22話「ドキドキ大変身!」
翌朝――。
コトハさんのことは昨日の内にみんなに話してあります。
「――『欲求を引き出す』と考えれば難しく思えるけれど、私たちはコトハ君に『吸血させる』ということだけを考えればいいわ。」
なるほど。スイさんが帰ってきてくれてて本当に助かったかも。
「具体的にはどうするの?私の血は吸ってもらえなかったけど。」
「そこよ。」
「どこ?」
「コトハ君にとってチヅキ君は明らかに“特別”。あまり深い関りのない私でもそれは分かるわ。コトハ君に吸血をさせるなら相手候補としてはチヅキ君しかいない…というより、他に候補がいない。」
「じゃあ何で吸ってくれなかったの?」
「『ガードが堅い』のよ。コトハ君をその気にさせるには、まだチヅキ君の攻撃力が足りていないんでしょう。」
…なるほどね。どういうことだ?
「作戦名は題して『ドキドキ大変身!』。さぁチヅキ君、行くわよ!」
……なるほどそういうことね。分からないってことだ。
よく分からないまま連れてこられたのは服屋さん。
そして朝は全員いたんだけど、なぜかメンバーがスイさんとソラさんの2人だけになってる。
「てなワケでスイタン。交互に服を持ってきて、より魅力的な方が勝ちってコトでいいね?」
「臨むところよ。待っていてチヅキ君!君を引き立てる最高のアイテムを探してくるわ!」
何が始まってるんだ一体…。
「エントリーナンバー1番!ソラです!」
「何にエントリーしてるの。」
「さぁヅッキー!この服を着るんだ!」
「…何これ?」
なんかキラキラしてる。
言われた通り着てはみますが…。
…これ何?これどういう服?
「テーマはズバリ、『ちょっとウォレに惚れてみな~い?』です!クジャクの飾り羽を意識してみました!」
「それクジャク限定でしょ。私人間なんだけど。」
動きにくいし…。めっちゃ目立つし…。こんな服売っててよく潰れないなこの店。
「流石ソラ君、中々鋭い切り口ね…。」
「鋭すぎて刃が通り抜けちゃってるけどね。」
これは気合い入れないとだな。
「で?スイさんは何持ってきたの?」
「着てみれば分かるわ。」
じゃあ着てみるか…。
…重っ!?なんだこれ…。硬いし重い…。
「テーマは『防御は最大の攻撃』よ!本物のプレートアーマーを持ってきたわ!」
「潰れるよ?私が。」
また動きにくい…っていうかもう動けないし。これ売ってないでしょ。家から持ってきたのか?
「スイタンスイタン。やっぱアレじゃない?和風の鎧にすべきだったんじゃない?軽いし。」
「やっぱりそっちの方が良いのかしら…。…ちょっと待っててチヅキ君。家に帰って持ってくるわ。」
「何が“やっぱり”なの?あと帰らなくていいから…。どっちにしても重いし…。」
大真面目に不真面目なコト話し合ってるんじゃないよホントに…。
「――私らが目指してるのってオシャレとかじゃないじゃん?もう水着でよくない?」
「それを言うなら、むしろ一周回って普段着ている服…それこそ学生服とかどうかしら?好きな人は多いわよ。」
「いやいや“美人三日会わざるば刮目せよ”って言うでしょ?」
私は言わない。
「学生服なんて見飽きてるよ絶対。てかさぁ、スイタンはどうなのさ?なんかヅッキーの見たいコスないワケ?」
「ウエディングドレス…!」
「即答かよおい。…え~?じゃあウエディングドレス用意する?自宅に持ってっても雰囲気出ないけど…。」
「確かに…。コトハ君が一般家屋にいる以上、あまり浮いた格好をするのは…いやでも、そのギャップが良いという可能性も…。」
さっきから何の話してるの…。
「あのさ。2人はコトハさんが気に入りそうな服を探してるんだよね?だったら私に似合いそうな服を選んでくれない?ウエディングドレスは似合わないでしょ。」
「それもそうね。コトハ君の好みが想像できなくて迷走しかけていたわ。無難に回数をこなして決めましょうか。」
“回数”…か…。嫌な予感がするぜ…――。
「――『バニーガール』がテーマです!モフモフですよ!」
「これバニーの着ぐるみだね。モフモフしすぎてるね。」
頭かぶったらこれもう私だって分からないんじゃない?
「――『茶屋の看板娘』がテーマよ!峠の茶屋を一人で切り盛りする看板娘。ある日お客さんの一人がどうしてお嬢さんは一人なんだい?と聞くも、娘ははぐらかして答えない。そう、娘がこんな場所に一人で店を構えているのには理由があったの。あれはまだ雪も溶けきらぬ頃…。」
「長い長い長い長い。」
背景が出来上がりすぎてる。
「――『お散歩して欲しいワン!』です!」
「――『ひと夏の恋』よ!」
「――『構ってくれないのにゃん?』です!」
「――『桜舞い散る通学路』よ!」
「次は――!」
「次は――!」
「次は――!」
「次は――!」
2時間後――。
もうやめてぇ…!
「途中から楽しくなってるでしょ!?」
「そんなことないわ。」
「え、そうなの?」
「最初から楽しんでるもの。」
じゃあ何も言えないよ私は。
「で。結局決まったの?」
「ええ、一応。チヅキ君に似合うとなると、黒のワンピースが無難でしょう?後は細かいデザインの方向性を詰めて…。」
「すぐ手に入るのでいいからね…?」
「安心して。ちゃんと今夜までに用意するわ。」
この人達、私で遊びながら私の細かいデータを収集してたな?
「じゃ、ヅッキー。私たちは服の用意できたらトキノコん家行くから、一旦次はカノカノたちのトコ行って!」
ということでお次はトイトさんの家に向かいます。カノンさんと2人で待ってるらしいですね。
トイトさん家――。
「胃袋を掴め!」
「急になに!?」
着くや否やどうしたのトイトさん。
「なんとなく言ってみただけ。」
そうですか。
「チヅキ、来たならさっさと手洗って準備して。」
と、カノンさんが言うので。
手を洗ってエプロンをつけて準備万端です。
「準備したけどカノンさん、私はここで何すればいいの?料理?」
「ん。」
料理と吸血と結びつかないけどな。
「一応現代の吸血鬼も吸血は食事だから。」
「あー、そういう…。」
食欲の派生で吸血欲を引き出すと。
「…いやそれ、カノンさんが作るのじゃダメなの?」
「“手料理の温かみ”なんじゃない?アタシはソラがやれって言うからやってるだけだし。」
そういうものなのか。
「トイトさんは食材提供?」
「味見は任せろ。」
カノンさんの料理にハマったんだな。分かりやすい。
まぁ確かに、どうせならコトハさんにもコトハさんの妹さんにも美味しいもの食べさせてあげたいし、私も料理スキルを磨く時がきたか!頑張るぞ!
1時間後――。
「――切る、焼く、煮る、蒸す、全部ダメ…。…アンタ…逆に何ならできるワケ…?」
「すみません…。」
切れば自分も切っちゃうし、焼けば焼き過ぎちゃうか全然焼けないかだし、なんでこうなるんだろうね?知識はあるんだけどなぁ。不思議だ。
「知識があるなら普通できるんじゃないん?」
「“普通は”そうだと思うけど、私未だに泳げもしなければ自転車にも乗れないんだよ?知識は大切だけど、経験も同じように大切なんだよ。」
「良い事言った風にして誤魔化す…。…どうするん?マジで…。」
「……どうしようか…?」
さっきから私の料理を食べたトイトさんの顔が死んでる…。
「ヅキは知識に頼りすぎ…。何も考えずに作れ…。」
「え?いいの?レシピ間違えちゃわない?」
「別にレシピ通り作ったからといって美味しくなるワケじゃないから。…実際マズくなってるし。とりあえずやってみれば?」
「カノンさんがそういうなら…。」
しかし何も考えずにといわれてもな…。包丁の扱いが下手すぎるから包丁を使わないで…火の扱いも下手すぎるから火も使わないで…でもメインは作りたいからそれなりの料理を…後そろそろトイトさんが好みそうなものを出してあげたい…。
「…ピザトーストってセーフ…?」
「まぁ…もう何でもいいんじゃないん?」
では市販の食パンを用意します。食パンにケチャップを塗りたくります。マヨネーズもいいですね。ピザソースがあるならそれでも。
そしたら市販のチーズと、ベーコン、コーン缶などのその他色々乗せたい食材をお好みで適当に乗せます。ピーマンとか、できれば野菜は乗せた方が美味しいですよ。私は2つの意味で切りたくないので野菜はナシですが。
で、オーブントースターがあればそれで、なければフライパンでもなんでもいいので適当に焼きます。ずっと見張ってそろそろいいかな?ってとこら辺で一旦確認します。手前手前を意識していれば少なくとも焼きすぎることはないでしょう。食材にはそれぞれ火の通り方に違いがあるので一応そこだけなんとなく意識していればまぁ、なんとかなります。多分。
本当はもっとちゃんと考えてレシピを組んだ方がいいのでオススメはしません。適当なSNSのレシピでも参考にしてください。というワケで…。
「できたよトイトさん!ピザトーストが!今までで一番まともな仕上がりじゃない!?」
「うん…。……うん…。」
なんか微妙な反応だな。
「パンがなんかびちゃびちゃしてる…。」
「ケチャップ塗りすぎたかな?いやそれかコーン缶か?…まぁ、まだ一回目だから!これからこれから!」
「私のパンが…。」
「なくなるまでに上手くいかせてみせるから私を信じて!」
「うん…上手くいくといいね…。」
トイトさんもいつになく優しいし、もっと頑張るぞ!100回くらいやればさすがの私もそれなりにはなるはず!
「…ヅキで遊んできたツケ…か…。」
「…ん?トイトさん何か言った?」
「何も。」
「そう?待ってて!二枚目はこれもう今までで一番まともな仕上がりだから!」
そんな感じで料理修行に励みつつ、時間がきたので納得はいってませんがひとまず終了です。
「アタシら片付けてからコトハん家行くから、チヅキは次のカナミんトコ行ってて。」
じゃあ次はカナミさんの家ですね。
ということでカナミさん家――。
「――セリフの特訓をします…!」
「…はい?」
「セリフの特訓を――。」
「いや聞こえてはいるんだけど…。何セリフの特訓って?」
「私がこれまで観てきた映画の知識を活かして、チヅキちゃんに最高のセリフ回しを身につけてもらおうと思って。」
なるほど。おっけーやろう。
「まずはこの台本読んでくれる?」
えっと…なになに…?
[雪の降りしきる宿場町、女侍は足下に倒れ込む浪人へ視線を落とす。]
『アタシの目の黒い内は、この町で働く悪事は見逃さないよ!』
[慌てて逃げて行く浪人。女侍は茶屋の中に隠れていた町娘を……なにこれ。
『お侍様…!』
「いやお侍様じゃなくて。なにこれ?なんで時代劇なの?」
「最近見たの。時代考証が滅茶苦茶で全然面白くないんだよ?」
「全然面白くないんだ?」
「全っ然面白くない。」
人選間違えてるんじゃないかこれは。
「こういうのじゃなくてさ。もっとリアルなシチュエーションはないの?恋愛映画とか。」
「今の作品も恋愛映画だよ?」
「ごめん。今のはナシで。」
「そっか。じゃあ…これとかどうかな?」
えっと…なになに…?
[雪の降りしきる通学路、少女はボストンバッグの中からライターを取り出し、火を点ける。]
『あったかい…。あの人のように…私を暖かくしてくれる…。』
[少女は震える手でライターをもう一つ出して……なにこれ。なんでまた雪が降りしきってるんだ。
ていうか…。
「これってマッチ売りの…。」
「そう!それに恋愛とバトルの要素を盛り込んだ怪作なの!」
「名作がいいんだけど…。」
「そう?じゃあ…これは?これは名作だよ。」
今度はやる前に内容を確認しとくとして…。えっと…なになに…?…って、あれ?セリフ書かれてないけど。
「この作品セリフないの?」
「無声映画だから。」
「おっけー。『セリフのある映画』をキーワードに追加して。」
「分かった。じゃあ…これかな?」
えっと…なになに…?
『君、私のこと好きなんでしょ?おいで。もっと好きにさせて、頭蓋骨の内側ぐちゃぐちゃにしてあげる。』
「いい!めっちゃいい!」
「テンション高いな!?」
このセリフの何がいいんだろう…。
「チヅキちゃんは好みじゃなかった?」
「いや好みっていうか…よく分からないというか…。」
でもなんかカナミさんには刺さってるっぽいな。じゃあいいのか?
「…チヅキちゃん。」
「…?何?」
「あんまり考えすぎなくても、チヅキちゃんの素直な気持ちを伝えたら、きっとコトハちゃんは受け入れてくれると私は思うよ。」
「…そういうもの?」
「そういうものだよ。きっと。」
「…そっか。」
てなことなのでセリフの特訓はこれで終えて、一旦コトハさん家に集合しに行きましょう。
にしても、こんなので上手くいくのかな…。みんなのことは信頼してるけど、『ドキドキ大変身!』っていってもここまでのパーツを組み合わせたら…『黒のワンピースにピザトースト持って頭蓋骨の内側ぐちゃぐちゃにしてくる女』か…。大変身はしてるかもしれない…。いけるのか?これで?ギャップ萌え的な?
…ダメだったらその時は別の方法を考えればいいんだし、やるだけやってみよう。




