23話「響めく内側」
『ドキドキ大変身!』の最後に、コトハさん家に集合します。
「――みんな来てるー?」
「全員いるわよ。チヅキ君たちで最後。」
「コトハさんは?」
「お休み中。」
よしよし。コトハさんの妹さんがちゃんとお留守番できてたみたいですね。
じゃあピザトースト作って、用意してもらった服に着替えて、スイさんにメイクしてもらって…。
「…この格好合ってる?」
高そうな黒のワンピースに包帯巻いててピザトースト…やっぱ危惧していた通り意味不明な格好になってる気が…。
「ほら、アレじゃない?…ギャップ萌え?」
「何で疑問形なの…。」
どうせなら断定してよ…。
「そういえばこの服いくらするの?」
「いつかチヅキ君に着てもらおうと思って買っていたものを手直ししただけだから、無料よ。」
「元の購入金額は?」
「…無料よ!」
汚さないようにしよう。
「そんなことよりヅッキーのピザトーストめっちゃウマそうじゃん!」
「ソラさん分かる!?私見た目めっちゃ頑張ったんだよ!後でソラさんにも作ってあげるね!」
「“見た目”?味は?」
「後でソラさんにも作ってあげるね!」
「…カノカノとトイッチのテンションがいつにも増して低いのって…まさか…。」
「後でソラさんにも作ってあげるね!」
見た目は一つ一つ切り取ればまぁイイ感じなんだけど、問題はやっぱ包帯か…。
コトハさんに血を吸わせようとして腕切りまくったから外せないんだよね。仕方ないんだけどさ。
「それでカナミ君。セリフの方はどうなったのかしら?」
「あ、えっとね。『君、私のこと好きなんでしょ?おいで。もっと好きにさせて、頭蓋骨の内側ぐちゃぐちゃにしてあげる。』だよ。」
「へー。いいわね。」
「だよね。」
通じ合ってるなぁ。
「…ねぇ、ソラさんは今のセリフどう思う?いいと思う?」
「いや普通にナシでしょ。あの二人なんかおかしいんだよ。カノカノはどう?」
「一生分のピザをトーストした気がする…。」
「あ、ダメだこりゃ。トイッチは?」
「メダカって、慣れさせれば海水でも生きれんだ…。」
「あ、こっちはもっとダメだ。」
なんかホント…ごめん…。今度美味しいもの食べさせてあげよう…。
さて、そろそろコトハさんの目が覚める頃です。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「ええ。…その間に次の方法を話し合っておくわ…。」
「やっぱこの作戦無理あるよね…。」
「いえ…。…チヅキ君はもっと、ナチュラルな方がいいのかもしれないわね。私やカナミ君ならともかく、自然体でいた方がコトハ君にはいい気がするのよ。」
自然体か…。人は社会性という細い紐で他個体との繋がりを維持する生き物だから、紐を太くしようとして建前を使う。私もそれ自体をやめたワケじゃないし、自然体でいるのは中々難しいな。『素直になれ』とは訳が違うもん。
私はコトハさんの部屋に行き、静かに扉を開け、中に入った。
「コトハさん起きた?ピザトースト食べ――…食べる?」
よくよく考えたら熱出して寝込んでる人にピザトーストは違った気がする…。いやそれをいったら最初から何もかも間違ってるか…。
「…ヅキちゃん…?いい匂い…。」
「ピザトースト。私が作ったんだよ。…カノンさんにおかゆ作ってもらったから、食欲あるならそっち食べる?」
「ヅキちゃんのがいい…。」
「え…ああ、うん。どうぞ。」
コトハさんは深く呼吸をしながら、私が差し出したピザトーストにかじりつく。
「……噛めない…。」
「ごめん…。見た目気にしすぎて固く焼いちゃったかも…。」
表面を触るだけでどうにも食べられそうにはない。
「やっぱおかゆ持ってくる。」
「うん…。…?ヅキちゃん…その服…。」
「ああ、これ。コトハさんが気に入るかな~って思って。メイクもしてもらったんだけど、あんまりだよね…。似合ってはいるんだろうけど…。」
「かわいいよ…?」
「ありがと。ちょっと待ってて。おかゆ持ってくるから。」
私はみんなのいるリビングに、報告に戻った。
「カノンさん。やっぱおかゆにする。」
「ん。ちょっと待って。温めなおすから。」
「ありがと。助かる。」
ついでにみんなも今日は帰すか。
「チヅキちゃん、どうだった?」
「失敗かな…。みんな付き合ってくれてありがとね。今日はもう帰っちゃって。また何か考えとくよ。」
その後、コトハさんにおかゆを食べさせて、帰宅するみんなを玄関で見送って――。
「ヅキ。ちょっと。」
「ん?何トイトさん?」
耳打ち好きだね?
なになに…。
「…マジ?そんなのでいいの?」
「試すか試さないかは好きにして。」
…トイトさんは私の次にコトハさんと付き合い長いし、他に手札もないからとりあえず試してみよう。
「分かった。やってみる。」
メイクを落としてシャワーを浴びて、そのままプレゼントされたワンピースから、トイトさんにオススメされた“コトハさんの私服”に着替えて…いやこれは別に変態のアレとかではないです断じて。
(…思ってたより恥ずかしいかも…。)
では満を持してコトハさんの部屋に入ります。
「失礼しまーす…。」
「…え…?ヅキちゃ…それ…その服…。」
「コトハさんのシャツ借りてみた。…どう…?」
なんかいい線いってるっぽい?
…近付いてみるか。
「なんで近付くの…!?顔近いよ…!?」
「いや…顔赤いなーと思って。」
「青白いよぉ…!」
「まぁ否定はできないけど…。」
カナミさんのセリフ言ってみようかな。
…いや、“素直な気持ちを伝えたら”か…。
「ねぇ、コトハさん。コトハさんは私のこと好き?」
「…うん…。大好きだよ…?」
「そうだよね。私に話しかけてくれたし、さっきも私のがいいって言ってくれたし…。」
私はコトハさんに強く抱きつく。
「コトハさんが人に甘えたくないのも、わがままが嫌いなのも知ってる。でも、だからこそ、私にだけでいいから甘えてほしい。わがままをぶつけてほしい。」
寄せる手に力が入る。
「お願い…。私を、コトハさんの特別にして…?」
そう言い終わってすぐのことだった。
コトハさんが私の首に噛みついてくれたのは。
(いっ…!?…たくない!吸血液が出てる!)
やった!作戦大成功じゃん!ありがとうトイトさ――っていうか…。
(なんか今までのと違うんだけど…!?)
息ができない…。呼吸が荒くなる…。なんだこれ…!?なんかめっちゃドキドキする――!?
それは、例えるなら頭蓋骨の内側がぐちゃぐちゃになりそうな、甘く尖った蜜の味で。
初めて感じるその感覚に私は耐えられなかったらしく、気付くと早朝、コトハさんのベッドの中で2人仲良く眠っていた。
幸せそうに眠る彼女と時計を見て、私ももう一度目を閉じる。
今日はもっと寝過ごしていたい気分なのだ。




