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矛と盾

第103話 矛と盾

轟音。

ガレスの大剣と。

レオンハルトの盾が。

真正面から激突した。

「っ……!」

衝撃。

訓練場の地面が。

二人を中心にひび割れる。

レオンハルトの白い外套が。

大きく揺れた。

でも。

下がらない。

「ほう」

ガレスが笑う。

「受けるか」

「この程度で」

レオンハルトが。

盾越しにガレスを見る。

「聖騎士の盾が」

一拍。

「退くと思ったか」

「いいや」

ガレスの腕。

さらに。

力が入る。

「だから」

一拍。

「面白い」

レオンハルトの目が。

僅かに見開かれる。

次の瞬間。

盾を傾けた。

「なっ」

ガレスの大剣が。

滑る。

力の方向を。

逸らされた。

レオンハルト。

一歩。

踏み込む。

「《返光》」

銀光。

盾の陰から。

長剣が走る。

速い。

「ガレス!」

僕が叫ぶ。

でも。

ガレスは。

笑っていた。

身体を捻る。

刃。

ガレスの鎧。

表面を掠める。

直後。

ガレスの大剣が。

下から跳ね上がる。

レオンハルト。

盾。

激突。

「っ!」

今度は。

レオンハルトの身体が。

後ろへ滑った。

一メートル。

二メートル。

三メートル。

それでも。

倒れない。

地面に。

二本の跡を残して。

止まる。

静寂。

魔王軍。

聖騎士団。

両方から。

小さなどよめき。

僕も。

思わず息を吐く。

「速い……」

ガレスの大剣。

あれだけ大きいのに。

振り回しているようには。

見えない。

必要な場所へ。

必要な瞬間。

正確に。

刃を置いている。

「ガレスって」

一拍。

「やっぱり」

「強いじゃろ」

隣。

ベラが言う。

「うん」

でも。

僕は。

レオンハルトを見る。

「あの人も」

「ああ」

レオンハルト。

盾を構え直している。

呼吸。

乱れていない。

さっきの一撃。

完全には。

受けていない。

衝撃を。

後ろへ逃がした。

「ガレスとは」

一拍。

「真逆じゃ」

ベラが言う。

「真逆?」

「ガレスは」

「……」

「相手を崩す」

一拍。

「レオンハルトは」

「……」

「己を崩させぬ」

僕は。

二人を見る。

矛。

盾。

まさに。

そんな戦いだった。

通信魔法の向こう。

アンも。

黙って見ている。

セラが。

その隣で。

何かを書き留めていた。

他国の首脳たちも。

誰一人。

目を離さない。

レオンハルトが。

盾を軽く上げる。

「今の一撃」

一拍。

「見事だ」

ガレスが。

大剣を肩へ担ぐ。

「お前もな」

「だが」

レオンハルト。

剣を構える。

「次は」

一拍。

「受けるだけではない」

ガレスが。

口元を上げる。

「来い」

レオンハルトが。

動いた。

速い。

ガレスへ。

一直線。

「《聖閃》」

剣。

白い魔力。

一瞬で。

三度。

閃く。

上。

右。

左。

「っ!」

ガレス。

一撃目。

大剣で弾く。

二撃目。

身体を逸らす。

三撃目。

鎧。

僅かに。

斬れる。

「おお!」

魔王軍から。

声。

聖騎士団からも。

どよめき。

レオンハルトは。

止まらない。

盾。

前へ。

ガレスの胸へ。

打ち込む。

でも。

「甘い」

ガレスの左手。

盾の縁を。

掴む。

「なに?」

レオンハルトの表情が。

初めて変わる。

ガレス。

そのまま。

引く。

「来い」

「っ!」

レオンハルトの身体が。

前へ崩れる。

そこへ。

大剣。

横薙ぎ。

「《剛牙》」

魔力。

爆発。

レオンハルト。

即座に。

盾を戻す。

「《聖盾》!」

白い光。

盾を覆う。

激突。

轟音。

「ぐっ……!」

今度は。

レオンハルトが。

大きく吹き飛ぶ。

地面。

一度。

二度。

靴が跳ねる。

それでも。

倒れない。

盾を地面へ。

突き立てる。

止まった。

「団長!」

聖騎士たち。

思わず。

声を上げる。

レオンハルトは。

ゆっくり。

顔を上げる。

盾。

白い魔力。

残っている。

でも。

中心には。

一本。

大きな傷。

「……」

レオンハルトが。

盾を見る。

そして。

ガレスを見る。

「凄まじい力だな」

「力だけなら」

一拍。

「魔王軍にも」

「……」

「俺より上はいる」

レオンハルトの目が。

僅かに細くなる。

「それを」

一拍。

「軍隊長が言うのか」

「強さだけで」

ガレスが答える。

「軍は率いられん」

僕は。

ガレスを見る。

その言葉。

少し。

意外だった。

ベラは。

笑っている。

「覚えておけ、ソル」

「え?」

「今の言葉じゃ」

ガレスが。

大剣を構え直す。

「強い者と」

一拍。

「軍を率いる者は」

「……」

「同じではない」

僕は。

黙って。

ガレスを見る。

軍隊長。

魔王軍を。

率いる男。

ただ。

一番強いから。

そこにいるわけじゃない。

レオンハルトも。

同じ。

だから。

二人とも。

軍の頂点にいる。

「……うん」

戦い。

続く。

ガレス。

今度は。

大剣を。

地面へ向ける。

「次だ」

魔力。

刃から。

地面へ。

流れる。

レオンハルトが。

気づく。

「来るぞ!」

後ろ。

聖騎士たちへ。

思わず叫んだ。

模擬戦なのに。

身体が。

軍を守るために。

動いている。

ガレスの目が。

僅かに動く。

それを。

見た。

「《砕陣》」

大剣。

地面へ。

叩き込む。

爆発。

地面を走る。

巨大な衝撃。

一直線。

レオンハルトへ。

「《聖壁》!」

盾。

地面へ。

突き立てる。

白い魔法陣。

展開。

レオンハルトの前。

巨大な。

光の壁。

衝撃。

激突。

訓練場。

揺れる。

「うわっ!」

僕も。

腕で顔を覆う。

風。

砂。

石。

舞い上がる。

でも。

光の壁。

残っている。

その後ろ。

聖騎士たち。

無傷。

僕は。

目を見開く。

「後ろまで……」

ベラが。

頷く。

「そうじゃ」

「自分だけじゃない」

「あれは」

一拍。

「己を守る盾ではない」

光の壁。

レオンハルト。

その後ろ。

仲間。

「軍を」

一拍。

「守るための盾じゃ」

胸。

少し。

熱くなる。

アルデバラン。

思い出す。

守る力。

自分が。

耐えるだけじゃない。

後ろにいる人を。

守る。

僕の。

《星域》も。

同じ。

「……」

もっと。

見たい。

この人の。

戦い方。

光の壁が。

消える。

レオンハルト。

まだ。

立っている。

ガレスが。

笑う。

「いい盾だ」

「貴殿の攻撃も」

一拍。

「悪くない」

「悪くない?」

ガレスの眉が。

僅かに動く。

レオンハルト。

真顔。

「褒めている」

「そうは聞こえんな」

「ならば」

一拍。

「受け取り方の問題だ」

「……」

ガレスの額。

僅かに。

青筋。

僕は。

ベラを見る。

「この二人」

一拍。

「合わないんじゃない?」

「妾は」

一拍。

「合うと思うぞ」

「どこが?」

「見ておれ」

ガレス。

動く。

今度は。

真正面じゃない。

右。

レオンハルト。

盾。

向ける。

ガレス。

止まる。

左。

「……?」

また。

止まる。

レオンハルトの視線が。

ガレスを追う。

一歩。

ガレスが。

踏み込む。

盾。

動く。

その瞬間。

ガレスの目が。

鋭くなる。

「見えた」

レオンハルトの表情。

変わる。

ガレス。

地面を蹴る。

「《瞬牙》」

消えた。

「っ!」

僕の目でも。

一瞬。

見失う。

次。

レオンハルトの。

左。

盾と。

剣。

その間。

ほんの。

僅かな隙。

そこに。

ガレス。

「なっ」

大剣。

振る。

レオンハルト。

身体を捻る。

盾。

間に合わない。

剣。

大剣を。

逸らす。

火花。

ガレスの刃。

レオンハルトの肩。

寸前を。

通過。

レオンハルト。

距離を取る。

「……」

初めて。

呼吸が。

少し乱れる。

ガレスが。

大剣を肩へ。

「左へ動いた時」

一拍。

「盾が」

「……」

「僅かに遅れる」

レオンハルト。

黙る。

「最初から」

一拍。

「見ていたのか」

「当然だ」

ガレスが答える。

「戦場で」

一拍。

「相手を見るのは」

「……」

「当たり前だろう」

通信の向こう。

アステリア王が。

僅かに身を乗り出す。

ヴァルガルドの代表も。

何か。

側近へ話している。

アンは。

何も言わない。

でも。

少しだけ。

笑っている。

僕は。

ようやく分かる。

ガレス。

力だけじゃない。

戦いながら。

ずっと。

見ていた。

盾の角度。

足。

剣。

癖。

そして。

隙。

「すごい……」

「じゃから」

ベラが言う。

「ガレスは」

一拍。

「軍隊長なのじゃ」

でも。

レオンハルト。

俯かない。

むしろ。

少し。

笑った。

「感謝する」

ガレスの眉が。

動く。

「何?」

「自分では」

一拍。

「気づいていなかった」

盾を。

構え直す。

「ならば」

一拍。

「今」

「……」

「直せばいい」

ガレス。

一瞬。

黙る。

そして。

笑った。

「……気に入らんな」

「奇遇だ」

レオンハルトも。

僅かに笑う。

「私もだ」

二人。

再び。

構える。

でも。

さっきとは。

違う。

互いに。

分かった。

目の前の男。

強い。

ガレスの魔力が。

上がる。

レオンハルトも。

白い魔力を。

全身へ。

纏い始める。

「……ベラ」

「ああ」

僕にも。

分かる。

次。

来る。

大きいのが。

ガレス。

大剣を。

両手で握る。

魔力。

刃へ。

集まり始める。

大量の。

魔力。

でも。

外へ漏らさない。

大剣。

その一本へ。

圧縮していく。

地面。

ガレスの足元。

ひび割れる。

空気。

震える。

魔王軍。

表情が変わる。

「隊長……」

一方。

レオンハルト。

盾を。

地面へ。

突き立てた。

両手。

盾へ。

「我が前に」

白い魔法陣。

一つ。

「一壁」

二つ。

「二壁」

三つ。

四つ。

五つ。

巨大な。

光の壁が。

何重にも。

レオンハルトの前へ。

展開される。

聖騎士たち。

息を呑む。

「《聖城》……」

僕は。

その光景を見る。

壁。

というより。

城。

レオンハルト。

一人を中心に。

巨大な。

要塞が。

出来上がっていく。

「《聖城・アイギス》」

光。

訓練場を。

白く照らす。

僕は。

思わず。

《明星》へ手を置いていた。

「すごい……」

ベラも。

目を細める。

「なるほど」

一拍。

「聖騎士長」

「……」

「伊達ではないの」

対する。

ガレス。

大剣。

黒く。

濃い魔力。

纏う。

大きく。

息を吐く。

その時。

通信。

アン。

『ガレス』

ガレスが。

僅かに視線を向ける。

『壊さないで』

「何をだ」

『訓練場』

「善処する」

『絶対壊すじゃん』

セラが。

横から。

『修繕費は』

一拍。

『魔王軍の予算から出します』

「待て」

『続けてください』

「セラ!」

僕は。

思わず笑う。

でも。

次の瞬間。

笑えなくなった。

ガレス。

大剣。

持ち上げる。

魔力。

さらに。

圧縮。

重い。

離れている。

僕のところまで。

圧が来る。

レオンハルト。

盾の後ろ。

動かない。

二人。

目が合う。

ガレスが。

言う。

「受けてみろ」

レオンハルト。

答える。

「来い」

ガレス。

一歩。

踏み込む。

「《魔断》」

大地。

沈む。

二歩目。

「――《轟天》!!」

振り下ろす。

巨大な。

魔力の斬撃。

地面を削りながら。

レオンハルトへ。

突き進む。

「《聖城・アイギス》!!」

激突。

第一障壁。

一瞬。

砕ける。

「っ!」

第二。

破壊。

第三。

ひび。

レオンハルト。

盾を押す。

「まだだ!」

第三。

砕ける。

第四。

衝突。

轟音。

魔力。

白と黒。

ぶつかる。

訓練場。

揺れる。

聖騎士たち。

踏ん張る。

魔王軍も。

腕で顔を覆う。

僕は。

《星装》を纏う。

「すご……!」

第四障壁。

砕ける。

残り。

一枚。

レオンハルト。

歯を食いしばる。

「通さん!」

ガレス。

大剣を。

さらに。

押し込む。

「なら!」

一拍。

「守り切ってみろ!!」

最後の障壁。

ひび。

一本。

二本。

全体へ。

広がる。

レオンハルトの足。

地面へ。

沈む。

「ぐっ……!」

ガレス。

吠える。

「砕けろ!!」

破砕。

最後の障壁。

砕け散る。

白い光。

爆発。

「っ!!」

何も。

見えない。

砂煙。

光。

魔力。

訓練場全体。

包まれる。

「ガレス!」

「団長!」

両軍。

声が飛ぶ。

少しずつ。

煙が。

晴れる。

影。

二つ。

僕は。

目を凝らす。

「……」

ガレス。

立っている。

大剣。

その刃。

レオンハルトの。

肩口。

寸前。

止まっている。

「……ガレスの」

勝ち。

そう。

思った。

でも。

違う。

「え?」

レオンハルトの。

長剣。

その切っ先。

ガレスの。

喉。

寸前。

止まっていた。

互いに。

動かない。

ガレスの大剣は。

レオンハルトへ。

届いている。

レオンハルトの剣も。

ガレスへ。

届いている。

静寂。

誰も。

すぐには。

声を出せない。

アルヴィスが。

二人を見る。

大剣。

肩口。

剣。

喉元。

そして。

砕かれた。

《聖城・アイギス》。

少し。

考える。

「勝者」

一拍。

「ガレス」

魔王軍。

歓声。

上がる。

でも。

ガレスは。

動かない。

「いや」

歓声が。

止まる。

ガレスが。

大剣を下ろす。

レオンハルトも。

剣を引く。

「違うな」

アルヴィスが。

ガレスを見る。

「と、言いますと?」

ガレス。

自分の喉へ。

触れる。

「実戦なら」

一拍。

「俺も」

「……」

「死んでいる」

レオンハルトが。

盾を見る。

《聖城・アイギス》。

完全に。

破壊されている。

「だが」

レオンハルトが言う。

「私の守りは」

一拍。

「突破された」

「それでも」

「勝敗は勝敗だ」

「なら」

ガレスが。

少し考える。

「一勝一敗だな」

レオンハルト。

黙る。

「……」

「なんだ」

「我々は」

一拍。

「一戦しか」

「……」

「していないが」

「細かい男だな」

「貴殿が」

一拍。

「大雑把すぎる」

「何?」

「事実だ」

「……」

「……」

二人。

睨み合う。

僕は。

ベラを見る。

「やっぱり」

一拍。

「仲悪くない?」

ベラは。

笑っている。

「いや」

「え?」

「逆じゃ」

ガレス。

突然。

笑う。

「はっ」

レオンハルトも。

一瞬。

驚く。

そして。

僅かに。

笑った。

「ふっ」

ガレスが。

手を出す。

「ガレスだ」

レオンハルトが。

その手を見る。

「先ほど聞いた」

「もう一度だ」

「意味が分からんな」

そう言いながら。

レオンハルトも。

手を出す。

握る。

今度は。

力比べじゃない。

「レオンハルトだ」

「ああ」

「次は」

一拍。

「負けん」

ガレスが。

笑う。

「次も」

一拍。

「俺が勝つ」

「だから」

レオンハルトが。

少し笑う。

「一勝一敗ではない」

「まだ言うか」

二人。

手を離す。

魔王軍。

聖騎士団。

そして。

各国首脳。

その光景を。

見ていた。

通信の向こう。

アンが。

静かに言う。

『……いいね』

セラも。

頷く。

教皇も。

微笑んでいる。

僕は。

ガレスを見る。

今日。

初めて知った。

ガレスが。

どうして。

魔王軍の軍隊長なのか。

そして。

レオンハルト。

守る力。

軍を。

仲間を。

背後にいる者を。

守るための盾。

「ソル」

ベラが。

僕を見る。

「はい」

「次」

「……え?」

嫌な予感。

ベラ。

笑う。

その向こう。

レオンハルトも。

何故か。

僕を見ている。

「待って」

僕は。

一歩。

下がる。

「まさか」

ガレスが。

大剣を担ぎ直す。

「ちょうどいい」

「何が!?」

レオンハルトも。

盾を構え直す。

「私も」

一拍。

「興味がある」

「何に!?」

「太陽宮へ入り」

「……」

「魔王軍軍隊長とも」

一拍。

「何度も剣を交えた少年」

僕は。

ベラを見る。

「ベラ」

「よかったの、ソル」

「何が!?」

ベラが。

楽しそうに笑う。

「次は」

一拍。

「お主の番じゃ」

ガレスと。

レオンハルト。

二人の視線が。

僕へ向く。

「……」

僕は。

《明星》を見る。

そして。

ため息。

「休憩くらい」

一拍。

「挟もうよ……」

五百年ぶりに始まった。

人間と魔族の。

合同訓練。

その最初の一戦は。

魔王軍と。

聖騎士団。

互いの力を。

世界へ示した。

そして。

僕にとっても。

新しい戦いが。

始まろうとしていた。


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