魔王突破
第141話 魔王突破
第三段階。
全戦力でベラを止める。
その命令が出た直後だった。
「……来る」
ベラの魔力が変わった。
今までより大きい。
でも、昨日アンと戦った時ほどじゃない。
つまり。
まだ余裕がある。
「嫌だな……」
「何がだ?」
カイルが槍を構えたまま聞く。
「まだ全然本気じゃない」
「言うな」
黒炎がベラの身体を包む。
《黒纏》。
ガレスが大剣を上げた。
『全隊、迎撃準備!!』
ヴァルガルドの盾兵が正面。
その後ろに聖騎士団。
左右へカグラ。
上空には魔王軍。
後方にはアステリア王国軍。
アルカディア魔法部隊も大結界への接続を終えつつある。
そして中央。
僕。
カイル。
エリシア。
ガレス。
レオンハルト。
「これなら……」
思わず呟く。
止められる。
そう思った。
次の瞬間。
ベラが消えた。
「え?」
《心眼》。
探す。
正面。
いない。
右。
いない。
左。
違う。
「上!!」
全員が空を見る。
ベラ。
高い。
防衛線そのものを飛び越えていた。
「嘘でしょ!?」
カイルが叫ぶ。
『飛行部隊!!』
ガレスの声。
魔王軍が一斉に上昇。
ベラへ向かう。
でも。
ベラは止まらない。
『邪魔じゃ』
黒炎。
横薙ぎ。
上空で爆発。
飛行部隊が散らされる。
倒してない。
でも。
道が開いた。
その先。
大結界。
「まずい!」
ベラの目的。
僕たちを倒すことじゃない。
大結界へ到達すること。
「カイル!」
「おう!!」
星を右脚へ。
《星律》。
カイルが地面を蹴る。
僕も《彗星》。
一気に追う。
でも。
速い。
ベラが大結界の目前へ到達する。
『到達判定まで残り百メートル!!』
研究者の声。
「百!?」
『八十!!』
「ベラ!!」
僕が叫ぶ。
ベラが振り返る。
笑った。
『遅いぞ』
『六十!!』
カイル。
槍を引く。
「止まれぇぇ!!」
魔力。
集中。
《天穿》。
巨大な一撃がベラへ飛ぶ。
ベラ。
黒炎で受ける。
爆発。
速度。
僅かに落ちる。
『四十!!』
「まだ!」
僕。
《明星》。
星を繋ぐ。
脚。
腰。
腕。
刀。
《流転》。
一気に踏み込む。
ベラ。
僕を見る。
刀。
黒炎。
衝突。
――ガァン!!
「っ……!」
止まった。
ほんの一瞬。
「今!!」
後ろ。
エリシア。
《聖壁》。
ベラの進行方向。
大結界との間へ展開。
さらに。
レオンハルト。
ガレス。
左右から入る。
シノブたちも退路を塞ぐ。
『包囲!!』
ベラの周囲。
世界連合軍。
集まる。
『三十メートル地点で停止!!』
止めた。
大結界まで。
三十メートル。
カイルが息を吐く。
「危な……」
「まだ!」
僕。
ベラを見る。
動いてない。
でも。
魔力。
上がってる。
ベラが周囲を見渡す。
前。
《聖壁》。
左右。
ガレス。
レオンハルト。
後ろ。
僕とカイル。
外周。
カグラ。
上空。
魔王軍。
遠距離。
アステリア。
アルカディア。
完全に囲んだ。
『見事じゃ』
ベラが言う。
『今の判断は悪くない』
ガレス。
大剣を構える。
『なら、そのまま止まってください』
『それでは訓練にならぬじゃろ』
『ですよね!!』
ベラ。
右手を上げる。
黒炎。
集まる。
僕。
知ってる。
でも。
《黒閃》じゃない。
《黒蝕》でもない。
もっと。
重い。
昨日。
見た。
「全員離れて!!」
ベラが手を下ろす。
『――《黒葬》』
世界が。
沈んだ。
「っ!?」
上から。
何か。
落ちた。
見えない。
でも。
重い。
巨大な黒い魔力。
戦場全体を押し潰す。
地面。
一気に沈む。
『ぐっ……!!』
『盾を上げろ!!』
『無理だ、上から来る!!』
兵士たちが膝をつく。
魔王軍飛行部隊。
高度を維持できない。
カグラ。
動き。
止まる。
僕も。
身体。
重い。
「これ……昨日より広い……!」
カイル。
槍を地面へ突き立てる。
「訓練で使う技かよ!!」
『大天使級想定じゃと言ったであろう』
「限度があるだろ!!」
エリシア。
《聖壁》。
上へ。
でも。
一枚じゃ足りない。
「ソルさん!」
「分かってる!」
星。
広げる。
でも。
止まる。
全部を見ない。
全部を動かさない。
アンとの約束。
じゃあ。
何を見る。
今。
必要なのは。
ベラじゃない。
潰される。
仲間。
「……」
呼吸。
一つ。
《心眼》。
広げる。
でも。
全部。
拾わない。
防衛線。
負荷が大きい場所。
倒れそうな人。
結界。
弱い場所。
それだけ。
星。
戦場へ広がる。
「――《星域》」
黄金。
広がる。
世界連合軍。
包む。
「ソル!」
カイル。
「大丈夫!」
星を。
一人ずつ動かさない。
部隊。
単位。
必要な場所。
だけ。
ヴァルガルド。
前列。
星。
防御。
聖騎士団。
結界部隊。
星。
魔力補助。
魔王軍飛行部隊。
落ちそうな者。
星。
身体。
支える。
エリシア。
《聖壁》。
集中。
「――《星律》」
星が動く。
エリシアの《聖壁》。
巨大化。
一枚。
二枚。
さらに。
アルカディアの結界術式が重なる。
『魔力接続!!』
『《星域》の補助を受けています!』
『そのまま維持!!』
《黒葬》。
押す。
世界連合軍。
耐える。
「っ……!」
頭。
痛い。
でも。
前みたいじゃない。
全部の声。
全部の動き。
頭に入ってこない。
必要なものだけ。
選べてる。
「いける……!」
その時。
ベラが僕を見る。
『ほう』
笑った。
『そこまで扱えるようになったか』
「誰のおかげだと思ってるの!」
『妾じゃな』
「否定できない!」
黒い圧力。
弱まる。
《黒葬》。
消える。
兵士たち。
立つ。
『耐えた……!』
声。
上がる。
でも。
僕。
すぐ。
ベラを見る。
「……いない」
「は?」
カイル。
《心眼》。
探す。
さっきまで。
包囲中央。
いない。
「どこ!?」
エリシア。
大結界。
見る。
「ソルさん」
その声。
嫌な感じ。
振り返る。
大結界。
目の前。
ベラ。
立ってる。
「……え?」
いつ。
《黒葬》。
全員。
耐えることに集中。
その瞬間。
抜けた。
『到達判定!!』
研究者。
叫ぶ。
『最終想定敵!!』
一拍。
『大結界へ到達!!』
静寂。
「……」
僕。
止まる。
カイルも。
ガレスも。
レオンハルトも。
全員。
ベラを見る。
ベラ。
大結界。
触れる。
『まずは』
一拍。
『妾の勝ちじゃな』
「……やられた」
本当に。
やられた。
正面から。
突破したんじゃない。
僕たち全員へ《黒葬》。
守らせた。
意識。
全部。
上へ。
その隙。
抜けた。
アンの通信。
入る。
『到達判定を確認しました』
静か。
『第三段階』
一拍。
『世界連合軍側の敗北です』
誰も。
喋らない。
カイル。
地面。
見る。
「マジか……」
エリシア。
悔しそう。
唇。
噛む。
ガレス。
大剣。
下ろす。
『……完敗ですね』
ベラ。
振り返る。
『何を言う』
ガレス。
顔。
上げる。
『え?』
『訓練は終わっておらぬ』
「……」
嫌。
予感。
アン。
『ベラ』
『何じゃ』
『第三段階は大結界への到達までです』
『知っておる』
『では』
ベラ。
大結界。
見る。
『ここからは』
黒炎。
右手。
集まる。
『第四段階じゃろう?』
「第四?」
僕。
聞いてない。
カイルも。
「そんなのあったか?」
エリシア。
首。
振る。
「聞いていません」
アン。
少し。
沈黙。
『……予定にはありません』
『なら今作ればよい』
「ベラ!?」
黒炎。
大きくなる。
ベラ。
大結界。
正面。
立つ。
『敵が結界へ到達した』
一拍。
『ならば次にすることは一つじゃ』
僕。
分かった。
「壊す気だ」
ベラ。
笑う。
『当然じゃ』
アン。
声。
低くなる。
『ベラ』
『安心せい』
『何をですか』
『昨日のようにはせぬ』
「その言葉が一番信用できない!」
僕。
叫ぶ。
ベラ。
無視。
黒炎。
さらに。
圧縮。
でも。
《黒閃》じゃない。
《黒蝕》。
結界。
魔法。
焼くための技。
「アン!」
『……』
アン。
数秒。
黙る。
止める。
そう思った。
でも。
『研究部門』
『は、はい!』
『現在の大結界は?』
『正常です!損傷なし!魔力循環、分散経路ともに正常!』
『アルカディア』
『接続維持しています!』
『ヴァルガルド』
『内部防衛線、維持可能!』
アン。
一拍。
『分かりました』
「え?」
『第四段階へ移行します』
「やるの!?」
カイル。
笑う。
「マジかよ」
アン。
静か。
『想定を変更』
一拍。
『最終想定敵が大結界へ到達』
『これより』
『大結界破壊を目的とした攻撃を開始します』
空気。
変わる。
『世界連合軍の目的は』
『結界の防衛』
『及び』
一拍。
『最終想定敵の排除』
ベラ。
笑う。
『そうでなくてはな』
アン。
続ける。
『ただしベラ』
『何じゃ』
『昨日より出力を上げることは禁止します』
『……』
『返事は?』
『分かった』
「今ちょっと嫌そうだったよね?」
『黙れソル』
「はい」
ガレス。
大剣。
再び。
構える。
『全隊!!』
疲れてる。
それでも。
声。
強い。
『聞いたな!!』
兵士たち。
立つ。
『ここからが本当の結界防衛だ!!』
ヴァルガルド。
盾。
上げる。
聖騎士団。
剣。
構える。
アルカディア。
術式。
再接続。
カグラ。
散る。
魔王軍。
上空。
戻る。
アステリア。
攻撃準備。
僕。
《星域》。
維持。
カイル。
槍。
肩。
乗せる。
エリシア。
僕を見る。
「大丈夫ですか?」
「まだいける」
「無理は?」
「してない」
じっと。
見られる。
「……本当に?」
「本当に」
「分かりました」
ベラ。
大結界。
前。
右手。
黒炎。
凝縮。
《黒蝕》。
黒い炎が。
音もなく。
結界へ触れる。
次の瞬間。
――ジュッ。
「……え?」
大結界。
光。
消える。
一点。
小さい。
でも。
確実に。
食われた。
研究者。
叫ぶ。
『局所魔力消失!!』
『結界術式が侵食されています!!』
『再生が追いつきません!!』
昨日。
アンとベラの攻撃。
耐えた。
世界連合軍。
総攻撃。
耐えた。
大結界。
それが。
今。
初めて。
明確に。
壊され始めた。
「まずい……!」
ベラ。
黒炎。
押し込む。
亀裂。
一本。
走る。
『来るぞ!!』
ガレス。
叫ぶ。
『全軍!!』
一拍。
『ベラトリクス様を大結界から引き剥がせ!!』
世界連合軍。
一斉。
動く。
僕も。
《明星》。
握る。
「行こう!」
「おう!!」
「はい!」
星。
戦場。
駆ける。
世界。
全て。
元魔王。
一人へ。
向かう。
そして。
その時。
大結界。
――バキッ。
大きな音。
響いた。
亀裂。
一気に。
数十メートル。
走る。
初めて。
世界を守る盾が。
壊れ始めた。




