共に戦うということ
第105話 共に戦うということ
魔王軍。
そして。
セレフィア聖騎士団。
互いの力を知るための戦いは終わった。
でも。
合同訓練そのものは。
ここからが本番だった。
「では」
訓練場の中央。
アルヴィスが。
集まった兵士たちを見る。
「次の訓練へ移ります」
魔族たち。
聖騎士たち。
それぞれが。
顔を上げる。
通信魔法の向こうでは。
アン。
セラ。
そして。
各国の首脳たちが。
引き続き。
その様子を見ていた。
「これより」
一拍。
「魔王軍と聖騎士団を」
「……」
「二つの部隊へ分けます」
ざわめき。
起こる。
魔王軍だけ。
聖騎士団だけ。
ではない。
「双方の兵を」
一拍。
「混成させます」
僕は。
周囲を見る。
魔族たちも。
聖騎士たちも。
明らかに。
戸惑っていた。
無理もない。
ついさっきまで。
向かい合っていた相手と。
今度は。
肩を並べて戦え。
そう言われたんだから。
「指揮官は」
アルヴィスが続ける。
「第一部隊」
一拍。
「ガレス殿」
ガレスが。
前へ出る。
「第二部隊」
一拍。
「レオンハルト」
レオンハルトも。
前へ。
二人。
一瞬。
互いを見る。
「またお前か」
「こちらの台詞だ」
「なんだ」
「何でもない」
「……」
「……」
僕は。
ベラを見る。
「やっぱり」
一拍。
「あの二人」
「……」
「仲悪くない?」
「そうかの?」
「そうだよ」
ベラは。
楽しそうに笑う。
「妾には」
一拍。
「随分と気が合っておるように見えるがの」
「どこが……」
そんな二人の下へ。
魔王軍と。
聖騎士団が。
ほぼ同数ずつ。
振り分けられていく。
僕は。
ガレスの部隊へ。
参加することになった。
「ソル」
「何?」
「お前は後方だ」
「え?」
思わず。
聞き返す。
「僕も前で戦うんじゃないの?」
「違う」
ガレスが。
即答する。
「今回は」
一拍。
「個人の強さを見る訓練ではない」
「……」
「部隊として戦う」
僕は。
少し考える。
そして。
理解する。
「《星域》?」
「ああ」
ガレスが頷く。
「全員を支援しろ」
魔族。
聖騎士。
関係なく。
全員を。
「分かった」
準備。
整う。
訓練内容は。
単純だった。
訓練場の奥に設置された。
複数の標的。
それらを。
敵部隊に見立て。
制圧する。
速さ。
連携。
被害。
全てを。
確認する。
「始め!」
合図。
直後。
魔族たちが。
一斉に飛び出した。
速い。
でも。
「待て!」
聖騎士の声。
「隊列を崩すな!」
「遅い!」
魔族が。
振り返る。
「この程度の距離」
「一気に詰めればいいだろう!」
「単独で前へ出るな!」
「敵を倒せば同じだ!」
「後方との距離を考えろ!」
開始。
僅か。
十数秒。
もう。
バラバラ。
「……」
僕は。
思わず。
頭を抱える。
「全然ダメじゃん」
隣。
ベラ。
笑っている。
「まあ」
一拍。
「最初はこんなものじゃ」
「笑ってる場合?」
前方。
魔族が。
標的へ突っ込む。
聖騎士が。
追いつけない。
逆に。
聖騎士が隊列を組めば。
今度は。
魔族が苛立つ。
「遅い!」
「だから勝手に行くな!」
「お前たちが遅いんだ!」
「我々は部隊で動いている!」
「俺たちも部隊だ!」
「どこがだ!」
「……喧嘩してる」
僕が呟く。
でも。
ガレスは。
怒鳴らなかった。
ただ。
見ていた。
魔族。
聖騎士。
それぞれの動き。
少しして。
「止めろ」
全員。
止まる。
ガレスが。
前へ出る。
「一つ」
一拍。
「勘違いしている」
兵士たち。
ガレスを見る。
「魔族が」
一拍。
「聖騎士に合わせる必要はない」
聖騎士たちの表情。
僅かに変わる。
「そして」
一拍。
「聖騎士が」
「……」
「魔族に合わせる必要もない」
魔族たちも。
ガレスを見る。
「同じ動きをしようとするな」
ガレスが。
訓練場を指す。
「魔族は前へ出ろ」
「……」
「速度を殺すな」
魔族たち。
頷く。
「聖騎士」
今度は。
彼らを見る。
「追うな」
「……?」
「魔族が開けた穴を」
一拍。
「お前たちが塞げ」
聖騎士たち。
顔を見合わせる。
「前へ出た魔族を」
一拍。
「後ろから守れ」
「……」
「隊列は」
一拍。
「お前たちが維持しろ」
僕は。
ガレスを見る。
なるほど。
どちらかが。
合わせるんじゃない。
それぞれの。
得意なことを。
そのまま。
使う。
「ソル」
「はい」
「魔族が突出したら」
一拍。
「《星域》で繋げ」
「分かった」
ガレス。
大剣を肩へ。
「もう一度だ」
再開。
魔族。
飛び出す。
今度は。
聖騎士たち。
追わない。
「前衛!」
「行け!」
魔族。
標的へ。
一気に。
接近。
その後ろ。
聖騎士。
隊列。
維持。
「《星域》」
黄金。
広がる。
魔族。
聖騎士。
全員。
金色の光が。
包む。
魔力。
繋がる。
僕にも。
分かる。
前へ出た魔族。
その後ろ。
聖騎士。
離れている。
でも。
《星域》の中。
全員が。
一つの部隊。
「右!」
ガレスの声。
魔族。
動く。
標的。
一つ。
破壊。
同時。
側面。
別の標的。
攻撃。
聖騎士。
盾。
展開。
「《聖壁》!」
攻撃。
防ぐ。
その間。
魔族。
さらに。
前へ。
「魔法隊!」
魔族側。
魔法。
展開。
聖騎士側。
術者。
同時に。
詠唱。
別々だった。
二つの魔法。
同時。
放たれる。
轟音。
最後の標的。
消し飛ぶ。
静寂。
「……終わった」
僕は。
思わず呟く。
さっきとは。
全然違う。
魔族の速さ。
聖騎士の守り。
互いを。
殺していない。
むしろ。
補っている。
通信の向こう。
アンが。
頷く。
『十分』
教皇も。
その光景を見ていた。
「ええ」
一方。
第二部隊。
レオンハルトも。
同じ答えへ。
辿り着いていた。
「魔族兵」
一拍。
「我々の隊列へ入る必要はない」
魔族たち。
レオンハルトを見る。
「遊撃として動け」
「……」
「敵の側面を取れ」
「……」
「守りは我々が引き受ける」
一人の魔族が。
聞く。
「勝手に動いていいのか?」
「違う」
レオンハルト。
即答。
「私の指示で」
一拍。
「自由に動け」
「……どっちだ?」
「命令された範囲で」
一拍。
「自由に動けという意味だ」
「面倒だな」
「慣れろ」
ガレスが。
離れた場所から。
笑う。
「細かい男だな!」
レオンハルト。
振り返る。
「貴殿よりは」
一拍。
「まともだ」
「何だと?」
「事実だ」
「お前な」
「訓練中だ」
「……」
ガレス。
黙る。
僕は。
吹き出す。
「レオンハルト」
一拍。
「ガレスの扱い」
「……」
「もう分かってきてない?」
ベラも。
肩を揺らして笑っていた。
数度。
訓練は。
繰り返された。
最初の混乱が。
嘘みたいに。
少しずつ。
噛み合っていく。
完璧じゃない。
当然。
問題もある。
でも。
少なくとも。
一つだけ。
分かった。
人間と魔族。
一緒に。
戦える。
それが。
証明された。
合同訓練。
終了後。
大聖堂。
会議室。
僕たちは。
再び。
集まっていた。
教皇。
アルヴィス。
ベラ。
僕。
そして。
ガレス。
レオンハルト。
通信魔法。
その向こう。
アン。
セラ。
六星同盟。
各国首脳。
最初に。
口を開いたのは。
アステリア王だった。
『教皇』
「はい」
『一つ』
一拍。
『提案があります』
全員。
アステリア王を見る。
『今回の訓練』
「……」
『セレフィアだけで』
一拍。
『終わらせるべきではないでしょう』
僕は。
少し。
目を見開く。
アステリア王。
続ける。
『我が国でも』
一拍。
『同様の訓練を』
「……」
『行いたい』
すぐ。
別の通信魔法。
声。
『ヴァルガルドも』
一拍。
『異論はない』
さらに。
アルカディア。
『我々も参加しましょう』
アン。
少し。
笑う。
『思ったより』
一拍。
『早かったね』
「狙っておったな?」
ベラが言う。
『もちろん』
アン。
即答。
『セレフィアで』
一拍。
『成功すれば』
「……」
『他の国も』
一拍。
『動くと思ってた』
教皇が。
小さく笑う。
「では」
一拍。
「六星同盟として」
全員。
静かになる。
「各国による」
一拍。
「合同軍事訓練を」
「……」
「正式に行う」
教皇が。
各国首脳を見る。
「それで」
一拍。
「よろしいでしょうか」
反対。
ない。
六星同盟。
初めての。
共同軍事計画。
決まった。
僕は。
少し。
胸が高鳴る。
色んな国。
色んな軍。
色んな戦い方。
僕自身も。
もっと。
学べる。
その時。
ヴァルガルド側から。
声。
『ただ』
「?」
『一つ』
一拍。
『いずれ』
「……」
『決めなければならないことがある』
空気。
変わる。
教皇が。
問い返す。
「何でしょう」
『もし』
一拍。
『天使との戦いが』
「……」
『本格的な戦争になった場合』
全員。
黙る。
『各国の軍を』
一拍。
『一つの連合軍として』
「……」
『動かす必要が出る』
それは。
十分。
あり得る。
アステリア。
セレフィア。
ヴァルガルド。
アルカディア。
魔王軍。
それぞれに。
軍がある。
『その時』
一拍。
『誰が』
「……」
『全軍を指揮する?』
静寂。
簡単な話じゃない。
各国には。
それぞれ。
指揮官がいる。
自国の兵を。
他国の人間へ。
預ける。
それだけでも。
難しい。
まして。
人間と。
魔族。
僕も。
考える。
誰が。
適任なんだろう。
ふと。
顔を上げる。
「……?」
何故か。
視線が。
一箇所へ。
集まっている。
教皇。
アステリア王。
ヴァルガルド。
アルカディア。
レオンハルト。
そして。
アン。
みんな。
同じ男を。
見ていた。
ガレス。
「……」
ガレスが。
周囲を見る。
「何だ」
誰も。
答えない。
「何故」
一拍。
「俺を見る」
僕は。
思わず。
笑いそうになる。
ベラなんて。
もう。
笑っている。
「人気者じゃの」
「ベラ様」
ガレスが。
低い声。
「何じゃ」
「笑わないでください」
「無理じゃ」
「……」
教皇が。
口元を緩める。
でも。
すぐに。
真剣な表情へ戻る。
「この件については」
一拍。
「まだ」
「……」
「決めるべきではないでしょう」
全員。
教皇を見る。
「これから」
一拍。
「各国で」
「……」
「合同訓練を行います」
「その中で」
一拍。
「それぞれの軍」
「……」
「それぞれの指揮官を」
一拍。
「知ることができます」
そして。
「全てを見た上で」
一拍。
「決めましょう」
異論。
ない。
ガレスが。
小さく。
息を吐く。
その横。
レオンハルト。
ガレスを見る。
「何だ」
「いや」
「言いたいことがあるなら言え」
レオンハルト。
少し考える。
「少なくとも」
一拍。
「候補には」
「……」
「なるだろうな」
ガレスが。
眉をひそめる。
「俺が?」
「ああ」
「お前は?」
「私は」
一拍。
「まだ貴殿に」
「……」
「勝っていない」
「だから」
ガレスが。
呆れる。
「一勝一敗だと言っただろう」
「一戦しかしていない」
「まだ言うか」
「事実だ」
僕は。
ベラを見る。
「やっぱり」
一拍。
「仲いいよね」
「じゃろ?」
二人。
同時に。
こちらを見る。
「よくない」
「よくない」
声まで。
揃った。
僕とベラ。
顔を見合わせる。
笑った。
こうして。
セレフィアで行われた。
最初の合同訓練は。
終わった。
次。
どの国で。
行うのか。
日程。
参加部隊。
移動。
調整することは。
山ほどある。
当然。
明日から。
すぐに。
次の訓練。
とはいかない。
各国が。
準備を整えるまで。
しばらく。
時間が必要だった。
「じゃあ」
僕は。
椅子へ座ったまま。
ベラを見る。
「その間」
一拍。
「僕たちはどうする?」
「帰れ」
「うん」
「……」
「……」
僕は。
ベラを見る。
「え?」
「帰れ」
「聞こえてたけど!」
「なら何故聞き返した」
「どこに!?」
ベラが。
呆れた顔。
「家じゃ」
「……」
僕は。
固まる。
「家?」
「そうじゃ」
「僕の?」
「他に誰の家がある」
確かに。
でも。
急すぎる。
「なんで?」
ベラが。
僕を見る。
「ソル」
「何?」
「お主」
一拍。
「最後に家へ帰ったのは」
「……」
「いつじゃ」
「え?」
考える。
最後。
いつだ?
アステリア。
ローディア。
樹海。
ヴァルガルド。
セレフィア。
アルカディア。
魔族領。
世界会談。
アウレストラ。
そして。
また。
セレフィア。
「……」
「……」
ベラの目。
細くなる。
「お主」
一拍。
「覚えておらぬな?」
「……」
「いや」
「覚えておらぬな?」
「……はい」
ベラが。
大きく。
ため息。
「帰れ」
「でも」
「帰れ」
「次の訓練が」
「まだ決まっておらぬ」
「ルナの記録も」
「一通り確認した」
「アウレストラの」
「アルカディアが調査しておる」
「天使が」
「今すぐ来るという情報はない」
全部。
潰された。
「……」
僕は。
黙る。
その時。
通信。
『私も』
アン。
「え?」
『帰った方がいいと思う』
「アンまで!?」
『うん』
「なんで!?」
『なんでって』
一拍。
『家でしょ?』
「そうだけど!」
教皇も。
微笑む。
「私も」
一拍。
「賛成です」
「教皇まで!?」
アルヴィス。
静かに。
「良い機会かと」
「アルヴィスも!?」
セラ。
『私も賛成です』
「セラまで!」
ガレス。
腕を組む。
「帰れ」
「ガレスまで!?」
レオンハルト。
少し考えて。
「帰るべきだろう」
「今日会ったばっかりなのに!?」
何これ。
全員。
僕を。
家へ帰そうとしている。
「なんで」
一拍。
「急にみんな」
「……」
「僕のお母さんみたいになるの!?」
一瞬。
静かになる。
ベラが。
吹き出した。
アンも。
通信の向こうで笑う。
教皇。
口元。
押さえている。
ガレスまで。
顔を逸らした。
「笑わないでよ!」
「いや」
ベラが。
涙を拭う。
「すまぬ」
「絶対思ってない!」
「じゃがの」
一拍。
ベラの声が。
少しだけ。
優しくなる。
「帰ってこい」
「……」
「世界を守るのも」
「……」
「強くなるのも」
「……」
「大事じゃ」
僕は。
ベラを見る。
「じゃが」
一拍。
「お主は」
「……」
「まだ」
少し。
間。
「世界だけを」
一拍。
「背負って生きるような」
「……」
「歳ではない」
「……」
何も。
言えなかった。
ベラが。
笑う。
「次の訓練が決まれば」
一拍。
「迎えに行ってやる」
「本当?」
「うむ」
「忘れない?」
「妾を何だと思っておる」
僕は。
少し考える。
「八百七十年前の教育係の娘に」
一拍。
「今でも怒られてる人」
「ソル!」
会議室。
笑い。
広がる。
僕も。
笑った。
そして。
少しだけ。
考える。
家。
いつから。
帰っていないんだろう。
ずっと。
前へ。
進んできた。
色んな場所へ行った。
色んな人と出会った。
色んなことを知った。
僕自身も。
変わった。
だったら。
一度くらい。
戻っても。
いいのかもしれない。
「分かった」
僕は。
頷く。
「帰る」
ベラが。
満足そうに。
頷いた。
「うむ」
次の合同訓練まで。
少しだけ。
時間がある。
だから。
僕は。
帰ることになった。
始まりの場所へ。
世界を救うとか。
天使と戦うとか。
そんなことを。
何も知らなかった頃。
僕が。
ただの。
ソルだった場所へ。
久しぶりに。
家へ。
帰る。




