白き影
第14話 白き影
ローデ村を出てから、商隊の空気は昨日までとは明らかに変わっていた。
笑い声が消えたわけじゃない。ガイルはいつも通り商隊長と話しているし、ノアも時々どうでもいい話を振ってくる。それでも、誰もが街道の両側に広がる森を気にしていた。
村を襲った何かが東へ向かった。
そして、僕たちも東へ向かっている。
「ソル」
「ん?」
隣を歩いていたアンタレスに呼ばれて振り向く。
「右肩に寄っています」
「え?」
言われて初めて気づいた。身体の周囲を漂わせていた金色の粒子が、右肩の辺りへ集まっている。
「また?」
「またです」
「難しいなあ……」
僕は意識して粒子を散らす。右肩から胸、左腕、腹、両脚へ。昨日より少しだけ、自分の意思で動かせるようにはなっていた。
身体を薄く覆う金色の光。
星装。
レグルスが使っていた技だ。
「今は?」
「昨日よりは均等です。ただ、左脚が少し薄いですね」
「やっぱり?」
後ろを歩いていたベラトリクスが鼻を鳴らした。
「全然駄目じゃ」
「アンタレスは昨日よりいいって言ってくれたよ」
「昨日よりましと、上手いは別じゃ」
「厳しいなあ」
「レグルスなら今頃――」
「比較禁止」
「まだ何も申しておらぬ!」
絶対言おうとしていた。
アンタレスが小さく笑う。
ここ数時間で分かったことがある。
星装は、光の粒子を出すこと自体はそこまで難しくない。問題はその後だ。
全身へ均等に纏わせる。
必要な瞬間だけ、一部へ集める。
そして、すぐに全身へ戻す。
簡単そうに聞こえるけど、実際にやると全然違う。
右脚へ少し集めようとすれば必要以上に持っていかれるし、腕へ集めれば他の場所が薄くなる。
「レグルスは本当にこれを戦いながらやってたの?」
「何度聞くのじゃ」
「だって信じられない」
「やっておった」
ベラトリクスは即答した。
「走る時は脚、斬る時は腕と剣。攻撃を受ける瞬間には胴と腕へ。奴は一呼吸の間に何度も切り替えておった」
「化け物じゃん」
「本人に言えば喜ぶぞ」
「喜ぶの?」
「褒め言葉じゃと思う男じゃった」
何となく想像できる。
その時、前を歩いていたガイルが片手を上げた。
「一旦止まるぞ」
馬車の動きがゆっくりと止まる。僕も星装を解いた。
「何かあった?」
商隊長が尋ねる。
「街道の先が狭くなってる。念のため確認する」
前方には低い岩山が迫っていて、その間を縫うように街道が続いていた。片側は岩壁。反対側は斜面になっていて、その下には細い川が流れている。
「セラ」
「見てくる」
セラが先行する。ミラは馬車の前へ移動し、ノアも杖を握った。
僕の隣でアンタレスが目を細める。
「……」
「何かいる?」
「分かりません」
「アンタレスでも?」
「魔力の気配が薄すぎます」
ベラトリクスも同じ方向を見ていた。
「薄いのではない」
「え?」
「妙なのじゃ」
「何が?」
「そこにあるようで、ない」
また分からない言い方。
聞き返そうとした、その時だった。
森の奥から鳥が一斉に飛び立った。
ガイルの剣が抜かれる。
「全員、警戒!」
次の瞬間、街道の前方へ何かが落ちた。
ドンッ!
土煙が舞い上がり、馬が驚いて鳴く。
「抑えろ!」
商人たちが慌てて手綱を握る。
土煙の中に、人影があった。
一人。
黒い外套。
昨日、ローデ村の村人が話していた姿と同じだった。
「……魔族」
誰かが呟く。
人影がゆっくりと顔を上げる。
顔は見えない。白い仮面のようなものが覆っている。
「お前が村を襲ったのか?」
ガイルが剣を構えた。
返事はない。
ただ、人影の周囲から黒い魔力が溢れ始める。
「下がれ!」
ガイルの声。
僕たち補助組は馬車の後ろへ下がる。
そのはずだった。
でも、アンタレスが動かない。
「アンタレス」
「……違う」
「え?」
「昨日と同じです」
真紅の髪が風に揺れる。
「この魔力は、魔族のものではありません」
ベラトリクスも人影を睨んでいた。
「外側だけじゃ」
「外側?」
「黒く見せておる」
「じゃあ中は?」
僕が聞いた瞬間、人影が消えた。
「っ!」
ガイルが反応する。
金属音。
人影は一瞬でガイルの目の前へ移動していた。
白い腕。
いや、腕なのかも分からない。
指先から伸びた光の刃を、ガイルが剣で受け止めている。
「速っ……」
「ミラ!」
「分かってる!」
大盾が横から入り、人影を弾き飛ばす。
そこへセラの矢。
一本、二本、三本。
全て命中した。
はずだった。
矢が黒い外套を貫く。
でも、血が出ない。
「何……?」
セラの表情が変わる。
ノアが杖を向けた。
「《水槍》!」
三本の水槍が飛び、人影へ直撃する。
吹き飛ばされた身体が岩壁へ叩きつけられた。
「やった?」
僕が呟く。
「まだじゃ」
ベラトリクスの声。
人影が立つ。
何事もなかったように、ゆっくりと。
そして、白い仮面の奥から声が響いた。
『――抵抗個体を確認』
「……」
背筋が冷える。
あの声。
昨日、白い羽根へ触れた時に聞いたものと似ている。
『汚染濃度、測定』
「汚染……」
僕の声にベラトリクスが反応した。
「ソル、下がれ」
「でも」
「下がれ!」
いつもと違う。
本気の声だった。
僕が一歩下がった、その瞬間。
白い仮面が僕の方を向いた。
『――異常』
「え?」
『未知魔力との接続を確認』
胸の奥が熱くなる。
レグルスから預かった魔力が反応している。
「何で僕を……」
『対象変更』
まずい。
「ソル!」
人影が消えた。
見えない。
でも、昨日とは違う。
胸の奥。
僕は自分からそこへ手を伸ばすように意識した。
星装。
金色の光が全身を包む。
身体の周囲へ光の粒子が生まれる。昨日より少ない。それでも、肩、胸、腕、腹、脚へ散らす。
『排除』
声。
右。
「っ!」
見えた。
正確には、昨日より身体が速く反応した。
白い刃が僕の首を狙う。
右腕へ光を集め、短剣で受ける。
ガキンッ!
「くっ!」
重い。
それでも受け止めた。
「ソル!」
ガイルが走る。
人影の左腕から、もう一本の光の刃。
間に合わない。
僕は反射的に右脚へ光を集めた。
昨日はここで集めすぎた。
だから、全部じゃない。
少しだけ。
「っ!」
地面を蹴る。
身体が横へ飛ぶ。
速い。
でも昨日ほどじゃない。
見える。
自分がどこへ動いているのか分かる。
「戻せ!」
ベラトリクスの声。
「あっ」
右脚へ集めた粒子を全身へ散らす。
着地。
足が地面を捉える。
「……止まれた!」
「喜ぶのは後じゃ!」
「はい!」
人影がもう来る。
僕は短剣を構えた。
怖い。
普通に、めちゃくちゃ怖い。
それでも前より少しだけ見える。
全身へ薄く纏った星装が、身体の反応を底上げしている。
一撃目を受ける。
二撃目も。
三撃目は避ける。
「ソル!下がれ!」
ガイルが叫ぶ。
「もう少し!」
「何がだ!」
僕にも分からない。
ただ、今。
何かを掴めそうだった。
レグルスの使い方。
全身を基本にして、必要な場所だけへ少し集める。
人影が踏み込む。
右から来る。
左腕へ光を集めて受ける。
次は脚。
少しだけ集めて横へ。
すぐ全身へ戻す。
「……」
できた。
ほんの少しだけ。
人影の動きが見える。
「こいつ……」
ガイルが驚いたように呟く。
ベラトリクスは何も言わない。
ただ、赤い瞳で僕を見ていた。
人影が大きく腕を振る。
隙。
「今じゃ!」
ベラトリクスの声。
僕にも分かった。
右腕。
短剣。
周囲の光を集める。
昨日みたいに全部じゃない。
全身に少し残す。
それでも刃が金色に染まった。
「はぁっ!」
振り抜く。
金色の軌跡。
白い仮面へ届く。
パキンッ。
「……」
仮面が割れた。
僕は息を呑む。
中には顔があると思った。
でも。
何もない。
白い光だけ。
空洞。
人間の顔も、魔族の顔もなかった。
「え……」
『損傷』
声だけが響く。
『汚染個体――』
その瞬間。
「邪魔じゃ」
黒い炎が一閃した。
「っ!?」
人影の胸を黒炎が貫く。
ベラトリクスが指を向けていた。
「ベラトリクス!?」
「少しくらい残っておる!」
「魔力!」
「後で怒れ!」
黒炎が人影を包む。
燃える。
でも違う。
身体そのものが崩れていく。
白い粒子へ。
「何だ……?」
ガイルが剣を構えたまま呟く。
黒い外套も、身体も、全てが白い光へ変わっていく。
最後には一枚の白い羽根だけが地面へ落ちた。
死体は残らなかった。
血も。
何も。
「……」
誰もすぐには動かなかった。
最初に口を開いたのはノアだった。
「今の……魔族?」
アンタレスが前へ出る。
地面へ落ちた羽根を見る。
「違います」
「分かるの?」
セラが聞く。
アンタレスは迷わなかった。
「はい。魔族の身体は死ねば死体が残ります」
「当たり前じゃない?」
ノアが首を傾げる。
「そうです」
アンタレスは白い羽根から目を離さない。
「だから、あれは魔族ではありません」
ガイルの表情が険しくなる。
「じゃあ何だ?」
誰も答えない。
ベラトリクスも。
僕も。
アンタレスも。
「ソル」
ベラトリクスが僕を見る。
「触るなよ」
「今回は触らないよ」
「成長したのう」
「昨日怒られたから」
アンタレスが布を取り出し、直接触れないように羽根を包む。
「昨日のものと同じですね」
「ああ」
ベラトリクスが小さく答える。
「間違いない」
「五百年前の?」
僕が聞く。
ベラトリクスは少しだけ黙った。
「今は、そう考えるべきじゃろうな」
初めて。
はっきり認めた。
胸が重くなる。
五百年前の災厄。
それがまだ、この世界にいる。
「でも」
僕は人影が消えた場所を見る。
「ベラトリクスの中に封じたんじゃないの?」
「核をな」
「核?」
「全てとは申しておらぬ。妾たちが封じたのは、災厄の中心じゃ」
アンタレスが続ける。
「戦場には数え切れないほどの個体がいました」
「じゃあ生き残り?」
「可能性はあります」
「五百年も?」
「奴らを人間や魔族と同じ物差しで測るな」
ベラトリクスの声が低くなる。
「妾ですら、奴らが何年生きるのか知らぬ」
嫌な話だ。
「それに」
アンタレスが地面を見る。
「今の個体、弱すぎます」
「弱い?」
僕は思わず聞き返した。
「あれで!?」
「五百年前のものと比べれば、遥かに」
ベラトリクスも頷く。
「下位の個体より、さらに弱い」
「じゃあ良かった」
「違う」
「え?」
「ソル」
ベラトリクスが僕を見る。
「弱いということは、作り直された可能性もある」
「……」
「五百年前の生き残りではなく」
アンタレスが静かに続ける。
「今、新しく生まれている可能性があるということです」
「……」
誰も答えない。
でも。
それが一番怖かった。
「おい」
ガイルが僕たちを見る。
「そろそろ説明してもらっていいか?」
来た。
当然だ。
「お前たち、昨日から何か知ってるな」
「……」
「あの白い羽根。村でも見つけたんだろ?」
「なんで……」
僕が聞くと、ガイルはアンタレスの持つ包みを見た。
「荷物の包み方が同じだった」
「あ」
さすがC級。
「それに」
ガイルが僕を指す。
「ソル。さっきあいつ、お前だけ狙った」
「……はい」
「理由は?」
「分かりません」
「本当に?」
「それは本当です」
「じゃあ」
視線がベラトリクスへ向く。
「お前は?」
ベラトリクスはしばらく黙っていた。
「五百年前――」
「ベラトリクス」
僕は思わず止める。
でも、彼女は片手を上げた。
「全ては話せぬ」
「……」
「じゃが、似たものについて書かれた記録を知っておる」
「記録?」
「ああ」
「どこで?」
「故郷じゃ」
嘘ではない。
「それは何だ?」
「災厄」
「……災厄?」
ノアが反応する。
「歴史書にそんなもの――」
「人間の歴史書にはない」
ベラトリクスが即答した。
ノアが止まる。
「何で」
「妾の故郷には残っておった」
アンタレスも自然に続ける。
「私も同じ記録を知っています」
ガイルは二人を見比べた。
完全に信じてはいない。
当然だ。
「敵か?」
「少なくとも」
アンタレスが白い羽根を見る。
「魔族ではありません」
「人間でもないじゃろうな」
ベラトリクスが続ける。
「……」
ガイルは少し考え、剣を鞘へ戻した。
「分かった」
「信じるんですか?」
僕が聞く。
「信じたとは言ってない」
「ですよね」
「ただ、危険なのは分かった」
ガイルは街道の東を見る。
「商隊を守る。それが俺たちの仕事だ」
シンプル。
でも強い。
「それと」
ガイルが僕へ視線を戻す。
「ソル」
「はい」
「また命令無視したな」
「……」
忘れてた。
「すみません」
「今回は、俺が止める前にお前が狙われたから半分許す」
「半分」
「半分」
「残りは?」
「今夜の見張り追加」
「えぇ……」
ノアが笑う。
「自業自得」
「ノアだって星装見たかったでしょ」
「それはそれ」
「ずるい!」
セラが僕の方へ近づいてくる。
「でも」
「?」
「昨日よりましだったわね」
「戦い?」
「光の使い方」
「分かるんですか?」
「昨日は飛んで転んでたから」
「見てたんだ……」
「全員見てた」
恥ずかしい。
「今日はちゃんと止まってた」
「……ありがとうございます」
少し嬉しい。
「調子に乗らない」
「はい」
横でベラトリクスが鼻を鳴らす。
「妾が教えたからな」
「私もです」
アンタレスが言う。
「お主は黙っておれ」
「何故です?」
「妾の手柄が減る」
「僕の手柄じゃないの!?」
少しだけ笑いが戻る。
でも、人影が消えた場所には何も残っていない。
僕はしゃがみ込む。
触らずに、ただ見る。
さっき。
白い仮面が僕を見た。
『異常』
『未知魔力との接続』
僕は胸へ手を当てる。
レグルスの魔力。
それとも。
もっと別の何か。
「ソル」
アンタレスが近づいてくる。
「さきほどの存在の言葉ですね」
「うん。僕を異常って言った」
「聞こえていました」
「未知魔力との接続って」
「はい」
ベラトリクスは黙っている。
「やっぱり」
僕は彼女を見る。
「僕の力、何か知ってる?」
「……まだじゃ」
「また?」
「まだ確証がない」
珍しく、ベラトリクスの声は強かった。
「じゃが、奴がお主へ反応した。それは覚えておけ」
「分かった」
「次に同じものが出たら、妾たちの後ろへ下がれ」
「嫌だ」
即答した。
ベラトリクスの眉が動く。
「何?」
「僕だけ狙われるなら、僕が後ろにいたら商隊に来る」
「だからじゃ」
「それに」
僕は右手を握る。
「星装、少し使えた」
「調子に乗るな」
「乗ってない」
「では」
ベラトリクスが僕の額を指で軽く押した。
「覚えておけ」
「何を?」
「一人で戦うな」
「……」
レグルスの言葉と重なる。
一人で背負うな。
「分かった」
「本当か?」
「多分」
「お主までそれを使うな!」
アンタレスが小さく笑った。
商隊が再び動き始める。
警戒はさらに強くなっていた。
僕は歩きながら、さっきの戦いを思い返す。
初めて自分の意思で星装を戦いの中で使えた。
右脚へ集めて、戻した。
腕へ集めて、戻した。
まだ遅い。
レグルスには遠く及ばない。
それでも、一歩進んだ。
「ソル」
ノアが隣へ来る。
「何?」
「さっきの星装」
「うん」
「やっぱり勇者レグルスの伝承に――」
「ノア」
「何?」
「今それ話す?」
「今だからだろ!」
「敵出た直後だよ!」
「だからこそ!」
この人は本当にすごい。
「英雄の技が現代に残ってるかもしれないんだぞ!」
「村に来た旅人に教わった」
「でも」
「偶然」
「まだ何も言ってない!」
「先回り」
「怪しい」
「怪しくない」
少し笑う。
夕方。
商隊は次の野営地へ到着した。
街道脇の少し広い場所。昨日より岩も少なく、周囲を見渡しやすい。
当然、見張りは増えた。
そして僕はガイルとの約束通り、一回追加された。
「眠い……」
「命令無視の罰だ」
「はい」
ガイルが隣で焚き火を眺める。
少しして、彼が口を開いた。
「怖くなかったか?」
「さっき?」
「ああ」
僕は少し考える。
「怖かったです。めちゃくちゃ」
「逃げようとは?」
「思いました」
「そうか」
「でも」
僕は炎を見る。
「逃げたら、誰かが代わりに前へ出ると思った」
「それで?」
「僕も出た」
「馬鹿だな」
「ですよね」
「でも、嫌いじゃない」
「……」
ガイルは少しだけ笑った。
「ただし死ぬな」
「はい」
「それが一番難しい」
「怖いこと言う」
「冒険者だからな」
少し離れた場所では、ベラトリクスとアンタレスが小声で話していた。
「陛下」
「何じゃ」
「間違いありません」
「ああ」
「五百年前の下位個体に似ています」
「似ているだけじゃ」
「はい。同じではありません」
ベラトリクスは布に包まれた白い羽根を見る。
「弱い」
「はい」
「粗い」
「はい」
「何より」
「空っぽ」
アンタレスが答える。
「ソルが触れた残滓にも記憶がない」
「塔を止めた術式も同じ」
「はい」
「となれば」
アンタレスが少し間を置く。
「誰かが――」
「申すな」
ベラトリクスが止めた。
「まだ早い」
「……」
「妾たちは五百年前、核を封じた」
「はい」
「では」
赤い瞳が細くなる。
「今動いておるものは何じゃ」
答えはない。
その夜。
空には多くの星が浮かんでいた。
見張りを終えた僕は、天幕へ戻る前に胸へ手を当てる。
星装。
一粒だけ。
金色の光を出す。
指先のそばを小さな光が浮かぶ。
「……」
レグルス。
勇者。
この力。
何で僕が使える。
白い影は、何で僕を異常と呼んだ。
分からない。
でも。
また出てくる気がする。
その時、今よりもう少し上手く使えるように。
僕は一粒の光を右腕へ。
左腕へ。
胸へ。
脚へ。
そして全身へ戻す。
ゆっくり。
一度。
成功した。
「……よし」
光を消し、僕は天幕へ戻った。
その頃。
商隊から遥か東。
深い森の中。
白い光が浮かんでいた。
一つ。
二つ。
三つ。
その中心から、感情のない声が響く。
『第一観測個体、消失』
別の声。
『原因』
『未知魔力保有個体』
一瞬の沈黙。
『識別名』
『ソル』
白い光が僅かに揺れる。
『記録』
そして最後。
『観測対象へ移行』
森は再び静かになった。
何もいなかったように。
ただ一枚。
白い羽根だけが、ゆっくりと地面へ落ちた。




