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152/159

死者なし

第152話 死者、無し

少し。

時間は戻る。

セレフィア神聖国。

世界連合軍本部。

「……まただ」

ガレスが顔を上げた。

窓。

遠く。

北。

何も見えない。

ここからでは。

戦場なんて。

見えるはずがない。

それでも。

分かる。

空気が。

震えている。

大地が。

僅かに。

揺れている。

何より。

魔力。

遠く離れたセレフィアまで。

届いている。

異常なほど。

巨大な魔力。

赤。

黒。

白。

三つ。

ぶつかり合っている。

「アンタレス陛下」

ガレス。

呟く。

赤。

現魔王。

アンタレス。

そして。

黒。

「ベラトリクス……」

五百年前の魔王。

その二つに。

真正面から。

ぶつかっている。

白。

教皇。

窓の外。

見つめる。

「……これが」

静かな声。

「《四熾》」

大天使ゼファリエル直属。

《四熾》が一柱。

カシエル。

その存在を。

最後に確認できた通信で。

知った。

そこから。

状況。

ほとんど。

分からない。

魔道通信。

机。

置かれている。

でも。

聞こえるのは。

――ザザッ。

ノイズ。

それだけ。

アルヴィス。

何度目か。

魔道具。

調整する。

「駄目です」

「まだか」

「はい」

「シノブとは?」

「繋がりません」

「くそっ……」

ガレス。

拳。

握る。

最後。

まともに受信できた。

シノブからの通信。

それは。

カシエルの報告じゃない。

別。

空。

新たに。

割れた。

そして。

十体。

現れた。

雑兵より強い。

中級の天使。

その前に。

いたのは。

ソル。

カイル。

エリシア。

三人。

『ソルたちが十体と対峙した』

そこまで。

その後。

通信。

乱れた。

戦場。

あまりにも。

巨大な魔力。

ぶつかり続けている。

魔道通信へ。

ノイズ。

入り続ける。

状況。

分からない。

「……十体だぞ」

ガレス。

低く。

呟く。

「分かっています」

教皇。

答える。

「分かってるなら……」

ガレス。

振り返る。

でも。

その先。

言わない。

教皇。

分かっている。

ガレスが。

何を言いたいのか。

「行きたいのですね」

「……」

「ガレス」

「分かってます」

即答。

ガレス。

顔。

逸らす。

「俺は総隊長だ」

世界連合軍。

総隊長。

最高指揮者。

アンタレス。

副隊長。

レオンハルト。

その二人。

今。

現地。

だから。

ここ。

残っている最高位の軍事指揮官。

ガレス。

「俺までここを離れたら」

拳。

強く。

握る。

「次に何か起きた時、誰が全体を動かす」

「はい」

「分かってる」

もう一度。

「分かってるんだよ」

でも。

行きたい。

顔。

そう言っている。

仲間。

戦っている。

アンタレス。

ベラ。

レオンハルト。

ソル。

カイル。

エリシア。

シノブ。

みんな。

そこ。

自分だけ。

ここ。

「……じれってえな」

ガレス。

吐き捨てる。

教皇。

何も言わない。

止める必要。

ない。

ガレスは。

分かっている。

自分の役割。

だから。

ここにいる。

「先発隊は」

ガレス。

切り替える。

アルヴィス。

資料。

確認。

「既に出ています」

「構成」

「防御能力に優れた者を中心に十二名。治癒魔法を扱える者を八名」

「少ない」

「速度を優先しました」

「……そうだったな」

「魔族の飛行部隊が同行しています。先発隊を乗せ、通常の陸路より遥かに早く現地へ到着する予定です」

ガレス。

頷く。

「着いたら戦闘に参加させるな」

「はい」

「怪我人の回収。一般市民の保護。それだけでいい」

「既に伝達済みです」

「第二陣は?」

「編成中です」

「治癒を増やせ。あと結界が使える奴」

「承知しました」

ガレス。

次々。

指示。

出す。

行けない。

なら。

ここで。

やる。

自分にできること。

全部。

その時。

「……待ってください」

教皇。

声。

ガレス。

止まる。

「どうしました」

教皇。

窓。

見ている。

「もう一つ」

「何?」

「魔力です」

「……」

ガレス。

意識。

集中。

赤。

アンタレス。

黒。

ベラ。

白。

カシエル。

それとは。

違う。

遠い。

小さい。

いや。

小さくない。

三つが。

あまりにも。

大きすぎるだけ。

その中。

黄金。

一瞬。

強く。

輝く。

ガレス。

目。

見開く。

「……あいつ」

教皇。

頷く。

「ソルです」

黄金。

間違えない。

何度も。

見てきた。

星。

ソルの魔力。

「十体の方じゃなかったのか?」

アルヴィス。

魔道具。

見る。

「分かりません」

「じゃあ何で」

ガレス。

止まる。

一つ。

可能性。

気づく。

「……終わったのか?」

十体。

もう。

倒した。

だから。

カシエルの戦場へ。

向かった。

でも。

確認。

できない。

「シノブ!」

魔道通信。

掴む。

「聞こえてるなら応答しろ!」

――ザザザッ!!

「シノブ!」

返事。

ない。

代わり。

また。

魔力。

黄金。

跳ねる。

さっきより。

強い。

「……何だ?」

ガレス。

窓。

近づく。

教皇。

目。

細める。

「ソルの魔力が……」

増えている。

黄金。

膨れ上がる。

その直後。

遠く。

空気。

震える。

ドン。

ここまで。

届く。

衝撃。

「っ!?」

机。

揺れる。

魔道具。

僅かに。

浮く。

アルヴィス。

支える。

「今のは!?」

「分からん!」

ガレス。

北。

睨む。

黄金。

動く。

異常。

速い。

魔力。

一瞬。

消えたように。

感じる。

次。

別の位置。

現れる。

「ソル……」

教皇。

思わず。

名前。

呼ぶ。

さらに。

赤。

右。

動く。

別。

二つ。

左。

ぶつかる。

そして。

黒。

動かない。

「……?」

ガレス。

眉。

寄せる。

「ベラトリクスの魔力が」

アルヴィス。

「減っています?」

「違う」

教皇。

首。

振る。

「集まっています」

「集まる?」

「はい」

黒。

消えてるんじゃない。

一点。

一点へ。

凝縮。

されている。

ガレス。

顔。

変わる。

「……おい」

黒。

まだ。

集まる。

まだ。

まだ。

「どこまで集める気だ」

誰も。

答えられない。

白。

カシエル。

暴れる。

赤。

アンタレス。

抑える。

黄金。

ソル。

何度も。

近づく。

離れる。

また。

近づく。

左。

カイルたち。

魔力。

ぶつかる。

全員。

一つ。

何か。

やっている。

それだけ。

分かる。

そして。

黒。

膨大。

なのに。

小さく。

小さく。

凝縮。

され続ける。

教皇。

椅子。

立つ。

「……来ます」

ガレス。

見る。

「何が」

「分かりません」

教皇。

北。

見たまま。

「ですが」

黒。

一瞬。

完全に。

静まる。

「ベラトリクスが」

一拍。

「何かを放ちます」

次。

世界。

揺れた。

――――ドン。

音。

遅れて。

来る。

最初。

魔力。

黒。

圧倒的。

セレフィア。

遠く。

離れている。

それでも。

全員。

感じる。

本能。

警告。

「っ……!」

アルヴィス。

息。

止める。

ガレス。

動けない。

教皇。

目。

見開く。

黒。

大きい。

違う。

大きいなんて。

言葉。

足りない。

何か。

全部。

呑み込むような。

魔力。

「……ベラトリクス」

教皇。

呟く。

黒。

白。

ぶつかる。

カシエル。

魔力。

抵抗。

白。

膨れ上がる。

黒。

呑む。

白。

また。

膨れる。

黒。

さらに。

覆う。

ガレス。

拳。

握る。

「押せ……」

白。

耐える。

「押せ……!」

黒。

広がる。

白。

小さくなる。

「いけ……!」

教皇。

両手。

胸元。

組む。

アルヴィス。

魔道通信。

握る。

そして。

――消えた。

「……」

ガレス。

止まる。

白。

ない。

さっきまで。

セレフィアにまで。

届いていた。

《四熾》。

カシエル。

その魔力。

完全に。

消えた。

同時。

黒。

静まる。

赤。

静まる。

黄金。

小さくなる。

戦場。

遠い。

何も。

分からない。

ただ。

あれほど。

激しかった。

魔力の衝突。

止まった。

「……どうなった」

ガレス。

声。

掠れる。

誰も。

答えない。

「勝ったのか」

沈黙。

「それとも……」

続き。

言えない。

教皇。

目。

閉じる。

感じる。

魔力。

探す。

でも。

分からない。

距離。

遠すぎる。

「通信を」

「やっています!」

アルヴィス。

魔道具。

操作。

「シノブ! こちらセレフィア! 応答してください!」

――ザザッ!!

ノイズ。

「シノブ!」

――ザザザザッ!!

「駄目です! まだ魔力の乱れが――」

『――……こ……ら』

全員。

止まる。

「今!」

ガレス。

魔道具。

掴む。

「シノブ!」

『――ザッ……こちら……シノブ』

「聞こえてる!」

ノイズ。

酷い。

声。

切れる。

『戦闘……終了』

「……!」

ガレス。

身。

乗り出す。

「報告しろ!」

『了解』

ザザッ。

『報告……する』

教皇。

アルヴィス。

ガレス。

周囲。

集まっていた。

聖職者。

騎士。

魔族。

全員。

通信。

見る。

『大天使……ゼファリエル直属……』

――ザザザッ!!

途切れる。

「シノブ!」

『……《四熾》が一柱』

ノイズ。

一瞬。

消える。

『カシエル』

ガレス。

息。

止める。

『――討伐』

「……!」

誰か。

息。

呑む。

でも。

誰も。

まだ。

声。

上げない。

続き。

待つ。

『繰り返す』

『大天使ゼファリエル直属《四熾》が一柱、カシエル』

一拍。

『討伐を確認』

ガレス。

拳。

震える。

教皇。

目。

閉じる。

でも。

まだ。

シノブ。

続ける。

『続いて』

ザザッ。

『別地点に出現した……天使十体』

ガレス。

目。

開く。

ソルたち。

『全個体……討伐』

「……っ!」

アルヴィス。

口元。

緩む。

ガレス。

拳。

握る。

「やりやがった……」

十体。

ソル。

カイル。

エリシア。

三人。

止めた。

倒した。

でも。

まだ。

報告。

終わってない。

『被害……報告』

空気。

戻る。

緊張。

『負傷者……多数』

教皇。

目。

開く。

『戦闘参加者……複数名に負傷を確認』

ガレス。

黙る。

『一般市民にも……負傷者を確認』

「……」

さっきまで。

上がりかけた。

歓声。

消える。

一般市民。

怪我。

ガレス。

通信。

握る。

「シノブ」

『……』

「死者は」

ノイズ。

――ザザッ。

「死者はいるのか」

返事。

聞こえない。

「シノブ!」

教皇。

祈るように。

手。

組む。

アルヴィス。

動かない。

「答えろ!」

――ザザザッ!!

『……死者』

ガレス。

息。

止める。

全員。

止まる。

一拍。

『――無し』

「……」

ガレス。

目。

見開く。

『繰り返す』

ノイズ。

少し。

晴れる。

シノブ。

声。

今度。

はっきり。

届く。

『今回の戦闘による』

一拍。

『死者、無し』

沈黙。

一秒。

二秒。

そして。

「――っしゃああああああああああ!!」

ガレス。

叫ぶ。

拳。

突き上げる。

同時。

「おおおおおおおおおお!!」

部屋。

爆発。

歓声。

聖騎士。

聖職者。

冒険者。

魔族。

関係ない。

全員。

声。

上げる。

「《四熾》を倒したぞ!!」

「十体も全滅だ!!」

「死者なしだ!!」

「誰も死んでない!!」

ガレス。

魔道通信。

握ったまま。

笑う。

「はっ……」

力。

抜ける。

「やりやがった」

もう一度。

「本当に」

目。

僅かに。

潤む。

「やりやがった……!」

教皇。

その場。

立ったまま。

目。

閉じる。

歓声。

周囲。

響く。

でも。

教皇。

静か。

「……よかった」

小さく。

誰にも。

聞こえないくらい。

「本当に」

一拍。

「よく、生きて帰ってくれました」

アルヴィス。

隣。

少し。

笑う。

「まだ帰還前ですよ」

教皇。

目。

開く。

「そうですね」

少し。

笑う。

「では」

最高顧問。

顔。

戻る。

「帰ってくる場所を整えましょう」

アルヴィス。

頷く。

「はい」

教皇。

ガレスを見る。

「ガレス」

「おう!」

まだ。

声。

大きい。

「先発隊へ連絡を」

「ああ!」

ガレス。

すぐ。

切り替える。

「現地到着後、負傷者の治療を最優先! 一般市民から先に診ろ!」

「はい!」

「重傷者は飛行部隊で即時搬送! 歩ける奴は後回しでいい!」

「承知!」

「第二陣も出す! 治癒術師を増やせ!」

次々。

指示。

飛ぶ。

勝った。

だから。

次。

生きてる奴を。

全員。

帰す。

それが。

今。

ここにいる。

自分の仕事。

ガレス。

一瞬。

北。

見る。

「ソル」

黄金。

もう。

ここから。

ほとんど。

感じない。

「帰ってきたら」

一拍。

笑う。

「何やったか全部聞かせてもらうからな」

遠い。

アステリア王国北部。

そこで。

世界連合軍は。

初めて。

大天使ゼファリエル直属《四熾》が一柱。

カシエルを討ち取った。

さらに。

同時に出現した。

十体の天使。

全て。

討伐。

負傷者。

多数。

一般市民。

負傷者あり。

それでも。

死者。

――無し。

その報告は。

歓声と共に。

セレフィアから。

世界へ。

広がり始めた。

五百年前。

世界は。

災厄に。

追い詰められた。

けれど。

今度は違う。

人間。

魔族。

国。

立場。

全部。

越えて。

一つになった世界が。

初めて。

災厄の上位存在を。

討ち取った。

世界連合軍。

最初の。

大きな勝利だった。


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