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四熾

第144話 四熾

アンタレスがセレフィアを飛び立ってから、およそ二十秒。

アステリア王国北部。

赤い光が空を裂いた。

山を越え、森を越え、街道を越え。

減速。

――ドンッ!!

衝撃が大地を走る。

アンタレスは空中で止まった。

眼下。

森。

少し離れた場所に旧監視塔。

そして、そのさらに北東。

「……」

白い影。

一体。

空に浮いている。

翼。

人の形。

間違いない。

天使。

だが。

アンタレスの表情が変わった。

「違う」

これまで確認した雑兵ではない。

魔力の密度。

圧。

何より。

ただそこにいるだけで、周囲の魔力が押し退けられている。

天使はまだ動いていない。

それでも。

危険。

アンタレスは迷わなかった。

右手を開く。

赤い魔力が溢れた。

「――《紅煉獄》」

瞬間。

世界が紅く染まる。

天使を中心に、広大な範囲へ赤い魔力が走った。

空。

大地。

森。

あらゆる場所。

アンタレスの魔力で満たされていく。

支配領域。

《紅煉獄》。

その内部。

赤い魔力の流れ。

全て。

アンタレスの支配下。

普通の相手なら、入った時点で動きを大きく制限される。

それでも。

天使は動かなかった。

ゆっくり。

顔を上げる。

アンタレスを見る。

視線が重なった。

「……」

天使の目。

今までの雑兵とは違う。

見ている。

明確に。

アンタレスという存在を認識している。

そして。

口が動いた。

『……紅き魔力』

「……!」

アンタレスの目が細くなる。

喋った。

雑兵も言葉を発することはあった。

だが。

違う。

機械的な音声ではない。

意思がある。

思考がある。

『なるほど』

天使がアンタレスを見る。

『貴様が』

一拍。

『この時代の魔王か』

アンタレスは右手を下ろさない。

《紅煉獄》。

維持。

「私を知っているんですか?」

『名までは知らぬ』

「そうですか」

『だが、その魔力』

天使の視線が周囲へ向く。

紅く染まった空間。

『魔を統べる者でなければ扱えまい』

アンタレス。

静かに見る。

「あなたは」

一拍。

「これまでの天使とは違いますね」

天使。

僅かに。

眉を動かす。

『あれらと』

声。

低くなる。

『我を同列に扱うな』

「……」

『あれらは兵』

一拍。

『命じられ、動く者』

天使の翼が広がる。

白い魔力。

溢れる。

《紅煉獄》の中。

赤。

白。

二つの魔力が押し合う。

『我らは』

天使。

アンタレスを見据える。

『命じる側だ』

アンタレスの周囲。

赤い魔力。

強くなる。

「名前を聞いても?」

『……』

一瞬。

沈黙。

やがて。

天使が答えた。

『カシエル』

「カシエル」

『大天使ゼファリエルが座す天の下』

白い翼。

大きく開く。

『《四熾》が一柱』

一拍。

『カシエル』

空気が震えた。

四熾。

アンタレスにとっても。

初めて聞く名。

「四熾」

『そうだ』

「あなた以外にも?」

カシエル。

僅かに笑う。

『知る必要はない』

「……そうですか」

アンタレスの右手。

赤い魔力。

集まる。

「では」

《紅槍》。

形成。

「捕らえてから聞きます」

カシエル。

初めて。

明確に笑った。

『魔王』

一拍。

『我を捕らえると?』

「はい」

即答。

『面白い』

白い魔力。

爆発。

同時。

アンタレス。

《紅槍》。

放つ。

赤。

一直線。

カシエル。

動かない。

右手。

上げる。

白い光。

集まる。

《紅槍》。

直撃。

――ドォォォォン!!

空。

爆発。

赤い魔力が散る。

でも。

アンタレス。

もう動いている。

《紅煉獄》。

内部。

どこからでも。

攻撃できる。

カシエル。

右。

赤い槍。

出現。

左。

さらに。

後ろ。

上。

下。

五本。

同時。

射出。

カシエル。

翼。

一度。

動く。

白い光。

広がった。

赤い槍。

全て。

止まる。

「……」

アンタレス。

目。

細める。

止めた。

壊したんじゃない。

空中で。

完全に。

止めた。

『この程度か』

「まさか」

アンタレス。

指。

動かす。

停止していた《紅槍》。

弾ける。

赤い魔力。

至近距離。

爆発。

その中。

アンタレス。

突っ込む。

右手。

《紅月》。

巨大な赤い魔力の鎌。

振る。

カシエル。

白い光。

腕。

纏う。

受ける。

――ガァァン!!

衝撃。

森。

揺れる。

「……!」

アンタレスの目が見開く。

止められた。

片腕。

それだけで。

『悪くない』

カシエル。

左手。

動く。

「っ」

アンタレス。

即座。

後退。

直後。

白い光。

通過。

空間。

裂ける。

「……」

もし。

避けてなければ。

アンタレス。

自分の頬。

触れる。

薄い傷。

血。

一筋。

「なるほど」

カシエル。

見る。

「急いで正解でしたね」

『恐怖はないか』

「何にです?」

『我に』

アンタレス。

少し。

首。

傾ける。

「ありません」

『強がりか』

「違います」

赤い魔力。

再び。

周囲。

満ちる。

「あなたが強いことと」

一拍。

「私が戦わない理由は」

赤い瞳。

真っ直ぐ。

カシエルを見る。

「何も関係ありません」

カシエル。

黙る。

アンタレス。

右手。

上げる。

《紅煉獄》。

反応。

カシエルの背後。

赤い魔力。

槍。

十。

二十。

さらに。

増える。

『……』

「ここは」

一拍。

「私の世界です」

全方位。

《紅槍》。

放たれる。

カシエル。

翼。

大きく。

開く。

白い魔力。

一気に。

膨れ上がった。

衝突。

赤。

白。

空。

染まる。

――ドォォォォォォン!!

爆発。

アンタレス。

前。

出る。

《紅月》。

振り下ろす。

カシエル。

避ける。

その先。

既に。

赤。

走っている。

「――《紅雷》」

一閃。

カシエルの脇腹。

直撃。

『……!』

初めて。

カシエルの身体が飛ぶ。

森。

上空。

数百メートル。

アンタレス。

追う。

逃がさない。

《紅煉獄》。

領域内。

赤い魔力がカシエルの進路を塞ぐ。

カシエル。

止まる。

自分の脇腹を見る。

白い衣。

焦げている。

『……』

アンタレス。

距離。

取る。

「どうしました?」

『いや』

カシエル。

顔。

上げる。

『少し』

一拍。

『認識を改めた』

白い魔力。

変わる。

アンタレス。

すぐ。

気づく。

さっきまでとは違う。

「……」

圧。

上がる。

『この時代の魔王』

翼。

白い光。

強くなる。

『名は』

「アンタレス」

『アンタレス』

カシエル。

その名。

口にする。

『覚えた』

次の瞬間。

消えた。

「!」

アンタレス。

振り向く。

間に合う。

白い拳。

赤い魔力。

衝突。

――ドンッ!!

アンタレス。

飛ぶ。

空中。

体勢。

戻す。

「速い」

前。

カシエル。

もういる。

白い光。

槍。

形。

作る。

突く。

アンタレス。

《紅月》。

受ける。

火花。

赤。

白。

散る。

一撃。

二撃。

三撃。

速い。

アンタレス。

受ける。

避ける。

返す。

カシエル。

避ける。

《紅雷》。

放つ。

カシエル。

翼。

防ぐ。

「……」

通る。

でも。

浅い。

カシエル。

翼。

開く。

白い魔力。

一気。

放出。

アンタレス。

《紅煉獄》。

前方。

集中。

赤い壁。

白い魔力。

ぶつかる。

空。

震える。

大地。

揺れる。

旧監視塔。

窓。

震える。

遠く。

アステリア王国軍。

空。

見上げる。

赤。

白。

交互。

空を染めている。

誰も。

近づけない。

魔王。

アンタレス。

《四熾》。

カシエル。

二人。

戦闘開始から。

まだ。

一分にも満たない。

それでも。

周囲の地形。

既に。

変わり始めていた。

その頃。

さらに南。

「……」

ベラが突然。

速度。

少し落とした。

「ベラ?」

僕。

聞く。

返事。

ない。

ベラ。

前方。

見る。

遠い。

まだ。

戦場。

見えない。

でも。

魔力。

届いてる。

赤。

アン。

そして。

もう一つ。

白。

「天使?」

僕が聞く。

『……ああ』

ベラの声。

低い。

カイルも表情を変える。

「やっぱ大天使か?」

『違う』

「え?」

ベラ。

目。

細める。

『ゼファリエルではない』

「じゃあ何?」

『分からぬ』

ベラがそう言った。

その一言。

僕。

息。

止まる。

ベラが。

分からない。

『じゃが』

黒い魔力。

一気。

強くなる。

僕たちを運ぶ速度。

さらに。

上がる。

『雑兵ではない』

「それは分かるけど」

『それどころではない』

ベラ。

前。

睨む。

『アンタレスが』

一拍。

『《紅煉獄》を最初から使っておる』

「……」

カイル。

黙る。

僕も。

アン。

最初から。

あれを。

「そんなに?」

『あやつが敵を見て、即座に《紅煉獄》を展開した』

ベラ。

表情。

険しい。

『それだけで十分じゃ』

エリシア。

細剣。

握る。

「危険な相手ということですね」

『ああ』

シノブ。

前。

見る。

「到着まで?」

『もうすぐじゃ』

その瞬間。

遠く。

空。

赤く。

光った。

次。

白。

衝突。

数秒。

遅れて。

――ドォォォン!!

音。

届く。

「……」

僕。

《明星》。

握る。

見えてきた。

赤。

アン。

白。

天使。

二つ。

空。

ぶつかってる。

ベラ。

速度。

さらに。

上げる。

『全員』

声。

変わる。

元魔王。

戦う時の。

声。

『構えよ』

カイル。

槍。

抜く。

エリシア。

細剣。

レオンハルトたち。

戦闘準備。

シノブ。

合図。

カグラ。

散開準備。

僕。

《明星》。

抜く。

「ベラ」

『何じゃ』

「アン、大丈夫だよね」

一瞬。

ベラ。

黙る。

『今はな』

「……今は?」

『見れば分かる』

戦場。

近づく。

アン。

《紅月》。

振る。

天使。

白い槍。

受ける。

衝撃。

空。

割れる。

ベラ。

その姿。

見る。

そして。

初めて。

天使。

カシエルを見る。

『……』

「知ってる?」

『いや』

ベラ。

即答。

でも。

赤い瞳。

鋭い。

『知らぬ』

一拍。

『じゃが』

黒炎。

ベラの右手。

灯る。

『あれは』

声。

低い。

『明確に』

一拍。

『こちらを殺せる側の天使じゃ』

背筋。

冷える。

その時。

戦場。

カシエル。

僕たちの方。

顔。

向けた。

距離。

まだ。

ある。

なのに。

目。

合った。

気がした。

『……』

カシエルの口。

動く。

アン。

それを見る。

「何です?」

カシエル。

僕たち。

いや。

ベラを見る。

『もう一人』

一拍。

『魔王が来るか』

ベラ。

聞こえるはず。

ない。

でも。

まるで。

返すように。

笑った。

『面白い』

僕たちを包む黒い魔力。

戦場へ。

突っ込む。

アンタレス。

ベラトリクス。

二人の魔王。

そして。

大天使ゼファリエル直属。

《四熾》が一柱。

カシエル。

五百年前にも知られていなかった。

天使側の幹部。

その存在が。

初めて。


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