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アート オブ エデン  作者: M-47


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10/13

近藤・ブリリアント・ダイアモンド・エターナル・ミラクル・ラブリー・レインボー・はじめ

ピッ、ピッ、ピッ。


軽快な電子音で目が覚めた。


「現在時刻は六時三十分です」


シナが淡々と告げる。


「起床時間に合わせた完璧なタイミングです」


そして一拍置き、


「神代真人様の記録、ディレクターズカット版でした」


と付け加えた。


「うう……」


最初に起き上がったのはユナだった。


「とても疲れました……」


「夢の内容が壮絶すぎます……」


顔色もあまり良くない。


対照的に、相馬は大きく伸びをした。


「そうか?」


「俺は久しぶりにのんびり休めた気がするぞ」


「ありがとう、シナ」


「いえいえ、とんでもございません」


シナは丁寧に一礼する。


「夜中に何度か相馬様をお尋ねになられた方がおりましたが」


「現在、相馬様はユナ様、フリット様と共に仲良く三人でお眠り中です、とお断りしておきました」


相馬は頭痛と吐き気を覚える。


その時だった。


「ちょっと待ったァァァ!!」


フリットが勢いよく飛び起きた。


三人の視線が一斉に集まる。


「神代真人って神代先生のご子息なんですか!?」


「というかご子息いたんですか!?」


「え!?いたんですか!?」


一人だけ話が三歩先へ進んでいる。


「落ち着け」


相馬が額を押さえた。


「とりあえず状況を整理しよう」


フリットは深呼吸を一つした。


しかし興奮は収まっていない。


「俺も詳しくは知らんが、あれは神代久喜で間違いないのか?」


「ええ、間違いありません」


フリットは即答した。


「間違えるはずがありません」


「私、先生の論文ほぼ全部読んでますから」


「どなたなんですか?」


ユナが首を傾げる。


待ってましたと言わんばかりにフリットが前へ出た。


「神代久喜先生はAI戦争を経験し、ユニット開発に携わり、その後も数々の技術革新を主導した天才研究者です」


「引退した今でも最先端技術への影響力は絶大」


「研究者なら知らない人はいません」


途中から完全に早口だった。


しかし相馬は別の疑問を抱く。


「待て」


「AI戦争経験者であれば、年齢がおかしくないか?」


フリットもそこで言葉を止めた。


確かにおかしい。


記録の中の久喜は初老だった。


単純に計算しても五十歳くらいで子供を授かってる事になる。


「でも」


ユナが口を開く。


「真人さんは確かにお父さんって呼んでましたよね」


部屋に沈黙が落ちる。


謎は増えるばかりだった。


相馬は腕を組む。


「とりあえず方針は決まったな」


「真人を探すなら現地調査」


「それと神代久喜本人を当たる」


「この二つだ」


誰も異論はなかった。


だが――


相馬は記録装置へ目を向ける。


ユニティが欲した男。


レガシーが欲した男。


その両方から追われた人間。


神代真人。


「……非常に興味深いな」


誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。


しかし急がなくてはいけない。


「フリット、まずはシナの発信器を――」


相馬が言い終わる前だった。


研究室の扉が勢いよく開かれる。


「全員動くな!」


鋭い怒声。


「作業を中断しろ!」


室内の空気が一瞬で張り詰めた。


全員の視線が入口へ向く。


そこには武装したユニティ隊員たち。


そして先頭に立つ男がいた。


「ユニティ保安局所属」


「久我 楓だ」


男は令状を掲げる。


「捜査令状に基づき、当施設の捜索を行う」


「悪いが全員協力してもらう」


相馬が小さく舌打ちした。


遅かった。


だが、まさかここまで早く動くとは。


久我も相馬に気付く。


「ああ、」


「相馬さんもここにいたんですね」


どこか皮肉の混じった笑み。


相馬は肩を竦めた。


「久我・ヴィクター・楓」


「久しぶりだな」


「ええ」


久我は頷く。


「あなたがユニティを辞めてオリジンへ移ったと聞いた時は驚きましたよ」


「あなたらしくもない」


「そうでもないさ」


相馬は笑う。


「案外こういう仕事の方が向いてるのかもしれん」


「またぬるい事を」


久我はため息を吐く。


その様子を見て相馬がニヤリとした。


「そういうお前も、まだ俺に憧れてフルネームを名乗らないのか?」


沈黙。


次の瞬間。


「ちちち、ち、いがう!」


久我の顔が真っ赤になった。


「語呂がいいからです!」


「それにあなたへの憧れなんて、とっくに卒業しました!」


「そうか」


相馬は楽しそうに笑う。


「それは残念だな」


「お前が入隊した頃は――」


「それ以上言うな!」


久我が震えながら叫ぶ。


ユナが小声で尋ねた。


「そういえば、相馬リーダーはミドルネームないんですか?」


「ああ」


相馬は頷く。


「うちは日本人意識が強い家系でな」


「ミドルネームを付けてない」


「それを聞いたこいつが勝手に――」


「やめろ!」


久我が即座に遮る。


室内に小さな笑いが漏れた。


だが。


久我の表情が変わる。


それだけで空気が凍った。


「……お遊びはここまでだ」


先ほどまでの照れた顔は消えていた。


ユニティ保安局の人間の顔。


「本題に入る」


久我はシナを見る。


「先日オリジンが回収したM-47」


「その引き渡し命令が発令された」


相馬の眉が動く。


確定している。


つまりユニティはシナの存在を把握している。


確信を持ってここへ来た。


「絶対にシナは渡さない!」


ユナが叫んだ。


その瞬間。


ガチャッ。


周囲の隊員たちが一斉に銃を構える。


「黙れ」


久我の声は冷たい。


「子供の遊びじゃない」


「これは大量殺人犯に関する重要証拠の押収だ」


「発砲許可も取得済みだ」


「もしM-47を庇うなら共犯として拘束する」


「抵抗するなら射殺も辞さない」


ユナが前へ出ようとする。


だが相馬が肩を掴んだ。


「やめろ」


低い声だった。


相馬は久我を見る。


「事情はどうあれ、シナはオリジンが回収したものだ」


「正式な手続きを踏んで引き渡す」


ユナが信じられないという顔で相馬を見る。


久我は令状を軽く振った。


「正式な手続きなら」


「この令状一枚で十分です」


そしてゆっくりとシナへ視線を向けた。


「あなたたちが何を感じているのかは分かりません」


「ですが――」


「ユニティがM-47を回収するという事実は変わらない」


張り詰めた緊張感の中、研究室の扉がノックされた。


「お取り込み中、失礼いたします」


オリジン職員が一礼する。


「支部長がお見えです」


その言葉と同時に、扉が勢いよく開かれた。


「銃を下ろしなさい!」


研究室に凛とした声が響き渡る。


隊員たちが反射的に振り向いた。


「この近藤・ブリリアント・ダイアモンド・エターナル・ミラクル・ラブリー・レインボー・はじめが統括するオリジン東方圏第七調査支部において、勝手な発砲は許さないわよ!」


派手な衣装。


派手な化粧。


そして派手すぎる名前。


オリジン東方圏第七調査支部長。


近藤・ブリリアント・ダイアモンド・エターナル・ミラクル・ラブリー・レインボー・はじめ。


「お見知りおきを♡」


研究室が静まり返る。


その沈黙を破ったのはユナだった。


「近藤はじめ支部長……」


「愛を省略するんじゃないわよ♡」


聞こえていたらしい。


近藤は満足そうに頷くと、今度は久我へ視線を向けた。


「あらぁ♡」


「ヴィクターちゃんじゃない」


「お久しぶりねぇ♡」


久我の眉がぴくりと動く。


「その呼び方はやめてください」


そう言って手を上げると、隊員たちは一斉に銃を下ろした。


「ところで今日は何の用なのかしら?」


「そちらの機体の回収です」


久我は懐から令状を取り出した。


「令状はこちらに」


近藤は受け取ると、その場で内容に目を通し始める。


「ふーん」


「なるほどねぇ」


「ふむふむ」


やがて書類から顔を上げた。


その視線がちらりと相馬へ向く。


「令状は本物」


「回収権限もユニティ側にある」


そして驚くほどあっさりと言った。


「持っていきなさい」


研究室がざわつく。


「そんな!」


ユナが思わず声を上げた。


「支部長! それはあんまりです!」


「ありがとうございます」


久我は小さく頭を下げる。


「では――」


「ただし」


近藤の声がそれを遮った。


久我の足が止まる。


「こっちにも調査権限は残ってるのよ」


「なにも渡さないなんて言ってないわ」


近藤は扇子をぱたぱたと仰ぎながら何かを考え込む。


そして突然、ぱっと顔を輝かせた。


「そうだわ♡」


その場にいた全員が嫌な予感を覚えた。


「ヴィクターちゃんと相馬ちゃん」


「二人で模擬戦しなさい♡」


「は?」


久我と相馬の声が見事に重なった。


「もしヴィクターちゃんが勝てば、今すぐ持っていけばいい」


「相馬ちゃんが勝てば、こっちの調査終了後に正式な手続きを踏んでユニティへ引き渡す」


近藤は満面の笑みで扇子を閉じた。


「どうかしら?」


久我は黙り込む。


数秒の沈黙。


すると背後のユニティ隊員たちがざわつき始めた。


「隊長、それは――」


「騒ぐな」


たった一言。


それだけで研究室は静まり返った。


久我はゆっくりと相馬を見る。


そして口元をわずかに歪めた。


「良いでしょう」


「この僕が老骨に負けるとでも?」


相馬は深いため息をつく。


「面倒なことになったな」




実験棟内運動施設。




「武器の使用は禁止!」


近藤が高らかに宣言する。


「己の肉体のみで証明して見せなさい!」


ユナが心配そうに見守る中、相馬と久我は装備を外していく。


そこでユナは気付いた。


「あれ?」


周囲を見回す。


「シナがいない」


フリットの姿も見当たらない。


「どこ行ったんだろう……」


しかし考える暇もなかった。


「くぅ〜っ♡」


近藤が身悶えする。


「相馬ちゃんの上着に隠された筋肉!」


「対してヴィクターちゃんの若さ故の引き締まった筋肉!」


「どちらも捨てがたいわぁ♡」


誰も反応しない。


開始時刻が迫っていた。


相馬と久我が向かい合う。


互いに無言。


視線だけがぶつかる。


「試合は一ラウンド五分」


近藤が説明を始める。


「気絶、もしくはギブアップで終了」


「いいわね?」


二人が頷いた。


近藤が大きく息を吸う。


「こんどー、はじめ♡」


その瞬間だった。


二人が同時に踏み込む。


一気に距離が消える。


拳。


肘。


膝。


蹴り。


鈍い衝突音が施設に響いた。


ユナは息を呑む。


模擬戦には見えなかった。


殺し合いだ。


自分より遥かに大きな男たちが本気でぶつかり合っている。


床に血が落ちる。


歯を食いしばる音が聞こえる。


そして何より。


相馬の顔。


普段の穏やかな表情はどこにもなかった。


ユナは声を出せない。


ただ見守ることしかできなかった。




開始から三分二十秒。




試合が動く。


相馬の蹴りが久我の膝へ突き刺さった。


ガリンッ!


金属が軋む音。


久我の体勢が崩れる。


相馬は逃さない。


追撃の蹴りが放たれる。


決まった。


ユナはそう思った。


しかし。


「前と同じです」


久我が口を開く。


「あなたがまだユニティにいた頃」


「何度もしごかれました」


静かな声だった。


「そして敗因は機械である僕の足」


久我はゆっくり立ち上がる。


「関節に負荷を与え続ければ壊れる」


「あなたはそれを理解していた」


相馬の表情が僅かに変わる。


「ですが」


久我が続けた。


「今は違う」


受け止めた足を掴んだまま、もう片方の足を払った。


相馬の体が浮く。


次の瞬間には床へ叩きつけられていた。


久我が腕を固める。


完全な制圧。


「素材も性能も進化しています」


「人間の蹴り程度では壊れませんよ」


数秒の沈黙。


やがて相馬が口を開く。


「ギブアップだ」


試合終了。


四分四十六秒。


勝者。


久我・ヴィクター・楓。


ユニティ隊員たちが安堵の息を吐く。


久我は手を離した。


「あの子は連れていきます」


「ああ」


相馬は短く答えた。


久我が立ち上がる。


接続者(コネクテッド)では、拡張者(エクステンド)には勝てません」


その言葉には誇張も皮肉もなかった。


ただ事実を述べているだけだった。


「あらあら、残念ねぇ♡」


近藤が割って入る。


いつの間にかタオルと水を持っていた。


「お疲れ様♡」


ついでに二人の腕や肩を触り回している。


「近藤支部長」


「セクハラです」


「褒めてるのよ♡」


さっきまでの殺気はもうない。


だが現実だけは変わらなかった。


シナは連れて行かれる。


ユナは俯く。


そんな彼女の頭上から近藤の声が降ってきた。


「そんな可愛くない顔しないの」


「女は愛嬌よ♡」


そして耳元で小さく囁く。


「今フリットちゃんが頑張ってくれてるから♡」


ユナが顔を上げる。


「もちろん引き渡すことにはなるわ」


「でもタダでは渡さない」


近藤が意味深に笑った。


ユナの表情が少しだけ明るくなる。


その時だった。


「一つ聞いていいか?」


相馬が久我を呼び止めた。


「なんです?」


「お前はストライカーやディフェンダーに勝てるか?」


久我は少し考える。


「勝てます」


そして付け加える。


「銃を持っていなければ、ですけど」


「そうか」


相馬は頷く。


「なら十体相手なら?」


久我は真顔になった。


そして。


「ボケたんですか?」


即答だった。


「十体を相手にするなんて」


「人間じゃ勝てませんよ」


相馬は静かに笑った。


「そうか」


「貴重な意見だ」


久我は首を傾げながら去っていく。


ユナと相馬の視線が合った。


「勝てなくてすまなかった」


「いいえ」


ユナは首を振る。


「私は何もできませんから」


相馬は肩を叩いた。


「お前の得意分野を活かせ」


「人には向き不向きがある」


ユナは目元を拭う。


その時だった。


「そーれーよーりーもー!」


聞き慣れた声と共に、ドスドスと床を鳴らしながら近藤がやってくる。


「相馬ちゃん!」


「あんた何負けてんのよ!」


「せっかくあたくしが時間稼ぎしてあげたのに!」


相馬は苦笑した。


「歳ですよ、歳」


そう呟く目は。


どこか嬉しそうだった。




               近藤はじめ end...

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