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3人目のF級冒険者

第11話 3人目のF級冒険者


「止まれ」

王都アステリア。

西門。

つい数時間前に出たばかりの城門へ。

僕たちは戻ってきた。

正確には。

僕。

真紅の髪をしたアンタレス。

そして。

アンタレスの背中に乗ったベラトリクス。

「……」

「……」

門を守っていた兵士が。

僕たちを見る。

特に。

ベラトリクスを見る。

「ソル」

「何?」

「降ろせ」

「僕に言わないでよ」

「アンタレス」

「嫌です」

「何故じゃ!」

「歩けないでしょう」

「歩ける!」

「先ほど倒れました」

「地面が傾いたのじゃ」

「傾いていません」

「五百年前と地形が」

「陛下」

「……何じゃ」

「諦めてください」

「嫌じゃ!」

門兵の視線。

完全にこっちへ向いている。

「えっと……」

僕は笑った。

「こんにちは」

「……ああ」

見覚えがある。

王都へ入る時。

僕たちを確認した兵士だ。

そして。

当然。

向こうも覚えていた。

「昨日の」

「あ」

「フィル村の少年と」

兵士の視線が。

ベラトリクスへ。

「魔王様」

「誰が――」

「はい!」

僕が被せる。

「昨日の二人です!」

「ソル!」

「今は黙って!」

兵士が笑う。

「相変わらずだな」

「色々ありまして」

「それは見れば分かる」

視線。

アンタレス。

「そちらは?」

来た。

「えっと」

僕が答えようとする。

でも。

アンタレスが一歩前へ。

正確には。

ベラトリクスを背負ったまま一歩前へ出た。

「アンタレスと申します」

「アンタレス?」

「はい」

「出身は?」

「ノクティアです」

「……」

僕。

ベラトリクス。

同時に。

アンタレスを見る。

「何でしょう」

「いや」

「何でもない」

兵士は首を傾げた。

「ノクティア?」

やっぱり。

「聞いたことないな」

「……そうですか」

アンタレスの声が。

ほんの少しだけ。

変わった。

でも。

すぐ元に戻る。

「現在の国名ではない可能性があります」

「現在?」

「遠方です!」

僕が慌てて割り込む。

「すごく遠いところから来たんです!」

「なるほど?」

全然納得してない顔。

「身分証は?」

「ありません」

「やっぱりか……」

兵士が。

僕を見る。

「またか?」

「またです」

「親戚?」

「違います」

「違うのか」

「違います」

アンタレスがはっきり答える。

ベラトリクスも。

「妾とも血縁ではない」

「その格好で言われると説得力ないよ」

「何がじゃ」

「背負われてるし」

「これは妾が望んだのではない!」

「降ろした瞬間倒れるでしょう」

「倒れぬ!」

「では降ろします」

「待て」

即答。

兵士が吹き出した。

「仲間か?」

「……まあ」

僕は二人を見る。

先代魔王。

次代魔王。

仲間。

その言葉が合っているのか。

かなり怪しい。

でも。

「そうです」

僕は答えた。

「仲間です」

「……」

アンタレスが。

一瞬。

僕を見る。

ベラトリクスも。

何故か何も言わなかった。

兵士は頷く。

「なら昨日と同じだ。身分証がないなら、冒険者ギルドで登録してくれ」

「分かりました」

「祭りの間は人の出入りも多い。面倒を起こすなよ」

「大丈夫です」

「特に」

兵士が。

ベラトリクスを見る。

「魔王様」

「何故妾だけじゃ!」

「昨日から一番騒いでるからだよ!」

「貴様まで!」

「はははっ。行っていいぞ」

何とか。

城門を通過した。

「……」

王都。

アンタレスが。

足を止める。

「どうしたの?」

僕が聞く。

返事はない。

彼女は。

街を見ていた。

石畳。

何階もある建物。

魔導灯。

魔導車。

露店。

五英雄の旗。

魔王討伐五百周年を祝う飾り。

全て。

僕にとっても新しいものが多い。

でも。

アンタレスにとっては。

さらに。

「……ここが」

「王都アステリア」

僕が言う。

「アステリア……」

アンタレスが繰り返す。

「本当に」

少し。

目を細めた。

「知らない国です」

「五百年前にはなかったらしいよ」

「らしいとは何じゃ」

背中から声。

「妾が言ったであろう」

「ベラトリクスも知らなかったんだよ」

アンタレスが。

街の奥を見る。

遠く。

王城。

その横。

勇者の塔。

金色の光は。

もう空へ伸びていない。

でも。

頂上には。

今までの青白い光ではなく。

金色の光が灯っている。

「……あれが」

「レグルスの塔」

アンタレスの金色の瞳が。

僅かに動いた。

「勇者レグルス殿の」

「知ってるの?」

「もちろんです」

「会ったことある?」

「何度か」

「何度か?」

僕は驚く。

「ベラトリクスと一緒に?」

「陛下が人間側と行動するようになった後に」

「へえ」

また。

五百年前の繋がり。

アンタレスが。

少しだけ。

塔を見上げる。

「……亡くなられたのですね」

「うん」

「そうですか」

それだけ。

でも。

何かを思い出しているようだった。

「アンタレス」

ベラトリクスが。

背中から声をかける。

「何でしょう」

「いつまで見ておる」

「……」

「早う行くぞ」

「誰のために止まっていると思っているのです?」

「妾?」

「陛下が重いので」

「何じゃと!?」

「冗談です」

「貴様、五百年前はそのような冗談を言わなかったぞ!」

「五百年もあれば人は変わります」

「魔人じゃろ」

「細かいですね」

「ソル!」

「何?」

「こやつが妾に似てきた!」

「それはアンタレス嫌がると思うよ」

「……否定はしません」

「アンタレス!?」

少し。

僕は笑った。

三人。

昨日までは。

存在すら知らなかった組み合わせ。

でも。

不思議と。

もう騒がしい。

「それで」

アンタレスが聞く。

「冒険者ギルドというのは?」

「こっち」

「場所を覚えたのか?」

ベラトリクスが聞く。

「昨日行ったからね」

「妾も覚えておる」

「じゃあ案内してよ」

「今は背負われておるから方向が分からぬ」

「絶対嘘」

「うるさい」

僕が先頭。

アンタレス。

その背中にベラトリクス。

三人で。

中央通りを進んだ。

「……」

視線。

かなり感じる。

当然だ。

真紅の髪をした綺麗な女性。

その背中に。

黒髪の少女。

その横に。

普通の少年。

「目立ってない?」

僕が小声で言う。

「誰のせいじゃ」

「ベラトリクス」

「何故じゃ!」

「陛下ですね」

「アンタレスまで!」

「降りますか?」

「……」

「降りませんね」

「魔力が戻れば覚えておれ」

「その魔力を私の召喚に使ったのは陛下です」

「正論やめたげて」

「ソル!」

冒険者ギルド。

昨日と同じ建物。

中へ入る。

昼前。

昨日ほどじゃないけど。

かなり人がいる。

受付。

掲示板。

冒険者たち。

僕たちが入った瞬間。

何人か。

こっちを見る。

「目立ってる」

「陛下」

「何じゃ」

「降りてください」

「嫌じゃ」

「では目立ちます」

「……」

「……」

「仕方あるまい」

アンタレスがしゃがむ。

ベラトリクスが降りる。

一歩。

「……」

ぐら。

アンタレスが。

無言で肩を支える。

「何も言うな」

「何も言っていません」

「顔が言っておる」

「陛下の真似です」

「貴様……」

「受付行こうよ」

僕が間に入る。

昨日と。

同じ列。

そして。

同じ受付。

「次の方――」

受付嬢が。

僕を見る。

「あ」

「こんにちは」

「昨日の」

視線。

ベラトリクス。

「ベラトリクスさん」

「覚えておったか」

「印象的でしたから」

「当然じゃ」

「多分違う意味だよ」

僕は小声で言う。

「今日はどうされました?」

「登録を」

僕は横を見る。

「この人の」

アンタレスが。

軽く頭を下げる。

「アンタレスと申します」

「あら」

受付嬢が。

少し目を丸くする。

多分。

髪。

真紅。

かなり目立つ。

「初めまして。新規登録ですね?」

「はい」

「ではこちらへ」

紙。

昨日と同じ。

名前。

年齢。

出身。

得意武器。

「……」

アンタレスが。

年齢で止まった。

僕は。

嫌な予感がした。

「アンタレス」

「何でしょう」

「何歳?」

「ソル」

ベラトリクスが。

低い声で言う。

「女に年齢を聞くでない」

「昨日自分も同じこと言ってたよね」

「当然の常識じゃ」

アンタレスは。

しばらく紙を見て。

「……二十二」

「嘘じゃ」

ベラトリクスが即答した。

「陛下」

「何じゃ」

「黙っていてください」

「お主は五百年前から」

「陛下」

「……」

怖い。

「二十二歳ですね」

受付嬢は。

何も気にせず書き込む。

「出身地は?」

「ノクティア」

「ノクティア……」

昨日と同じ反応。

「聞き慣れないですね」

「遠方です」

アンタレスは。

普通に答えた。

「そうなんですね」

受付嬢が。

それ以上追及しない。

「得意武器は?」

「特には」

「魔術師ですか?」

「一通り使えます」

「……一通り?」

「はい」

「属性は?」

「ほぼ全て」

「……」

受付嬢が。

止まった。

僕も。

「全部使えるの?」

「ほぼ」

「すご」

「珍しくはありません」

ベラトリクスが鼻を鳴らす。

「魔人の上位ならな」

「陛下」

「何じゃ」

「余計なことを」

「魔人?」

受付嬢が聞く。

「魔術師って言ったんです!」

僕が慌てて割り込む。

「魔術師の上位って!」

「……そう聞こえなかったけど」

「気のせいです!」

アンタレスが。

小さくため息をついた。

「苦労していますね」

「分かってくれる?」

「はい」

「お主らいつの間に仲良くなった!」

「陛下が原因なので」

「妾は関係ない!」

受付嬢が笑う。

「では登録前に、簡単な能力測定を行います」

「承知しました」

「登録された方は全員F級からになります」

「はい」

アンタレスは。

普通に頷いた。

「……」

ベラトリクスが。

信じられないものを見る顔をした。

「アンタレス」

「何でしょう」

「今」

「はい」

「F級と申したぞ」

「聞こえました」

「最下級じゃぞ」

「新規登録者は全員そうなのでしょう?」

「そうじゃが」

「では問題ありません」

「問題あるじゃろ!」

ギルド中。

少し静かになる。

「ベラトリクス!」

「妾は納得しておらぬ!」

「昨日からずっと言ってるじゃん!」

「何故お主は納得できる!」

アンタレスが。

真顔でベラトリクスを見る。

「規則だからです」

「……」

「陛下」

「何じゃ」

「規則をご存じですか?」

「馬鹿にしておるのか?」

「少し」

「アンタレス!」

受付嬢。

笑いを堪えている。

僕も。

かなり。

「では測定室へ」

昨日と同じ。

小さな部屋。

中央。

水晶。

「こちらに手を置き、少量の魔力を流してください」

アンタレスが。

水晶を見る。

「少量」

「はい」

「具体的には?」

「え?」

受付嬢が首を傾げる。

「どの程度まで抑えればよろしいでしょう」

「……抑える?」

僕も。

ベラトリクスも。

アンタレスを見る。

「普通に流せばよい」

ベラトリクスが言う。

「陛下」

「何じゃ」

「目立つなと」

「……」

「先ほど仰いましたね」

「申した」

「ならば抑えます」

「貴様」

「何でしょう」

「ずるいぞ」

「何がです?」

「妾は昨日」

ベラトリクスが。

水晶を指差す。

「そのまま測った!」

「そして低いと言われたのでしたね」

「……」

「陛下」

「何じゃ」

「それは抑えたのではなく」

「申すな」

「本当に少なかっただけでは」

「申すなと言った!」

昨日のことを。

しっかり覚えている。

アンタレス。

強い。

受付嬢が。

困ったように笑う。

「えっと……壊れない程度なら大丈夫ですよ」

「では」

アンタレスが水晶へ手を置く。

一瞬。

金色の瞳が。

少しだけ細くなる。

「……」

水晶。

淡い青。

僕と同じくらい。

受付嬢が。

目盛りを見る。

「はい」

「……」

「平均的ですね」

「承知しました」

普通。

あまりにも。

普通。

「……」

ベラトリクスが。

アンタレスを睨む。

「貴様」

「何でしょう」

「今合わせたな」

「何のことでしょう」

「妾には分かるぞ」

「陛下の魔力感知も、まだ本調子ではないのでは?」

「……」

「気のせいかもしれません」

「アンタレス……!」

絶対。

わざとだ。

「属性適性は……」

受付嬢が。

水晶を見る。

少し。

眉を寄せる。

「不思議ですね」

「何がです?」

「全属性に、ごく僅かに反応があります」

「問題がありますか?」

「いえ。ただ、かなり珍しいです」

「そうですか」

アンタレス。

全然驚いてない。

「身体能力も測りますね」

「はい」

その後。

握力。

速度。

反応。

どれも。

「平均ですね」

「はい」

「本当に?」

僕が思わず聞いた。

アンタレスが。

こっちを見る。

「何でしょう」

「いや」

僕は知っている。

召喚直後。

ベラトリクスが倒れそうになった瞬間。

僕より先に。

いや。

見えないほどの速さで動いた。

それが。

平均?

「絶対嘘だ」

「何のことでしょう」

「ベラトリクス」

「何じゃ」

「アンタレスってどれくらい強い?」

受付嬢がいる。

ベラトリクス。

少し考える。

「今のお主が百人いても勝てぬ」

「比較僕なの!?」

受付嬢が笑う。

「仲がいいですね」

「今の褒めてる?」

「褒めておらぬ」

アンタレスが。

小さく。

「百人では足りないと思います」

「増えた!?」

「レグルス殿の力を制御できるようになれば別ですが」

「それでも?」

「今は無理ですね」

「……」

僕。

弱い。

知ってたけど。

改めて言われるとつらい。

測定終了。

受付へ戻る。

金属の札。

名前。

登録番号。

そして。

《F》

「こちらが冒険者証です」

アンタレスが。

手に取る。

「なるほど」

「どう?」

僕が聞く。

「特に何も」

「陛下」

アンタレスが。

ベラトリクスを見る。

自分の札を。

少しだけ。

見せる。

「これで同格ですね」

「違う!」

「F級同士では?」

「妾は先代魔王じゃ!」

「私は次代魔王です」

「妾の方が強い!」

「現在は?」

「……」

「陛下?」

「……」

「現在は?」

「うるさい!」

僕は。

笑いを堪えられなかった。

「三人ともF級だ」

「嬉しそうですね」

「なんか面白い」

「面白くない!」

先代魔王。

次代魔王。

そして。

村出身の僕。

三人。

全員F級。

冒険者ギルドの歴史の中でも。

かなり変な新人パーティだと思う。

「で」

ベラトリクスが言う。

「次は何じゃ」

「依頼探す」

「何故じゃ」

「お金」

「ああ」

少しずつ。

ベラトリクスも理解してきた。

「カグラ皇国まで行くんでしょ?」

「そうじゃ」

「船」

「うむ」

「食事」

「必要じゃ」

「宿」

「必要じゃ」

「全部お金」

「……面倒な世界じゃ」

「五百年前もそうだったんじゃないの?」

「妾は払わぬ」

「なんで!?」

「魔王だからじゃ」

アンタレスが。

低い声で。

「陛下」

「何じゃ」

「五百年前も財務担当が払っていました」

「ほら」

「妾の金と同じじゃ」

「国庫です」

「細かい」

「細かくありません」

「アンタレス苦労してたんだなあ」

「非常に」

「妾の悪口を言うでない!」

三人で。

掲示板の前へ。

依頼。

大量。

薬草採取。

荷物運び。

店の手伝い。

小型魔物討伐。

掃除。

「……」

ベラトリクスの顔が。

どんどん険しくなる。

「これがF級?」

「みたいだね」

「妾が」

「うん」

「店の掃除?」

「できる?」

「焼けばよいか?」

「掃除にならないよ」

「薬草採取」

アンタレスが紙を見る。

「悪くありませんね」

「何故じゃ!」

「地道な仕事です」

「妾は魔王じゃぞ」

「F級です」

「アンタレス!」

僕。

だんだん。

アンタレスが好きになってきた。

「でも」

僕は。

掲示板。

別の場所を見る。

「これじゃ旅費まで時間かかるな……」

報酬。

一件。

少ない。

当然。

F級だから。

「船代ってどれくらいなんだろ」

「カグラ皇国までですか?」

突然。

後ろ。

受付嬢。

「はい」

「東へ?」

「そうです」

「旅行ですか?」

「まあ」

塔を巡る。

なんて言えるわけない。

「ちょうどいい依頼がありますよ」

「え?」

受付嬢が。

掲示板の少し上。

一枚の紙を取る。

「こちら」

受け取る。

《商隊護衛補助》

出発地。

アステリア王都。

目的地。

東部港湾都市リュネ。

期間。

六日から八日。

報酬。

「……」

僕は。

金額を見る。

「高い」

「護衛依頼ですから」

「F級でも受けられるの?」

「通常は無理です」

「じゃあ」

「今回は補助です」

受付嬢が説明する。

「本隊の護衛はC級パーティが担当します」

「C級」

「はい。F級からE級を数名、荷物管理や夜営、見張りの補助として募集しているんです」

「なるほど」

「戦闘が起きた場合も、基本的にはC級冒険者の指示に従う形になります」

僕は。

依頼書を見る。

目的地。

東部港湾都市リュネ。

「そこからカグラ行きの船出てます?」

「もちろん」

受付嬢が頷く。

「カグラ皇国へ向かう船の多くはリュネから出ています」

「……」

僕。

ベラトリクス。

アンタレス。

顔を見る。

「これ」

僕が言う。

「すごくよくない?」

「何がじゃ」

「お金もらって」

「うむ」

「港まで行けて」

「うむ」

「商隊だから途中の食事も付く」

「何?」

そこ。

ベラトリクスが反応した。

「食事が出るのか?」

「依頼内容にはそう書いてある」

「受ける」

「早っ」

「合理的です」

アンタレスも頷く。

「移動と収入を同時に確保できるのであれば、断る理由は少ないでしょう」

「でしょ?」

「うむ」

ベラトリクスが。

偉そうに頷く。

「アンタレスがそう申すならよかろう」

「待って」

「何じゃ」

「僕が最初に同じこと言ったよね?」

「そうだったか?」

「絶対覚えてるでしょ!」

「気のせいじゃ」

「最近それ多いよ!」

受付嬢が。

少し困ったように笑う。

「ただ」

「?」

「一つ条件があります」

「条件?」

「護衛補助は三人だけでは受注できません」

「え?」

「先ほど申し上げたC級パーティの指揮下に入っていただきます」

「つまり?」

「顔合わせが必要です」

受付嬢が。

ギルド内。

奥。

食事スペースを指差す。

「ちょうどいらっしゃいますよ」

そこ。

四人。

一つのテーブル。

男。

女。

男。

女。

装備。

明らかに。

僕たちとは違う。

一人。

二十代半ばくらいの男。

剣。

軽装。

短い茶髪。

笑っている。

その隣。

弓を背負った女性。

少し鋭い目。

反対。

若い男。

杖。

魔術師。

そして。

大柄な女性。

盾。

「あの方々が」

「はい」

受付嬢が言う。

「C級冒険者パーティ《蒼鷹》」

「蒼鷹」

「今回の商隊護衛を担当します」

ベラトリクスが。

四人を見る。

「弱そうじゃな」

「ベラトリクス!」

「聞こえるよ!」

僕は慌てて口を塞ぎそうになった。

「妾の感想じゃ」

「言わなくていい感想!」

アンタレスが。

少しだけ。

四人を見る。

「……」

「アンタレス?」

「いえ」

「どう?」

「この時代の冒険者の基準が分かりません」

「ベラトリクスよりちゃんとしてる」

「何じゃと」

「少なくとも」

アンタレスが続ける。

「素人ではありません」

「分かるの?」

「立ち方で」

「へえ」

僕には。

全然分からない。

「では」

受付嬢が。

僕たちを連れていく。

緊張する。

僕。

昨日冒険者になったばかり。

初めて。

ちゃんとした依頼。

そのうえ。

C級冒険者。

「大丈夫?」

ベラトリクスが聞く。

「何が?」

「顔が固いぞ」

「緊張してるんだよ」

「くだらぬ」

「ベラトリクスはしないの?」

「妾を誰だと思っておる」

「F級冒険者」

「ソル」

「ごめん」

テーブル。

四人。

受付嬢が声をかける。

「ガイルさん」

「ん?」

茶髪の男が。

振り返る。

「補助希望の方です」

「お」

僕たちを見る。

まず。

僕。

次。

ベラトリクス。

最後。

アンタレス。

「三人?」

「はい」

「全員?」

「本日登録一名、昨日登録二名です」

「……」

男。

ガイルが。

少しだけ。

驚いた。

「全員新人か」

「はい」

「F級です」

「三人とも?」

「三人ともです」

「……」

横。

弓の女性が。

露骨に顔をしかめた。

「大丈夫なの?」

「セラ」

ガイルが止める。

「でも新人三人よ?」

「補助だ。戦わせるわけじゃない」

「魔物が出ればそうも言ってられないでしょう」

「まあな」

僕は。

ちょっと。

居心地が悪くなる。

その時。

「問題ありません」

アンタレスが言った。

「ん?」

セラという女性が。

アンタレスを見る。

「最低限、自分の身は守れます」

「新人で?」

「はい」

「冒険者歴は?」

「本日からです」

「……」

「アンタレス」

僕が小声。

「言い方」

「何か問題が?」

「相手警戒してる」

「事実を答えただけですが」

ベラトリクスが。

「こやつなら問題ない」

「ベラトリクスも黙って」

「何故じゃ」

杖の青年が。

こちらを見て。

目を細めた。

「……ベラトリクス?」

「何じゃ」

「名前?」

「そうじゃ」

青年の目が。

急に輝いた。

「魔王と同じ!?」

「本人――」

「名前だけです!」

また。

僕が被せる。

「何故毎回止める!」

「毎回言おうとするからでしょ!」

青年。

笑顔。

「すごい!祭りに合わせて?」

「違う」

「設定?」

「違う!」

「本名?」

「そうじゃ!」

「へえ!」

完全に。

面白がられている。

「俺、ノア」

杖の青年。

「五英雄とか歴史好きなんだ」

「……」

嫌な予感。

「魔王ベラトリクスって実際どんな姿だったと思う?」

「目の前――」

「多分絵本と違うんじゃないかな!」

僕がまた止める。

「ソル!」

「お願いだから黙って!」

ガイルが。

笑う。

「面白い三人だな」

弓使い。

セラは。

まだ少し警戒。

盾の女性は。

無言でこっちを見ている。

「俺はガイル」

茶髪の男が言う。

「《蒼鷹》のリーダーをやってる」

「ソルです」

「十五」

「はい」

「若いな」

「よく言われます」

「で」

ベラトリクス。

「ベラトリクスじゃ」

「年齢は?」

「十五」

僕が答える。

「何故お主が答える」

「いいから」

「同い年か」

ガイルが頷く。

「二人で村から?」

「違います」

「ではどういう関係だ?」

「……」

僕。

ベラトリクス。

止まる。

何だろう。

「道で拾った」

ベラトリクスが言った。

「逆!」

僕が叫ぶ。

「僕がベラトリクス見つけたんだから!」

「妾を拾ったと申すな!」

「そっちが先に言ったんだろ!」

ガイル。

笑う。

「分かった。複雑なんだな」

「多分」

「そして」

アンタレス。

「アンタレスと申します」

「二十二歳です」

僕が横を見る。

嘘。

でも。

言わない。

「三人でパーティ?」

「……」

また。

聞かれた。

「一応」

僕が答える。

「今日から」

アンタレスが。

僕を見る。

ベラトリクスも。

少し。

意外そう。

「違った?」

「いや」

ベラトリクスが言う。

「それでよい」

「私も異論はありません」

「じゃあ」

僕は。

少しだけ。

嬉しくなる。

「三人で」

「よし」

ガイルが頷く。

「依頼内容は聞いた?」

「はい」

「港町リュネまで商隊護衛。俺たちが直接護衛。君たちは補助」

「はい」

「荷物整理、馬の世話、野営準備、見張り」

ベラトリクスの眉が。

少しずつ。

動く。

「戦闘になったら、俺たちの指示に従う」

「待て」

来た。

「何?」

ガイルが聞く。

「何故妾が貴様の指示に」

「ベラトリクス!」

「陛下」

アンタレスが。

低い声。

「……」

ベラトリクス。

口を閉じた。

「陛下?」

セラが聞く。

「……」

「……」

僕の頭。

高速。

「愛称です!」

「愛称?」

「そう!」

「陛下が愛称?」

「そういう遊びが好きなんです!」

「誰が遊びじゃ!」

「黙って!」

ガイル。

完全に笑っている。

「まあいい」

「いいんですか?」

「変わった奴は冒険者に多い」

助かった。

「ただ」

ガイルの表情が。

少しだけ。

真面目になる。

「一つだけ」

僕たち。

見る。

「依頼中は俺の指示を聞いてもらう」

「……」

ベラトリクス。

何か言おうとする。

アンタレスが。

肩へ手を置いた。

「承知しました」

先に答えた。

「アンタレス!」

「依頼を受けるのであれば当然です」

「妾は」

「F級です」

「……」

「C級パーティの補助です」

「……」

「規則です」

「……」

ベラトリクス。

負けた。

「分かった」

小さい。

「聞こえない」

ガイルが笑う。

「分かったと言った!」

「よし」

気に入ったらしい。

「じゃあ明日の朝」

「明日?」

「ああ」

「早いですね」

「商隊は予定があるからな」

ガイルが説明する。

「日の出から一刻後。東門集合」

「分かりました」

「装備は?」

聞かれる。

僕。

腰。

短剣。

「これだけ」

ガイルが。

少し苦笑。

「最低限だな」

「村を出る時に持たされたので」

「防具は?」

「ないです」

「買え」

「……」

僕の財布。

「高い?」

「命よりは安い」

「……買います」

正論。

「ベラトリクスは?」

「要らぬ」

「武器」

「要らぬ」

「防具」

「要らぬ」

ガイル。

眉。

「魔術師?」

「そのようなものじゃ」

「杖は?」

「要らぬ」

「……」

「妾自身が武器じゃ」

「ベラトリクス!」

「何じゃ」

ガイルは。

少しだけ。

真面目に彼女を見る。

「新人にありがちなんだ」

「何が」

「自分は大丈夫だと思うこと」

「妾は」

「でも」

ガイルが続ける。

「魔物は待ってくれない」

「……」

「最低限の防具だけでも用意しろ」

ベラトリクスが。

何かを言おうとする。

アンタレス。

「承知しました」

また。

先に答える。

「アンタレス!」

「陛下」

「妾に防具など」

「今の魔力量を忘れましたか?」

「……」

「用意します」

「嫌じゃ」

「用意します」

「……」

強い。

「アンタレスは?」

ガイルが聞く。

「問題ありません」

「武器は?」

「必要ありません」

「……」

ガイルの顔。

また。

「お主も同じこと言ってるぞ」

ベラトリクスが言う。

「私は陛下と違い」

アンタレスが。

微笑む。

「今も問題ありませんので」

「貴様!」

僕。

笑った。

セラ。

少しだけ。

口元が緩んだ気がした。

「まあ」

ガイルが言う。

「明日見れば分かる」

「はい」

「補助だから無理はさせない」

そして。

僕へ。

「ソル」

「はい」

「新人は怖くなったら逃げていい」

「え?」

「護衛対象から離れすぎない範囲でな」

少し。

驚いた。

「戦えとは言わないんですか?」

「言わない」

「冒険者なのに?」

「死ぬ新人を何人も見た」

「……」

「勇気と無謀は違う」

その言葉。

少し。

胸に残った。

レグルス。

あの人なら。

何て言うんだろう。

「分かりました」

僕は答えた。

「よし」

ガイルが笑う。

「じゃあ明日」

「お願いします」

顔合わせ終了。

受付へ。

依頼書。

三人。

名前。

書く。

ソル。

ベラトリクス。

アンタレス。

「こちらで受注完了です」

受付嬢が。

笑う。

「初めての依頼ですね」

「はい」

僕は。

少しだけ。

冒険者証を見る。

F。

昨日。

ただの身分証のために登録した。

なのに。

もう。

依頼を受ける。

「緊張します?」

「ちょっと」

「大丈夫ですよ」

受付嬢が笑う。

「《蒼鷹》は評判のいいパーティです」

「よかった」

「新人の補助を受け入れることも多いです」

「あの人」

僕は。

ガイルを見る。

「強い?」

「C級上位ですね」

「上位」

「あと少しでB級昇格候補です」

「へえ……」

僕には。

CもBも。

まだ。

どれくらい強いのか分からない。

横。

アンタレスが。

少しだけ。

ガイルを見る。

「アンタレス」

「何でしょう」

「どう?」

「何がです?」

「強そう?」

「……」

少し。

考える。

「この時代の人間としては」

「うん」

「悪くないと思います」

「上からだなあ」

「事実です」

ベラトリクスも。

鼻を鳴らす。

「シリウスの足元にも及ばぬ」

「比較対象がおかしいよ」

「ではレグルス」

「それもおかしい!」

受付嬢。

苦笑。

「英雄好きなんですね」

「本人を知って――」

「ベラトリクス」

「……」

「今日はもう何回目?」

「お主が止めるからじゃ」

「止めなかったら大変なことになるから!」

依頼を受け。

ギルドを出た。

午後。

「じゃあ」

僕は言う。

「装備」

「嫌じゃ」

ベラトリクス。

即答。

「さっき言われたでしょ」

「妾には必要ない」

「アンタレス」

「買います」

「何故お主が決める!」

「陛下が聞かないので」

「妾の金ではないぞ」

「僕の金なんだけど!?」

二人。

僕を見る。

「……」

「……」

「え?」

嫌な予感。

「ソル」

ベラトリクスが。

優しい声。

怖い。

「何?」

「仲間じゃろ?」

「急にその言葉使うのずるくない?」

「仲間は助け合うものじゃ」

「お金の時だけ仲間になるのやめて!」

「私の装備は不要ですので」

アンタレスが言う。

「ほら」

「陛下の分だけですね」

「え?」

ベラトリクス。

止まる。

「私の分は?」

「必要ないと申し上げました」

「妾も」

「陛下は必要です」

「何故じゃ!」

「現在の陛下は」

「言うな」

「魔力が」

「言うな!」

「ほぼ空です」

「アンタレス!」

事実。

勇者の塔で取り戻した魔力。

アンタレスを呼ぶために。

ほとんど使った。

「じゃあ」

僕は笑う。

「ベラトリクスの装備見に行こう」

「嫌じゃ!」

その後。

武具屋。

「……」

ベラトリクスが。

ものすごく嫌そうな顔。

革製の胸当て。

腕当て。

最低限。

軽い装備。

「似合ってるよ」

「嘘を申すな」

「本当に」

「妾は魔王じゃぞ」

「魔王も防具着れば?」

「妾の魔力障壁は、このような革より遥かに」

「今は?」

アンタレス。

「……」

「陛下?」

「……今は革の方が少し強い」

「少し!?」

僕は。

思わず笑う。

「笑うな!」

「だって魔王より革が強いって!」

「一時的じゃ!」

「陛下」

「何じゃ」

「こちらも」

アンタレスが。

店員から。

短い黒い外套。

ベラトリクスへ。

「何じゃこれは」

「防具です」

「嫌じゃ」

「着てください」

「嫌じゃ!」

「ソル」

「何?」

「手伝ってください」

「了解」

「何故お主らはもう組んでおる!」

数分後。

「……」

完成。

黒。

軽装。

意外と。

かなり似合う。

「魔王っぽい」

僕が言う。

「妾は元から魔王じゃ!」

「格好だけなら冒険者っぽくなりました」

アンタレス。

「妾は魔王じゃと言っておる!」

結局。

買った。

僕も。

安い革製防具。

少しだけ。

財布が軽くなった。

いや。

かなり。

「……」

残金。

見る。

「大丈夫ですか?」

アンタレスが聞く。

「明日の報酬前払い少しあるから何とか」

「申し訳ありません」

「アンタレスが謝ることじゃないよ」

「妾も謝らぬ」

「ベラトリクスは少し謝って」

「嫌じゃ」

装備を買った後。

食料。

旅用品。

必要なもの。

ただ。

今回は商隊。

ある程度は向こうで用意される。

それでも。

最低限。

水筒。

保存食。

紐。

毛布。

「旅ってお金かかるんだな……」

「だから申したであろう」

「ベラトリクス何も払ってないじゃん」

「妾は知識を提供しておる」

「何の?」

「世界を救うための知識」

「今のところ食べ物の話が一番多いけど」

「重要じゃ」

夕方。

宿へ戻る。

「あら」

宿の主人。

昨日の女性。

僕たちを見る。

正確には。

アンタレスを見る。

「あらあら」

「何ですか」

嫌な予感。

「お友達増えたの?」

「まあ」

「友ではない」

ベラトリクス。

「仲間です」

アンタレス。

「……」

僕。

少しだけ。

二人を見る。

ベラトリクス。

アンタレスを見る。

「何じゃ」

「いや」

「妾も仲間と言った方がよいか?」

「別に強制じゃないよ」

「……」

少し。

間。

「仲間じゃ」

「うん」

何となく。

嬉しかった。

宿主が。

笑う。

「部屋どうする?」

「あ」

問題。

「二部屋」

ベラトリクスが即答。

「今日は二部屋空いてるよ」

「よし」

「昨日めちゃくちゃ騒いだから覚えられてるじゃん」

「二部屋じゃ」

「お金」

「……」

「ベラトリクス」

「ソル」

「何?」

「仲間じゃろ?」

「二回目は効かないよ」

アンタレスが。

財布。

いや。

見たことのない小さな革袋。

取り出す。

「これで」

硬貨。

机へ。

宿主が。

一枚取る。

「……?」

「これは」

見たことない。

「アンタレス」

「何でしょう」

「それ何?」

「貨幣です」

「五百年前の?」

「はい」

「使えないと思う」

「……」

宿主が。

硬貨を光へ翳す。

「純金だね」

「え?」

「かなり古いけど」

「使える?」

「貨幣としては無理だけど、金としてなら買い取ってくれる店があるよ」

「……」

僕。

ベラトリクス。

アンタレス。

止まる。

「アンタレス」

ベラトリクスが。

ゆっくり言う。

「何じゃ」

「その袋」

「はい」

「どれくらい入っておる」

「百枚ほど」

「……」

僕。

昨日から。

お金で。

ずっと悩んでいた。

「……」

「ソル?」

アンタレスが聞く。

「どうしました」

「アンタレス」

「はい」

「もっと早く言ってよ!!」

宿。

僕の声が響いた。

「聞かれませんでしたので」

「普通聞かないよ!五百年前の人が今使えるお金持ってると思わないよ!」

「魔人です」

「そこじゃない!」

ベラトリクスが。

嬉しそうに。

「これで食事が」

「まず旅費!」

「三皿」

「駄目!」

「四皿」

「増やすな!」

アンタレスが。

少し笑う。

「陛下」

「何じゃ」

「私の資金です」

「……」

「食事は一皿です」

「アンタレス」

「何でしょう」

「五百年前よりけちになったな」

「陛下を養うためではありません」

「妾の次の魔王であろう!」

「だからこそです」

結局。

宿主に教えてもらった店で。

古い金貨を数枚だけ。

今の貨幣へ交換した。

価値。

かなり。

「……」

僕は。

金額を見る。

「船代」

「足りますか?」

「余裕」

「装備」

「もっといいの買えた」

「買い直しますか?」

「いや」

僕は。

首を振る。

「今のでいい」

「何故です?」

「自分で稼いだお金で、そのうち買いたい」

アンタレスが。

少しだけ。

僕を見る。

「そうですか」

「うん」

「良いと思います」

「妾なら良いものを買う」

「ベラトリクスは自分で稼いでからね」

「何故じゃ!」

夜。

宿の食堂。

三人。

テーブル。

「……」

料理。

煮込み。

パン。

肉。

「美味い」

ベラトリクス。

一口。

もう。

意地を張らなくなった。

「昨日は悪くないって言ってたのに」

「美味いものは美味い」

「成長したね」

「誰がじゃ」

アンタレスも。

一口。

「……」

止まる。

「どう?」

僕が聞く。

「美味しいです」

普通に言った。

「ほら」

僕はベラトリクスを見る。

「何じゃ」

「これが普通」

「妾も今申したであろう」

「昨日は言わなかった」

「昔のことじゃ」

「昨日だよ」

アンタレスが。

料理を見ながら。

少しだけ。

「……随分変わりましたね」

「料理?」

「はい」

「五百年前より?」

「調味料が違います」

「分かるの?」

「長く生きていますので」

「……何歳?」

「ソル」

ベラトリクス。

「女性に」

「分かった分かった!」

アンタレスが。

少しだけ笑う。

「陛下ほどではありません」

「アンタレス」

「何でしょう」

「余計なことを申すな」

「事実です」

「二千年以上だもんね」

「ソル!」

「自分で言ったじゃん!」

その夜。

食事。

終わる。

二部屋。

僕。

一人。

ベラトリクスとアンタレス。

同じ部屋。

当然。

「妾は一人部屋がよい」

「却下です」

「何故じゃ!」

「見張るためです」

「何を」

「陛下を」

「妾は子供ではない!」

「昨日一人で外へ行こうとしませんでした?」

「……」

「勇者の塔へ」

「……」

「却下です」

「アンタレス!」

廊下。

声。

僕は笑う。

でも。

部屋へ入る前。

一つ。

気になっていた。

「アンタレス」

「何でしょう」

「聞いていい?」

「はい」

「ベラトリクスが消えた後」

一瞬。

二人。

静かになる。

「五百年間」

僕は続ける。

「何があったの?」

アンタレスの。

顔が。

少しだけ。

変わった。

ベラトリクスも。

黙る。

「全部じゃなくていい」

僕は言う。

「でも」

「……」

「僕たち、次はカグラに行く」

「はい」

「この世界を旅するなら」

アンタレスを見る。

「今の世界を知ってる人がいるなら、知っておきたい」

「……」

少し。

沈黙。

アンタレスが。

ベラトリクスを見る。

「陛下」

「何じゃ」

「話しても?」

「妾に聞くな」

ベラトリクスが。

少しだけ。

目を逸らす。

「妾も知らぬ」

「……」

「聞きたい」

その言葉。

意外だった。

アンタレスが。

静かに頷く。

「では」

三人。

僕の部屋。

小さな机。

椅子。

ベッド。

ベラトリクス。

普通のベッドへ座ろうとする。

「そこ僕の」

「少し借りる」

「昨日も取ったよね」

「細かい」

アンタレス。

椅子。

僕。

簡易寝台。

何故。

僕の部屋なのに。

「五百年前」

アンタレスが。

話し始める。

「陛下が消えた日」

ベラトリクスの。

顔。

少し。

硬くなる。

「魔族領は」

アンタレスが続ける。

「既に崩壊寸前でした」

「……」

「人間との戦争」

「うん」

「そして」

一瞬。

言葉を選ぶ。

「空から現れた災厄」

僕は。

白い翼を思い出す。

「魔族領は、最初に大きな被害を受けました」

「……」

ベラトリクスは。

何も言わない。

「魔王城も」

アンタレスが。

静かに。

「失われました」

「……」

ベラトリクスの指。

少しだけ。

動く。

「妾の城」

「はい」

「……そうか」

それだけ。

「陛下の魔力も」

「うむ」

「ある日、完全に消えました」

「封印された日だね」

「恐らく」

「魔族は?」

「散りました」

「……」

「人間領へ逃げた者」

「うん」

「山へ」

「うん」

「地下へ」

「……」

「海を渡った者もいました」

「それを」

ベラトリクスが聞く。

「お主がまとめたのか?」

「……最初は」

アンタレスが。

少しだけ。

困ったように笑う。

「そのつもりはありませんでした」

「え?」

「陛下を探していましたから」

「……」

「何年も」

「アンタレス」

「何でしょう」

「……」

ベラトリクスは。

何も言えなかった。

「ですが」

アンタレスが続ける。

「見つかりませんでした」

「……」

「その間にも」

魔族。

生きなければならない。

「誰かが」

アンタレスが言う。

「まとめる必要がありました」

「それで」

僕が聞く。

「魔王に?」

「はい」

「自分で名乗った?」

「いいえ」

「じゃあ?」

「周囲が」

「……」

「そう呼び始めました」

ベラトリクスが。

小さく笑う。

「昔からそういう奴じゃった」

「何がです?」

「自分から前へ出ぬくせに」

「……」

「必要になると」

ベラトリクスが。

アンタレスを見る。

「誰より前に立つ」

「陛下に言われたくありません」

「何故じゃ」

「陛下も同じでしょう」

「妾は好きで前に立っておる」

「それは知っています」

少しだけ。

二人。

笑う。

「それで」

僕は。

一番気になっていたこと。

「ノクティアは?」

「……」

アンタレスが。

止まる。

ベラトリクスも。

彼女を見る。

「今」

僕は聞く。

「どうなってるの?」

アンタレスは。

僕じゃなく。

ベラトリクスを見た。

「陛下」

「何じゃ」

「ノクティアは」

一拍。

「今も存在しています」

「……」

ベラトリクスが。

動かない。

「え?」

僕も。

驚く。

「あるの?」

「はい」

「でも今の地図」

「人間の地図では」

アンタレスが言う。

「魔大陸」

「……」

「あるいは、魔物の大陸と記されています」

「人はいないって」

「人間は、ほとんど入りません」

「じゃあ」

僕は聞く。

「魔族は?」

「暮らしています」

「……」

ベラトリクスが。

小さく。

息を吸った。

「まだ」

声。

静か。

「おるのか」

「はい」

「妾の国は」

「形は変わりました」

「……」

「国の名も」

「……」

「制度も」

「……」

「ですが」

アンタレスが。

真っ直ぐ。

ベラトリクスを見る。

「残っています」

長い。

沈黙。

「……そうか」

ベラトリクスが。

下を向く。

「そうか」

もう一度。

それだけ。

でも。

その言葉が。

少しだけ。

震えていた。

「陛下」

「何じゃ」

「いつか」

アンタレスが言う。

「ご自身の目で見てください」

「……」

「今のノクティアを」

ベラトリクスが。

顔を上げる。

「妾の知る場所ではないのじゃろ?」

「はい」

「城もない」

「はい」

「知る者も」

アンタレス。

少しだけ。

笑う。

「私がいます」

「……」

ベラトリクス。

何も言わない。

「それに」

アンタレスが続ける。

「陛下を知る者が、私だけとも限りません」

「……何?」

「それは」

少し。

微笑む。

「行った時のお楽しみです」

「何じゃそれは!」

「陛下の真似です」

「貴様!」

僕は。

少しだけ。

笑った。

ノクティア。

魔大陸。

人間には。

危険な土地。

魔物の世界。

そう習った。

でも。

そこには。

今も。

魔族が生きている。

五百年。

ベラトリクスが知らない場所で。

彼らにも。

彼らの歴史が続いていた。

「……いつか」

僕が言う。

「行こうよ」

ベラトリクスが。

僕を見る。

「ノクティア」

「……」

「塔巡り終わった後でも」

少し。

考えて。

「そうじゃな」

小さく。

笑った。

「行くか」

「うん」

「お主もじゃ」

「僕も?」

「当然じゃ」

「人間だけど大丈夫?」

「妾がおる」

「今F級だけど」

「ソル」

「冗談だよ」

アンタレスが。

静かに笑う。

その夜。

長い話は。

そこで終わった。

明日。

初めての依頼。

王都から。

東。

港町リュネ。

そして。

その先。

海を越え。

カグラ皇国。

剣聖シリウスの塔。

僕は。

自分の右手を見る。

レグルスの力。

まだ。

全然使いこなせない。

でも。

少しずつ。

進んでいる。

一人で村を出た。

たった数日前。

今。

隣には。

二人の魔王。

「……」

改めて考える。

「どうした?」

ベラトリクスが聞く。

「いや」

「何じゃ」

「僕の旅」

「うむ」

「最初から予定狂いすぎだなって」

「よかったではないか」

「どこが」

「退屈せぬ」

「それは確かに」

僕は笑う。

そして。

翌朝。

王都東門。

そこには。

何台もの馬車。

荷物。

商人。

冒険者。

《蒼鷹》の四人。

ガイルが。

僕たちを見つける。

「来たな」

「おはようございます」

「遅刻なし」

「当たり前です」

アンタレス。

「妾もな」

ベラトリクス。

「ベラトリクスはアンタレスに起こされてたけどね」

「ソル」

「何?」

「黙れ」

ガイルが笑う。

「元気そうだな」

「はい」

僕は。

馬車の向こう。

東を見る。

空。

朝日。

その先。

まだ。

見えない。

港。

海。

カグラ。

刀。

シリウス。

「じゃあ」

ガイルが。

剣を腰へ差す。

「出発するぞ」

僕にとって。

初めての。

冒険者としての依頼が。

始まった。


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