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第4話 消えた避難標識

標識が一本消えると、人の流れまで消される。


 翌朝、私は閉鎖区画の回収物置き場をひっくり返していた。鷹城が特例で現場立ち入り許可を出してくれたのだ。崩落現場から拾われた標識金具、割れた非常灯カバー、ちぎれた結束帯。その中に、第五搬路出口を示す青い矢印板だけがない。


「撤去記録は残っていません」


 私はタブレットを見せる。


「なら、盗られたってことか」


「少なくとも正規の作業ではありません」


 鷹城は壁の擦れ跡を見た。標識が付いていた高さに、新しい工具痕が残っている。


「現場を知る人間の仕事だな」


「しかも急いでいます。結束帯の切り口が雑すぎる」


 私は【逆算】を意識しながら壁へ触れた。瞬間、白い線が走る。標識を外した手袋、廊下を走る細い靴、立入禁止札を脇へ寄せる動き。顔までは見えない。ただ、現場カメラの死角を迷いなく通っている。


「監視の穴を知っている人です」


「安全監査室か保守課か」


「あるいは、その両方に出入りできる人」


 私は言いながら、昨日の会議室を思い出した。逆向きになっていた第五搬路の矢印。ひよりが手柄を語るとき、やけに具体的に言っていた『迷わず誘導できた理由』。


 導線を壊した人間は、壊したあとに誰が助けるかまで計算している。


 それが妙に、私には腹立たしかった。


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