18/20
第18話 線を引き直す理由
私が線にうるさいのは、仕事だからだけじゃない。
真夜中の資料庫で、鷹城が古い避難図の束を見ていた。私は一番下にある、初期開業時の紙地図をそっと引き抜く。
「兄が、最初期の崩落で死んだんです」
口にしたのは久しぶりだった。十九歳のとき、まだ整備の甘かった旧東環ダンジョンで、非常灯の方向違いが重なって起きた事故。兄は出口まで三十メートルの位置で、逆向きの導線へ流されて戻れなかった。
「それで監査官に?」
「ええ。間違った線で死ぬ人を見たくなくて」
鷹城は黙って聞いた。余計な慰めを挟まないところが、彼らしい。
「でも今日、少しだけ分かりました」
「何が」
「私は事故を恐れて線を引いていたけれど、本当は人を帰したくて引いていたんです」
兄のために始めた仕事が、いつの間にか私自身の仕事になっていた。だから真鍋に人生を再計算される筋合いも、ひよりの見栄えに消される理由もない。
鷹城は古い紙地図を私へ返した。
「なら最後まで引け。今度は誰のためでもなく、お前の線として」
その言葉で、胸の中の迷いが一本きれいに揃った。




