第2話 左遷先は閉鎖区画
閉鎖区画の夜は、資料の紙まで冷えている。
東環ダンジョン地下七階の資料庫は、もう使われなくなった避難図と封鎖記録の墓場だった。鉄扉の向こうには古い標識、撤去済みの非常灯、使われなかった警報盤。現場から外された人間へ与えるには、ちょうどいい追放先だ。
私は異動初日の二十三時過ぎ、五年前の封鎖記録を棚へ戻していた。すると館内警報が鳴った。
『閉鎖区画南端で崩落。救助隊、第三隔壁前集合』
資料庫の扉が荒く開く。救助隊長の鷹城蓮司が、粉塵を肩につけたまま立っていた。三十六歳。必要な言葉しか持たない顔をしている。
「この先の旧搬路を知っているか」
「図面なら」
「今は図面じゃ遅い。崩落で主通路が埋まった。最短で迂回できる道を出せるか」
閉鎖区画の図は古い。更新されていない箇所も多い。私はためらいながらも図面棚を開いた。そこには先月廃棄されたはずの補助導線図まで残っている。
「第五隔壁裏に旧点検路があります。ただ、三年前に封鎖されたので」
「使えるかどうかだけ知りたい」
そのとき、棚の端に積まれた非常灯ユニットがかすかに震えた。私は反射的にそれへ触れた。
白い線が、視界の奥へ一本走る。
崩落地点から逆向きに、点滅する非常灯、倒れた標識、外されたバリケード、そして誰かが最後に走った足跡まで。
「……こっちです」
私は図面ではなく、自分の見えた線を指していた。
閉鎖区画は、まだ終わっていない。




