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こっちもそっちもあっちもどっちもにっちもさっちもいかないけれどもわっちは元気です!  作者: スマイロハ
にっち編

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31話「にっちな」

 私が(なに)か言い返す前に、ソラさんは一方的に通話を切った。

 案の定、かけ直しても繋がってくれない。

 とりあえずトイトさんに会話内容を説明して、一応かけてみてもらったけどやっぱりダメだったので。


「…どうしよう。」

「勝てばいい。」

「いや――。」


 確かに、私が真面目に勉強すれば勝てるとは思う。今さら勉強は嫌いとも言わないし。

 でもそんなに単純な話ではない気がする。


「…(なに)が引っかかってんの?」

「だって、急にこんな意味分からないこと言うのおかしいじゃん…。」


 『別れて欲しい』って、理由も聞かされないまま『はい』とは言えない。

 それに告白したのは私なんだから、その私が勝手に決めるっていうのも違うと思う。


「ソラさん、明らかにいつもと違う雰囲気だったし、しかもカノカノ(あだな)じゃなく“カノン”って呼んでたし…。」

「試験当日は学校で会うんだからそのとき話せば?」

(はなし)…してくれるかな…?」

「目の前にして()()()()()はないでしょ。私も付き合うから、休みの残りは勉強に集中しろ。」

「…分かった。そうしよう。」

茜谷(あかねや)には?」

「……(なに)もなければそれで終わるし、隠す方向で。」


 ということで、冬休みが明けるまで私はひたすら試験勉強することになった。



 ソラさんと勝負の約束をしてから丸一日。


 こうして勉強ばかりしていると昔を思い出す。

 気絶するまで机に向かって、目が覚めたら再開して、色んなお薬で体力を維持して、食事はミキサーでどろどろにした…これはまぁいいか。

 とにかく酷い生活だったのは間違いない。寿命も縮んでるしね。

 まぁ当然、今はもうそんなことできるワケないから、健康的に健全に試験勉強を頑張ろう。


 と、考えつつ私は。


「――キ。ヅキ。」

「……ん~…?」


 気絶してリビングで寝ているところをトイトさんに起こされるのだった。


「……寝てた…?」

「寝てた。」


 どうやら私は一度スイッチが入ると()め時を知らないらしい。


「ごはん。」

「ああ。用意しようか?」

「いや作ったから。」

「…え?」


 トイトさんが指さすテーブルにはやけに美味しそうな朝食が置かれている。


「…料理できるじゃん…。」

「できないなんて言ってない。」


 めんどくさがってやらないだけだったということだ。


 トイトさんが作ってくれた朝食を食べながら。


「トイトさんって、私のどこをそんなに買ってくれてるの?」


 と、聞いてみる。


「面白いとこ。」

「例えば?」

「最初の自己紹介は面白かった。」

「あれウケてたんだ…。」


 そんな感じに年明けから冬休み明けまですごしまして。

 結局、試験日までの家事はトイトさんが全部やってくれた。



 冬休みが終わり、一年生最後の学期が始まる始業式。

 そしてその日は試験当日でもある。

 試験前のピリついた空気の中で無邪気に久々の友人とはしゃぐ生徒はおらず、休み時間も全員が各々の試験対策に集中していた。

 だから私がソラさんと話せたのは試験が全て終わってからで、それも他のみんなと一通り冬休みの出来事を報告し合ってから、ソラさんがひとりになったところを追いかけてのこと。

 だけど、私よりも先に追いついていた人がいて、既に話を終えていた彼女はこれからの私とのすれ違いざまに。


「サボる。」


 と、涙ながらに一言残して家に帰ってしまう。


「…お。ヅッキーひさびさ~。」


 私に気付いたソラさんはそう話しかけてきた。


「ごめんね。トイッチ泣かせちゃった…。」

「私に謝られても…。」

「あー…そうだよねー…。あとでちゃんと謝っとく。」

「うん…。」

「…カノカノに(はな)してないんだって?」

「トイトさんに聞いたの?」

「さっきね。…ヅッキーもごめんね。私に付き合わせちゃって。どうせカノカノは認めないから、別に私が勝ってもなんてことないんだけど、本気で挑んでくれたらしいじゃん?ありがと。」

「そりゃあ…。…ねぇ、なんでこんなこと…。」

「ヅッキーが勝ったら全部教えてあげる。それまではヒミツ。」


 ソラさんは制服のポケットから小さな鍵を1つ取り出して。


「ヒミツだけど、コレはあげる。好きに使って。」


 と言って私にむりやり手渡す。


「なにこれ?これもヒミツ?」

「ヒミツ。」


 (なん)の鍵なのか分からないものを渡すだけ渡してソラさんは行ってしまった。



 放課後。

 私はスイさんの順番だった吸血の約束を『トイトさんが気になる』と言って明日にしてもらい、一直線にトイトさんの家へ帰った。

 玄関を開けると。


「…おかえり。」


 と、珍しくトイトさんが出迎えてくれる。

 不機嫌そうな顔だけど涙は止まっていた。


「ただいま。ソラさんと(なに)(はな)したの?」


 靴を脱ぎながらそう聞いた。


「別に。」

「“別に”って、泣いてたじゃん。」

「泣いてない。」

「無理あるよその嘘は。」

「…ヅキなら分かるでしょ。“もっと頑張っとけばよかった”って時。」


 彼女は伏し目がちに私の鞄を取り、部屋まで持って行く。


 (なん)でもできる彼女だからこそ、(なに)に対しても無気力でいる。

 その生き方を変えるつもりなんて毛頭ないんだろうけど、多分時々、後悔することがあるんだ。

 後悔する状況は悪いことかもしれない。でも後悔自体はいいことだと思う。


 だから私が次に聞いた()()は今日の晩御飯についてだった。



 数日後、試験結果が出される。

 各々の点数と順位、学年全体と比べての割合は、個別には分かるが大々的に表示されるようなことはない。

 つまり勝ち負けは自分たちで確かめるということだ。


 ということで、トイトさんに順位と点数のメモを渡してどっちが勝ったかを発表してもらう。


「ソラが3位、10教科合計992点。」

「今回はめっちゃ頑張ったけど、トイッチに負けた感じ?」

「いや、私は4位で987点。」

「…なるほど。そりゃ簡単に勝負を受けるワケだ。」

「発表する。1位は同率で紅梅寺(こうばいじ)とヅキ。合計1000点で今回の満点。勝ったのはヅキ。」


 ソラさんに勝った。

 その日はそれで終わった。

 だけど翌日の早朝、カノンさんが泣きながら通話をかけてきてこう話す。


『ソラがいなくなった…!』


 私はすぐにトイトさんを起こして着替えて、ソラさんを探しに行った。

 カノンさんに加えて、コトハさん、スイさん、カナミさんも一緒に探してくれて、そして結局、夕方になってもソラさんは見つからないままだった。

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