第8話 配信に映った非常灯
非常灯は、嘘をついても点滅順までは変えられない。
灯里が持ってきたのは、崩落直前に探索者が配信していたアーカイブ映像だった。スポンサー案件で、第五搬路の『安全な見学ルート』を歩くという企画。画面の端には通路天井の非常灯が一瞬だけ映っている。
「ここ、見てください」
灯里がコマ送りを止める。通常なら出口側から順に青く点くはずの誘導灯が、途中だけ逆方向へ流れていた。
「制御盤を書き換えています」
私は即答した。
「出口じゃなく、見学ステージ側へ人を流す設定です」
「そんなことできます?」
「通常運用じゃ無理です。でも閉鎖区画の旧制御盤なら、現場側で手動変更できます」
つまり、誰かが配信映えのために、非常灯の『正解』そのものを書き換えた。
私は動画の停止画面へ触れた。【逆算】が走る。点滅順を書き換える手、制御盤の鍵、慌てて閉じたカバー。最後に残ったのは、ひよりの名札ストラップに似た細い青紐だった。
「早宮ひよりが触った可能性があります」
灯里が眉を上げる。
「記事にできます?」
「まだダメです。証拠が足りない」
「じゃあ私は、この動画が消されないように別保存します」
配信記者らしい判断だった。派手な正義感ではなく、まず消されないようにする。現場の仕事に近い。
非常灯の逆流は、崩落より前に始まった導線改ざんの確かな跡だった。




