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帰る場所

第132話 帰る場所

《黒翼》の話が終わった、その日の夜。

「乾杯!」

カイルの声。

木の杯が三つ。

軽くぶつかる。

僕。

カイル。

エリシア。

《夜空の恒星》。

三人で。

セレフィアの街にある店。

「結成祝い!」

カイル。

「それと《黒翼》発足祝い!」

「二つまとめるんだ」

「今日なんだからいいだろ」

「まあ、そうだけど」

僕は料理に手を伸ばす。

目の前。

肉。

パン。

スープ。

野菜。

結構ある。

「頼みすぎじゃない?」

「祝いだぞ?」

「だからって」

「残すなよ」

「頼んだ本人が言う?」

エリシア。

静かにスープを飲んでいる。

「……」

「エリシア?」

「はい」

「楽しい?」

一拍。

「何故聞くんですか?」

「いや」

なんとなく。

いつも通りに見えるから。

「こういうの嫌だった?」

「いいえ」

エリシア。

少しだけ。

口元が緩む。

「悪くありません」

「あ」

「何ですか?」

「笑った」

「笑っていません」

「笑ったよね?」

カイルを見る。

「ああ」

「カイルさん」

「はい」

エリシアの目。

カイル。

すぐ料理へ戻る。

「これ美味いな」

「逃げた」

「お前も食え」

「はいはい」

そんな感じで。

時間が過ぎる。

依頼の話。

戦い方の話。

《星律》の話。

カイルが最強三人衆を諦めていなかった話。

「諦めろって」

「別名ならいいだろ」

「よくありません」

「即答!?」

気づけば。

外はすっかり暗くなっていた。

店を出る。

夜。

セレフィアの街。

大聖堂の明かりが遠くに見える。

「じゃ」

カイル。

「解散するか」

「だね」

僕も頷く。

そして。

止まる。

「……」

「どうした?」

「カイル」

「ん?」

「今日どこ泊まるの?」

「宿」

「まだ宿なんだ」

「悪いか?」

「いや」

そういえば。

ずっとそうだった。

旅をして。

依頼を受けて。

世界連合軍の任務に出て。

必要なら宿を取る。

僕も似たようなもの。

父さんと母さんがセレフィアへ移住してから。

家はある。

でも。

ほとんど帰ってない。

「エリシアは?」

「聖騎士団の宿舎ですが」

「あ」

エリシア。

少し止まる。

「……今日付で所属が変わりましたね」

「住めないの?」

「すぐに出ろとは言われないでしょう」

「でも、ずっとは無理か」

「そうですね」

三人。

止まる。

「……」

「……」

「……」

カイル。

僕を見る。

「何だよ」

「いや」

「その顔やめろ」

「まだ何も言ってない」

「絶対何か考えてるだろ」

「うん」

「ほら」

僕。

少し考える。

父さん。

母さん。

セレフィアの家。

大聖堂に近い居住区。

二階建て。

庭付き。

初めて見た時。

父さんが言っていた。

広くないか?

僕も。

そう思った。

実際。

広い。

かなり。

父さんと母さん。

二人で暮らすには。

「……家」

「は?」

「僕の家」

カイル。

首を傾げる。

「セレフィアにあるだろ」

「ある」

「それが?」

「広い」

「知るか」

「すごく広い」

「だから?」

「部屋余ってる」

「……」

カイル。

嫌そうな顔。

「お前」

「何?」

「まさか」

「三人とも住めるんじゃない?」

「やっぱりか」

エリシア。

僕を見る。

「ソルさん」

「何?」

「ご両親のお宅ですよね?」

「うん」

「勝手に決めてはいけないのでは?」

「だから聞きに行こう」

「今から?」

「そんな遠くないし」

カイル。

頭を掻く。

「いやいや」

「何?」

「俺まで行く必要あるか?」

「住むんだから」

「決定してねえよ!」

「じゃあ宿に戻る?」

「……」

「毎日宿代」

「……」

「ご飯も自分で」

「……」

「洗濯も」

「分かったよ!」

早い。

「エリシアは?」

「私は」

少し考える。

「まず、ご両親の許可をいただくべきかと」

「じゃあ行こう」

「……話を聞いていましたか?」

「聞いてた」

三人で。

僕の家へ向かう。

なんか。

今日ずっと三人でいる。

朝から。

ギルド。

聖騎士団。

大聖堂。

打ち上げ。

そして。

家。

少しだけ。

変な感じ。

でも。

嫌じゃない。

………………………………………………

大聖堂に近い居住区。

夜でも。

聖騎士が巡回している。

そして。

見えてきた。

大きな家。

二階建て。

庭。

高い塀。

門の前には聖騎士。

「……」

カイル。

止まる。

「何?」

「お前」

「うん」

「これ?」

「うん」

「家?」

「うん」

「でかくない?」

「だから言ったじゃん」

エリシアも。

家を見上げている。

「ここに、ご両親がお二人で?」

「うん」

「……確かに」

「でしょ?」

門を通る。

聖騎士。

僕を見て。

すぐ通してくれる。

カイル。

エリシアも一緒。

玄関。

僕。

扉を叩く。

少しして。

足音。

扉が開く。

「はい?」

母さん。

そして。

僕を見る。

「ソル?」

「うん」

一拍。

「こんな時間にどうしたの?」

「ちょっと相談」

「相談?」

母さん。

僕の後ろを見る。

カイル。

「こんばんは」

「カイル君!」

「お久しぶりです」

「まあ、久しぶり!」

そして。

もう一人。

エリシア。

母さん。

止まる。

「……」

エリシア。

頭を下げる。

「初めまして」

「エリシアと申します」

「ソルさんとカイルさんには、いつもお世話になっています」

「……」

母さん。

僕を見る。

「ソル」

「何?」

「女の子」

「見れば分かるよ」

「綺麗な子」

「うん」

「連れてきた」

「その言い方やめて」

奥。

父さんの声。

「誰だ?」

「ソルよ!」

「ソル?」

父さんも出てくる。

そして。

僕たち三人を見る。

「……増えてるな」

「何が?」

「仲間」

「ああ」

確かに。

前に来た時より。

一人。

増えた。

「とりあえず入って」

母さん。

「外で話すことじゃないでしょ」

「うん」

「お邪魔します」

エリシア。

「邪魔します」

カイル。

「ただいま」

僕。

家へ入る。

………………………………………………

居間。

僕。

カイル。

エリシア。

父さん。

母さん。

五人。

テーブルを囲む。

「それで?」

父さん。

「相談って何だ?」

「えっと」

僕。

家の中を見る。

やっぱり。

広い。

居間だけでも。

前の家よりずっと広い。

「この家」

「うん」

「広いよね」

「今さらか?」

「二人だと寂しくない?」

「……」

父さん。

僕を見る。

母さんも。

「まあ」

母さん。

「前の家よりはずっと広いわね」

「使ってない部屋ある?」

「あるけど」

「何部屋?」

「何部屋って……」

母さん。

考える。

「二階はかなり空いてるわよ」

「ほら」

カイル。

嫌な予感。

顔に出てる。

父さん。

「ソル」

「何?」

「何を言おうとしてる?」

「僕たち住んでいい?」

「……」

「……」

静か。

カイル。

顔を覆う。

「お前もうちょっと言い方あるだろ……」

「分かりやすい方がいいかなって」

「限度がある」

父さん。

「僕たち?」

「うん」

僕。

自分。

カイル。

エリシア。

順番に指す。

「三人」

「俺も入ってるんですよ」

カイル。

「一応」

「一応って何?」

母さん。

エリシアを見る。

「エリシアちゃんも?」

「いえ」

エリシア。

すぐ姿勢を正す。

「私は、ソルさんが突然言い出したことで」

「住みたくない?」

「そういう意味ではありません」

「じゃあいいじゃん」

「ソルさん」

「はい」

母さん。

僕たちを見る。

そして。

笑う。

「いいんじゃない?」

「母さん!?」

僕より。

カイルが驚いた。

「だって」

母さん。

周りを見る。

「本当に広いのよ、この家」

「二人だと静かすぎるし」

「部屋も余ってるし」

「それに」

僕を見る。

「ソルも帰ってくるんでしょう?」

「うん」

「なら、いいじゃない」

父さん。

腕を組む。

「まあ」

「俺も反対はない」

「本当?」

「ああ」

カイルを見る。

「カイルなら一度泊まってるしな」

「ありがとうございます」

「それに」

父さん。

エリシアを見る。

「ソルとカイルの仲間なんだろ?」

「はい」

「なら歓迎する」

エリシア。

少しだけ。

目を見開く。

「……よろしいのですか?」

「もちろん」

母さん。

「むしろ嬉しいわ」

立ち上がる。

エリシアの近くへ。

「男の子ばっかりだったもの」

「男の子ばっかり?」

僕。

「ソルとカイル君」

「二人だけじゃん」

「二人でも十分よ」

「どういう意味?」

母さん。

エリシアを見る。

嬉しそう。

「こんな綺麗な女の子が一緒に住んでくれるなんて」

「……」

「なんだか」

一拍。

「娘ができたみたい」

「……」

エリシア。

止まった。

ほんの少し。

表情が。

消える。

「エリシア?」

僕。

声をかける。

「……いえ」

いつもの顔。

でも。

少しだけ。

違う。

「どうしたの?」

「何でもありません」

母さん。

気づいていない。

「部屋、見に行きましょう」

「え?」

「好きな部屋選んでいいわよ」

「いえ、私はどこでも」

「駄目よ」

母さん。

即答。

「女の子なんだから、ちゃんと選ばないと」

「……」

エリシア。

また。

少し止まる。

「ほら」

母さん。

自然に。

エリシアの手を取る。

「二階よ」

「え」

「母さん」

「何?」

「もう決定?」

「決定でしょ?」

「早い」

「あなたが連れてきたんでしょう」

「そうだけど」

そのまま。

母さん。

エリシアを連れていく。

階段。

上がる。

エリシア。

途中。

一度だけ。

僕を見る。

「……」

なんだろう。

困ってる?

いや。

違う。

今まで。

見たことない顔。

でも。

嫌そうじゃない。

むしろ。

少しだけ。

柔らかい。

二人。

二階へ消える。

静かになる。

「……」

僕。

カイル。

父さん。

三人。

「なあ」

カイル。

「何?」

「俺の部屋は?」

父さん。

「空いてるところ使え」

「扱い違いません?」

「男だろ」

「ですよね」

僕。

笑う。

「カイルはどこでもいいじゃん」

「お前も男だろ!」

「僕の部屋あるし」

「ずるくね?」

父さん。

笑ってる。

少しして。

二階。

「ソル!」

母さん。

「何ー?」

「ちょっと来て!」

「何?」

階段を上がる。

カイルもついてくる。

「何で来るの?」

「俺も部屋決める」

二階。

廊下。

扉。

いくつもある。

母さん。

一つの部屋を開けている。

中。

ベッド。

机。

窓。

十分すぎる。

エリシア。

部屋の真ん中。

立っている。

「ここにしたの?」

「はい」

「本当はこっちの方がいいと思うの」

母さん。

向かいの部屋を指す。

「朝、日が入るから」

「私は、この部屋で十分です」

「そう?」

「はい」

「じゃあ決まりね」

母さん。

嬉しそう。

「足りないものがあったら言ってね」

「用意するから」

「いえ」

エリシア。

すぐ。

「そこまでしていただくわけには」

「遠慮しないの」

「ですが」

「一緒に住むんでしょう?」

「……」

「なら家族みたいなものよ」

「……家族」

小さな声。

僕。

聞こえた。

たぶん。

母さんには聞こえてない。

「じゃあ次、カイル君」

「はい」

「あなたは隣でいい?」

「どこでも大丈夫です」

「決まり」

「早いっすね」

「ソルは?」

「僕は?」

「自分の部屋」

「あるの?」

「用意してあるわよ」

「いつの間に?」

「あなたがいつ帰ってきてもいいように」

「……」

そっか。

僕の部屋。

ちゃんと。

あるんだ。

「ありがとう」

母さん。

少し笑う。

「何言ってるの」

一拍。

「家なんだから当たり前でしょ」

「……うん」

家。

その言葉。

エリシアが。

静かに聞いていた。

………………………………………………

その日の夜。

急だったから。

荷物はほとんどない。

カイルの荷物は宿。

エリシアの荷物は聖騎士団宿舎。

明日。

取りに行くことになった。

それでも。

今日から。

ここで寝る。

五人。

食卓。

さっき食べてきたのに。

母さんが。

「少しだけ」

と言って。

軽い料理を出した。

「いや、食ったばっかなんだけど」

僕。

「食べられない?」

「食べる」

「食うんじゃねえか」

カイル。

エリシア。

料理を見る。

「……」

「どうしたの?」

「いえ」

一口。

食べる。

「どう?」

母さん。

「美味しいです」

「本当?」

「はい」

「よかった」

母さん。

嬉しそう。

エリシア。

もう一口。

ゆっくり。

食べる。

いつもより。

少しだけ。

ゆっくり。

父さんとカイルが話している。

母さんが。

明日の朝食は何がいいか聞いている。

僕が適当に答えて。

怒られる。

「何でもいいが一番困るの!」

「じゃあパン」

「それだけ?」

「卵」

「他は?」

「カイル何食べたい?」

「俺に振るな」

「肉」

「朝から?」

「駄目?」

「駄目じゃないけど」

いつもの。

どうでもいい会話。

でも。

エリシアは。

静かに。

それを聞いている。

時々。

少しだけ笑う。

僕。

気づいた。

依頼の時とも。

戦ってる時とも。

違う。

聖騎士だった時とも。

違う。

なんか。

力が抜けてる。

「エリシア」

「はい?」

「眠い?」

「何故ですか?」

「なんかいつもと違う」

「……」

少し。

考える。

そして。

「そうですね」

一拍。

「少し」

「?」

エリシア。

食卓を見る。

父さん。

母さん。

カイル。

僕。

「落ち着きます」

それだけ。

「そっか」

「はい」

それ以上。

聞かなかった。

何となく。

聞かない方がいい気がした。

食事が終わる。

「じゃあ」

母さん。

「お風呂はエリシアちゃんからね」

「私からですか?」

「そうよ」

「ソルたちは後」

「何で?」

「男だから」

「またそれ?」

カイル。

「諦めろ」

「お前は自分の家だからいいよな」

「今日からカイルの家でもあるじゃん」

「……」

カイル。

止まる。

「何?」

「いや」

少しだけ。

笑う。

「そうだな」

今日。

僕たちは。

二つの名前を持った。

冒険者パーティー。

《夜空の恒星》。

世界連合軍。

《黒翼》。

戦う場所ができた。

一緒に進む仲間ができた。

そして。

もう一つ。

任務が終わった時。

依頼が終わった時。

疲れて帰ってきた時。

扉を開ければ。

明かりがある。

食事がある。

誰かがいる。

そんな場所。

僕たち三人に。

帰る場所ができた。


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