削られておるぞ」

「アンタレスも半分以下」

「私は問題ありません」

「アンを見習って」

「誰がアンじゃ」

「陛下がそれ言う?」

ややこしい。

受付が咳払いをした。

「では、昇級査定のお話へ戻りますね」

「はい」

「三名とも受験されますか?」

「もちろん」

僕。

答える。

ベラ。

「妾もか?」

「樹海行くんでしょ?」

「アンタレス一人がC級になればよかろう」

受付が首を横へ振った。

「通常の樹海入域であれば、責任者一名がC級以上で、他の方がD級以上なら申請できます」

「ほら」

ベラ。

僕。

見る。

「じゃが?」

アンが聞く。

「今回のように樹海を横断し、ヴァルガルド側まで抜ける場合は審査が厳しくなります。最低条件は責任者C級以上、同行者D級以上ですが、人数が三名のみの場合、支部では全員にC級相当の能力があることを推奨しています」

「推奨」

「強制ではありません。ただ、F級の同行者を含んだ状態では許可はまず下りません」

「……」

ベラ。

嫌。

顔。

「つまり」

僕。

見る。

「少なくともD級」

「面倒じゃ」

「できればC級」

「さらに面倒じゃ」

アンが平然と言う。

「受けましょう、陛下」

「お主なら妾の分まで二人分受けられぬか?」

「できません」

「何故じゃ」

「当然です」

「ベラ」

僕。

呼ぶ。

「頑張ろ」

「誰に物を言っておる」

「F級仲間」

「その言い方をするなと何度言わせる!」

受付。

今度。

普通に笑った。

「仲がよろしいんですね」

「よくない!」

「いいと思います」

僕とアン。

同時。

答える。

ベラ。

睨む。

受付は書類を三枚用意した。

「では、特例昇級査定へ申し込む前に確認事項があります」

「はい」

「過去の依頼実績を確認します」

僕。

証。

読み取り。

「ソル様。登録後、護衛依頼一件。商隊護衛ですね」

「はい」

「途中で鉄爪狼の群れと交戦。ローデ村近郊で襲撃事案。こちらは正式依頼外」

「そうです」

「さらに東部街道で正体不明個体との戦闘報告……」

僕。

止まる。

「そこまで載ってる?」

「同行したC級パーティ《蒼鷹》から報告が上がっています」

ガイルたち。

ちゃんと。

報告。

してた。

「ソル様が戦闘へ参加したことも記録されています」

「……」

受付。

僕。

少し。

見る。

「F級としては、かなり特殊な経歴ですね」

「色々あって」

「色々で済ませられない内容ですが」

それからアン。

証。

見る。

「アン様も同じ護衛依頼。それ以前の実績はなし」

「はい」

ベラ。

「ベラ様も同じですね」

「妾は本来」

僕。

袖。

引く。

「ベラ」

「……分かっておる」

受付。

首。

傾げる。

「先ほどから気になっていたのですが」

「何?」

「アン様はベラ様を何と呼ばれているのですか?」

「陛下です」

即答。

「アン!」

「事実です」

受付。

「陛下?」

僕。

急いで口を挟む。

「あだ名です!」

「……あだ名」

「ベラ、偉そうだから」

「誰が偉そうじゃ! 妾は実際に――」

口。

塞ぐ。

「むぐっ!?」

「昔からそう呼ばれてるんです」

受付。

怪しい顔。

「変わった関係ですね」

「よく言われます」

言われたことない。

アン。

何故か平然。

「では」

受付。

書類。

揃える。

「通常なら依頼実績不足で特例審査自体をお断りするところですが、《蒼鷹》からの報告があります」

「ガイルさん?」

「はい。リーダーのガイル様から、三名について簡単な所見が提出されています」

「何て?」

「詳細はお伝えできませんが」

受付。

少し。

笑う。

「『少なくとも、登録階級だけで判断しない方がいい』と」

「ガイルさん……」

嬉しい。

「特にソル様については『経験不足。ただし伸びる』と」

「そこまで?」

「推薦というほど強いものではありませんが、特例査定を受けるには十分です」

ガイル。

別れる時。

相手。

よく見ろ。

一つずつ。

言ってた。

また。

助けられた。

「ありがとうございます」

「私にではなく、次に会った時ガイル様へ」

「はい」

受付。

書類。

一枚ずつ。

僕たち。

渡す。

「では三名とも、第一段階の実技査定を受けていただけます」

「今日?」

「空きがあれば」

後ろ。

掲示板。

確認。

「……午後の枠が一つありますね」

「三人入れる?」

「一組として査定できます。ただし個人評価は別です」

「お願いします」

「承知しました」

ベラ。

ため息。

「妾は何故こんなことに……」

「C級魔王目指そ」

「その呼び方は絶対に許さぬぞ」

「まだF級魔王だけど」

「ソル」

「はい」

「あとで覚えておれ」

「最近それ多いね」

手続き。

進む。

受付。

最後。

一枚。

別。

紙。

出す。

「もう一点」

「何?」

「もし実技査定でD級相当以上と判定され、C級実地審査へ進むことになった場合、試験官はこちらで指定します」

「誰でも?」

「樹海の実地試験を担当できる冒険者は限られています」

「何級?」

「原則B級以上です」

「B……」

一気。

遠い。

「現在、ローディア支部で空いている試験官ですと」

受付。

何か。

探す。

その時。

背後。

声。

「私なら午後から空いてる」

女性。

声。

振り返る。

一人。

立っていた。

三十歳くらい。

背は僕より少し低い。焦げ茶色の髪を後ろで一つに結び、深緑の外套を羽織っている。背中には弓。腰には短剣が二本。

派手。

ない。

鎧。

軽い。

冒険者。

たくさん。

いる。

見た目。

その中。

普通。

なのに。

「……」

何だろう。

違う。

立ってる場所。

入口。

近い。

でも。

誰にもぶつからない。

周囲の冒険者が動く度。

少し。

位置。

変えてる。

僕。

それ。

見ていた。

女性。

僕。

見る。

「何?」

「いや」

目。

逸らす。

「すみません」

「随分見るね」

「……」

シリウス。

言葉。

思い出す。

見る。

相手。

女性は少しだけ口元を上げた。

「まあいいけど」

受付。

立つ。

「エッダさん。お戻りだったんですね」

「さっき」

「北側の調査は?」

「終わった。報告書は後で」

「後で、と言って三日前も」

「今日中には書く」

「本当ですね?」

「多分」

「多分では困ります」

「……夜までには」

アン。

小さく。

「どこかの誰かに似ていますね」

ベラ。

僕。

見る。

「妾を見るな」

「見てないよ」

女性――エッダが僕たちの前へ来た。

「この三人?」

「はい。特例昇級査定を希望されています」

「今は?」

「全員F級です」

「……F?」

エッダ。

僕。

ベラ。

アン。

順番。

見る。

「FからC?」

「目標は」

僕。

答える。

「へえ」

笑わない。

驚いてはいる。

でも。

馬鹿にもしない。

「理由は?」

「樹海を抜けてヴァルガルドへ行きたい」

「ああ。崩落か」

「はい」

「半年戻るのが嫌?」

「嫌です」

「正直」

エッダ。

僕の腰。

見る。

明星。

その隣。

リュネ。

剣。

「二本?」

「片方は最近手に入れたばかりで」

「どっち使う?」

「今は明星……こっちの刀を練習中です」

「刀」

エッダ。

少し。

眉。

上げる。

「カグラ帰り?」

「はい」

「なら納得」

次。

ベラ。

見る。

「そっちの小さい子は?」

「誰が小さい子じゃ」

ベラ。

即答。

「……口調すごいね」

「妾を子供扱いするでない」

僕。

小さく。

「ベラ」

「何じゃ!」

「人前」

「分かっておる!」

エッダ。

少し。

笑う。

「面白い三人だね」

「よく言われます」

アン。

答える。

「私はアンタ――」

一瞬。

止める。

「アンです」

「今変えた?」

「気のせいです」

「ふうん」

エッダ。

気にしない。

受付。

言う。

「エッダさん。午後の実技査定は別の査定官が担当します。もし三名がD級相当以上と判定された場合、実地審査をお願いできますか?」

エッダ。

僕たち。

もう一回。

見る。

その目。

さっきより。

少し。

鋭い。

武器。

足。

荷物。

手。

多分。

色々。

見てる。

「いいよ」

「本当ですか?」

「ちょうど浅層に行く予定あるし」

「助かります」

僕。

聞く。

「あの」

「何?」

「エッダさんって何級ですか?」

受付。

答える。

「B級冒険者です」

「B級」

やっぱり。

強い。

でも。

魔力。

ほとんど。

分からない。

アンみたいに隠してる?

分からない。

エッダが言う。

「勘違いしないでね」

「?」

「B級だから試験で強い魔物ぶつけるとか、そういうのじゃない」

「違うんですか?」

「C級試験で見るのはそこじゃないから」

同じ。

受付。

説明。

「じゃあ何を見る?」

エッダ。

肩。

すくめる。

「それ教えたら試験にならない」

「またそれ」

「誰かにも言われた?」

「最近、そういう人ばっかりで」

シリウス。

顔。

浮かぶ。

エッダは少し笑った。

「一つだけ教えてあげる」

「何?」

「樹海じゃ」

背後。

窓。

向こう。

巨大。

森。

見る。

「強い奴より、生きて帰る奴の方が偉い」

「……」

「魔物を十匹倒して死ぬ奴より、一匹も倒さず帰ってくる奴の方が冒険者としては上」

「戦わなくても?」

「必要なければね」

「……」

少し。

意外。

今まで。

魔物。

出た。

戦った。

狼。

白い影。

必要。

あった。

でも。

全部。

戦わない。

選択。

考えたこと。

少ない。

エッダが僕を見る。

「その顔だと、戦うの好き?」

「いや、別に」

「じゃあ敵を見たら?」

「……戦う?」

「疑問形になったね」

「だって魔物なら」

「それが依頼対象?」

「違ったら?」

「道を塞いでる?」

「塞いでなかったら?」

「誰か襲われてる?」

「いなかったら?」

「じゃあ」

エッダ。

簡単。

言う。

「何で戦うの?」

「……」

答え。

ない。

エッダ。

満足。

そう。

少し。

頷く。

「午後の査定、頑張って」

そのまま。

受付。

奥。

行く。

僕。

後ろ姿。

見る。

木。

床。

歩く。

音。

小さい。

人。

多い。

なのに。

誰にも。

ぶつからない。

「……」

「ソル」

アン。

呼ぶ。

「はい」

「また見ていますよ」

「あ」

「気になりますか?」

「なんか」

エッダ。

消えた。

方向。

見る。

「シリウスと全然違うのに」

「何がじゃ」

ベラ。

聞く。

「ちょっと似てた」

「どこがじゃ」

「見るところ」

ベラ。

一瞬。

考える。

それから。

窓。

樹海。

見る。

「なるほどのう」

「分かる?」

「森で十年以上生きておる者なら、嫌でも見るようになるのであろう」

アンも頷く。

「地面、風、音、匂い。剣士とは見るものが違うのでしょうね」

「心眼の理って」

僕。

呟く。

「剣だけじゃないのかも」

「シリウス本人が剣だけのものとは申しておらぬであろう」

「そうだけど」

見る。

必要。

情報。

拾う。

見抜く。

何故。

そう。

見える。

考える。

先。

読む。

森。

同じ。

できる。

「……面白い」

ベラ。

怪しい。

顔。

「お主、シリウスに似てきておらぬか?」

「どこが?」

「知らぬものを見つけた時の顔じゃ」

「嫌?」

「嫌ではない」

「珍しい」

「じゃが刀馬鹿二号にはなるな」

「ならないよ」

「どうでしょう」

アン。

横。

言う。

「アンまで!?」

受付。

午後。

時間。

教える。

それまで。

三時間。

ある。

外。

出る。

「とりあえずご飯?」

ベラ。

即。

「賛成じゃ」

「それだけ返事早いよね」

「腹が減っては試験など受けられぬ」

「ベラも受ける気になった?」

「……」

「あ」

「今のは言葉の綾じゃ」

「じゃあ食べなくていい?」

「食べる」

「受ける?」

「……」

「ベラ」

「分かった! 受ければよいのであろう!」

「やった」

「何故お主が喜ぶ!」

アン。

笑う。

「では三人でC級を目指しましょう」

「三人で」

僕。

ギルド証。

出す。

F。

今。

一番。

下。

「本当に数日でC級いけるかな」

アン。

答える。

「実力が足りていれば」

「そこなんだよなあ」

ベラ。

鼻。

鳴らす。

「妾とアンタレスは問題なかろう」

「陛下」

「何じゃ」

「今はアンです」

「お主まで気に入っておるではないか!」

「便利なので」

「僕は?」

ベラ。

僕。

見る。

「一番危ういのはお主じゃろ」

「分かってる」

否定。

しない。

僕。

今。

F級。

魔物。

一体。

落ち着けば。

倒せる。

そこ。

少し。

超えた。

くらい。

星装。

ある。

明星。

ある。

シリウス。

教え。

ある。

だから。

強い?

違う。

全部。

持ってるだけ。

「まず」

僕。

証。

しまう。

「午後の実技」

「そうですね」

「そこでD級相当まで認めてもらう」

「落ちたら?」

ベラ。

聞く。

「もう一回」

「その日のうちには受け直せぬぞ」

「じゃあ依頼こなす」

「随分素直じゃな」

「一つずつって言われたから」

ガイル。

シリウス。

何回。

同じ。

聞いた。

急ぐ。

でも。

飛ばさない。

「半年かけて戻るより早く」

樹海。

見る。

「ちゃんとC級になる」

その先。

ヴァルガルド。

アルデバラン。

三つ目。

塔。

でも。

その前。

目の前。

階段。

ある。

F。

E。

D。

C。

「四つしかない」

アンが言った。

「その言い方すると近いんだよね」

「実際、四つです」

「でも一個一個が遠い」

「なら歩けばよい」

ベラ。

言う。

僕。

見る。

「ベラがまともなこと言った」

「何じゃその反応は!」

「だって」

「妾は二千年以上生きておるのじゃぞ!」

近く。

歩いてた人。

振り返る。

僕。

頭。

抱える。

「ベラ!」

「あ」

「そういうとこ!」

「今のは忘れよ」

「無理だよ!」

アン。

ため息。

「陛下。ローディアにいる間は年齢の話は禁止です」

「何故じゃ」

「危ないからです」

「妾が何歳でも妾は妾じゃ」

「そういう問題じゃない!」

昼。

ローディア。

騒がしい。

町。

中。

僕たち。

歩く。

午後。

実技査定。

その先。

通れば。

樹海。

実地審査。

そして。

C級。

簡単。

ない。

分かってる。

でも。

シリウスの塔を出た今。

ちょうど。

いい。

気もした。

見て。

見抜いて。

その先を見る。

教わったもの。

本当に使えるか。

試す場所。

もう。

目の前。

ある。

深緑樹海。

巨大な緑が。

町の向こうから。

静かに。

僕たちを待っていた。


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