黄金の閃光
第123話 黄金の閃光
森の遥か上空。
僕とベラは、木々の海を見下ろしながら飛んでいた。
「反応は?」
「まだ……」
答えながら、《心眼》を広げる。
視界だけじゃない。
森の中に配置した星。
その一つ一つを通して、周囲の気配を拾っていく。
天使。
魔力。
人。
戦闘の痕跡。
情報が次々と頭の中へ流れ込んでくる。
「広すぎるのう」
隣を飛ぶベラが呟いた。
「全部探す」
「無茶をするでないぞ」
「分かってる」
そう答えた、その瞬間だった。
――見つけた。
「……っ!」
一つの星が捉えた。
人の反応。
一人じゃない。
複数。
そして、その周囲を取り囲む白い魔力。
天使。
「ベラ!」
「見つけたか!?」
答えるより先に、さらに意識を集中させる。
《心眼》の先。
木々の間に開けた場所。
地面は抉れ、何本もの木が倒れている。
そこにいた。
仲間たち。
何人も倒れている。
立っている者も、満身創痍だった。
そして。
その周囲を天使たちが取り囲んでいる。
「……まずい」
一体の天使が腕を上げた。
白い光が集まっていく。
その先には、倒れた仲間を庇うように立つ一人の兵士。
逃げないんじゃない。
逃げられない。
後ろには負傷者がいる。
「ソル?」
ベラが僕を見る。
「見つけた。仲間が襲われてる」
「場所は?」
「あっち!」
指を向ける。
ベラもそちらへ顔を向けた。
「距離は?」
「かなりある。でも――」
《心眼》の中で、白い光が膨れ上がる。
間に合わない。
このままの速度じゃ。
「先に行く!」
「待て、ソル!」
身体の周囲に黄金の光が集まった。
進行方向。
空中に浮かぶ星を捉える。
一つ。
その先に、もう一つ。
さらに先。
森の中まで続いている。
道はある。
「《星渡》!」
星を蹴った。
瞬間。
景色が消えた。
「なっ――」
ベラの声が一瞬で遠ざかる。
一つ目。
反射。
二つ目。
反射。
三つ目。
身体が黄金の光となって空を駆け抜ける。
「ソル! 待て!」
背後からベラの声。
それと同時に、凄まじい魔力が迫ってきた。
速い。
当然だ。
ベラが本気で追ってきている。
それでも。
「もっと……!」
次の星。
蹴る。
加速。
さらに次。
加速。
「馬鹿者! 速度を上げすぎじゃ!」
聞こえている。
でも止まれない。
《心眼》が捉えている。
天使の腕。
膨れ上がった白い光。
もう撃たれる。
「間に合え……!」
星を蹴る。
さらに速く。
身体が悲鳴を上げた。
空気が身体を叩く。
視界の端が歪む。
《心眼》でなければ、もう何も捉えられない。
それでも。
次。
次。
次。
空中に浮かぶ星を連続で蹴る。
一瞬。
背後から感じていたベラの魔力が遠ざかった。
「……っ!?」
僕自身が驚いた。
ベラを。
置いていった。
でも、振り返らない。
振り返る余裕なんてない。
「ソル!」
遥か後ろから声が響いた。
「それ以上は身体が保たぬぞ!」
分かってる。
《星渡》は、ただ速く動く技じゃない。
星を反射点にして方向を変える。
速くなればなるほど、一度の判断ミスが致命傷になる。
星を一つ外せば。
木に激突する。
岩にぶつかる。
地面へ叩きつけられる。
それでも。
《心眼》の向こうで。
天使の腕が振り下ろされた。
白い光が放たれる。
「――っ!」
間に合え。
最後の星を捉える。
森の上空。
その星へ向かって突っ込む。
蹴った。
「うおおおおおおっ!」
黄金の閃光が、空から森へ落ちた。
――――。
地上。
「下がれ!」
怒号が響く。
「無理です! 後ろに負傷者が!」
「なら防げ!」
「防げって……あれを!?」
兵士たちの視線の先。
天使が放った光が迫っていた。
逃げ場はない。
後ろには動けない仲間たち。
前に立つ兵士が剣を構える。
手が震えている。
「……くそ」
勝てない。
誰もが分かっていた。
それでも退かなかった。
「構えろ!」
残っている者たちが並ぶ。
剣。
槍。
盾。
それぞれを構える。
「来るぞ!」
白い光が迫る。
一人が目を閉じた。
その瞬間。
空が光った。
「……え?」
黄金。
一筋の黄金が、雲を貫いて落ちてくる。
速い。
何かを認識する暇すらなかった。
次の瞬間。
轟音。
「――っ!?」
地面が爆発した。
土煙が舞い上がる。
兵士たちの身体が衝撃で揺れる。
その目の前。
白い光と黄金の光が激突していた。
「なんだ……!?」
黄金の光の中。
一人の少年が立っている。
右腕を前へ突き出し。
迫る光を受け流している。
「ぐっ……!」
腕が軋む。
足元の地面が砕ける。
それでも。
「《明星》!」
黄金が弾けた。
白い光の軌道が逸れる。
兵士たちの横を通過し、そのまま森の奥へ突き刺さった。
爆発。
木々が吹き飛ぶ。
静寂。
誰も動けなかった。
「……誰だ?」
兵士の一人が呟く。
土煙の中。
黄金の光が揺れる。
少年がゆっくりと立ち上がった。
「……間に合った」
息が荒い。
脚が震えている。
腕も痺れていた。
無茶をした。
自分でも分かっている。
でも。
間に合った。
それだけでいい。
「お前……」
背後から声がする。
振り返らない。
今はまだ終わってない。
目の前。
天使たちがこちらを見ている。
一体。
二体。
三体。
それだけじゃない。
森の奥。
さらに別の反応。
《心眼》を広げる。
「……まだいる」
ここだけじゃない。
別の場所でも戦っている。
傷ついている。
追われている。
助けを待っている。
だったら。
ここだけ守って終わりじゃ駄目だ。
僕は空を見上げた。
遥か上空。
黄金の星が一つ、輝く。
続いて。
二つ。
三つ。
次々と星が現れる。
森を覆うように。
戦場を包み込むように。
僕は息を吐いた。
そして。
両手を広げる。
「――《星域》」
黄金の光が、森を覆った。




