旅の終わり
第16話 旅の終わり
翌朝。
目を覚ました瞬間、まず思った。
「……身体、重い」
痛い、ではない。
昨日よりはましだ。
ただ、腕も脚も鉛が入ったみたいに重い。
身体を起こして天幕の外へ出ると、朝日がちょうど街道を照らし始めていた。商人たちは既に荷物をまとめ、《蒼鷹》の四人も出発準備を進めている。
そして。
「起きたか」
ガイルがいた。
木剣を持って。
「……おはようございます」
「おう」
「何で木剣持ってるんですか」
「朝練」
「昨日、夜にやりましたよね?」
「やったな」
「一日一回じゃないの?」
「誰が決めた?」
嫌な予感は当たった。
少し離れた場所では、ベラトリクスがパンを食べながらこっちを見ている。
「ソル、さっさと構えよ」
「ベラトリクスまで!?」
「妾は見学じゃ」
「一番楽なやつ!」
アンタレスは既に朝食を終えていたらしく、腕を組んで僕の立ち方を見ている。
「昨日より足を狭くしてください」
「まだ始まってないんだけど」
「立った時点で分かります」
「厳しい……」
ガイルから木剣を受け取る。
昨日教わった通り、肩の力を抜く。右足を少し後ろへ。重心を落としすぎない。
「お」
ガイルが少しだけ笑った。
「昨日よりいい」
「本当?」
「ああ」
「聞いたかベラトリクス」
「昨日が酷すぎただけじゃ」
「一回くらい普通に褒めてよ!」
「では始めるぞ」
「急!」
ガイルが踏み込む。
右。
そう思って剣を上げた瞬間、木剣が僕の左肩を叩いた。
「痛っ!」
「今、何見てた?」
「剣」
「剣だけ見るなって昨日言っただろ」
「そうだった」
「肩と足。それから腰」
「三つも?」
「慣れたらもっと増える」
後ろからベラトリクスが口を挟む。
「目線もじゃ」
アンタレスも続く。
「呼吸も見た方がよいですね」
「増やさないで!」
ガイルが笑う。
「まあ最初は肩と足でいい。全部一気に見る必要はない」
「はい」
もう一度。
ガイルが構える。
今度は剣じゃなく、肩を見る。
右肩が僅かに動いた。
来る。
僕は木剣を上げる。
ガンッ。
「っ」
受けた。
「お」
「できた!」
「まだだ」
次。
下。
「え」
脇腹。
バシッ。
「痛っ!」
「一発防いで満足するな」
「喜ぶ時間くらいくださいよ!」
「実戦じゃ待ってくれないぞ」
正しい。
悔しいけど正しい。
それから二十分。
僕は朝から十二回叩かれた。
防げたのは三回。
避けられたのは一回。
一度だけ、ガイルの腕へ木剣を当てられた。
「……当たった」
僕自身が一番驚いた。
ガイルが自分の腕を見る。
「今のは良かった」
「本当に?」
「ああ。俺の肩じゃなく、足を見てたな」
「ちょっとだけ」
「それでいい」
ガイルが木剣を肩へ担ぐ。
「相手の全部を見ようとすると、逆に何も見えなくなる。最初は一つずつ増やせ」
「……分かりました」
何となく。
その言葉が残った。
全部を見る。
一つずつ増やす。
「ソル」
アンタレスが水を差し出す。
「ありがとうございます」
「右足に少し力が入りすぎています」
「そこまで分かる?」
「はい」
「怖いなあ」
「それと」
「?」
「陛下が後ろでずっと避け方に文句を言っています」
見る。
ベラトリクス。
不満そう。
「聞こえておるぞ」
「何が駄目だった?」
「全部」
「もうちょっと具体的に!」
朝食を終え、商隊は再び東へ進み始めた。
リュネまでは、順調ならあと三日。
その三日間。
僕の日課が決まった。
朝。
ガイルと基礎。
移動中。
アンタレスと星装の制御。
夜。
ベラトリクスを交えて実戦の考え方。
……休む時間がほとんどない。
「右腕へ五」
アンタレスの声。
僕は歩きながら、全身へ薄く纏わせていた金色の粒子を右腕へ集める。
「……五」
「四です」
「え?」
「一粒、肩に残っています」
「細かい!」
「細かくなければ制御とは言いません」
「はい……」
右肩。
意識。
一粒。
腕へ。
「今度は?」
「五です」
「よし」
「戻して」
全身へ。
今度は以前ほど偏らない。
「次、左脚へ三」
「はい」
一つ。
二つ。
三つ。
「戻して」
「はい」
「胸へ四」
「はい」
少しずつ。
本当に少しずつ。
星装が、自分の身体の一部みたいに感じられる時間が増えていた。
まだ戦いながらなんて無理だ。
でも歩きながらなら、前ほど意識しなくても維持できる。
「……上達した?」
僕が聞く。
アンタレスが少し考える。
「しています」
「おお」
「非常に遅いですが」
「一言多い!」
後ろからベラトリクス。
「レグルスなら三日で」
「比較禁止!」
「まだ最後まで申しておらぬ!」
「絶対すごい記録言おうとしたでしょ!」
「事実を教えてやろうと」
「いらない!」
前を歩くノアが振り返る。
「今日も光ってるな」
「見ないで」
「もう慣れた」
「それはそれで嫌だな」
「でも本当に少し安定したよな」
「分かる?」
「ああ。最初は全身から漏れてる感じだった」
「そんなに?」
「今はちゃんと身体に沿ってる」
ノアは魔術師だ。
魔力を見る目は僕よりずっといい。
「星装か……」
また始まる。
「勇者レグルスの記録に」
「ノア」
「まだ何も言ってない」
「顔で分かる」
「最近扱い酷くない?」
セラが前から言う。
「英雄の話を始めたら長いからよ」
「セラまで!」
そんなやり取りをしながら、二日が過ぎた。
白い影は現れなかった。
王国軍の巡回兵とは何度かすれ違った。東へ行くほど魔族への警戒は強くなっていて、街道沿いの村には同じ注意書きが貼られていた。
《魔族による襲撃に注意》
見る度に、アンタレスの表情が少しだけ硬くなる。
ベラトリクスは最初こそ文句を言っていたけど、途中から何も言わなくなった。
そして。
リュネまであと一日。
その日の昼。
僕たちは森を抜ける街道を歩いていた。
「止まれ」
ガイルの声。
全員が足を止める。
僕も腰の短剣へ手を置いた。
前。
草むら。
音。
一つ。
二つ。
「魔物」
セラが弓を構える。
茂みから飛び出したのは、灰色の小さな獣だった。
犬。
いや。
狼に近い。
昨日の鉄爪狼よりずっと小さい。
「灰牙狼」
ノアが杖を持つ。
「E級」
三体。
ガイルが剣へ手をかける。
「ミラ、前」
「了解」
ミラが大盾を構えた。
その時。
ベラトリクスが僕を見る。
嫌な予感。
「ソル」
「何」
「一匹やれ」
「え?」
「一匹倒せ」
ガイルが振り返る。
「ベラトリクス」
「何じゃ」
「勝手に決めるな」
「今ならちょうどよい」
「ソルはF級だぞ」
「E級一匹程度、妾たちが見ておれば死にはせぬ」
「そういう問題じゃ」
アンタレスが灰牙狼を見る。
「私は賛成です」
「アンタレスも!?」
「一体なら、今のソルでも対処可能だと思います」
ガイルが僕を見る。
「やれるか?」
「……」
灰牙狼。
一体。
昨日までなら迷った。
でも。
「やります」
「星装は?」
ベラトリクス。
「使わない」
「ほう」
「まずは使わなくても戦えるようになるんでしょ」
ベラトリクスが少し笑う。
「忘れておらぬようじゃな」
ガイルが剣を抜く。
「無理だと思ったら俺が入る」
「はい」
「一匹だけこっちへ流す。残りは俺たちでやる」
「分かりました」
心臓。
速い。
怖い。
でも。
昨日までとは少し違う。
灰牙狼が地面を蹴る。
ミラが一体を盾で止め、セラの矢がもう一体の進路を変える。
残った一体。
僕へ。
「来るぞ!」
ガイル。
短剣を抜く。
短い。
やっぱり短い。
港に着いたら剣を買おう。
そんなことを一瞬考えてしまう。
「集中!」
ベラトリクス。
「分かってる!」
灰牙狼。
来る。
牙。
見るな。
肩。
いや。
狼に肩って。
「足じゃ!」
ベラトリクス。
前脚。
地面。
踏む。
右。
来る。
僕は左へ半歩。
爪。
空。
「……避けた」
「止まるな!」
ガイルの声。
そうだった。
灰牙狼。
着地。
振り返る。
僕も身体を向ける。
次。
口。
開く。
噛みつく。
今度は剣じゃない。
頭。
首。
前脚。
重心。
少し。
左。
「こっち」
僕は右へずれる。
牙。
通る。
その横。
首。
見える。
短剣。
振る。
浅い。
「キャンッ!」
血。
でも。
倒れない。
「浅い!」
「分かってる!」
灰牙狼。
怒る。
低い。
姿勢。
次は速い。
「……」
見る。
何を見る。
ガイル。
肩。
足。
ベラトリクス。
目線。
アンタレス。
重心。
全部。
無理。
なら。
一つ。
前脚。
右。
動く。
次。
左へ来る。
そう思った。
灰牙狼が地面を蹴る。
僕は先に半歩動いた。
「え」
自分でも驚く。
狼。
僕がいた場所へ。
すれ違う。
背中。
見える。
「今じゃ!」
ベラトリクス。
短剣。
逆手。
突く。
肩口。
深く。
灰牙狼。
地面。
転がる。
起きる。
でも。
前脚。
動かない。
「……」
僕。
息。
整える。
狼。
それでも。
来る。
最後。
僕は横へ避け。
首。
短剣。
入れる。
灰牙狼が崩れた。
動かない。
「……」
静か。
「倒した」
思わず呟く。
ガイルたちの方を見る。
もう二体。
終わっていた。
ノアが杖を下ろす。
「おお」
セラも弓を下げる。
「やるじゃない」
ミラが盾を戻す。
ガイルが近づいてきた。
「怪我」
「ないです」
「本当に?」
「はい」
腕。
脚。
見る。
無傷。
「星装は?」
「使ってない」
僕が言う。
その瞬間。
少し。
嬉しくなる。
星装。
なし。
レグルスの力。
なし。
僕。
一人。
「……倒せた」
「E級一体だけどな」
ガイルが笑う。
「でも、ちゃんと倒した」
「はい」
「最初に比べれば随分ましだ」
「最初」
「木剣持っただけで腰浮いてた」
「忘れてください」
「無理」
ベラトリクスが近づく。
「酷かったのう」
「ベラトリクスも忘れて!」
「じゃが」
僕を見る。
「悪くなかった」
「……」
珍しい。
「今」
「何じゃ」
「褒めた?」
「一度だけじゃ」
「もう一回」
「調子に乗るな」
「やっぱり」
アンタレスも近づく。
「最後の動き」
「うん」
「灰牙狼が動く前に、少しだけ右へ動きましたね」
「……そうなんだ」
「意識して?」
「分からない」
「何を見ていました?」
「前脚」
「なるほど」
ガイルが頷く。
「予備動作を拾ったんだな」
「予備動作」
「ああ。動物でも人間でも、何かする前には大抵どこかが動く」
「……」
朝。
ガイル。
肩と足を見る。
一つずつ。
それ。
「見えた」
僕。
呟く。
「たまたまな」
ベラトリクス。
「分かってるよ」
「ならよい」
でも。
たまたまでも。
見えた。
前より。
少し。
僕自身が。
強くなった気がした。
灰牙狼から討伐部位を回収し、商隊は再び進む。
その日の夜。
最後の野営。
明日にはリュネ。
ガイルとの訓練も。
商隊護衛も。
もうすぐ終わる。
「構え」
「はい」
木剣。
持つ。
ガイル。
向かい。
今日は。
昨日までと違う。
僕から。
打つ。
踏み込む。
振る。
止められる。
「遅い」
次。
横。
避けられる。
「腰」
「はい」
もう一回。
振る。
止められる。
でも。
すぐ戻す。
次。
ガイルが振る。
肩。
動く。
受ける。
二撃目。
見えない。
脇腹。
叩かれる。
「痛っ」
「一個目で満足するな」
「はい!」
何度も。
何度も。
そのうち。
十回に一回。
二回。
少しずつ。
防げる回数が増える。
星装。
なし。
純粋に。
剣。
足。
目。
「そこまで」
ガイルが木剣を下ろす。
「はぁ……」
僕。
膝。
手。
「疲れた」
「初日より体力もついたな」
「三日で?」
「基礎がない奴は、少し覚えるだけでも変わる」
「じゃあ才能ある?」
「調子に乗るな」
「全員それ言う」
ガイルが笑う。
少し離れ。
焚き火。
《蒼鷹》。
セラ。
ミラ。
ノア。
商人。
みんな。
食事。
僕たちも。
座る。
「明日でリュネか」
僕。
呟く。
「そうだな」
ガイル。
「依頼もそこで終わり」
「その後は?」
「俺たちは別の護衛を探すか、何日か休む」
「カグラには?」
「行かない」
「そっか」
少し。
寂しい。
数日。
だけ。
でも。
最初の。
冒険者。
仕事。
《蒼鷹》。
いた。
「ガイルさん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「まだ終わってないぞ」
「剣」
「……」
「全然だけど」
「全然だな」
「そこは少しくらい」
「でも」
ガイル。
焚き火。
見る。
「最初よりは戦える」
「……」
「E級一体なら、今日みたいに落ち着いてやればいけるだろう」
「本当に?」
「ああ」
「D級は?」
「一人ではやるな」
「即答」
「星装込みでも?」
「状況次第」
「……」
「力が強くても経験は埋まらない」
ガイルが僕を見る。
「そこを勘違いするな」
「はい」
ベラトリクスが肉を食べながら頷く。
「珍しく人間が良いことを言った」
「お前は普段人間を何だと思ってるんだ」
「面倒な生き物」
「否定しづらいな」
アンタレスが小さく笑う。
ガイルが僕の短剣を見る。
「明日、港に着いたら剣を見に行け」
「片手剣?」
「ああ。今のお前なら、短剣よりそっちの方がいい」
「高い?」
「物による」
「お金……」
アンタレス。
無言。
革袋。
持ち上げる。
「いや、自分で買う」
「まだ言っていませんが」
「絶対出そうとしたでしょ」
「少しくらいなら」
「自分で買いたい」
アンタレス。
少し。
笑う。
「そうですか」
ベラトリクス。
「なら安物を買え」
「何で?」
「どうせ最初は壊す」
「縁起悪い!」
「シリウスなど何本折ったと思っておる」
「……」
名前。
出た。
「シリウス」
「ああ」
「刀の人」
「刀馬鹿じゃ」
「剣聖だよね?」
「世間ではな」
「ベラトリクスから見ても強かった?」
ベラトリクス。
肉。
噛む。
少し。
考える。
「強かった」
短い。
でも。
そこに冗談はなかった。
「レグルスより?」
「単純に一対一で戦うならな」
「そんなに」
「奴は」
ベラトリクスが自分の頬へ指を当てる。
「妾へ初めてまともな傷をつけた人間じゃ」
「……」
僕。
止まる。
アンタレスも静かに聞いている。
「全盛期のベラトリクスに?」
「ああ」
「どうやって?」
「斬った」
「それは分かるよ」
「妾も最初は分からなかった」
「え?」
ベラトリクスは少しだけ懐かしそうに笑った。
「速さだけではない。力だけでもない。あやつは、とにかくよく見ておった」
「見る?」
「ああ」
「何を?」
「全部じゃ」
昨日。
今日。
ガイル。
肩。
足。
重心。
「それって」
「妾が魔法を放つ前には、既に動いておった。防ぐ場所を変えれば、その変化を見て斬る場所を変える」
「未来が見えた?」
「違う」
ベラトリクスが首を横へ振る。
「見すぎておったのじゃ」
「……」
「気持ち悪いほどにな」
「最後に悪口つけるんだ」
「褒めておる」
「絶対違う」
ベラトリクスが笑う。
「カグラへ行けば分かる」
「シリウスの残響がいるかな」
「知らぬ」
「レグルスはいた」
「あれは偶然が重なっただけかもしれぬ」
「そっか」
「期待しすぎるな」
「うん」
でも。
少し。
期待する。
五百年前。
剣聖。
シリウス。
レグルスの仲間。
ベラトリクスを斬った人間。
何を見て。
どう戦ったのか。
次の日。
朝。
遠く。
潮の匂い。
最初に気づいたのはアンタレスだった。
「海が近いですね」
「分かるの?」
「はい」
僕。
鼻。
意識。
「……分からない」
「そのうち分かります」
ベラトリクス。
前。
歩く。
「妾は分かるぞ」
「本当?」
「潮の匂いじゃ」
「アンタレスの真似してない?」
「しておらぬ!」
森。
抜ける。
丘。
上。
そして。
「……」
思わず。
立ち止まった。
青。
遠く。
ずっと。
続く。
海。
その手前。
巨大な街。
白い建物。
赤い屋根。
何本もの煙突。
港。
帆船。
数え切れない。
「うわ……」
王都とも違う。
フィル村なんて。
比べるまでもない。
街の向こう。
海。
水平線。
「リュネだ」
ガイルが言った。
東部最大の港湾都市。
ここから。
船。
乗る。
海。
越える。
その先。
カグラ皇国。
「やっと着いた……」
「まだ街へ入っておらぬ」
ベラトリクス。
「いいじゃん、もう見えてるし」
「依頼は門を通って荷を届けるまでです」
アンタレス。
「真面目」
「当然です」
坂。
下る。
近づくほど。
人。
増える。
商人。
旅人。
荷馬車。
船乗り。
王国兵。
そして。
門。
「商隊、止まれ!」
手続き。
確認。
王都。
冒険者証。
慣れた。
「F級三人」
兵士。
僕たち。
見る。
「護衛補助?」
「はい」
「ご苦労」
門。
開く。
中。
声。
一気。
広がる。
「魚だ!朝獲れだぞ!」
「カグラ行きは三番桟橋!」
「荷運び二人募集!」
「船員はこっちだ!」
「宿空いてるよ!」
人。
多い。
匂い。
海。
魚。
香辛料。
「……すご」
ベラトリクス。
目。
少し。
輝く。
「魚」
「そこ?」
「焼いておる」
「食べる?」
「当然じゃ」
「まだ依頼中」
アンタレス。
「……」
「陛下」
「分かっておる!」
商隊。
倉庫街。
進む。
一つ。
大きな建物。
商隊長が馬車を止めた。
「到着だ!」
商人たち。
一気。
顔。
緩む。
「お疲れ!」
「やっとベッドで寝られる!」
「荷下ろし頼むぞ!」
僕たちも。
最後。
手伝う。
箱。
運ぶ。
紐。
外す。
帳簿。
確認。
そして。
商隊長。
ガイル。
僕たち。
前。
「護衛依頼、完了だ」
冒険者証。
手続き。
報酬。
僕。
小さな袋。
受け取る。
「……お金」
「初報酬か?」
ガイル。
「はい」
手。
少し。
重い。
たくさん。
ではない。
でも。
自分。
初めて。
冒険者。
稼いだ。
「これで剣買えるかな」
「安いのなら」
「よし」
ベラトリクス。
袋。
見る。
「食事は」
「自分で払って」
「何故じゃ!」
「アンタレス、お願いします」
「仕方ありませんね」
「何故妾の食事をアンタレスが!」
ガイル。
笑う。
「本当に変な三人だな」
「よく言われます」
「初めて聞いたぞ」
ベラトリクス。
「絶対みんな思ってるよ」
《蒼鷹》。
四人。
出発。
準備。
セラが僕を見る。
「ソル」
「はい」
「次に会った時、もう少しマシになってなさい」
「頑張ります」
「星装も」
「見たいだけでしょ」
「少しね」
ミラが僕の肩を叩く。
強い。
「頑張れ」
「ありがとうございます」
ノア。
本。
一冊。
差し出す。
「これ」
「何?」
「五英雄記」
「いらない」
「何で!?」
「荷物になる」
「読むべきだって!」
ベラトリクス。
横。
「燃やすぞ」
「やっぱり渡さない!」
ノア。
抱える。
ガイルが最後に僕の前へ来る。
「ソル」
「はい」
「剣を買ったら」
「うん」
「毎日振れ」
「はい」
「星装が強くなっても、基礎を捨てるな」
「分かりました」
「それと」
「?」
「相手をよく見ろ」
「……」
「剣だけじゃない。肩、足、重心、目線。全部、一つずつでいい」
「はい」
「そのうち」
少し。
笑う。
「見えるものが増える」
「……」
僕は頷く。
「ありがとうございました」
「ああ」
ガイルたちが去っていく。
数日。
だけ。
でも。
初めての冒険者依頼。
僕は少し。
寂しくなる。
「ソル」
ベラトリクス。
「何?」
「行くぞ」
「どこ?」
「魚」
「先に宿!」
「魚!」
「宿です」
アンタレス。
「アンタレスまで敵!」
「陛下、荷物を置いてからです」
「……」
ベラトリクス。
露骨。
不満。
僕。
笑う。
「その前に」
「何じゃ」
自分。
腰。
短剣。
触る。
そして。
初報酬。
袋。
握る。
「剣、見に行きたい」
「ほう」
ベラトリクス。
少し。
笑う。
「ようやくまともな武器を持つ気になったか」
「この短剣に失礼だよ」
「事実じゃ」
アンタレス。
街。
見る。
「武器屋なら、港近くにいくつかありそうですね」
「じゃあ」
僕。
前。
見る。
海。
船。
その向こう。
まだ見えない。
カグラ皇国。
剣聖シリウス。
二つ目の塔。
「行こう」
王都を出た時。
僕は。
戦えるなんて思ってなかった。
星装も。
まともに使えなかった。
今も弱い。
それは変わらない。
でも。
E級の魔物なら。
一人で。
倒せた。
剣も。
ほんの少し。
振れるようになった。
星装も。
少しだけ。
自分の意思で動かせる。
本当に。
少しだけ。
でも。
前より。
進んでる。
「ソル!」
「何?」
「魚の匂いがするぞ!」
「ベラトリクス、走らない!」
「早くせぬと売り切れる!」
「まだ昼だよ!」
アンタレス。
ため息。
「陛下、宿が先です」
「嫌じゃ!」
「陛下」
「……少しだけ見る」
「駄目です」
「アンタレス!」
リュネの街。
人混み。
その中へ。
僕たち三人は入っていく。
次に向かう場所は。
海の向こう。
カグラ皇国。
剣聖シリウスの塔。
そして。
僕はまだ知らなかった。
そこで出会う五百年前の剣士が、僕に剣技よりも大切なものを残すことを。
見る力。
見抜く力。
そして。
その先を見る力。
後に僕が何度も命を救われることになる、その理を。
この時の僕はまだ。
何も知らなかった。




