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初任務

第113話 初任務

「まだ、そう遠くへは行っておらぬかもしれん」

ベラの言葉に、僕とカイルは同時に森を見る。

監視塔から少し離れた先。

深い森が広がっている。

昨日。

天使は空へ逃げたと聞いていた。

でも。

「森にいるの?」

僕が聞く。

「分からぬ」

ベラは地面に残る魔力を見ながら答える。

「空へ消えたことは間違いない。じゃが、この辺りにはまだ奴の魔力が残っておる」

「戻ってきたってこと?」

カイルが聞く。

「その可能性もある」

ベラが立ち上がる。

「あるいは」

一拍。

「最初から、この一帯を調べておったか」

僕は周囲を見る。

監視塔。

街道。

森。

さらに北へ進めば国境も近い。

「偵察……」

「恐らくな」

昨日の報告。

天使は兵士たちと戦いながら、戦闘能力や武装を記録していた。

人を殺すことが目的じゃなかった。

この国を見ていた。

「行くぞ」

ベラが森へ向かう。

「うん」

「了解」

僕とカイルも続いた。

森へ入る。

木々が日差しを遮り、少しだけ空気が冷たくなる。

僕が前。

少し後ろにカイル。

最後尾にベラ。

「なあ、ソル」

「何?」

「こういう時って、どうやって探すんだ?」

「え?」

「天使」

「……」

考える。

「普通に?」

「普通って何だよ」

「魔力を探したり」

「範囲広すぎない?」

「じゃあカイルは?」

「俺も分からないから聞いてる」

「……」

二人。

ベラを見る。

「何じゃ」

「どうするの?」

「お主らの依頼じゃろうが」

「え?」

「妾に全部聞くな」

そうだった。

これは。

僕とカイルがパーティーとして受けた初めての依頼。

ベラは同行してくれているだけ。

「まず自分たちで考えよ」

ベラが言う。

「冒険者ならば、戦うだけでは仕事にならぬぞ」

僕とカイル。

顔を見合わせる。

「……どうする?」

「痕跡探す?」

「天使って足跡残るかな」

「昨日は地面に降りてたんだろ?」

「じゃあ探してみよう」

「決まり」

二人で周囲を見る。

折れた枝。

踏まれた草。

地面。

魔力。

でも。

しばらく進んでも。

「……分からない」

「俺も」

全然見つからない。

後ろ。

ベラは何も言わない。

絶対分かってる。

「ベラ」

「何じゃ」

「ヒント」

「嫌じゃ」

「ちょっとだけ」

「自分で考えよ」

「カイル」

「俺に振るな」

歩きながら考える。

天使は飛べる。

だったら足跡を探しても意味がないかもしれない。

魔力。

僕は立ち止まる。

「……魔力」

「どうした?」

「天使の魔力って」

樹海。

あの日を思い出す。

普通の魔物とも。

人間とも。

魔族とも違う。

あの異質な感覚。

「僕、一回感じたことある」

「探せる?」

「分からない」

でも。

試す価値はある。

目を閉じる。

周囲。

森。

風。

木々。

生き物。

色んな魔力が混ざっている。

その中から。

探す。

あの日。

感じたもの。

冷たいような。

無機質な。

異質な魔力。

「……」

分からない。

範囲が広い。

だったら。

星。

一つ。

僕の周囲に浮かぶ。

二つ。

三つ。

カイルが見る。

「《心眼》?」

「ちょっと違う」

さらに。

星を広げる。

木々の間。

少し離れた場所。

上空。

「星に探してもらう」

自分だけで探すから範囲が狭い。

なら。

星を散らせばいい。

一つ一つ。

周囲の魔力を感じ取る。

情報が僕へ返ってくる。

風。

動物。

植物。

微かな魔物の魔力。

違う。

違う。

違う。

そして。

「……あ」

一つ。

他とは違う。

ほんの僅か。

残っている。

「見つけた?」

カイルが聞く。

「たぶん」

僕は右を見る。

「こっち」

歩き出す。

ベラを見る。

「合ってる?」

「妾に聞くな」

「顔で分かるよ」

「何じゃと?」

少し笑ってる。

たぶん。

合ってる。

僕たちは森の奥へ進む。

途中。

何度か痕跡が途切れた。

その度に星を広げる。

探す。

また見つける。

進む。

「便利だな、それ」

カイルが言う。

「まだそんな遠くまでは無理だけどね」

「戦闘だけじゃなくて索敵にも使えるのか」

「僕も今気づいた」

「今?」

「うん」

「大丈夫かよ」

「使えたからいいでしょ」

「そういう問題か?」

ベラが後ろから口を開く。

「悪くはない」

僕。

振り返る。

「本当?」

「星を感覚器官として利用する発想は《無拍》と同じじゃ」

「うん」

「じゃが」

ベラの表情が少し真面目になる。

「広げすぎるな」

「情報量?」

「それもある」

一拍。

「お主の星が奴を見つけるということは」

「……」

「奴がお主の星に気づく可能性もある」

「あ」

考えてなかった。

カイルが僕を見る。

「やっぱり大丈夫じゃないだろ」

「……気をつけます」

それから。

さらに奥へ。

森が深くなる。

人が通った形跡もほとんどない。

そこで。

カイルが突然止まった。

「待って」

「どうした?」

槍を持つ。

周囲を見る。

「何かいる」

僕も止まる。

「天使?」

「分からない」

カイルが低く構える。

「でも、さっきから音がない」

「音?」

言われて。

気づく。

鳥。

いない。

虫。

鳴いていない。

風だけ。

木々を揺らしている。

ベラも止まっていた。

何も言わない。

僕は《明星》へ手をかける。

星。

広げる。

一つ。

二つ。

三つ。

森の奥へ。

「……」

何も。

もう一つ。

さらに奥。

その瞬間。

ゾクッ。

背中。

冷える。

「いた」

小さく言う。

カイルの表情が変わる。

「どこ?」

「前」

一拍。

「少し先」

「距離は?」

「……二百くらい」

「近いな」

槍。

握る。

僕も《明星》を抜く。

「行く?」

カイルが聞く。

「依頼は追跡と調査」

「交戦は避けろって言われたな」

「うん」

「じゃあ見るだけ?」

「まずは」

カイル。

頷く。

僕たちは速度を落とす。

木から木へ。

姿を隠しながら進む。

百五十。

百。

五十。

そして。

木々の隙間。

見えた。

白。

一体。

昨日の報告通り。

人型。

背中に翼。

無機質な身体。

天使。

地面に立っている。

動かない。

「……あれか」

カイル。

小さく呟く。

初めて。

本物を見る。

僕は二度目。

それでも。

身体が強張る。

忘れてない。

樹海。

あの日。

「雑兵じゃ」

ベラが小さく言う。

「やっぱり?」

「うむ」

カイルが天使を見る。

「あれが」

一拍。

「一体で監視塔の兵士たちを?」

「そうじゃろうな」

天使は何かを見ている。

木。

地面。

周囲。

時折。

瞳が光る。

『地形――記録』

声。

聞こえる。

『植生――記録』

「やっぱり」

僕が呟く。

「調べてる」

カイルも頷く。

『魔力分布――記録』

天使が少しずつ移動する。

僕たちは距離を保ちながら追う。

今なら。

帰れる。

位置も確認した。

行動も確認した。

依頼としては十分。

「戻ろう」

僕が言う。

カイル。

頷く。

「そうだな」

ゆっくり。

後ろへ下がる。

一歩。

二歩。

その時。

天使。

止まる。

『――』

僕も止まる。

嫌な感じ。

天使の顔が。

ゆっくり。

こちらへ向く。

「……」

目。

合った。

『魔力反応――確認』

カイルが槍を構える。

僕も《明星》を握る。

『既存記録との照合』

一拍。

天使の瞳。

僕を見る。

『対象――一致』

「……え?」

『個体識別』

一拍。

『ソル』

背中。

冷える。

カイルが僕を見る。

「お前」

一拍。

「知られてるぞ」

「僕も今知った」

ベラの表情が変わる。

「二人とも構えよ」

天使。

翼。

開く。

『観測対象――追加』

視線。

カイルへ。

『未登録個体』

「俺は知られてないらしい」

「今登録されたんじゃない?」

「嬉しくねえよ」

『戦闘能力測定――開始』

天使。

消える。

「来る!」

ドンッ!!

地面。

爆ぜる。

一瞬。

目の前。

白い腕。

僕へ。

《明星》。

受ける。

ガンッ!!

「っ!」

重い。

後ろへ押される。

でも。

前とは違う。

見える。

耐えられる。

「ソル!」

横。

カイル。

踏み込む。

槍。

突き出す。

天使。

腕で払う。

カイル。

すぐに槍を引く。

回転。

石突。

横腹。

ガンッ!!

天使の身体が僅かに動く。

「硬っ!」

「カイル、下がって!」

天使。

腕。

振る。

カイル。

身体を反らす。

ギリギリ。

避ける。

僕。

踏み込む。

星。

右脚。

《彗星》。

ドンッ!!

一気に距離を詰める。

《明星》。

振る。

ガキンッ!!

天使。

腕。

受ける。

でも。

押す。

「……!」

天使の身体。

後ろへ滑る。

カイルが笑う。

「いけるじゃん」

「油断しないで!」

「分かってる!」

天使。

僕。

見る。

カイル。

見る。

『戦闘能力――再測定』

翼。

広がる。

魔力。

上がる。

「来るぞ」

カイルが僕の横へ並ぶ。

「うん」

初めて。

二人で受けた依頼。

初めて。

二人で向き合う敵。

それが。

天使になるなんて。

思ってなかった。

「ソル」

「何?」

「ベラ様は?」

ちらっと。

後ろ。

ベラ。

少し離れた場所。

腕を組んでいる。

「……見てる」

「助けてくれないの?」

「たぶん」

ベラが口を開く。

「死にそうになったら助けてやる」

「やっぱり!」

カイルが叫ぶ。

「二人でやってみせよ」

ベラ。

笑う。

「それくらい倒せぬようでは」

一拍。

「この先、大天使など夢のまた夢じゃ」

僕とカイル。

顔を見合わせる。

「だって」

「聞こえてた」

「どうする?」

「決まってるだろ」

カイル。

槍。

構える。

笑う。

「倒す」

僕も。

《明星》を構える。

星。

一つ。

二つ。

身体へ。

灯る。

「うん」

天使。

正面。

翼。

広げる。

『測定継続』

僕の星。

輝く。

カイルの槍。

魔力を纏う。

初任務。

最初の敵。

僕とカイル。

二人だけで戦う。

初めての。

天使戦が始まった。


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