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黒翼

第131話 黒翼

冒険者ギルドを出る。

僕、カイル、エリシア。

三人。

いや。

今日から――《夜空の恒星》。

「……」

なんか。

まだ慣れない。

「何ニヤニヤしてんだ?」

カイル。

「してない」

「してる」

「してません」

エリシアまで。

「……そんなに?」

「少し」

「結構」

「どっち?」

「結構です」

「エリシアまでそっち側になった……」

僕が肩を落とす。

カイルが笑う。

「で、これからどうする?」

「報告ですね」

エリシア。

「報告?」

「はい」

一拍。

「聖騎士長へ」

「あ」

そうだった。

エリシアはセレフィア聖騎士団所属。

僕たちとパーティーを組むことは決まった。

でも。

聖騎士としての立場がなくなったわけじゃない。

「じゃあ行こうか」

「はい」

僕たちはそのまま聖騎士団の本部へ向かった。

………………………………………………

「失礼します」

エリシアが扉を叩く。

「入れ」

中から声。

扉を開ける。

執務室。

机の向こう。

聖騎士長。

レオンハルト。

書類から顔を上げる。

「戻ったか」

「はい」

僕とカイルも入る。

「失礼します」

「邪魔するぜ」

「カイル」

「何だよ」

「一応、聖騎士長だよ」

「分かってるって」

レオンハルトが小さく笑う。

「構わない」

そして。

エリシアを見る。

「それで?」

「はい」

エリシア。

一歩前へ。

「先ほど、冒険者ギルドにて正式にパーティー登録を行いました」

「そうか」

「ソルさん、カイルさんと共に活動することを決めました」

レオンハルト。

驚かない。

全然。

「……」

僕。

じっと見る。

「何だ?」

「いや」

「言いたいことがあるなら言え」

「やっぱり最初からこうなると思ってました?」

「何のことだ?」

「絶対分かってた」

「ソルさん」

エリシア。

「聖騎士長にその言い方は」

「だって」

カイルも。

「俺も思ってた」

「カイルさんまで」

レオンハルト。

少しだけ笑う。

「私は選択肢を与えただけだ」

「本当に?」

「ああ」

「怪しい」

「ソル」

「はい」

「エリシアを返してもらってもいいんだぞ」

「ごめんなさい」

即答。

カイルが吹き出す。

エリシア。

ため息。

「話を進めてもよろしいでしょうか」

「はい」

「おう」

エリシアがレオンハルトへ向き直る。

「今後も、二人と行動したいと考えています」

「冒険者としてか?」

「それもあります」

一拍。

「ですが」

エリシア。

少しだけ表情を引き締める。

「世界連合軍における活動もです」

僕。

エリシアを見る。

「現在、ソルさんとカイルさんは最高指揮者直属の特別部隊に所属しています」

「私は聖騎士団所属です」

「このままでは、緊急時に指揮系統が分かれます」

レオンハルトが頷く。

「その通りだ」

「そのため」

エリシア。

まっすぐ。

「所属の変更を希望します」

静かになる。

レオンハルト。

しばらくエリシアを見る。

「聖騎士団を離れることになるぞ」

「はい」

「後悔はないか?」

「ありません」

即答。

でも。

少しだけ。

続ける。

「聖騎士団で学んだことを捨てるつもりもありません」

「ここで得たものも」

「教えていただいたことも」

「全て持っていきます」

レオンハルト。

目を細める。

「……そうか」

少し。

嬉しそうに見えた。

「ならば、私から止めることはない」

エリシア。

小さく頭を下げる。

「ありがとうございます」

「ただし」

「はい」

「私の一存で決定できることではない」

レオンハルト。

立ち上がる。

「世界連合軍最高指揮者へ報告する」

「教皇にもな」

「はい」

レオンハルトが僕たちを見る。

「二人も来い」

「僕たちも?」

「当然だ」

「パーティーを組んだ本人たちがいなくてどうする」

「確かに」

カイル。

「じゃあ行くか」

「お前はもう少し緊張しろ」

「今さらアンタレス相手に緊張しろって言われてもな」

「それは分かる」

「ソルも同じじゃねえか」

エリシアだけが。

少し頭を抱えていた。

………………………………………………

大聖堂。

会議室。

僕たちの前。

教皇。

そして。

アンタレス。

レオンハルトから一通り話を聞いたアンが、僕たちを見る。

「なるほど」

一拍。

「冒険者パーティーを結成したんですね」

「うん」

「はい」

「おう」

「名前は?」

「《夜空の恒星》」

アン。

少しだけ目を細める。

「ソルが考えたんですか?」

「何で分かったの?」

「星が入っていますから」

「……」

カイル。

笑う。

「俺も最初そう思った」

「でも僕だけの意味じゃないからね?」

「分かっています」

アンが僅かに笑う。

「いい名前だと思います」

「でしょ?」

「すぐ調子に乗らないでください」

「はい」

教皇も柔らかく笑う。

「素敵な名前ですね」

「ありがとうございます」

エリシア。

頭を下げる。

アンがエリシアを見る。

「それで」

「はい」

「エリシアは、聖騎士団から私の直属部隊への異動を希望しているんですね?」

「はい」

「理由を聞いても?」

「ソルさんとカイルさんとの連携を、冒険者としての活動だけに限定したくないからです」

エリシア。

まっすぐ答える。

「世界連合軍が動く状況では、通常部隊で対応できない事態が発生する可能性があります」

「その際、私だけ別の指揮系統に所属していれば、三人での行動が難しくなります」

「なるほど」

アン。

少し考える。

「だから、二人と同じ部隊へ」

「はい」

アンがレオンハルトを見る。

「レオンハルト」

「はい」

「聖騎士長として、異論はありますか?」

「ありません」

即答。

「本人の意思を尊重します」

アン。

次に教皇を見る。

教皇も頷く。

「私も異論ありません」

そして。

エリシアを見る。

「聖騎士団を離れたとしても、あなたがセレフィアで学んだものまで失われるわけではありません」

「はい」

「その力を、今度はより広い場所で使ってください」

「ありがとうございます」

エリシア。

深く頭を下げる。

アンも頷く。

「では、決定します」

空気が。

少し変わる。

現魔王。

そして。

世界連合軍最高指揮者。

アンタレス。

「本日付で、エリシアをセレフィア聖騎士団から世界連合軍最高指揮者直属特別部隊へ編入します」

「はい」

エリシア。

真っ直ぐ返事。

僕。

カイルを見る。

カイルも。

僕を見る。

これで。

冒険者としてだけじゃない。

世界連合軍でも。

三人。

同じ場所。

「これで」

アン。

少し考える。

「直属特別部隊は四人になりますね」

「四人?」

僕。

アンが僕を見る。

「ベラを忘れていませんか?」

「あ」

忘れてた。

カイル。

「お前な……」

「いや、ベラって自由に動いてること多いから、なんか部隊って感じしなくて」

「本人には言わない方がいいと思います」

アン。

「うん」

「素直ですね」

ベラトリクス。

僕。

カイル・ヴァルハイト。

そして。

エリシア。

改めて考える。

元魔王。

冒険者。

A級冒険者。

元聖騎士。

本当に。

バラバラ。

「……」

アンが少し考えている。

「どうしたの?」

「いえ」

僕たちを見る。

「人数も増えましたし」

一拍。

「いつまでも『特別部隊』とだけ呼ぶのも、少し味気ないですね」

「名前つけるの?」

「そうですね」

カイル。

「じゃあ最強四人――」

「却下」

僕。

「まだ言い終わってねえだろ!」

「どうせ最強四人衆でしょ?」

「何で分かるんだよ!」

エリシア。

「私も反対です」

「エリシアまで!?」

教皇が口元を押さえる。

アンも。

僅かに笑っていた。

「では」

アン。

僕たちを見る。

少しだけ考えて。

「――《黒翼》」

「……」

僕たち。

止まる。

「黒翼?」

「はい」

アン。

静かに頷く。

「私の直属部隊ですから」

一拍。

「私の色を一つくらい背負ってもらってもいいでしょう?」

「アンの色」

「黒だな」

カイル。

「そういうことです」

でも。

アンは続ける。

「ただ」

僕たちを見る。

「翼は、一枚では飛べません」

「……」

「ベラ」

「ソル」

「カイル」

「エリシア」

一人ずつ。

名前を呼ぶ。

「種族も、国も、立場も違う」

「扱う力も違います」

「ですが」

一拍。

「だからこそ、一つの部隊として補い合える」

僕。

カイル。

エリシア。

そして。

今ここにはいないベラ。

「必要な場所へ向かい」

「必要な者を守る」

「通常の部隊では対応できない相手が現れれば、その前に立つ」

アン。

静かな声。

でも。

はっきりと。

「国や種族の境界に縛られず、必要な場所へ飛んでください」

一拍。

「最高指揮者直属遊撃隊――《黒翼》」

「……」

なんか。

いい。

「僕は好き」

「俺も」

カイル。

エリシアも頷く。

「異論ありません」

教皇。

「よい名前だと思います」

レオンハルトも。

「私も異論ありません」

アン。

小さく頷く。

「では、決まりですね」

特別部隊。

それまで。

それだけだった僕たちの部隊に。

初めて。

名前ができた。

《黒翼》。

アンが机の上の魔道通信へ手を伸ばす。

「今から?」

僕。

「はい」

「もう?」

「正式な部隊名です。決定した以上、各部隊へ通達する必要があります」

「あ、そっか」

「軍ですから」

「そうだった」

アン。

少し呆れたように僕を見る。

魔道通信。

起動。

魔力が広がる。

世界連合軍。

各部隊。

各指揮官。

通信が繋がっていく。

そして。

アンの表情が変わる。

『全員、聞いてください』

静かな声。

それだけで。

空気が変わる。

『世界連合軍最高指揮者として、正式に通達します』

僕も。

自然と背筋が伸びる。

『本日付で、最高指揮者直属特別部隊を再編』

一拍。

『最高指揮者直属遊撃隊――《黒翼》とします』

通信の向こう。

誰も口を挟まない。

『構成員は四名』

アン。

一人ずつ。

名前を告げる。

『ベラトリクス』

『ソル』

『カイル・ヴァルハイト』

そして。

『エリシア』

エリシア。

僅かに。

目を見開く。

自分の名前が。

世界連合軍全体へ。

正式に伝えられた。

『《黒翼》は、これまでの特別部隊と同様』

『通常部隊での対応が困難な脅威への対処』

『追跡』

『調査』

『重要拠点への突入』

『その他、必要と判断した特殊任務を担当します』

一拍。

『必要に応じて、通常の軍事指揮系統から独立して行動します』

アン。

続ける。

『各部隊は《黒翼》から協力要請を受けた場合、可能な範囲でこれを優先してください』

『指揮系統を跨ぐ判断が必要な場合は、私へ直接報告を』

返事。

次々。

返ってくる。

『魔王軍、承知!』

ガレス。

『セレフィア聖騎士団、承知しました』

『アステリア王国軍、了解』

『ヴァルガルド防衛軍、了解』

『アルカディア、承知しました』

各国。

各部隊。

《黒翼》。

その名前が。

世界連合軍へ伝わっていく。

『以上です』

通信。

切れる。

静かになる。

「……」

僕。

カイルを見る。

「なんか」

「おう」

「すごいことになったね」

「今さらだろ」

「そう?」

「お前、自分が今まで何してきたと思ってんだ」

「色々?」

「色々で済ますな」

エリシア。

少しだけ息を吐く。

「私は」

「?」

「今日一日で、所属が大きく変わりすぎて」

一拍。

「まだ整理が追いついていません」

「あ」

確かに。

冒険者として。

《夜空の恒星》。

そして。

世界連合軍では。

《黒翼》。

しかも。

朝までは聖騎士だった。

「忙しいね」

「ソルさん」

「何?」

「他人事のように言わないでください」

「ごめん」

アン。

僕たちを見る。

「ですが」

「?」

「名前が変わっても、役割そのものが大きく変わるわけではありません」

さっきまでより。

少し。

真面目な声。

「これまでと同じように、危険な任務をお願いすることになるでしょう」

「うん」

「通常の部隊では対応できない場所へ向かってもらうこともあります」

カイル。

頷く。

「分かってます」

エリシアも。

「承知しています」

アン。

僕を見る。

「ソル」

「うん」

「無理はしないでください」

「……」

「返事は?」

「はい」

カイル。

笑う。

「最高指揮者からも言われてんじゃねえか」

「カイル」

アン。

「はい?」

「あなたもです」

「……はい」

エリシア。

少しだけ。

満足そう。

「アンタレス様」

「何ですか?」

「ありがとうございます」

「……」

エリシア。

深く。

頭を下げる。

「私を《黒翼》へ加えていただいて」

アン。

少しだけ表情を緩める。

「こちらこそ」

一拍。

「これから二人をお願いします」

「アン!?」

「はい」

エリシア。

即答。

「ちょっと!」

カイル。

「俺まで入ってる?」

「当然でしょう」

「当然なんだ……」

教皇が笑う。

レオンハルトも。

少しだけ笑っている。

その時。

カイル。

立ち上がる。

「よし」

「何?」

「行くか」

「どこに?」

「打ち上げ」

「……」

エリシア。

「何故そうなるのですか?」

「何でって」

カイル。

指を一本立てる。

「《夜空の恒星》結成」

二本。

「エリシア加入」

三本。

「《黒翼》発足」

「理由三つもあるぞ」

「全部今日の出来事です」

「だから今日やるんだろ」

「意味が分かりません」

僕。

少し考える。

「でも」

「ソルさん?」

「行きたい」

「……」

エリシア。

僕を見る。

カイルを見る。

また。

僕を見る。

「……二人とも」

「うん」

「おう」

「明日、任務が入っても知りませんからね」

カイル。

笑う。

「それは参加するってことでいいんだな?」

「……食事だけです」

「よし!」

「酒は?」

「飲みません」

「じゃあソル」

「何で僕に振るの?」

教皇。

とうとう。

声を出して笑った。

レオンハルトも呆れた顔。

アン。

僕たちを見る。

「楽しそうですね」

「アンも来る?」

「私はまだ仕事があります」

「そっか」

「誰の所属変更と部隊再編の書類だと思っているんですか?」

「……」

僕。

エリシアを見る。

エリシア。

僕を見る。

カイル。

少しだけ。

後ろへ。

「カイル」

アン。

「はい」

「何故下がったんですか?」

「いや、何となく」

「三人とも関係者ですよ?」

「……はい」

僕たち。

揃って。

少しだけ頭を下げる。

「お願いします」

アン。

ため息。

でも。

少しだけ笑っていた。

「分かりました」

一拍。

「今日は行ってきてください」

「やった」

「ただし」

「?」

「明日、呼び出しがあった時に動けないような飲み方は禁止です」

「分かってる」

「本当ですか?」

「本当」

「ソルは特に信用できません」

「何で!?」

「限界までやる癖があるでしょう」

「お酒と戦闘は違うよ!」

「どうでしょうね」

カイル。

笑う。

エリシアも。

少しだけ笑った。

僕たちは会議室を出る。

今日。

僕たちは。

冒険者として。

《夜空の恒星》になった。

そして。

世界連合軍では。

最高指揮者直属遊撃隊。

《黒翼》。

二つの名前。

二つの場所。

でも。

そこにいる仲間は。

繋がっている。

そして。

《黒翼》が生まれたその日。

僕たち三人が最初に向かったのは。

戦場でも。

天使のいる場所でもなく。

結成祝いの。

打ち上げだった。


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