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夜空の恒星

第130話 夜空の恒星

森。

夜。

僕たちは。

地面の下から響く音を追っていた。

ズズズズ……。

低い。

重い。

耳で聞くというより。

足元から伝わってくる。

「まただ」

カイルが止まる。

僕も。

足を止める。

エリシア。

地面を見る。

「先ほどより近いですね」

「うん」

村を出て。

しばらく。

森の奥。

人が普段入らない場所まで来ていた。

前。

カイル。

中。

エリシア。

そして。

僕。

昼間決めた通り。

自然と。

その位置。

「ソル」

カイル。

「分かってる」

《心眼》。

広げる。

でも。

全部は見ない。

地面。

その下。

必要な場所だけ。

「……」

魔力。

違う。

もっと。

普通の。

生命。

「何かいる」

「魔物か?」

「待って」

集中。

一つ。

いや。

複数。

「何体かいる」

エリシア。

「敵意は?」

「……ない」

少なくとも。

襲ってくるような気配じゃない。

魔力も。

ほとんど感じない。

「魔物じゃないかも」

「じゃあ何だ?」

「分からない」

ズズッ。

また。

地面の下。

今度は。

すぐ近く。

「こっち」

僕が進む。

「ソルさん」

エリシア。

「大丈夫」

「まだ何も言っていません」

「勝手に行くなって言うかと思って」

「分かっているなら結構です」

「……はい」

カイル。

笑ってる。

「学習してんな」

「うるさい」

少し進む。

木々。

その間。

「……あ」

地面。

大きな穴。

自然にできたものじゃない。

掘られている。

「巣穴か?」

カイル。

しゃがむ。

入口。

土。

爪の跡。

「たぶん」

エリシアも確認する。

「大型の獣ですね」

その時。

ズズ……。

中。

近い。

そして。

低い。

苦しそうな鳴き声。

「……何かいる」

カイル。

槍。

握る。

「行こう」

三人。

地下。

進む。

穴。

思ったより広い。

大型の獣が通れるほど。

カイルが先。

僕。

エリシア。

奥。

ズズッ!!

土。

落ちる。

「うおっ」

カイル。

槍。

構える。

「待って!」

僕が止める。

いる。

奥。

大きな身体。

四本の脚。

太い爪。

全身。

茶色い毛。

地中に巣を作る。

大型の獣。

魔物じゃない。

草食の。

普通の動物。

「……こいつ?」

カイル。

「たぶん」

獣。

苦しそうに。

身体を動かす。

その度。

背中。

土壁。

ぶつかる。

ズズズ……。

「……」

三人。

見る。

また。

獣。

身体を捻る。

ドン。

土。

震える。

「これか?」

カイル。

槍。

下ろす。

「恐らく」

エリシア。

でも。

すぐ。

獣を見る目が変わる。

「……待ってください」

「何?」

ゆっくり。

近づく。

獣。

少し。

警戒。

「エリシア」

「大丈夫です」

呼吸。

荒い。

身体。

何度も。

力む。

エリシア。

観察。

そして。

「……なるほど」

「何?」

僕が聞く。

「産気づいています」

「……」

「え?」

カイル。

「出産です」

「……」

沈黙。

僕。

獣を見る。

「赤ちゃん?」

「はい」

「じゃあ」

カイル。

周囲。

見る。

「村で聞こえてた音って」

「この子が苦しんで暴れて」

僕。

「巣穴の壁に身体をぶつけてた音?」

「恐らく」

「……」

カイル。

頭。

掻く。

「マジかよ」

僕も。

同じ気持ち。

天使。

魔物。

地下に潜む何か。

色々。

考えてた。

でも。

出産。

「エリシア」

「はい」

すでに。

動いている。

右手。

白い光。

「《治癒》」

柔らかな光。

獣。

包む。

「怪我はありません」

「ですが、かなり体力を消耗しています」

「助けられる?」

「治療ではありませんが」

一拍。

「負担を軽減することはできます」

獣。

呼吸。

少し。

落ち着く。

「俺らは?」

カイル。

「何もしないでください」

「え?」

「刺激しないことが一番です」

「……はい」

素直。

僕たち。

少し離れる。

待つ。

時間。

過ぎる。

やがて。

小さな。

鳴き声。

「……」

母親。

その傍。

小さな身体。

一つ。

「生まれた」

「はい」

エリシア。

小さく。

笑う。

子供。

母親へ。

寄る。

母親も。

鼻先。

触れる。

「……」

カイル。

じっと見てる。

「何?」

僕が聞く。

「いや」

「?」

「……ちっせえな」

「赤ちゃんだからね」

「分かってるよ」

エリシア。

母子。

確認。

「問題なさそうです」

「じゃあ」

僕。

「終わり?」

「終わりですね」

「……」

三人。

沈黙。

「早くね?」

カイル。

「早いね」

「魔物でも何でもなかったな」

「何も起きないことが一番です」

エリシア。

「依頼は原因を調査することです」

「討伐ではありません」

「まあ」

カイル。

母子を見る。

「倒す必要もねえしな」

「当たり前です」

「分かってるって!」

僕。

笑う。

でも。

一つ。

「魔物が増えたのは?」

エリシア。

少し考える。

「今回の異音とは別でしょう」

「たまたま時期が重なった?」

「その可能性が高いかと」

「そっか」

全部が。

繋がっているわけじゃない。

異変があれば。

敵。

何かあれば。

戦う。

そうじゃない。

調べて。

知って。

危険がないなら。

それで終わる。

「……こういう依頼もあるんだね」

「冒険者ですから」

カイル。

「毎回世界救ってたら身体もたねえぞ」

「カイルに言われたくない」

「何でだよ」

「前出すぎるから」

「お前も限界超えるだろ!」

「二人とも」

エリシア。

「帰りますよ」

「はい」

「おう」

母子。

残して。

僕たちは。

静かに。

巣穴を出た。

………………………………………………

村。

「では……」

村長。

僕たちを見る。

「魔物ではなかったのですか?」

「うん」

エリシアが説明する。

「地中に巣を作る草食の獣でした」

「出産を迎えており、苦しんで身体を動かす度に巣穴の壁へぶつかっていたようです」

「それが……」

「異音の正体です」

村長。

「……」

しばらく。

黙る。

そして。

大きく。

息を吐く。

「よかった……」

「危険はありません」

「こちらから刺激しなければ問題ないでしょう」

「そうですか……」

村長。

安心した顔。

「ありがとうございます」

頭。

下げる。

「魔物が増えていたこともあり」

「恐ろしい何かが地下にいるのではないかと……」

「僕も思った」

「ソルさん」

「何?」

「私はそこまでは」

「……僕だけ?」

カイル。

「俺も何かいるとは思ったぞ」

「ほら」

「ですが」

エリシア。

少し。

笑う。

「何もなくてよかったです」

「うん」

その夜。

村。

泊めてもらう。

翌朝。

僕たちは。

セレフィアへ戻った。

………………………………………………

冒険者ギルド。

「お帰りなさいませ」

受付嬢。

僕たちを見る。

「依頼の方はいかがでしたか?」

「終わったよ」

「早かったな」

カイル。

「原因は?」

「動物でした」

「……動物?」

エリシア。

説明。

「地中に巣を作る草食獣です」

「出産直前だったようで」

「巣穴の中で身体を動かした際の音が、地上まで響いていました」

「なるほど……」

受付嬢。

記録。

「危険性は?」

「ありません」

「承知しました」

書類。

確認。

「村長様からの報告も届いておりますので」

一拍。

「依頼達成とさせていただきます」

「よし」

カイル。

「終わった」

「早かったね」

「こういうのも悪くねえな」

「うん」

僕も。

そう思う。

戦わない。

誰も傷つかない。

それでも。

依頼は終わる。

こういう冒険も。

ある。

「では」

受付嬢。

「最後に一つ」

「?」

三人。

見る。

受付嬢。

笑顔。

「パーティー名は決まりましたか?」

「……」

僕。

カイル。

エリシア。

沈黙。

「あ」

忘れてた。

「お前」

カイル。

僕を見る。

「完全に忘れてただろ」

「カイルもでしょ!」

「俺は覚えてた」

「嘘」

「何で分かるんだよ!」

受付嬢。

笑ってる。

エリシア。

小さく。

ため息。

「そもそも」

「私はまだ正式に加入すると決めたわけでは――」

「エリシア」

カイル。

「何ですか?」

「今回どうだった?」

「?」

「俺たちと依頼」

「……」

エリシア。

少し。

考える。

「そうですね」

僕も。

見る。

「問題は多いです」

「いきなりそれ!?」

「一人は前へ出たがる」

カイル。

「……」

「一人は無理をする」

僕。

「……」

「ですが」

一拍。

エリシア。

僕たちを見る。

「悪くはありませんでした」

「……」

カイル。

笑う。

「じゃあ」

僕。

「入る?」

「……」

エリシア。

黙る。

昨日。

一度だけでは決められない。

そう言った。

だから。

もう一度。

一緒に依頼を受けた。

話した。

能力を知った。

役割も決めた。

そして。

今日。

エリシア。

小さく。

頷く。

「はい」

「……本当に?」

「何故驚くのですか?」

「いや」

なんとなく。

もう一回くらい。

断られると思ってた。

「よろしく」

僕。

手。

出す。

エリシア。

見る。

そして。

握る。

「よろしくお願いします」

カイル。

「俺も」

手。

重ねる。

「よろしくな」

三人。

初めて。

正式に。

パーティー。

「では」

受付嬢。

嬉しそうに。

書類。

一枚。

出す。

「パーティー登録を行います」

「はい」

「代表者は?」

「ソル」

カイル。

即答。

「え?」

「ソルさんで」

エリシア。

「え?」

「決まりですね」

受付嬢。

「ちょっと待って」

「何だよ」

「何で僕?」

「全体見るのお前だろ」

「それだけ?」

「《星律》で俺ら動かすのもお前」

「動かすって言い方やめてよ」

「事実だろ」

エリシア。

「私もソルさんで問題ありません」

「……」

二対一。

「分かった」

受付嬢。

書く。

代表者。

ソル。

構成員。

カイル。

エリシア。

「最後に」

来た。

「パーティー名をお願いします」

「……」

三人。

固まる。

「最強――」

「却下です」

エリシア。

「まだ言い終わってねえぞ!」

「朝と同じでしょう」

「じゃあ」

僕。

「星――」

「お前も朝と同じじゃねえか!」

「待って!」

「何だよ」

「今ちょっと思いつきそう」

「星から?」

「うん」

「やっぱお前中心じゃねえか」

「違うって!」

僕。

考える。

星。

星は。

「星って」

「?」

「光るでしょ?」

「……」

カイル。

「急に何だ?」

「いいから」

「まあ、光るな」

「星が光る……」

エリシア。

僕を見る。

「それで?」

「いや」

僕。

頭の中。

何か。

引っかかる。

星。

光。

「自分で光ってる星って」

エリシア。

少し考える。

「恒星ですか?」

「それ」

「それ?」

「恒星」

僕。

繰り返す。

恒星。

自ら。

光を放つ星。

「……」

悪くない。

でも。

それだけだと。

何か。

足りない。

「恒星が」

僕。

窓。

見る。

外。

今は。

昼。

でも。

昨日。

森から戻った時。

空。

見た。

暗い夜。

その中。

星。

「綺麗に見えるのって」

「夜?」

カイル。

「うん」

「夜空」

僕。

呟く。

夜空。

恒星。

「……夜空の恒星」

「……」

カイル。

エリシア。

受付嬢。

黙る。

「どう?」

カイル。

眉。

上げる。

「急にそれっぽくなったな」

「でしょ?」

「さっきまで星が光るとか言ってた奴が」

「そこはいいでしょ!」

エリシア。

少し。

考えてる。

「《夜空の恒星》」

「うん」

「意味は?」

「意味?」

「パーティー名にするのであれば」

「何かあるのでしょう?」

「……」

そこまで。

考えてなかった。

「ないのですか?」

「待って」

考える。

恒星。

誰かに。

照らされるんじゃない。

自分で。

光る。

僕。

カイル。

エリシア。

全然。

違う。

戦い方も。

力も。

歩いてきた道も。

違う。

でも。

「誰かの光で輝くんじゃなくて」

僕。

二人を見る。

「自分で光れる人が集まる」

「そんな場所になればいいかなって」

「……」

カイル。

少し。

驚いた顔。

「今考えただろ」

「……うん」

「やっぱりかよ!」

「でもいいでしょ!」

「まあ」

カイル。

笑う。

「嫌いじゃねえ」

僕。

エリシアを見る。

「エリシアは?」

「……」

少し。

考えて。

「いいと思います」

「本当?」

「はい」

「人数にも」

一拍。

「縛られませんから」

「人数?」

カイル。

「今後」

エリシア。

僕たちを見る。

「新しい仲間が増える可能性もあるでしょう」

「あ」

考えてなかった。

「確かに」

「三人の名前にしてたら困ってたね」

「お前、最初三人っぽい名前考えてただろ」

「カイルも最強三人衆って」

「それは忘れろ!」

エリシア。

少し。

笑う。

「誰かが加わっても」

「その方が」

「自分の力で輝けるのであれば」

僕。

続ける。

「その人も恒星」

「はい」

「……」

なんか。

最初に思ったより。

ずっと。

いい名前になった。

「じゃあ」

受付嬢を見る。

「決まり」

「よろしいですか?」

「うん」

カイル。

「おう」

エリシア。

「はい」

受付嬢。

ペン。

持つ。

「では」

一拍。

「パーティー名」

僕。

答える。

「《夜空の恒星》」

文字。

書かれる。

夜空の恒星。

少し。

不思議。

昨日まで。

僕とカイル。

そこへ。

エリシア。

一緒に依頼を受けただけ。

まだ。

仲間じゃなかった。

でも。

今日。

名前ができた。

三人から。

始まる。

でも。

三人だけとは。

限らない。

これから。

誰と出会うのか。

誰が。

一緒に歩くのか。

まだ。

分からない。

ただ。

一つだけ。

「よろしく」

僕が言う。

カイル。

笑う。

「おう」

エリシア。

少しだけ。

笑って。

「はい」

《夜空の恒星》。

僕たちの。

冒険者としての新しい旅が。

ここから。

始まった。


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