30話「二十四日から一日」
トイトさん家でだらだらすごして、気付けばクリスマスイブ。
私のスケジュールはもちろん恋人との予定で埋まっていない。
埋まっていないのだ。
ではなにをしているのか。相変わらずだらけているのかというとそうでもない。
真っ白な斜面にカラフルなウェアを着た沢山の人々。
ここはゲレンデ。私はトイトさんを連れてスキーをやりにきていた。
そう、2人だけで…。
「…ヅキ、ほんとに付き合ってんの?」
「みんな予定があるの!」
上へ向かう二人乗りのリフトに揺られながらそんなことを言ってくるトイトさんへ、私は声を荒げてしまった。
だって仕方がない。
コトハさんとカナミさんは誘えば都合をつけてくれるだろうけど、がっつり仕事のスイさんとカノンさんはどうしたってこられないし、特にスイさんなんか4人の中で一番会えない。
恋人になってしまった以上、全員を選べない状況なら全員選ばないようにするしかないから、だからクリスマスは結局2人だけで遊ぶことにしたんだ。
「冬休み、ずっとうちにいる気?」
「…私よりだらけてるトイトさんには言われたくない。」
「いや、あのさ。5人揃わないと遊べないって、付き合ってる意味ある?」
「そうは言っても、引っかかるところがあると楽しめないし…。」
「…それ、恋人といるより友人といる方が楽しいって意味に聞こえるけど。」
私はストックを無意識に強く握った。
「そんなことは…。」
ちゃんと否定できないのは、実際トイトさんといる方が、気持ちが楽に感じていたからだと思う。
たぶん私はまだ恋愛より友達と遊んでいる方が楽しいんだ。
それがどういうものか知っていても、まだそれを楽しめるほど精神的に育ってない。
でもそれはいろんな経験を積み重ねて得られるものであって、一朝一夕に手に入れられるものではないから、私はそれまで、恋人らしいことはやっぱりできないんだろう。
そう私が考え込んでいる内にいつの間にか降り場へ着いていた。
リフトを降りて、斜面を覗き込むと初心者向けのコースでもまるで上級者専用みたいな高低差が――。
「――これ上級者向けじゃないの?これ滑ったら私死ぬけど。」
「悩みごとから解放される…!」
「トイトさんは私に生命保険でもかけてるの?」
そんな感じにスキーを楽しみまして。
帰宅の前に、ちょっと早めですが晩御飯を食べに行きます。お鍋です。
こぢんまりとした店内で、2人でお鍋をつつきながらどうでもいい話を一通りして、そして私がカノンさんの親族一同に会ったというところから話題は家族の話に。
「トイトさんのご両親ってどういう方なの?」
「金持ち。」
「それはまぁ…分かるけど…。もっとこう、人となりというかさ。」
「ヅキとたいして変わらん。」
「…結局、今年は帰ってこないの…?」
「こない。ていうか、こない方が楽。大体ヅキだって…。」
「いやいや、私のとは状況が違うでしょ。トイトさんはひとりが好きだからご両親は気を使ってそうしてるんだろうけど、私のはただめんどくさくなって逃げてきただけじゃん。」
トイトさんは私の言葉を少し考えてから、しめの雑炊を作りながら話す。
「友達恋人と違って家族は信頼関係を構築する前に勝手に決まる。そんなものを愛してるならそれはただの思い込み。気が合うなら運が良い。気が合わないなら運が悪い。で、大抵の人間は最終的に、どちらでもない無関心に落ち着く。家族の死なんて、親友や恋人の死に比べたら軽いでしょ。特に親は。」
私に『器を寄越せ』と手を差し出して、渡した器に出来上がった雑炊をよそってくれる。
そして私に返して。
「そんなもんだよ。ヅキも私も。」
と、トイトさんは話を終わらせるのだった。
クリスマスから一週間後。大晦日。
「――4…3…2…1……ハッピーニューイヤー!」
「いえーい。」
「…あんま楽しくないねこれ。」
一応クラッカーだけ買ってきて鳴らしてはみた。
イベント行ってみればよかったかな…。
「夜中まで付き合わせてのこの感想でごめん…。」
「まぁ2人だし。…もう寝ていい?」
「ああ、うん。私も片付けたら寝る。おやすみ。…あ、待って。私初日の出見に行くけどトイトさんどうする?起こそうか?」
「吸血鬼に日の出を祝えと…?」
「確かに…。じゃあ1人で行ってくるよ。おやすみー。」
トイトさんは軽く手を振って、あくびをしながら寝室へ向かって行った。
翌、ぽろぽろと雪が降ってしまった元旦。
ダウンのポケットに手を入れて寒さをこらえながら、私たちは初詣の列に並んでいた。
初日の出と同じく直前まで1人で行くものと思っていたが、こちらでは『目が覚めた』とか言ってトイトさんが一緒についてきてくれたのだ。
そんな彼女は自販機で買ったペットボトルのカフェオレをカイロがわりに、眠そうに私の横で順番を待っている。
「…寒い。」
「なんでついてきたのさ…。」
「無病息災を願おうと思って…。」
4分の3年この人と一緒にいる訳だが、未だにどうもつかめない。
なんだかんだ言いつつも結構イベント事は好きなのだろうか。
「…トイトさんって付き合い良いよね。」
「…は?」
「いや、なんか…結局ちゃんと友達やってるのトイトさんだけなのかもって。ひとりが好きな割に、よく私のお遊びに付き合ってくれるじゃん?」
トイトさんは両手で持っているカフェオレのラベルから目を逸らさずに。
「…私だって、ヅキといるのは楽で楽しい。コトハとも。ソラとも。全員、大切な友達だと思ってる。」
と、言い。
さらに。
「恋愛を否定はしない。好きにすればいい。ただ私は、せっかくできた遊び相手を、そんなものでぐちゃぐちゃにしたくないだけ。」
と、続ける。
ひとりが好きなのは事実なんだろう。
ただ、そうなるまでの過程がもしかしたらあったのかもしれない。
もちろんそんなものないのかもしれないし、どっちにしても、それを答えるつもりはないんだと思う。
だから私が勝手に言えることは、彼女はただただ純粋に、誰よりも友達を大切にしたい人で、そして私にも大切な人を大切にして欲しいと、そう願っているということだけ。
本当にただただそれだけなんだ。
ぽろぽろと頭にかかる雪。
初詣の列が一歩、前に進んだ。
初詣を終え、いつの間にか雪は止んでいた。
私たちは帰り道をのんびりと歩く。
「私は正直、ヅキはあいつらの彼女に相応しくないと思う。」
前触れもなく、トイトさんはそう話をした。
「…何が言いたいの…?」
「相応しくないけど、あいつらが本気で選んだなら、ヅキも本気で応えるべき。」
思わず立ち止まった私をトイトさんは気にせずに進み。
「私に甘えるのはいい。でも休み明けたら頑張れ。手は貸してやる。」
と、そう言ってから立ち止まってふりかえり、いつもの無気力な姿とは打って変わった優しい笑みを浮かべて、私に向かってこう言うのだ。
「私の友達、1人でも泣かせたら怒るからな。」
その言葉の直後、口を開こうとした私を遮るようにスマホが鳴る。
相手は未だに一人旅の最中らしく、まともに連絡を寄越さなかったソラさんだった。
「もしもし。どうしたの?」
『ヅッキー、私と勝負しない?』
「いいけど、何で?」
『休み明けにテストあるじゃん?アレで点数競おうよ。』
「それ、まさか私だけ?スイさんとかトイトさんとかは?」
『いや、ヅッキーと勝負したい。そっちが勝ったらなんかあげるよ。何欲しい?』
「欲しいもの…『昼食1回奢り券』とか?」
『物欲ないなぁ。1回と言わず何回でも奢るってことでいい?』
「そりゃこっちは構わないですけど、その言い方、ソラさんが勝ったらなんかすごいこと要求される感じ?」
『要求される感じ。』
そしてソラさんは私にその要求を突きつける。
『私が勝ったら、カノンと別れて欲しい。』




