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133/153

静かな2ヶ月

第133話 静かな二か月

あれから。

二か月が経った。

天使の目撃情報。

ゼロ。

各国から上がってくる報告にも。

偵察部隊からの報告にも。

天使の姿はなかった。

そして。

もう一つ。

地中から魔力が失われる異常現象。

それも。

あの日を最後に確認されていない。

追跡。

偵察。

観測。

世界連合軍は範囲を広げ続けた。

それでも。

何も見つからない。

まるで。

天使という存在そのものが。

世界から消えたみたいに。

でも。

誰も。

終わったとは思っていなかった。

特に。

アンは。

「見つからないからといって、いなくなったとは限りません」

世界連合軍。

定例会議。

アンの声が響く。

「二か月です」

「私たちにとっては長く感じるでしょう」

一拍。

「ですが、敵が何かを準備しているのなら」

「短いかもしれません」

誰も反論しない。

天使は。

僕たちの戦い方を見ていた。

武器。

魔法。

防御。

連携。

そして。

自分たちから撤退したこともある。

考えている。

少なくとも。

僕はそう思っている。

だから。

この二か月。

アンは。

一日も止まらなかった。

世界連合軍の部隊を。

何度も。

何度も。

組み替えた。

アステリア王国軍と魔王軍。

セレフィア聖騎士団とヴァルガルド防衛軍。

カグラ皇国の武人とアルカディア魔法部隊。

国。

種族。

所属。

関係なく。

混ぜた。

最初は。

酷かった。

「右!」

「右とはどっちだ!」

「そっちだ!」

「分かるか!」

「撤退!」

「誰の命令だ!?」

「指揮官が倒れた!」

「次の指揮は!?」

「知らん!」

「おい!」

訓練場。

怒号。

僕。

カイル。

エリシア。

三人で。

それを見る。

「……大丈夫かな」

「大丈夫じゃねえだろ」

「今は、ですね」

エリシア。

冷静。

その通りだった。

今は。

でも。

アンは。

それを全部。

潰していった。

指揮官が倒れた場合。

誰が指揮を引き継ぐのか。

通信魔法が使えなくなった場合。

何を合図にするのか。

撤退。

進軍。

防御。

負傷者の回収。

治癒役が動けなくなった時。

前衛が崩れた時。

飛行する敵が現れた時。

複数方向から攻撃された時。

そして。

《黒翼》が途中から戦場へ入った時。

何を優先するのか。

全部。

決めた。

何度も。

試した。

失敗した。

また組み替えた。

そして。

二か月。

今では。

違う国の兵士同士が。

同じ合図で動く。

「撤退!」

指揮官の声。

前衛。

下がる。

後衛。

魔法。

展開。

聖騎士が負傷者を守る。

魔族が前へ出る。

ヴァルガルド防衛軍が盾を並べる。

アルカディア魔法部隊が援護。

カグラの兵が最後尾を守る。

速い。

「……すごい」

僕が呟く。

カイル。

腕を組む。

「最初と全然違うな」

「はい」

エリシアも頷く。

「もう、所属を確認してから動く者はほとんどいません」

目の前にいる。

守る。

それだけで。

動く。

世界連合軍。

名前だけだったものが。

少しずつ。

本当の軍になっていた。

僕たちも。

同じ。

《夜空の恒星》。

僕。

カイル。

エリシア。

依頼を受け。

訓練して。

一緒に暮らして。

また依頼へ行く。

そして。

世界連合軍から呼ばれれば。

《黒翼》として動く。

二か月前とは。

明らかに違う。

カイルが動けば。

僕は次を考える。

エリシアが動けば。

どこへ星を移せばいいか。

少しずつ。

分かるようになった。

《星律》。

まだ。

完璧じゃない。

でも。

前みたいに。

一つ一つ。

考えることは減った。

右足。

次。

右腕。

防御。

解除。

切り替え。

僕が星を動かす。

エリシアが。

それに合わせる。

カイルなんて。

最近。

僕が星を動かす前に。

「次、右脚だろ」

とか言う。

腹立つ。

でも。

合ってる。

そんな。

二か月だった。

天使は。

現れない。

それでも。

世界は。

止まらなかった。

そして。

その日。

一つの報告が届いた。

………………………………………………

セレフィア神聖国。

大聖堂。

会議室。

僕。

カイル。

エリシア。

アン。

ガレス。

レオンハルト。

教皇。

アルヴィス。

それ以外にも。

ヴァルガルド。

アルカディア。

各国の関係者。

机の中央。

巨大な設計図。

「これは?」

僕。

覗き込む。

円。

何重にも。

魔法陣。

よく分からない文字。

「ソル」

カイル。

「何?」

「分かるか?」

「全然」

「安心した」

「何で?」

アルカディアの研究者が説明を始める。

「二か月前より、ヴァルガルド及び魔族領の協力を得て研究を進めていたものです」

「ヴァルガルド?」

「はい」

要塞国家。

守護騎士アルデバランの国。

守ることに関して。

世界でも。

最も長い歴史を持つ国の一つ。

「ヴァルガルドが保有する防衛術式」

研究者。

設計図の一部を指す。

「アルカディアが保有する広域魔法制御技術」

次。

「そして」

別の場所。

「魔族領の国境を覆う巨大結界」

アンを見る。

「これらを組み合わせました」

「……」

僕。

もう一度。

設計図を見る。

「何を作ったの?」

研究者。

少しだけ。

笑った。

「防御結界です」

「結界?」

「ただし」

一拍。

「これまでのものとは、規模が違います」

別の資料。

広げる。

そこには。

国。

街。

山。

川。

その上。

巨大な半球。

全部を。

覆っている。

「……え?」

カイル。

身を乗り出す。

「これ」

「はい」

研究者。

頷く。

「完成すれば、都市単位ではありません」

一拍。

「国土の主要部そのものを結界内部へ収めることが可能です」

静かになる。

僕。

もう一度。

見る。

街。

村。

人。

全部。

覆う。

「国を」

エリシア。

「守る結界……」

「その通りです」

天使が。

空から来ても。

街まで。

届かせない。

戦えない人たち。

子ども。

老人。

全部。

その内側へ。

「すごい……」

思わず。

声が出た。

でも。

ガレス。

腕を組んだまま。

「問題は」

研究者を見る。

「本当に守れるか、だろ」

「はい」

研究者。

頷く。

「既に第一段階の耐久試験は終了しています」

「第一段階?」

僕。

レオンハルトを見る。

何故か。

少し疲れた顔。

ガレスも。

「何したの?」

カイル。

ガレスを見る。

ガレス。

答える。

「攻撃した」

「誰が?」

「俺と」

親指。

レオンハルト。

「こいつ」

「……二人で?」

「ああ」

レオンハルトが続ける。

「我々だけではない」

「世界連合軍の主力部隊を投入した」

「魔王軍」

「聖騎士団」

「ヴァルガルド防衛軍」

「アルカディア魔法部隊」

「その他、試験参加が可能な部隊を集め」

一拍。

「総攻撃を行った」

「……」

僕。

設計図を見る。

「それで?」

ガレス。

少し。

嫌そう。

「壊れなかった」

「え」

「突破できなかった」

カイル。

「マジか」

「ああ」

ガレスとレオンハルト。

世界連合軍。

総隊長。

副隊長。

その二人を中心にした。

主力部隊の総攻撃。

それでも。

壊れない。

「じゃあ」

僕。

「完成じゃないの?」

「いいえ」

声。

アン。

「まだです」

アンが。

設計図を見る。

「通常部隊」

「そして、現在の世界連合軍主力による攻撃への耐久性は確認できました」

「ですが」

僕。

アンを見る。

「天使が、その範囲に収まる保証はありません」

「……」

「私たちが想定している敵は」

一拍。

「大天使です」

ゼファリエル。

あれ。

僕の背中に。

嫌な感覚。

「大天使級の攻撃を受けた時」

アン。

「この結界が民間人を守れるのか」

誰も。

答えない。

まだ。

試してないから。

「だから」

アン。

静かに言った。

「次は、私が試します」

「……」

僕。

「アンが?」

「はい」

ガレス。

眉を動かす。

「本気か?」

「もちろんです」

「俺とレオンハルトを含めた総攻撃でも壊れなかったんだぞ」

「だからです」

アン。

ガレスを見る。

「あなたたちの攻撃に耐えたことは、大きな成果です」

「ですが」

一拍。

「そこで試験を終わらせる理由にはなりません」

静か。

でも。

誰も。

何も言えない。

「敵が私たちより弱いことを前提にした防御など」

アン。

設計図を見る。

「防御とは呼べません」

ガレス。

少しだけ。

笑う。

「……分かった」

レオンハルトも頷く。

「異論ありません」

研究者。

顔。

少し引きつってる。

「アンタレス様」

「何ですか?」

「念のため確認いたします」

「はい」

「最初から最大出力では」

「行いません」

研究者。

ものすごく。

安心した顔。

「段階的に上げます」

「ありがとうございます」

何で。

お礼?

………………………………………………

数日後。

試験場。

広い。

周囲に。

街はない。

山。

平原。

その中央。

巨大な柱。

何本も。

魔法陣。

地面。

空中。

重なる。

アルカディアの研究者。

ヴァルガルドの技術者。

魔族。

聖職者。

大勢。

準備している。

そして。

発動。

音。

低い。

地面が。

僅かに震える。

次の瞬間。

光。

一本。

二本。

何十本。

空へ。

上がる。

それが。

繋がる。

広がる。

空。

覆う。

僕。

見上げる。

「……でか」

巨大な。

半球。

試験場。

全部。

包み込んでいる。

本来なら。

これが。

もっと。

もっと。

広がる。

国を。

覆うほどに。

「内部魔力循環、正常!」

「各術式接続!」

「異常なし!」

「結界強度、安定!」

声。

次々。

アン。

結界の外。

一人。

立っている。

僕たちは。

中。

「何か変な感じ」

僕。

結界へ触れる。

エリシア。

「触らないでください」

「まだ何もしてない」

「触ろうとしていました」

「はい」

カイル。

「なあ」

「何?」

「あれ」

アンを見る。

「本当に大丈夫なのか?」

「どっちが?」

「結界」

「……」

確かに。

アン。

現在の魔王。

本来の力。

僕は。

知ってる。

あの人が。

どれだけ。

おかしいか。

魔道通信。

アンの声。

『準備は?』

研究者。

『完了しています』

『分かりました』

アン。

右手。

上げる。

空気。

変わる。

「……」

僕。

自然に。

《心眼》。

開きかける。

でも。

止める。

必要なところだけ。

見る。

アン。

右手。

魔力。

集まる。

赤。

濃い。

「第一段階!」

研究者。

「来ます!」

アン。

手を前へ。

魔力。

放たれる。

轟音。

ドンッ――!!

結界。

揺れる。

空。

全部。

波打つ。

「うわっ」

カイル。

足。

踏ん張る。

でも。

中。

衝撃。

ほとんどない。

「結界強度!」

「正常!」

「損傷なし!」

研究者。

声。

上がる。

アン。

外から。

結界を見る。

『では、上げます』

「早くない?」

僕。

『聞こえていますよ、ソル』

「ごめん」

次。

魔力。

さっきより。

明らかに。

大きい。

ドンッ!!

結界。

揺れる。

でも。

耐える。

「損傷なし!」

「内部への衝撃、許容範囲!」

次。

さらに。

上。

アンの周囲。

赤い魔力。

広がる。

地面。

軋む。

僕。

息を呑む。

「……」

これ。

まだ。

アンにとっては。

途中。

「第三段階!」

研究者。

緊張。

アン。

魔力。

放つ。

ズドォォォォンッ!!

空。

震える。

結界。

大きく。

歪む。

内部。

風。

吹く。

でも。

「耐えてる」

僕。

見上げる。

亀裂。

ない。

「結界維持!」

「全術式正常!」

「魔力循環、問題なし!」

歓声。

少し。

上がる。

ヴァルガルドの技術者。

拳。

握る。

アルカディアの研究者。

資料へ。

書き込む。

アン。

攻撃。

止める。

『……素晴らしいですね』

本当に。

感心してる。

その時。

「ほう」

声。

「……」

僕。

止まる。

この声。

知ってる。

ものすごく。

嫌な予感。

カイルも。

「おい」

エリシア。

振り返る。

ガレス。

眉間。

押さえる。

アン。

結界の外。

目。

閉じた。

「……」

もう。

誰か。

分かってる。

「随分と」

声。

近づく。

「面白そうなことをしておるではないか」

黒。

長い髪。

赤い瞳。

歩いてくる。

ベラ。

「ベラ」

僕。

「何でここに?」

「大きな魔力を感じたのでな」

ベラ。

結界。

見上げる。

「なるほど」

口元。

上がる。

「これが噂の大結界か」

アン。

ゆっくり。

ベラを見る。

『……面倒な人が来ましたね』

「聞こえておるぞ」

『聞こえるように言いました』

「ほう?」

「……」

カイル。

僕を見る。

「始まったな」

「始まったね」

エリシア。

「まだ何も始まっていません」

「いや」

僕。

「多分始まる」

ベラ。

結界へ。

近づく。

「先ほどの攻撃」

アンを見る。

「お主か?」

『そうです』

「何割じゃ?」

『何故教える必要があるんですか?』

「なるほど」

ベラ。

頷く。

「まだ随分と余裕があるようじゃな」

『話を聞いていましたか?』

「聞いておる」

ベラ。

結界を見る。

指。

少し。

伸ばす。

アン。

即座。

『触らないでください』

「何故じゃ」

『壊すでしょう』

「防御結界なのであろう?」

『そうです』

「ならば壊れぬか試すべきではないか」

『加減というものを知らない人には頼んでいません』

「お主にだけは言われとうない」

「……」

静か。

僕。

カイル。

目。

合わせる。

「ソル」

「何?」

「どっちにつく?」

「絶対どっちにもつかない」

「だよな」

ガレス。

腕。

組む。

「ベラトリクス様」

「何じゃ」

「今日はアンタレス様による耐久試験です」

「知っておる」

「でしたら」

「邪魔はせぬ」

「本当ですか?」

「何じゃその目は」

レオンハルト。

小さく。

息を吐く。

教皇。

魔道通信越し。

何も言わない。

でも。

ちょっと。

困ってる。

ベラ。

アンを見る。

そして。

笑う。

「アンタレス」

『何ですか?』

「一人で結界を殴るだけでは」

一拍。

「つまらぬであろう?」

『試験に面白さは求めていません』

「そうか?」

『そうです』

「では」

ベラ。

赤い瞳。

細める。

「妾が相手をしてやろう」

『結構です』

即答。

「……」

僕。

吹き出しそうになる。

カイル。

下。

向いてる。

絶対。

笑ってる。

「何故じゃ」

『何故も何もありません』

「お主の攻撃」

ベラ。

結界。

見る。

「妾の攻撃」

一拍。

「その二つがぶつかった余波」

『……』

アン。

黙る。

ベラ。

続ける。

「天使との戦いが始まれば」

「結界のすぐ外で」

「大天使級と戦うこともあるのではないか?」

空気。

少し。

変わる。

研究者たち。

顔。

見合わせる。

アルカディアの研究者。

設計図。

見る。

ヴァルガルド側。

結界。

見る。

「……確かに」

誰か。

言った。

アン。

ゆっくり。

研究者を見る。

『どうですか?』

「……」

研究者。

明らかに。

言いたくなさそう。

「試験としては」

一拍。

「非常に有用かと」

アン。

目。

閉じる。

『……』

ベラ。

笑う。

「決まりじゃな」

『まだ何も言っていません』

「顔に書いてある」

『ベラ様』

「何じゃ」

『一つだけ』

「うむ」

『これは模擬戦です』

「分かっておる」

『結界を壊すことが目的ではありません』

「分かっておる」

『周囲の地形を変えることも禁止です』

「……」

『何故黙ったんですか?』

「分かっておる」

『今、間がありましたよね?』

「気のせいじゃ」

アン。

額。

押さえる。

『本当に』

一拍。

『面倒な人ですね』

ベラ。

楽しそう。

「今さら気づいたか?」

僕。

思わず。

「アン」

『何ですか?』

「頑張って」

『ソル』

「はい」

『後で覚えておいてください』

「何で!?」

カイル。

とうとう。

笑った。

そして。

ベラ。

歩き出す。

結界の外。

アンの向かい。

距離。

取る。

アン。

ベラ。

現魔王。

先代魔王。

二人。

向かい合う。

さっきまで。

少し。

笑っていたのに。

空気が。

変わる。

一瞬。

だった。

僕の身体。

勝手に。

反応する。

「……」

カイルも。

槍。

握ってる。

エリシア。

《聖壁》。

いつでも出せるようにしてる。

必要ない。

結界。

ある。

分かってる。

それでも。

身体が。

そうする。

ガレス。

真剣。

レオンハルトも。

二人から。

目を離さない。

ベラ。

笑う。

「久しいの」

アン。

静か。

『何がですか?』

「こうして」

一拍。

「お主と向かい合うのは」

アン。

少しだけ。

目を細める。

『そうですね』

「怖いか?」

『いいえ』

即答。

『ただ』

アン。

僅かに。

笑う。

『後始末のことを考えています』

「まだ始まってもおらぬぞ?」

『あなたが相手なので』

「言うようになったの」

『誰の影響でしょうね』

ベラ。

口元。

上がる。

赤い魔力。

ゆっくり。

身体から。

溢れる。

アンも。

赤い魔力。

静かに。

広がる。

同じ。

赤。

なのに。

違う。

ベラトリクス。

五百年前の魔王。

アンタレス。

現在の魔王。

世界連合軍最高指揮者。

僕。

息。

止めていた。

「……すご」

カイル。

小さく。

「なあ、ソル」

「何?」

「どっちが強い?」

「知らない」

「お前、両方と戦ったことあるだろ」

「だから分からないんだって」

エリシア。

二人を見る。

「……本当に」

一拍。

「模擬戦ですよね?」

僕。

答えられない。

その時。

ベラ。

構えた。

アン。

右手。

上げる。

二人の魔王。

視線。

ぶつかる。

大結界。

その最終耐久試験。

だったはずのものは。

いつの間にか。

現魔王。

アンタレス。

先代魔王。

ベラトリクス。

二人の魔王による。

模擬戦へ。

変わろうとしていた。


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