表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/41

白き影

第14話 白き影

ローデ村を出てから、商隊の空気は昨日までとは明らかに変わっていた。

笑い声が消えたわけじゃない。ガイルはいつも通り商隊長と話しているし、ノアも時々どうでもいい話を振ってくる。それでも、誰もが街道の両側に広がる森を気にしていた。

村を襲った何かが東へ向かった。

そして、僕たちも東へ向かっている。

「ソル」

「ん?」

隣を歩いていたアンタレスに呼ばれて振り向く。

「右肩に寄っています」

「え?」

言われて初めて気づいた。身体の周囲を漂わせていた金色の粒子が、右肩の辺りへ集まっている。

「また?」

「またです」

「難しいなあ……」

僕は意識して粒子を散らす。右肩から胸、左腕、腹、両脚へ。昨日より少しだけ、自分の意思で動かせるようにはなっていた。

身体を薄く覆う金色の光。

星装。

レグルスが使っていた技だ。

「今は?」

「昨日よりは均等です。ただ、左脚が少し薄いですね」

「やっぱり?」

後ろを歩いていたベラトリクスが鼻を鳴らした。

「全然駄目じゃ」

「アンタレスは昨日よりいいって言ってくれたよ」

「昨日よりましと、上手いは別じゃ」

「厳しいなあ」

「レグルスなら今頃――」

「比較禁止」

「まだ何も申しておらぬ!」

絶対言おうとしていた。

アンタレスが小さく笑う。

ここ数時間で分かったことがある。

星装は、光の粒子を出すこと自体はそこまで難しくない。問題はその後だ。

全身へ均等に纏わせる。

必要な瞬間だけ、一部へ集める。

そして、すぐに全身へ戻す。

簡単そうに聞こえるけど、実際にやると全然違う。

右脚へ少し集めようとすれば必要以上に持っていかれるし、腕へ集めれば他の場所が薄くなる。

「レグルスは本当にこれを戦いながらやってたの?」

「何度聞くのじゃ」

「だって信じられない」

「やっておった」

ベラトリクスは即答した。

「走る時は脚、斬る時は腕と剣。攻撃を受ける瞬間には胴と腕へ。奴は一呼吸の間に何度も切り替えておった」

「化け物じゃん」

「本人に言えば喜ぶぞ」

「喜ぶの?」

「褒め言葉じゃと思う男じゃった」

何となく想像できる。

その時、前を歩いていたガイルが片手を上げた。

「一旦止まるぞ」

馬車の動きがゆっくりと止まる。僕も星装を解いた。

「何かあった?」

商隊長が尋ねる。

「街道の先が狭くなってる。念のため確認する」

前方には低い岩山が迫っていて、その間を縫うように街道が続いていた。片側は岩壁。反対側は斜面になっていて、その下には細い川が流れている。

「セラ」

「見てくる」

セラが先行する。ミラは馬車の前へ移動し、ノアも杖を握った。

僕の隣でアンタレスが目を細める。

「……」

「何かいる?」

「分かりません」

「アンタレスでも?」

「魔力の気配が薄すぎます」

ベラトリクスも同じ方向を見ていた。

「薄いのではない」

「え?」

「妙なのじゃ」

「何が?」

「そこにあるようで、ない」

また分からない言い方。

聞き返そうとした、その時だった。

森の奥から鳥が一斉に飛び立った。

ガイルの剣が抜かれる。

「全員、警戒!」

次の瞬間、街道の前方へ何かが落ちた。

ドンッ!

土煙が舞い上がり、馬が驚いて鳴く。

「抑えろ!」

商人たちが慌てて手綱を握る。

土煙の中に、人影があった。

一人。

黒い外套。

昨日、ローデ村の村人が話していた姿と同じだった。

「……魔族」

誰かが呟く。

人影がゆっくりと顔を上げる。

顔は見えない。白い仮面のようなものが覆っている。

「お前が村を襲ったのか?」

ガイルが剣を構えた。

返事はない。

ただ、人影の周囲から黒い魔力が溢れ始める。

「下がれ!」

ガイルの声。

僕たち補助組は馬車の後ろへ下がる。

そのはずだった。

でも、アンタレスが動かない。

「アンタレス」

「……違う」

「え?」

「昨日と同じです」

真紅の髪が風に揺れる。

「この魔力は、魔族のものではありません」

ベラトリクスも人影を睨んでいた。

「外側だけじゃ」

「外側?」

「黒く見せておる」

「じゃあ中は?」

僕が聞いた瞬間、人影が消えた。

「っ!」

ガイルが反応する。

金属音。

人影は一瞬でガイルの目の前へ移動していた。

白い腕。

いや、腕なのかも分からない。

指先から伸びた光の刃を、ガイルが剣で受け止めている。

「速っ……」

「ミラ!」

「分かってる!」

大盾が横から入り、人影を弾き飛ばす。

そこへセラの矢。

一本、二本、三本。

全て命中した。

はずだった。

矢が黒い外套を貫く。

でも、血が出ない。

「何……?」

セラの表情が変わる。

ノアが杖を向けた。

「《水槍》!」

三本の水槍が飛び、人影へ直撃する。

吹き飛ばされた身体が岩壁へ叩きつけられた。

「やった?」

僕が呟く。

「まだじゃ」

ベラトリクスの声。

人影が立つ。

何事もなかったように、ゆっくりと。

そして、白い仮面の奥から声が響いた。

『――抵抗個体を確認』

「……」

背筋が冷える。

あの声。

昨日、白い羽根へ触れた時に聞いたものと似ている。

『汚染濃度、測定』

「汚染……」

僕の声にベラトリクスが反応した。

「ソル、下がれ」

「でも」

「下がれ!」

いつもと違う。

本気の声だった。

僕が一歩下がった、その瞬間。

白い仮面が僕の方を向いた。

『――異常』

「え?」

『未知魔力との接続を確認』

胸の奥が熱くなる。

レグルスから預かった魔力が反応している。

「何で僕を……」

『対象変更』

まずい。

「ソル!」

人影が消えた。

見えない。

でも、昨日とは違う。

胸の奥。

僕は自分からそこへ手を伸ばすように意識した。

星装。

金色の光が全身を包む。

身体の周囲へ光の粒子が生まれる。昨日より少ない。それでも、肩、胸、腕、腹、脚へ散らす。

『排除』

声。

右。

「っ!」

見えた。

正確には、昨日より身体が速く反応した。

白い刃が僕の首を狙う。

右腕へ光を集め、短剣で受ける。

ガキンッ!

「くっ!」

重い。

それでも受け止めた。

「ソル!」

ガイルが走る。

人影の左腕から、もう一本の光の刃。

間に合わない。

僕は反射的に右脚へ光を集めた。

昨日はここで集めすぎた。

だから、全部じゃない。

少しだけ。

「っ!」

地面を蹴る。

身体が横へ飛ぶ。

速い。

でも昨日ほどじゃない。

見える。

自分がどこへ動いているのか分かる。

「戻せ!」

ベラトリクスの声。

「あっ」

右脚へ集めた粒子を全身へ散らす。

着地。

足が地面を捉える。

「……止まれた!」

「喜ぶのは後じゃ!」

「はい!」

人影がもう来る。

僕は短剣を構えた。

怖い。

普通に、めちゃくちゃ怖い。

それでも前より少しだけ見える。

全身へ薄く纏った星装が、身体の反応を底上げしている。

一撃目を受ける。

二撃目も。

三撃目は避ける。

「ソル!下がれ!」

ガイルが叫ぶ。

「もう少し!」

「何がだ!」

僕にも分からない。

ただ、今。

何かを掴めそうだった。

レグルスの使い方。

全身を基本にして、必要な場所だけへ少し集める。

人影が踏み込む。

右から来る。

左腕へ光を集めて受ける。

次は脚。

少しだけ集めて横へ。

すぐ全身へ戻す。

「……」

できた。

ほんの少しだけ。

人影の動きが見える。

「こいつ……」

ガイルが驚いたように呟く。

ベラトリクスは何も言わない。

ただ、赤い瞳で僕を見ていた。

人影が大きく腕を振る。

隙。

「今じゃ!」

ベラトリクスの声。

僕にも分かった。

右腕。

短剣。

周囲の光を集める。

昨日みたいに全部じゃない。

全身に少し残す。

それでも刃が金色に染まった。

「はぁっ!」

振り抜く。

金色の軌跡。

白い仮面へ届く。

パキンッ。

「……」

仮面が割れた。

僕は息を呑む。

中には顔があると思った。

でも。

何もない。

白い光だけ。

空洞。

人間の顔も、魔族の顔もなかった。

「え……」

『損傷』

声だけが響く。

『汚染個体――』

その瞬間。

「邪魔じゃ」

黒い炎が一閃した。

「っ!?」

人影の胸を黒炎が貫く。

ベラトリクスが指を向けていた。

「ベラトリクス!?」

「少しくらい残っておる!」

「魔力!」

「後で怒れ!」

黒炎が人影を包む。

燃える。

でも違う。

身体そのものが崩れていく。

白い粒子へ。

「何だ……?」

ガイルが剣を構えたまま呟く。

黒い外套も、身体も、全てが白い光へ変わっていく。

最後には一枚の白い羽根だけが地面へ落ちた。

死体は残らなかった。

血も。

何も。

「……」

誰もすぐには動かなかった。

最初に口を開いたのはノアだった。

「今の……魔族?」

アンタレスが前へ出る。

地面へ落ちた羽根を見る。

「違います」

「分かるの?」

セラが聞く。

アンタレスは迷わなかった。

「はい。魔族の身体は死ねば死体が残ります」

「当たり前じゃない?」

ノアが首を傾げる。

「そうです」

アンタレスは白い羽根から目を離さない。

「だから、あれは魔族ではありません」

ガイルの表情が険しくなる。

「じゃあ何だ?」

誰も答えない。

ベラトリクスも。

僕も。

アンタレスも。

「ソル」

ベラトリクスが僕を見る。

「触るなよ」

「今回は触らないよ」

「成長したのう」

「昨日怒られたから」

アンタレスが布を取り出し、直接触れないように羽根を包む。

「昨日のものと同じですね」

「ああ」

ベラトリクスが小さく答える。

「間違いない」

「五百年前の?」

僕が聞く。

ベラトリクスは少しだけ黙った。

「今は、そう考えるべきじゃろうな」

初めて。

はっきり認めた。

胸が重くなる。

五百年前の災厄。

それがまだ、この世界にいる。

「でも」

僕は人影が消えた場所を見る。

「ベラトリクスの中に封じたんじゃないの?」

「核をな」

「核?」

「全てとは申しておらぬ。妾たちが封じたのは、災厄の中心じゃ」

アンタレスが続ける。

「戦場には数え切れないほどの個体がいました」

「じゃあ生き残り?」

「可能性はあります」

「五百年も?」

「奴らを人間や魔族と同じ物差しで測るな」

ベラトリクスの声が低くなる。

「妾ですら、奴らが何年生きるのか知らぬ」

嫌な話だ。

「それに」

アンタレスが地面を見る。

「今の個体、弱すぎます」

「弱い?」

僕は思わず聞き返した。

「あれで!?」

「五百年前のものと比べれば、遥かに」

ベラトリクスも頷く。

「下位の個体より、さらに弱い」

「じゃあ良かった」

「違う」

「え?」

「ソル」

ベラトリクスが僕を見る。

「弱いということは、作り直された可能性もある」

「……」

「五百年前の生き残りではなく」

アンタレスが静かに続ける。

「今、新しく生まれている可能性があるということです」

「……」

誰も答えない。

でも。

それが一番怖かった。

「おい」

ガイルが僕たちを見る。

「そろそろ説明してもらっていいか?」

来た。

当然だ。

「お前たち、昨日から何か知ってるな」

「……」

「あの白い羽根。村でも見つけたんだろ?」

「なんで……」

僕が聞くと、ガイルはアンタレスの持つ包みを見た。

「荷物の包み方が同じだった」

「あ」

さすがC級。

「それに」

ガイルが僕を指す。

「ソル。さっきあいつ、お前だけ狙った」

「……はい」

「理由は?」

「分かりません」

「本当に?」

「それは本当です」

「じゃあ」

視線がベラトリクスへ向く。

「お前は?」

ベラトリクスはしばらく黙っていた。

「五百年前――」

「ベラトリクス」

僕は思わず止める。

でも、彼女は片手を上げた。

「全ては話せぬ」

「……」

「じゃが、似たものについて書かれた記録を知っておる」

「記録?」

「ああ」

「どこで?」

「故郷じゃ」

嘘ではない。

「それは何だ?」

「災厄」

「……災厄?」

ノアが反応する。

「歴史書にそんなもの――」

「人間の歴史書にはない」

ベラトリクスが即答した。

ノアが止まる。

「何で」

「妾の故郷には残っておった」

アンタレスも自然に続ける。

「私も同じ記録を知っています」

ガイルは二人を見比べた。

完全に信じてはいない。

当然だ。

「敵か?」

「少なくとも」

アンタレスが白い羽根を見る。

「魔族ではありません」

「人間でもないじゃろうな」

ベラトリクスが続ける。

「……」

ガイルは少し考え、剣を鞘へ戻した。

「分かった」

「信じるんですか?」

僕が聞く。

「信じたとは言ってない」

「ですよね」

「ただ、危険なのは分かった」

ガイルは街道の東を見る。

「商隊を守る。それが俺たちの仕事だ」

シンプル。

でも強い。

「それと」

ガイルが僕へ視線を戻す。

「ソル」

「はい」

「また命令無視したな」

「……」

忘れてた。

「すみません」

「今回は、俺が止める前にお前が狙われたから半分許す」

「半分」

「半分」

「残りは?」

「今夜の見張り追加」

「えぇ……」

ノアが笑う。

「自業自得」

「ノアだって星装見たかったでしょ」

「それはそれ」

「ずるい!」

セラが僕の方へ近づいてくる。

「でも」

「?」

「昨日よりましだったわね」

「戦い?」

「光の使い方」

「分かるんですか?」

「昨日は飛んで転んでたから」

「見てたんだ……」

「全員見てた」

恥ずかしい。

「今日はちゃんと止まってた」

「……ありがとうございます」

少し嬉しい。

「調子に乗らない」

「はい」

横でベラトリクスが鼻を鳴らす。

「妾が教えたからな」

「私もです」

アンタレスが言う。

「お主は黙っておれ」

「何故です?」

「妾の手柄が減る」

「僕の手柄じゃないの!?」

少しだけ笑いが戻る。

でも、人影が消えた場所には何も残っていない。

僕はしゃがみ込む。

触らずに、ただ見る。

さっき。

白い仮面が僕を見た。

『異常』

『未知魔力との接続』

僕は胸へ手を当てる。

レグルスの魔力。

それとも。

もっと別の何か。

「ソル」

アンタレスが近づいてくる。

「さきほどの存在の言葉ですね」

「うん。僕を異常って言った」

「聞こえていました」

「未知魔力との接続って」

「はい」

ベラトリクスは黙っている。

「やっぱり」

僕は彼女を見る。

「僕の力、何か知ってる?」

「……まだじゃ」

「また?」

「まだ確証がない」

珍しく、ベラトリクスの声は強かった。

「じゃが、奴がお主へ反応した。それは覚えておけ」

「分かった」

「次に同じものが出たら、妾たちの後ろへ下がれ」

「嫌だ」

即答した。

ベラトリクスの眉が動く。

「何?」

「僕だけ狙われるなら、僕が後ろにいたら商隊に来る」

「だからじゃ」

「それに」

僕は右手を握る。

「星装、少し使えた」

「調子に乗るな」

「乗ってない」

「では」

ベラトリクスが僕の額を指で軽く押した。

「覚えておけ」

「何を?」

「一人で戦うな」

「……」

レグルスの言葉と重なる。

一人で背負うな。

「分かった」

「本当か?」

「多分」

「お主までそれを使うな!」

アンタレスが小さく笑った。

商隊が再び動き始める。

警戒はさらに強くなっていた。

僕は歩きながら、さっきの戦いを思い返す。

初めて自分の意思で星装を戦いの中で使えた。

右脚へ集めて、戻した。

腕へ集めて、戻した。

まだ遅い。

レグルスには遠く及ばない。

それでも、一歩進んだ。

「ソル」

ノアが隣へ来る。

「何?」

「さっきの星装」

「うん」

「やっぱり勇者レグルスの伝承に――」

「ノア」

「何?」

「今それ話す?」

「今だからだろ!」

「敵出た直後だよ!」

「だからこそ!」

この人は本当にすごい。

「英雄の技が現代に残ってるかもしれないんだぞ!」

「村に来た旅人に教わった」

「でも」

「偶然」

「まだ何も言ってない!」

「先回り」

「怪しい」

「怪しくない」

少し笑う。

夕方。

商隊は次の野営地へ到着した。

街道脇の少し広い場所。昨日より岩も少なく、周囲を見渡しやすい。

当然、見張りは増えた。

そして僕はガイルとの約束通り、一回追加された。

「眠い……」

「命令無視の罰だ」

「はい」

ガイルが隣で焚き火を眺める。

少しして、彼が口を開いた。

「怖くなかったか?」

「さっき?」

「ああ」

僕は少し考える。

「怖かったです。めちゃくちゃ」

「逃げようとは?」

「思いました」

「そうか」

「でも」

僕は炎を見る。

「逃げたら、誰かが代わりに前へ出ると思った」

「それで?」

「僕も出た」

「馬鹿だな」

「ですよね」

「でも、嫌いじゃない」

「……」

ガイルは少しだけ笑った。

「ただし死ぬな」

「はい」

「それが一番難しい」

「怖いこと言う」

「冒険者だからな」

少し離れた場所では、ベラトリクスとアンタレスが小声で話していた。

「陛下」

「何じゃ」

「間違いありません」

「ああ」

「五百年前の下位個体に似ています」

「似ているだけじゃ」

「はい。同じではありません」

ベラトリクスは布に包まれた白い羽根を見る。

「弱い」

「はい」

「粗い」

「はい」

「何より」

「空っぽ」

アンタレスが答える。

「ソルが触れた残滓にも記憶がない」

「塔を止めた術式も同じ」

「はい」

「となれば」

アンタレスが少し間を置く。

「誰かが――」

「申すな」

ベラトリクスが止めた。

「まだ早い」

「……」

「妾たちは五百年前、核を封じた」

「はい」

「では」

赤い瞳が細くなる。

「今動いておるものは何じゃ」

答えはない。

その夜。

空には多くの星が浮かんでいた。

見張りを終えた僕は、天幕へ戻る前に胸へ手を当てる。

星装。

一粒だけ。

金色の光を出す。

指先のそばを小さな光が浮かぶ。

「……」

レグルス。

勇者。

この力。

何で僕が使える。

白い影は、何で僕を異常と呼んだ。

分からない。

でも。

また出てくる気がする。

その時、今よりもう少し上手く使えるように。

僕は一粒の光を右腕へ。

左腕へ。

胸へ。

脚へ。

そして全身へ戻す。

ゆっくり。

一度。

成功した。

「……よし」

光を消し、僕は天幕へ戻った。

その頃。

商隊から遥か東。

深い森の中。

白い光が浮かんでいた。

一つ。

二つ。

三つ。

その中心から、感情のない声が響く。

『第一観測個体、消失』

別の声。

『原因』

『未知魔力保有個体』

一瞬の沈黙。

『識別名』

『ソル』

白い光が僅かに揺れる。

『記録』

そして最後。

『観測対象へ移行』

森は再び静かになった。

何もいなかったように。

ただ一枚。

白い羽根だけが、ゆっくりと地面へ落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ