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初めての共闘

第114話 初めての共闘

『戦闘能力測定――継続』

天使の翼が広がる。

僕は《明星》を構え、カイルは槍を低く構えた。

初めて二人で受けた依頼。

そして、初めて二人で戦う敵。

それが天使になるなんて思ってもいなかった。

「ソル」

「何?」

「さっきの動き、速かったな」

「《彗星》?」

「ああ」

「右脚に星を集めて一気に踏み込んでる」

「なるほど」

カイルが天使から目を離さないまま答える。

「じゃあ、俺より先に突っ込むなよ」

「え?」

「俺の槍に刺さる」

「それ僕が悪いの?」

「半分くらい」

「半分はカイルでしょ」

『会話――終了を推奨』

「……」

僕とカイルが同時に天使を見る。

「なんか腹立つな」

「ちょっと分かる」

次の瞬間。

天使が消えた。

「来る!」

白い影。

正面。

腕が振り下ろされる。

僕は《明星》で受ける。

ガンッ!!

「っ!」

重い。

腕に衝撃が走る。

それでも耐える。

以前なら。

初めて樹海で天使と遭遇した頃なら。

この一撃だけで吹き飛ばされていたかもしれない。

でも。

今は違う。

「カイル!」

「分かってる!」

横から槍。

天使の脇腹へ伸びる。

天使が腕で払う。

ガキンッ!!

カイルは無理に押さない。

槍を引く。

そのまま身体を回転。

石突。

天使の頭部を狙う。

天使が僅かに後ろへ下がる。

「今!」

僕は右脚へ星を集める。

《彗星》。

ドンッ!!

一気に踏み込む。

《明星》を振る。

だが。

「ソル!」

「え?」

目の前。

槍。

「うわっ!」

僕は慌てて身体を捻る。

すぐ横をカイルの槍が通過する。

「危なっ!」

「だから先に入るなって言っただろ!」

「今って言ったじゃん!」

「槍を入れるって意味だよ!」

「分かるわけないでしょ!」

天使。

僕たちを見る。

『連携能力――低』

「……」

「……」

カイルと顔を見合わせる。

「絶対倒す」

「うん」

天使が踏み込む。

速い。

僕へ。

右。

拳。

身体を沈める。

避ける。

そのまま斬り上げる。

ガキンッ!!

防がれる。

背後。

カイル。

槍。

突く。

天使が翼を動かす。

身体を横へ。

避ける。

カイルが追う。

二撃。

三撃。

速い。

天使は全てを腕で弾く。

『攻撃速度――記録』

「まだ!」

カイルが踏み込む。

槍。

大きく横へ薙ぐ。

天使が跳ぶ。

「ソル!」

今度は分かる。

僕は天使の着地点を見る。

右脚。

星。

《彗星》。

ドンッ!!

天使が着地する。

その瞬間。

僕はもう目の前。

《明星》。

振り抜く。

ガキンッ!!

天使が両腕で受ける。

「っ!」

硬い。

でも。

僅かに。

傷。

入った。

『損傷――確認』

「入った!」

「油断するな!」

カイルの声。

天使の翼。

動く。

風。

爆発するような衝撃。

「うわっ!」

僕の身体が飛ぶ。

地面。

転がる。

「ソル!」

カイルが前へ出る。

天使の拳。

槍で受ける。

ガンッ!!

「くっ!」

押される。

もう一撃。

カイルは槍の柄で受け流す。

天使。

追撃。

カイル。

下がる。

一歩。

二歩。

三歩。

「カイル!」

僕は起き上がる。

《彗星》。

横から入る。

斬る。

天使が腕で防ぐ。

そこへ。

カイル。

槍。

天使の脚を狙う。

天使が跳ぶ。

また。

僕とカイルの攻撃が重なる。

「っ!」

止める。

「またか!」

「やりにくい!」

二人とも。

一度下がる。

天使も追ってこない。

僕たちを見ている。

測っている。

『個体ソル――高機動近接型』

瞳が光る。

『未登録個体――長距離近接型』

「長距離近接って何だよ」

カイルが呟く。

「槍が長いからじゃない?」

「雑だな」

僕は天使を見る。

強い。

でも。

倒せない相手じゃない。

問題は。

僕たち。

「カイル」

「何?」

「僕たち、合ってないね」

「今さら?」

「カイルの間合いが広すぎる」

「お前が速すぎるんだよ」

「どうする?」

カイルが少し考える。

そして。

槍を構え直す。

「俺が先に動く」

「カイルが?」

「ああ」

一拍。

「俺がこいつの動きを制限する」

「その後は?」

「お前が入れ」

なるほど。

今まで。

二人とも攻撃しようとしていた。

僕も。

カイルも。

自分の間合いで戦おうとしていた。

だったら。

「分かった」

「合わせられる?」

「やってみる」

「そこは合わせるって言えよ」

天使。

動く。

カイルが先に出る。

槍。

正面。

天使が腕で弾く。

でも。

カイルは止まらない。

二撃。

三撃。

四撃。

全部。

倒すためじゃない。

右。

左。

上。

下。

天使が避ける方向を。

少しずつ。

限定している。

僕は動かない。

見る。

カイル。

天使。

槍。

足。

そして。

天使が右へ避けた。

「ソル!」

右脚。

星。

《彗星》。

ドンッ!!

一瞬。

距離を消す。

天使の正面。

でも。

攻撃しない。

「――!」

天使が僕を見る。

僕は左へ。

天使も反応。

その瞬間。

「そっちじゃない」

背後。

カイル。

槍。

ドンッ!!

天使の背中へ直撃。

『損傷――』

身体が前へ崩れる。

「ソル!」

「うん!」

《明星》。

振り下ろす。

ガキンッ!!

肩。

斬る。

白い身体に。

深い傷。

入る。

天使が大きく後退する。

『損傷率――上昇』

「いける」

カイルが僕の隣へ来る。

「今の感じだ」

「うん」

「俺が作る」

「僕が入る」

「そう」

カイルが笑う。

「やっとパーティーっぽくなってきたな」

僕も少し笑う。

「まだ一日目だけどね」

「十分だろ」

天使の翼が大きく広がる。

魔力。

急激に上がる。

『対象二体』

一拍。

『脅威度――修正』

空気が震える。

「来るよ」

「ああ」

天使。

上空へ。

一気に飛ぶ。

「上!」

白い光。

集まる。

嫌な感じ。

「カイル!」

「分かってる!」

天使の腕。

こちらへ。

『排除』

光。

放たれる。

ドォン!!

僕とカイル。

左右へ跳ぶ。

地面。

吹き飛ぶ。

「っ!」

熱。

土煙。

視界。

悪い。

その中。

天使。

降りてくる。

僕へ。

速い。

「ソル!」

拳。

来る。

星。

身体。

纏う。

右腕。

受ける。

ガンッ!!

「ぐっ!」

重い。

でも。

止めた。

天使の動き。

一瞬。

止まる。

「カイル!」

「任せろ!」

槍。

横から。

天使の腕を弾く。

僕。

下がる。

カイルが前。

槍。

連続。

天使。

防ぐ。

僕は呼吸を整える。

見る。

二人で。

倒す。

それなら。

僕だけが決める必要はない。

「カイル!」

「何!」

「一回、飛ばして!」

「どっちに!?」

「上!」

「分かった!」

カイル。

槍を低く構える。

天使。

踏み込む。

その攻撃。

カイルは真正面から受けない。

槍を斜めに当てる。

流す。

天使の身体が僅かに崩れる。

「おおおっ!!」

カイルが槍を振り上げる。

ドンッ!!

天使。

上空へ。

飛ぶ。

僕は。

もう動いている。

右脚。

星。

左脚。

星。

身体。

星装。

踏み込む。

《彗星》。

一度。

地面。

二度目。

木の幹。

蹴る。

上へ。

天使。

目の前。

『個体ソル――接近』

《明星》。

両手。

握る。

振り抜く。

ガキンッ!!

天使。

腕。

防ぐ。

「硬い……!」

止まった。

なら。

押す。

星。

両腕へ。

集める。

「っ……!」

少しずつ。

刃。

入る。

でも。

天使も押し返す。

『出力――上昇』

「ソル!」

下。

カイル。

槍。

構えている。

「離れろ!」

僕は《明星》を引く。

天使を蹴る。

反動。

後ろへ。

直後。

カイル。

槍。

投げる。

「――っ!!」

一直線。

天使へ。

天使が腕を前へ出す。

ガァン!!

槍。

止まる。

でも。

両腕。

使った。

僕は。

上。

天使の視界から外れている。

「まだだよ」

星。

展開。

天使の周囲。

一つ。

二つ。

三つ。

四つ。

星が浮かぶ。

《心眼》。

見る。

腕。

翼。

視線。

魔力。

動き。

全部。

星から。

僕へ。

天使が槍を弾く。

次。

左へ動く。

分かる。

僕は。

そこへ落ちる。

『――』

天使。

顔を上げる。

遅い。

《明星》。

振る。

一閃。

白い身体。

斜めに。

深く。

斬り裂く。

『損傷――甚大』

地面。

着地。

天使も落ちる。

ドンッ!!

土煙。

僕はすぐ構える。

「まだ!」

カイルも槍を拾う。

天使。

立っている。

身体。

大きく斬れている。

それでも。

動く。

『戦闘――継続』

「しぶといな」

カイルが僕の横へ並ぶ。

「どうする?」

僕が聞く。

「もう一回」

「さっきの?」

「いや」

カイル。

天使を見る。

「今度は同時にいこう」

「できる?」

「合わせろよ」

「カイルがね」

「言うようになったな」

天使。

翼。

広げる。

僕。

星装。

輝く。

カイル。

槍へ魔力を集める。

互いに。

一歩。

前へ。

「行くよ」

「ああ」

天使。

飛び出す。

僕も。

右脚。

星。

《彗星》。

カイル。

踏み込む。

三つ。

同時。

ぶつかる。

僕は天使の右。

カイルは左。

天使。

どちらを見る。

一瞬。

迷う。

その一瞬。

十分。

カイルの槍。

天使の胸。

貫く。

『――』

身体。

止まる。

僕。

その横を通る。

《明星》。

振り抜く。

首。

斬る。

静か。

天使の頭部が落ちる。

身体。

崩れる。

ドサッ。

翼。

光。

消える。

僕とカイル。

動かない。

しばらく。

見る。

「……」

「……」

カイルが口を開く。

「倒した?」

「たぶん」

「動かないよな?」

「うん」

「急に爆発とかしない?」

「知らないよ」

「お前、戦ったことあるんだろ」

「倒したことはないから」

「先に言えよ」

後ろから。

足音。

ベラが近づいてくる。

天使の残骸を見る。

「死んでおる」

「最初にそれ言ってよ」

カイルが息を吐く。

そのまま。

地面へ座る。

「疲れた……」

僕も力が抜ける。

「僕も」

ベラが僕たちを見る。

「雑兵一体で随分と時間をかけたの」

「初めて二人で戦ったんだから仕方ないでしょ」

「そうだぞ、ベラ様」

「言い訳か?」

「……」

「……」

二人。

黙る。

ベラ。

少しだけ笑う。

「まあ」

一拍。

「悪くはなかった」

僕。

顔を上げる。

「本当?」

「最初は酷かったがの」

「そこ言わなくていいじゃん」

「事実じゃ」

カイルも笑う。

「でも」

僕は天使を見る。

「倒せた」

「ああ」

カイルが立ち上がる。

僕へ。

拳。

向ける。

「初依頼」

一拍。

「成功ってことでいいよな?」

僕も拳を出す。

軽く。

ぶつける。

「うん」

「まだじゃ」

ベラ。

「え?」

「調査した内容を報告し、こやつの残骸を持ち帰るまでが依頼じゃろう」

「……」

カイルが僕を見る。

「持って帰るの?」

「たぶん」

二人で。

天使を見る。

意外と大きい。

「どうやって?」

「知らない」

「ベラ様」

「妾を見るな」

「手伝ってよ」

「嫌じゃ」

「三人の方が早いって」

「お主らの依頼じゃ」

そんな話をしながら。

僕はもう一度。

倒れた天使を見る。

樹海で。

初めて遭遇した時。

僕は。

何もできなかった。

助けられなかった。

追いつけなかった。

でも。

今日は。

倒した。

一人じゃない。

カイルと。

二人で。

少しだけ。

前へ進めた気がした。


ベラは。

そんな二人を少し離れた場所から見ていた。

ソル。

以前より。

遥かに強くなった。

星装の扱い。

剣。

判断。

そして。

自分で生み出した技。

カイルもそうだ。

まだ若い。

粗い部分も多い。

だが。

間違いなく強くなる。

二人だけではない。

アンタレス。

ガレス。

レオンハルト。

世界そのものが。

五百年前にはなかった形へ変わり始めている。

「……」

ベラは自分の手を見る。

五百年前。

災厄と戦った。

勇者たちと並び。

大天使と戦い。

世界のために力を使った。

強かった。

今でも。

弱くなったつもりはない。

だが。

それは。

五百年前の自分だ。

五百年前に完成した。

魔王ベラトリクス。

「……妾も」

小さく。

呟く。

「ベラ?」

ソルが振り返る。

「何か言った?」

「いや」

ベラは顔を上げる。

「何でもない」

「そう?」

「早く運ぶぞ」

「手伝ってくれるの?」

「仕方ないからの」

「やった」

「最初から手伝ってくれよ」

「カイル」

「はい」

三人。

天使の残骸を回収する。

その時には。

ベラの中で。

一つの考えが生まれていた。


数日後。

僕たちは冒険者ギルド本部へ戻った。

天使の残骸。

戦闘記録。

発見場所。

行動。

天使が口にした言葉。

全てを報告する。

残骸は冒険者ギルドから世界連合軍を通じ、アルカディアの研究部門へ送られることになった。

そして。

そこで僕たちは初めて知った。

「世界連合軍?」

僕が聞き返す。

グレンが頷く。

「正式に発足した」

僕とカイル。

顔を見合わせる。

「いつ?」

「お前たちが北部へ向かった日だ」

「そんなことになってたの?」

「なっていた」

グレンが一枚の文書を机へ置く。

加盟国。

投入戦力。

指揮系統。

最高顧問。

教皇。

最高指揮者。

アンタレス。

総隊長。

ガレス。

副隊長。

レオンハルト。

「すご……」

カイルが文書を見る。

僕も。

「アンが最高指揮者……」

「それだけではない」

グレン。

次の紙。

出す。

「?」

受け取る。

そこには。

僕たちの名前。

「……え?」

最高指揮者直属。

特別部隊。

ベラトリクス。

ソル。

カイル・ヴァルハイト。

「……」

僕。

カイルを見る。

カイル。

僕を見る。

「聞いてた?」

「聞いてない」

「俺も」

二人。

ベラを見る。

「妾も知らぬ」

「全員知らないじゃん」

グレンが苦笑する。

「正式な辞令は後日届く」

「勝手に決まるんだ……」

「拒否するか?」

僕は文書を見る。

特別部隊。

天使への対処。

追跡。

調査。

特殊任務。

僕は。

首を振る。

「やる」

隣。

カイルも。

「俺も」

ベラは少しだけ笑う。

「なら決まりじゃな」

グレンが頷く。

「しばらくは休め。今回の情報だけでも十分な成果だ」

「はい」

話を終え。

部屋を出ようとする。

その時。

「ソル」

ベラが呼ぶ。

「何?」

「少し」

一拍。

「寄りたい場所がある」

「どこ?」

「魔族領じゃ」

「アンのところ?」

「違う」

ベラ。

少し黙る。

「では、どこへ?」

カイルが聞く。

ベラは二人を見る。

「魔王城じゃ」

「?」

僕は首を傾げる。

「だからアンのところじゃないの?」

「今の魔王城ではない」

ベラの声が。

少しだけ変わる。

「五百年前」

一拍。

「妾が魔王だった頃に使っていた城じゃ」

僕。

言葉。

止まる。

「……ベラの?」

「うむ」

旧魔王城。

五百年前。

魔王ベラトリクスが世界に存在していた時代。

その本拠地。

「まだ残ってるの?」

「残っておる」

「行ったことある?」

その質問に。

ベラは少し黙った。

「ない」

「え?」

「目覚めてから」

一拍。

「一度も足を踏み入れておらぬ」

僕とカイル。

黙る。

「どうして?」

ベラは少しだけ目を伏せる。

「行く必要がなかった」

それ以上。

何も言わない。

でも。

たぶん。

それだけじゃない。

「それで」

僕が聞く。

「なんで今?」

ベラは僕を見る。

そして。

カイルを見る。

少し。

笑った。

「お主らを見ておったら」

「僕たち?」

「ソル」

「うん」

「お主は強くなった」

突然。

言われる。

「まだまだだけど」

「それでもじゃ」

次。

カイル。

「カイルも」

「俺も?」

「まだ粗い」

「褒める気ある?」

「最後まで聞け」

「はい」

ベラは続ける。

「アンタレスも」

「ガレスも」

「レオンハルトも」

一拍。

「世界そのものも」

五百年前にはなかった。

世界連合軍。

人間と魔族が。

同じ敵へ向かっている。

「皆」

ベラが言う。

「前へ進んでおる」

「……」

「なら」

自分の手を見る。

「妾だけが」

一拍。

「五百年前のまま止まっているわけにはいかぬじゃろ」

僕は。

ベラを見る。

五百年前の魔王。

僕より。

遥かに強い。

今でも。

到底追いついたとは思えない。

そのベラが。

もっと強くなろうとしている。

「旧魔王城に」

僕が聞く。

「何かあるの?」

「ある」

「何?」

ベラは少し笑う。

「妾が」

一拍。

「魔王だった頃に使っていた修練場じゃ」

カイルの目が変わる。

「五百年前の魔王の修練場?」

「そうじゃ」

「行きたい」

即答。

「カイル」

「絶対面白いだろ」

「遊びじゃないよ」

「分かってるって」

ベラが歩き出す。

「来たければ来い」

「もちろん」

僕も続く。

カイルも。

「俺も行く」

ベラは振り返らない。

五百年前。

自分が魔王として過ごした城。

目覚めてから。

一度も戻らなかった場所。

そこへ。

五百年ぶりに。

ベラトリクスが帰る。

過去を取り戻すためではない。

過去へ戻るためでもない。

五百年前の自分を。

超えるために。

僕たちの次の目的地は。

魔族領。

旧魔王城。

だった。


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