増えた仲間
第118話 増えた仲間
旧魔王城での一件から数日。
僕たちは魔族領の魔王城へ戻っていた。
世界を揺らしたベラの魔力。
各国から殺到した緊急通信。
その対応もようやく落ち着き始めている。
「……疲れました」
執務室。
大量の書類を前に、アンが机へ突っ伏していた。
「魔王がそのような姿を見せるでない」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「天使か?」
「ベラ様です」
即答だった。
「妾?」
「ベラ様が世界を揺らしたせいで、各国への説明、被害状況の確認、アルカディアから送られてきた観測記録への回答……仕事が増えたんです」
「被害は出ておらんじゃろ」
「そういう問題ではありません」
「大変じゃの。魔王というのも」
「元魔王が言わないでください」
「妾はもう引退したからの」
「都合のいい時だけ元魔王になるのやめてもらえます?」
「何のことじゃ?」
アンがベラを睨む。
ベラは知らん顔。
僕とカイルは少し離れたところから二人を見ていた。
世界を揺らした元魔王と。
世界連合軍最高指揮者になった現魔王。
肩書きだけなら、とんでもない二人。
でも。
こうして見ると。
いつものベラとアンだった。
「そうじゃ」
ベラが突然僕を見る。
「ソル」
「何?」
「一度、家へ戻らぬか?」
「家?」
「うむ」
「この前帰ったばっかりだよ?」
「知っておる」
「じゃあ何で?」
ベラが僕の隣を見る。
カイル。
「以前とは違うじゃろ」
「何が?」
「仲間が増えた」
「……」
カイルが自分を指差す。
「俺?」
「他に誰がおる」
「いや、そうですけど」
確かに。
前に帰った時。
カイルはいなかった。
世界連合軍もなかった。
アンやガレスたちとの関係も。
今とは違った。
何より。
「そういえば」
僕はベラを見る。
「ベラも会ったことないよね」
「誰にじゃ」
「父さんと母さん」
「うむ」
「手紙には書いてたけど」
旅に出てから。
何度か家へ手紙を送った。
その中で。
ベラのことも書いた。
五百年前の魔王。
一緒に旅をしていること。
最初は色々あったけど。
今では大切な仲間であること。
もちろん。
全部を書いたわけじゃない。
心配させそうなことは。
かなり省いた。
「なら丁度よいではないか」
「まあ……そうだね」
僕はカイルを見る。
「カイルも来る?」
「俺も?」
「うん」
「いや」
カイルが少し困った顔をする。
「人の実家だぞ?」
「別にいいよ」
「お前が良くても、ご両親が困るだろ」
「聞けばいいじゃん」
「今から?」
「魔道通信があるし」
「……」
カイルがベラを見る。
「本当に行くんですか?」
「行くぞ」
「決定なんですね」
「善は急げじゃ」
僕はアンを見る。
「アンも来る?」
「……」
アンがゆっくり。
机の上を見る。
書類。
大量。
そして。
ベラを見る。
「無理です」
「即答」
「誰のせいだと思ってるんです?」
「ベラ」
「正解です」
「何故妾を見る」
「いや、ベラでしょ」
アンが大きく息を吐く。
「行きたいのは山々ですが、今は魔王城を離れられません」
「そっか」
「ですが」
アンが顔を上げる。
「魔道通信なら参加できます」
「本当?」
「ええ」
「なら決まりじゃな」
ベラが立ち上がる。
「行くぞ」
「ちょっと待って! 先に家に連絡するから!」
「面倒じゃの」
「初対面でいきなり元魔王連れて帰ったら父さんたち驚くでしょ!」
「手紙で知っておるのじゃろ?」
「知ってるのと実際に来るのは違うから!」
結局。
家へ魔道通信を繋いだ。
今日帰ること。
仲間を二人連れていくこと。
それを伝える。
母さんは驚いていたけど。
すぐに。
『分かったわ。気をつけて帰ってきなさい』
そう言ってくれた。
数時間後。
僕。
ベラ。
カイル。
三人で故郷へ向かっていた。
「なあ、ソル」
「何?」
「ずっと気になってるんだけど」
「何が?」
「お前の家」
「普通だよ」
「本当に?」
「何で疑うの」
カイルが指を折る。
「星装」
「うん」
「古代魔法《天曜》」
「うん」
「古代帝国アウレストラの血筋」
「それは最近分かったことだけど」
「星の声」
「うん」
「五百年前の魔王と旅してる」
カイルがベラを見る。
「何じゃ」
「現魔王とも普通に話す」
「アンは仲間だし」
「世界連合軍特別部隊」
「カイルもでしょ」
「そうだけど」
カイルが僕を見る。
「そんな奴が『普通の家です』って言っても信用できない」
「普通だって」
「城とか出てきそう」
「出てこないよ」
「地下に古代帝国の遺跡とか」
「ない」
「秘密の修練場」
「ないって!」
ベラが笑う。
「安心せい。妾もソルから話を聞く限り、ごく普通の家じゃ」
「ベラ様に言われると逆に不安なんですよ」
「どういう意味じゃ」
そんな話をしながら。
懐かしい道を進む。
前に帰ってから。
それほど時間は経っていない。
見慣れた山。
川。
道。
何も変わっていない。
でも。
僕の隣にいる人は。
前とは違う。
「着いた」
「ここ?」
「うん」
カイルが家を見る。
しばらく。
無言。
「……本当に普通だ」
「だから言ったでしょ」
「いや、お前の家だから何かあるかと」
「何もないよ」
ベラも家を見る。
「ここがソルの家か」
「そう」
「なるほどの」
「何?」
「いや」
ベラが少し笑う。
「お主が育った場所かと思ってな」
「……変?」
「何も言っておらぬじゃろ」
僕は扉の前へ。
そして。
普通に開けた。
「ただいまー」
奥から。
足音。
「おかえり」
母さん。
そして。
その後ろから。
「帰ったか」
父さん。
「うん」
二人とも。
前に帰った時と変わらない。
それだけで。
少し安心する。
母さんが僕を見る。
そして。
後ろ。
ベラとカイルを見る。
「あら」
父さんも二人を見る。
一瞬。
静かになる。
そりゃそうだ。
手紙では知っていても。
実際に会うのは初めて。
特に。
ベラ。
「ソル」
母さんが小さな声で呼ぶ。
「何?」
「もしかして」
視線。
ベラへ。
「この子が?」
「うん」
僕はベラを見る。
「ベラトリクス」
一拍。
「手紙に書いてたベラ」
「……」
父さんと母さん。
ベラを見る。
五百年前の魔王。
かつて人類が恐れた存在。
そして。
世界を救った六人目の英雄。
今では。
僕と旅をしている仲間。
ベラが一歩前へ出る。
「初めましてじゃな」
いつもの口調。
でも。
少しだけ。
いつもよりちゃんとしている。
「ベラトリクスじゃ」
母さんが。
少し緊張しながら頭を下げる。
「初めまして」
父さんも。
「息子が世話になっている」
「……」
ベラが少し目を開く。
「世話?」
「手紙に書いてあった」
父さんが僕を見る。
「色々教えてもらってるそうじゃないか」
「まあ……うん」
「なら」
父さんがベラを見る。
「ありがとうございます」
「……」
ベラが。
珍しく。
少しだけ困った顔をした。
「礼を言われるほどのことではない」
「でも、ソルが無事に帰ってきてくれた」
父さんが言う。
「それだけで十分だ」
「……そうか」
ベラは少しだけ視線を逸らす。
「なら」
一拍。
「礼は受け取っておこう」
母さんが笑う。
「ベラちゃんって呼んでもいい?」
「……」
ベラが固まった。
僕も。
カイルも。
父さんも。
一瞬。
止まる。
「妾を?」
「ええ」
「……ベラちゃん?」
「嫌だった?」
ベラが僕を見る。
「何で僕を見るの」
「いや」
少し考える。
「好きにせい」
「じゃあベラちゃんね」
「うむ……」
なんか。
ちょっと嬉しそう。
「ベラ、顔緩んでる」
「緩んでおらぬ」
「緩んでるよ」
「うるさい」
そして。
母さんがカイルを見る。
「あ」
カイルが一歩前へ。
姿勢を正す。
「初めまして。カイル・ヴァルハイトです」
「まあ、ご丁寧に」
父さんが少し反応する。
「ヴァルハイト?」
「はい」
「ギルド本部統括の?」
「父です」
「……」
父さんが僕を見る。
「ソル」
「何?」
「お前、今度はギルド本部統括の息子を連れてきたのか」
「そう言われると変だね」
「今気づいたのか?」
カイルが呆れる。
母さんが笑う。
「ソルのお友達?」
「え」
僕とカイル。
同時に止まる。
「友達……」
「おい」
「何?」
「何で悩むんだよ」
「いや、パーティーは組んだけど」
「だったら仲間だろ」
「うん」
「友達でもいいだろ」
「じゃあ友達」
「何だその決め方!」
父さんが笑う。
「仲は良さそうだな」
「良くないです」
「良いよ」
「お前どっちなんだよ」
ベラが横から入る。
「仲間じゃ」
「ベラ?」
「ソルが自分で選んだ仲間じゃろ」
「……」
カイルが少し黙った。
「何?」
「いや」
顔を逸らす。
「……仲間、ね」
小さな声。
でも。
聞こえた。
「そうだよ」
「分かってる」
母さんが笑う。
「ほら、いつまでも玄関にいないで。入りなさい」
「うん」
「邪魔するぞ」
「お邪魔します」
僕たちは家へ入った。
少しして。
食卓。
料理が並ぶ。
父さん。
母さん。
僕。
ベラ。
カイル。
五人。
「いただきます」
食事が始まる。
カイルが一口。
「……うまい」
「でしょ」
「何でお前が偉そうなんだ」
「僕の家だから」
「作ったのはお母さんだろ」
「細かいなあ」
母さんが僕を見る。
「ちゃんと食べてる?」
「食べてるよ」
「本当に?」
「本当」
「痩せてない?」
「変わってないよ」
父さんも。
「怪我は?」
「してない」
「無茶は?」
「してない」
「……」
ベラ。
僕を見る。
「……」
カイル。
僕を見る。
「何?」
「何でもないぞ」
「俺も何も言ってない」
父さんの目が細くなる。
「ソル」
「してないって!」
「こやつ、この前――」
「ベラ!!」
「何じゃ」
「余計なこと言わなくていいから!」
「妾は事実を」
「言わなくていい!」
父さんと母さん。
二人とも僕を見る。
「……」
「……」
「本当に大丈夫だから!」
カイルが笑っている。
「笑わないでよ」
「いや」
「カイルだって無茶するからね?」
「お前よりマシだ」
「嘘だ」
「お前にだけは言われたくない」
父さんが小さく笑う。
「変わってないな」
「何が?」
「お前」
「そう?」
「少し安心した」
「……」
その時。
テーブルの上に置いていた魔道具が光った。
「あ」
僕が起動する。
魔力が広がり。
空中に映像が浮かぶ。
『ソル』
「アン」
アンタレス。
『聞こえていますか?』
「聞こえてるよ」
母さんが通信を見る。
「あら」
父さんも。
「もしかして」
「うん」
僕が紹介する。
「アンタレス」
一拍。
「今の魔王」
「初めまして」
アンが頭を下げる。
『アンタレスです。ソルにはいつもお世話になっています』
「こちらこそ」
母さんも頭を下げる。
父さんも。
「息子が世話になっている」
『いえ。むしろ私たちの方が助けられています』
「アン」
『事実ですよ』
母さんがアンを見る。
「アンちゃんって呼んでもいい?」
『……』
アン。
固まる。
ベラが。
ニヤッとする。
「ほう」
『ベラ様、何ですか』
「いや?」
『その顔やめてください』
母さんが少し不安そうにする。
「嫌だった?」
『い、いえ』
アンが少し姿勢を正す。
『構いません』
「じゃあアンちゃんね」
『……はい』
「ははははは!」
ベラが笑う。
「現魔王も形無しじゃの!」
『ベラ様』
「何じゃ」
『あなたもベラちゃんと呼ばれているでしょう』
「……」
『聞こえていましたよ』
「魔道通信を切るぞ」
『どうぞ』
「アン!」
僕が止める。
母さんが笑っている。
父さんも。
少しだけ口元が緩んでいる。
「アンちゃん、ちゃんと食べてる?」
『……はい?』
「忙しいんでしょう?」
『まあ……そうですね』
「ちゃんと寝ないと駄目よ」
『……はい』
ベラがまた笑う。
「現魔王が怒られておる」
『ベラ様』
「何じゃ」
『誰のせいで忙しいと思ってるんです?』
「天使」
『ベラ様です』
「まだ言うか」
『今日だけで書類を百二十七枚処理しました』
「そんなに?」
僕も驚く。
『まだ残っています』
「大変だね」
『本当に』
母さんが心配そうにアンを見る。
「無理しちゃ駄目よ」
『ありがとうございます』
アンが少し笑った。
その時。
父さんが口を開く。
「そういえば」
「何?」
「今日、地震があっただろ」
「……」
僕。
止まる。
カイル。
止まる。
アン。
止まる。
三人。
同時に。
ベラを見る。
「……何じゃ」
父さんが首を傾げる。
「結構揺れたが、そっちは大丈夫だったのか?」
「……」
ベラが料理を口へ運ぶ。
「ベラ」
「何じゃ」
「ちゃんと説明して」
「別に大したことではない」
「世界揺らしといて?」
母さんが首を傾げる。
「世界?」
「……」
ベラ。
少し考える。
そして。
「ちょっと気合いを入れただけじゃ」
「またそれ言う!!」
「事実じゃ」
「気合いで地震は起きないよ!」
カイルが父さんを見る。
「この人の気合いで世界が揺れたんですよ」
「カイル! 余計分かりにくくなる!」
『お願いですから、もうその説明やめてください……』
アンが額を押さえる。
父さん。
母さん。
二人とも。
ベラを見る。
「……本当に?」
母さんが聞く。
「まあ」
ベラが少し考える。
「少し魔力を解放した」
「少し?」
僕が言う。
「百パーセント」
「ソル」
「何?」
「余計なことを言うでない」
「何でだよ!」
父さんが箸を止める。
「百パーセント?」
「今までベラ、自分の魔力の七十五パーセントを封じてたんだ」
「……」
「今回それを全部解放して」
「世界が揺れた」
カイルが補足する。
「……」
父さん。
沈黙。
母さん。
沈黙。
ベラは普通に食べている。
母さんがゆっくり口を開く。
「ベラちゃん」
「何じゃ?」
「家では気合い入れないでね?」
「……」
ベラが止まった。
僕も。
カイルも。
アンも。
父さんも。
一瞬。
静かになる。
「……善処する」
「絶対だよ!!」
僕とアンが同時に叫んだ。
食事が進む。
アンも通信越しに話へ加わる。
その時。
通信の向こうから声。
『アンタレス様』
「あ」
画面の端。
セラが入ってくる。
『失礼します。次の会議について――』
通信に気づく。
『……ソル様?』
「久しぶり」
『ご実家ですか?』
「うん」
『なるほど』
母さんが覗き込む。
「この方は?」
「セラ。魔王軍の参謀」
『初めまして』
「初めまして」
その後ろ。
さらに大きな影。
『何をしている』
「ん?」
ガレス。
『アンタレス様、次の軍議の時間が――』
ガレスも通信を見る。
『……ソルか』
「ガレス!」
『久しいな』
「この前会ったばっかりだけど」
『そうだったな』
母さんが僕を見る。
「この方は?」
「ガレス。魔王軍の軍隊長」
「軍隊長……」
『ソルのご両親か』
ガレスが姿勢を正す。
『ガレスだ。ソルには世話になっている』
「こちらこそ」
父さんが頭を下げる。
さらに。
『ガレス殿、資料を――』
もう一人。
通信へ入ってくる。
「レオンハルト!」
『……ソル殿?』
セレフィア神聖国。
聖騎士長。
レオンハルト。
『これは失礼した』
「今、家に帰ってるんだ」
『なるほど』
どうやら。
世界連合軍の軍議のため。
魔王城へ集まっているらしい。
カイルが笑う。
「増えたな」
「何が?」
「画面」
確かに。
最初。
アンだけだった。
そこに。
セラ。
ガレス。
レオンハルト。
どんどん増えている。
父さんと母さんは。
通信の向こうを見ている。
現魔王。
魔王軍軍隊長。
魔王軍参謀。
セレフィア聖騎士長。
そして。
家には。
五百年前の魔王。
ギルド本部統括の息子。
父さんが。
ゆっくり僕を見る。
「ソル」
「何?」
「お前」
一拍。
「旅に出て、何をしてきたんだ?」
「……」
少し考える。
「色々?」
「色々で済むのか?」
「済まないと思います」
カイルが答えた。
「カイル!」
父さんが笑う。
母さんも。
そして。
母さんが通信を見る。
「皆さんも」
『?』
「ソルのお友達?」
「……」
全員。
一瞬。
止まった。
アンタレス。
現魔王。
ガレス。
魔王軍軍隊長。
レオンハルト。
聖騎士長。
セラ。
魔王軍参謀。
家には。
ベラ。
五百年前の魔王。
カイル。
僕と新しくパーティーを組んだ仲間。
「……」
僕は。
みんなを見る。
そして。
答えた。
「うん」
一拍。
「仲間」
少しだけ。
静かになる。
最初に反応したのは。
ガレスだった。
『……そうだな』
レオンハルトも笑う。
『ええ』
セラも。
『そうですね』
アンは。
何も言わない。
ただ。
少しだけ笑った。
カイルも。
「まあな」
ベラは。
当然のように。
「今さらじゃろ」
そう言った。
母さんが笑う。
「そう」
一拍。
「いい仲間ができたのね」
「……」
僕はみんなを見る。
旅に出た頃。
僕の隣にいたのは。
誰もいなかった。
そこから。
ベラと出会った。
アンと出会った。
ガレス。
セラ。
レオンハルト。
そして。
カイル。
色んな人と出会った。
戦った。
助けられた。
守ってもらった。
僕も。
守った。
知らなかった世界を見た。
知らなかった自分を知った。
気づけば。
僕の周りには。
こんなに人が増えていた。
「うん」
僕は答える。
「みんな、大切な仲間だよ」
『……ソル』
アンが僕を見る。
「何?」
『いえ』
少し笑う。
『何でもありません』
「変なの」
「ソル」
カイルが言う。
「何?」
「俺も入ってるんだよな?」
「入ってるよ」
「確認しただけだ」
「さっきから気にしすぎじゃない?」
「お前が玄関で友達かどうか悩んだからだろ」
「まだ気にしてたの?」
「気にしてない」
「気にしてるじゃん」
「うるさい」
みんなが笑う。
父さんが。
その光景を静かに見ていた。
そして。
「良かったな」
「え?」
「旅に出るって言った時」
父さんが僕を見る。
「正直、心配だった」
「……」
「でも」
一拍。
「一人じゃないなら、少しは安心できる」
「父さん……」
「少しだけだぞ」
「分かってる」
「無茶をするなと言っても、どうせするんだろうしな」
「しないよ」
「……」
ベラ。
カイル。
アン。
三人が僕を見る。
「何でみんな黙るの!?」
父さんが笑う。
母さんも笑う。
通信の向こうからも笑い声が聞こえる。
「でも」
母さんが言う。
「帰ってきた時くらいは、ゆっくりしていきなさい」
「うん」
「ベラちゃんも」
「うむ」
「カイル君も」
「ありがとうございます」
母さんが通信を見る。
「アンちゃんたちも、今度は直接来てね」
『……はい』
アンが答える。
『仕事が落ち着いたら、必ず』
『俺もか?』
ガレスが聞く。
「もちろん」
『……そうか』
『では私も、その時は』
レオンハルトが笑う。
『私までよろしいのですか?』
セラが聞く。
「ソルの仲間なんでしょう?」
『……』
セラが少し驚く。
そして。
『ありがとうございます』
頭を下げた。
僕は。
その光景を見る。
魔王。
軍隊長。
聖騎士長。
参謀。
冒険者。
肩書きだけなら。
普通の家の食卓に集まるような人たちじゃない。
でも。
今は。
そんなもの。
どうでもよかった。
旅に出て。
僕は強くなった。
使える技も増えた。
知らなかった真実も知った。
背負うものも。
増えた。
でも。
増えたのは。
それだけじゃない。
戦ってくれる人。
守ってくれる人。
叱ってくれる人。
笑ってくれる人。
一緒に進んでくれる人。
父さんと母さんに。
ようやく。
見せられた気がした。
僕が。
旅の中で手に入れたものを。
それは。
力なんかじゃない。
「いい仲間ができたのね」
母さんの言葉を。
もう一度思い出す。
「……うん」
小さく。
僕は答えた。
本当に。
そう思う。
僕は。
もう。
一人じゃない。




