次の備え
第135話 次の備え
翌日。
セレフィア神聖国。
大聖堂。
会議室。
「……」
僕。
座ってる。
カイル。
隣。
エリシア。
その隣。
正面。
アン。
「ソル」
「はい」
「昨日」
「はい」
「逃げましたね」
「……」
カイルを見る。
目。
逸らされた。
裏切り者。
「カイルも」
「俺は止めた」
「嘘つけ!」
「止めようとはした」
「走りながら!?」
「気持ちでは」
「一番信用できないやつ!」
エリシア。
小さく。
息を吐く。
「朝から元気ですね」
「エリシア助けて」
「嫌です」
「即答!?」
アン。
額。
押さえる。
「別に怒っていません」
「じゃあ何で呼んだの?」
「会議です」
「……」
僕。
座り直す。
カイルも。
「先に言ってよ」
「言いました」
「聞いてない」
「聞いてください」
昨日。
現魔王。
アンタレス。
先代魔王。
ベラトリクス。
六百年ぶりの模擬戦。
結果。
決着なし。
そして。
大結界。
一部に亀裂。
それでも。
崩壊しなかった。
ガレス。
レオンハルト。
世界連合軍主力。
その総攻撃にも耐えた。
さらに。
二人の魔王がぶつけ合った力にも。
耐えた。
国を守る。
そのために作られた。
新しい盾。
試験は。
成功。
だった。
「それでは」
教皇。
会議。
始める。
参加者。
アン。
ガレス。
レオンハルト。
アルヴィス。
各国の研究者。
軍事責任者。
そして。
《黒翼》。
僕。
カイル。
エリシア。
ベラ。
「……?」
僕。
横を見る。
「ベラは?」
カイル。
周り。
見る。
「いねえな」
エリシア。
「遅刻でしょうか」
アン。
目。
閉じる。
「来ます」
「分かるの?」
「分かります」
何で?
その時。
扉。
開く。
「遅れた」
ベラ。
普通に。
入ってくる。
「ほら」
アン。
「本当に来た」
僕。
「アンすご」
「褒めるところではありません」
ベラ。
空いてる席。
座る。
「何じゃ?」
「何でもありません」
「そうか」
教皇。
少しだけ。
笑ってる。
「では、改めて」
資料。
広げる。
昨日。
大結界。
試験結果。
アルカディアの研究者。
立つ。
「試験用結界は、想定を上回る耐久性能を示しました」
資料。
一枚。
「第一試験」
「ガレス総隊長、レオンハルト副隊長を中心とした世界連合軍主力による総攻撃」
一枚。
「第二試験」
「アンタレス様による段階的攻撃」
一枚。
「そして」
研究者。
少し。
止まる。
ベラ。
見る。
「第三試験」
「アンタレス様及びベラトリクス様による模擬戦」
「うむ」
ベラ。
何故か。
満足そう。
アン。
「ベラ様」
「何じゃ」
「自慢するところではありません」
「妾は何も言っておらぬ」
「顔です」
「顔?」
「得意そうです」
「気のせいじゃ」
絶対。
気のせいじゃない。
研究者。
続ける。
「最終試験において、結界上部に一か所の亀裂が発生」
空気。
少し。
変わる。
「しかし」
一拍。
「内部への被害はありませんでした」
ざわ。
小さく。
声。
「結界そのものも崩壊せず、魔力循環及び補強術式も最後まで機能しています」
ヴァルガルド側。
代表。
腕。
組む。
「亀裂の原因は?」
「局所的な負荷です」
図。
出る。
「二つの巨大な魔力が衝突した瞬間、一部へ想定以上の負荷が集中しました」
「分散できなかった?」
僕。
聞く。
「正確には」
研究者。
「分散速度を、負荷の増加速度が上回りました」
「……」
分からない。
カイル。
小声。
「分かったか?」
「全然」
「俺も」
エリシア。
「つまり」
僕たちを見る。
「受け流すより先に、次の衝撃が来たということでは?」
研究者。
「その認識で構いません」
「なるほど」
僕。
「分かった?」
カイル。
「分かった」
「僕も」
エリシア。
「最初からそう説明してほしいですね」
研究者。
ちょっと。
困ってる。
ごめんなさい。
「ただし」
研究者。
続ける。
「原因が判明している以上、改善は可能です」
資料。
新しい。
「ヴァルガルド側から、負荷分散経路の増設」
「アルカディア側から、術式の並列化」
「魔族領から、結界内部の魔力循環速度を引き上げる案が提出されています」
「全部やるの?」
「その予定です」
「もっと硬くなる?」
「はい」
研究者。
即答。
「今回と同等の衝撃であれば」
一拍。
「次は亀裂すら発生させません」
「……」
僕。
ベラを見る。
ベラ。
笑う。
「ならばもう一度」
「やりません」
アン。
即答。
「まだ最後まで言っておらぬぞ」
「分かります」
「何故じゃ」
「あなたなので」
「失礼じゃな」
「昨日、平原をどれだけ壊したと思っているんですか?」
「野外じゃ」
「野外なら壊していいわけではありません」
「直せばよかろう」
「誰が?」
「……」
ベラ。
僕を見る。
「何で僕!?」
「星で何とかならぬか?」
「ならないよ!」
ガレス。
笑い。
堪えてる。
レオンハルト。
顔。
逸らしてる。
アン。
ため息。
「とにかく」
一拍。
「大結界の開発は継続します」
空気。
戻る。
最高指揮者。
アンタレス。
「試験用ではなく」
「実際に各国へ展開できる形へ」
各国。
見る。
「ただし」
「これだけに頼るつもりはありません」
ヴァルガルド。
代表。
頷く。
アン。
続ける。
「結界は守るためのものです」
「敵を倒してはくれません」
一拍。
「そして」
「壊れない保証もありません」
昨日。
あれだけ。
耐えた。
それでも。
アン。
完成とは。
言わない。
「だから」
「結界がある状態」
「結界が破られた状態」
「結界を展開できない状態」
「全てを想定します」
ガレス。
口元。
上がる。
「また訓練か」
「はい」
「今度は何をやらせる?」
アン。
机。
地図。
広げる。
「防衛戦です」
「防衛戦?」
僕。
見る。
街。
描かれてる。
「実際の都市を想定します」
アン。
指。
動かす。
「民間人」
「負傷者」
「避難経路」
「結界維持部隊」
「前線部隊」
「後方支援」
「治癒部隊」
「そして」
僕たち。
見る。
「《黒翼》」
「僕たちも?」
「もちろんです」
カイル。
笑う。
「面白そうじゃねえか」
エリシア。
「訓練です」
「分かってるって」
「昨日の二人と同じことを言っています」
「……」
カイル。
黙る。
僕。
笑う。
「カイル」
「うるせえ」
アン。
地図。
指す。
「次の訓練では」
「敵役を作ります」
「敵役?」
「はい」
「天使を想定した部隊です」
会議室。
少し。
ざわつく。
「空からの攻撃」
「高速移動」
「遠距離攻撃」
「複数方向からの同時侵入」
「結界そのものへの攻撃」
「内部への侵入」
「指揮系統への攻撃」
一つ。
一つ。
アン。
言う。
「考えられることは、全て試します」
「……」
僕。
地図。
見る。
「本番みたい」
「そのつもりです」
アン。
即答。
「訓練だから失敗していい」
一拍。
「ですが」
「失敗した理由を残したまま、本番を迎えることは許しません」
静か。
でも。
強い。
「天使が二か月姿を見せていない今だからこそ」
アン。
全員。
見る。
「やれることをやります」
誰も。
反対しない。
ガレス。
「了解」
レオンハルト。
「聖騎士団も参加します」
ヴァルガルド。
「防衛線はこちらで組もう」
アルカディア。
「敵役の魔法部隊はこちらからも出します」
教皇。
頷く。
「治癒部隊及び避難訓練については、セレフィアが担当しましょう」
動く。
また。
世界。
動く。
天使。
いない。
何も。
起きない。
だから。
準備する。
「それと」
アン。
僕を見る。
「ソル」
「何?」
「あなたたち三人には、別にやってもらうことがあります」
「三人?」
僕。
カイル。
エリシア。
「《夜空の恒星》として?」
「いいえ」
アン。
一拍。
「《黒翼》としてです」
僕。
ベラを見る。
「じゃあ四人じゃないの?」
「ベラ様には別の役割があります」
「妾?」
ベラ。
首。
傾げる。
アン。
静かに。
笑う。
嫌な予感。
ベラ。
眉。
寄せる。
「何じゃ」
「敵役です」
「……」
僕。
固まる。
カイル。
固まる。
エリシア。
固まる。
ガレス。
笑う。
「なるほど」
ベラ。
アンを見る。
「妾が?」
「はい」
「天使役?」
「正確には」
アン。
地図。
指す。
「防衛線を突破し」
「結界へ到達する」
一拍。
「大天使級個体を想定した敵役です」
「ほう」
ベラ。
笑う。
ものすごく。
楽しそう。
僕。
手。
上げる。
「アン」
「何ですか?」
「それ」
「はい」
「止めるの誰?」
アン。
僕。
見る。
「あなたたちです」
「……」
僕。
カイルを見る。
カイル。
笑ってる。
「いいじゃねえか」
「よくないよ!」
エリシア。
少し。
考える。
「ですが」
「エリシア?」
「実戦を想定するのであれば」
僕。
嫌な予感。
「非常に有効だと思います」
「エリシアまで!?」
ベラ。
腕。
組む。
「妾一人を」
僕。
カイル。
エリシア。
見る。
「三人で止めるのか?」
アン。
「違います」
「?」
一拍。
「《黒翼》の任務は」
「通常部隊では対応できない相手への対処」
「ですが」
ベラを見る。
「今回は、通常部隊との連携も確認します」
つまり。
僕たちだけじゃない。
前線。
世界連合軍。
その中。
僕たち。
動く。
ベラ。
止める。
「そして」
アン。
僕を見る。
「ソル」
「うん」
「今回」
一拍。
「《星域》の使用を許可します」
「……」
僕。
目。
開く。
《星域》。
戦場。
広げる。
仲間。
星。
渡す。
そして。
《星律》。
その星。
僕が。
動かす。
でも。
以前。
僕は。
やりすぎた。
全部。
見ようとした。
全部。
動かそうとした。
結果。
倒れた。
アン。
多分。
それも。
分かってる。
「ただし」
やっぱり。
「条件があります」
「何?」
「全員を見ようとしないこと」
「……」
「全員を動かそうとしないこと」
僕。
黙る。
「あなたは」
アン。
静か。
「もう分かっているはずです」
必要なもの。
見る。
選ぶ。
切る。
また。
見る。
全部。
抱えない。
「はい」
エリシア。
横。
僕を見る。
「私も見ています」
「……」
「無理をしたら止めます」
「はい」
カイル。
「俺も」
「カイルは一緒に無理する側でしょ」
「何でだよ」
「前に出すぎるから」
「お前に言われたくねえ」
「僕は最近ちゃんとしてる」
エリシア。
「二人ともです」
「……」
「……」
はい。
アン。
少し。
笑う。
「訓練日は三日後」
「それまでに各部隊を編成します」
会議。
終わり。
立つ。
僕。
地図。
もう一度。
見る。
二か月。
天使。
消えた。
何も。
起きない。
静か。
でも。
僕たちは。
止まらない。
結界。
作った。
軍。
混ぜた。
連携。
磨いた。
次。
実戦を想定した。
大規模防衛訓練。
そして。
敵役。
ベラトリクス。
「……」
僕。
ベラを見る。
「何じゃ」
「手加減してね」
「当然じゃ」
「本当に?」
「妾を信用せぬか」
「昨日見たから」
「昨日も加減しておった」
「あれで!?」
ベラ。
笑う。
「安心せい」
僕の肩。
叩く。
「殺しはせぬ」
「安心できる言い方してよ!」
カイル。
笑う。
エリシア。
ため息。
アン。
額。
押さえる。
そして。
三日後。
世界連合軍が初めて行う。
実戦形式。
大規模防衛訓練。
その相手は。
五百年前。
世界が。
魔王と呼んだ存在。
ベラトリクス。
だった。




