第九話 音守処からの招待
ぴろーん♪
サクラコのスマホにSNSの通知があった。
差出人は「音守処」。
怪訝な気持ちでメッセージを開封する。
「あたし、音守処をフォローしてないけどなぁ。」
フォローどころか、音守処のページすら知らない。
” サクラコ様
いつも、音守処を丁寧にご利用いただき、ありがとうございます。
来たる7月7日17時~19時半にシークレットライブを行います。
サクラコ様の将来を左右するワンナイトに招待いたします。
シークレットライブにつき、どなたにも内密にお越しください。”
噂にはきいていた。
音守処から、時折、お知らせが届くことを。
まさか、自分に届くとは思っていなかったけど。。。
7月7日、期末テストが次週に控えている。
友達の家で勉強会と言えば、外出できるかも知れない。
でも、内密って……口裏、合わせてもらえるかな。
ちょっと心配だけど、気持ちはもう行く気になっている。
アーティストが誰なのかもわからない。
だけど行ってみたい。いや、絶対行くべきだ。
なぜかそう思う。
翌日、学校でトモカに相談した。内容をぼかして。
「7月7日だけど、トモカと勉強してるって事にしてもらっていいかな。」
「えー、奇遇。私もその日、サクラコにお願いしようと思っていたの。」
これは二人だけの秘密、ってことで、アリバイ作りは完璧だ。
そしてやってきた7月7日。
試験前ということもあって、部活はない。
学校から帰宅して、普段着に着替える。
本当はちょっとお洒落したいところだけど、勉強という言い訳だからここはジーンズ一択。
でもお気に入りの白の短T。カーディガンで腹見せも隠してお気に入りのスニーカー。
リュックに一応フェイクの勉強道具。ちょっと考えて荷物が軽い日本史の教科書だけを持つ。雨の予報が30%だったから念のため折りたたみ傘も入れておく。
そしてこれが大事。ストールとメイク道具。ヘアゴムとカチューシャ、そして買ったばかりのフェイクへそピアスを忍ばせる。
「トモカと勉強してくるね」
ママに声をかける。トモカの家に行くとは言っていない。トモカと一緒であれば図書館でもカフェでもいいのだ。誤魔化せる。
自分の悪だくみにニヤリと笑ってしまう。
「何を勉強するの?」
「今日は日本史。トモカの日本史は先生よりわかりやすいんだよ。」
「トモカちゃんに頼ってばかりで……サクラコは何を教えるの?」
「数学かな。一応、クラスでトップクラスだし。」
「そうね、友達と教えあうのはいいことね。10時までには家に帰ってらっしゃいね。雨が降ったら迎えに行くから電話してね。」
優しい母の言葉にちょっと胸がチクっとしなくもないけど、初めてのイベントにワクワク感が止まらない。
向かうのは大型ショッピングセンター。きれいな女子トイレは鏡もあって居心地もいい。一度ここで軽くメイクをするのだ。
目尻につけまをON!アイラインは濃い目で上向き。いつもより濃い目のチークにキラキラアイシャドウ。リップはぷっくらツヤツヤに仕上げる。
うん、なかなかいいんじゃない。
髪は高めの半ポニーにしてくるりんぱ。アイロンがないからこれ以上は難しいな。カチューシャで誤魔化す。
カーディガンは迷った末、リュックに入れて、代わりに空色のストールを巻き、リュックを背負う。
ちょっと野暮ったいけど、コインロッカーには入れないで、そのまま背負って行こう。傘もあるし。
さて、いざ出陣!とトイレを出ようとしたところ、
「あ、サクラコ!」
と声がする。
「あ、トモカ!」
トモカは大きめのピンクのサングラスをカチューシャ代わりに頭に置き、やはりいつもより盛ったメイクをしている。ピンクのTシャツはトモカらしい。白のチノパンともよく合っている。
もしかして……。
ひとつの疑惑があるけど、トモカに
「○○商店街の方に行くけど、方向一緒なら一緒に行く?」
トモカの方も何か勘づいたのか、
「そうしようか。一人で歩くのはちょっと心配だし。」
と同行することにした。
目的地は、やはり同じだった。
でも、御手水で手と口を清めるまで、口をきかなかった。内密にだもんね。
そして、音守処へ入店する。
ワンドリンク制なので、サクラコはアイスティをトモカはレモンスカッシュを注文する。
料金は『音納』にチャリンと入れる。
そして空いている席に座る。
全部合わせても20席くらいしかない。
だよなぁ~。小さいところだもんな。それにしても、大人の割合が多くない?私らのような女子高生もいるし、あれ?あの子は中学生くらい?
「やっぱりトモカも招待されたんだ。」
「うん、びっくりだね。私、初めてで、ちょー緊張してるんだけど。」
「それは私も同じ!誰が出るんだろうね。楽しみだね。」
そして17時丁度になると、店内の照明は消され、特設ステージのライトが点灯する。
「みんな~のってるかい!
MilkyJamのリューヤです。」
「同じく、モトキです。」
「シンです。」
こんなところに居るはずのないアイドルが3人もここにいる……。
「では、早速、一曲行きますか。」
そういって歌う曲は誰もが知る去年の最大ヒット曲。
一曲目からノリノリである。
しかも、決して広いとは言えない特設ステージで、めいいっぱい飛んで回って手を伸ばし、踊っている。
あまりの至近距離に、サクラコは声も出せない。よく知っててよく聞く歌なのに歌えない。隣のトモカも同じように呆然としている。
しかし、さすが現役女子高生。吹っ切れたのか、3曲目に入るころにはスタンディングで、はじけるように一緒に歌いだす。
そして、いつのまにか、ステージには椅子が用意され、3人は腰をおろし、MCの体制に入る。
「こんばんは、みんな。
今日は音守処のシークレットライブにお越しいただき、ありがとうございます。
まさかと思うけど、ボクらのこと、知らない人は居ないよね?」
どっと、笑いが起こる。
「実は、このライブ、知ったのは2週間前で。」
えっ、私にメッセージが来たのはひと月前だよ。それまで出演者も決まってなかったってこと?
怪訝な顔の私に気づいたようで、
「あ、音守処の招待って、わけのわからない時期に来たりするよね。」
「そうそう、俺が初めて招待された時って、当日だったしさ。モトキなんか一年前に来てたって?」
「だから、別に変じゃないよ。気にしないで。」
リューヤは私に向かって、そう言い訳する。
優しいな。ちゃんと私を見て話してくれてる。
幸せ気分に浸る。
「それでさ、今回のメッセージなんだけど、今日は次世代のアイドルの卵が来店するって事なんだけど……。
あ、こちらワタナベさん。俺らのプロデューサーです。」
「アイ企画のワタナベです。素晴らしい卵を発掘しようと日々動いています。」
スーツ姿の30代くらいの男性が立ち上がって挨拶する。他にも音楽関係者が数人いた。
「俺らも、この場所でワタナベさんに見つかったんだよね。」
ウィンクする姿がチョーかわいい。な、な、なんだっけ?萌え?古っ!
自分で突っ込んでしまう。
それより、アイドルの卵?へっ?ここに居るの?
「そんでもって、今回の作詞作曲はボクが担当することになりました。」
と、リューヤが言う。
リューヤが曲作りしてるってのは知ってたけど、他の人の曲、作るんだ。
って感動してしまう。
「はい、それでは、その新曲を披露します。男声で申し訳ないけど。」
と言い、ギターをかき鳴らす。
うん、いい曲だ。ミディアムバラードで、三人のハモリが心地いい。ちょっとしたダンスを合わせるのも楽しそう。
「この曲を歌ってくれるのは、サクラコちゃん、コトハちゃん、ヒマリちゃん、トモカちゃん、リコちゃんの五人です。みんなここに居るよね。」
いきなり名前を呼ばれて狼狽するものの、自分ではないと思う。けど、店内のスポットライトが正しく五人を照らし、間違いがないと心を決めなければいけないらしい。
戸惑いながらもステージに立つ五人。かんたんな楽譜を渡され、リューヤのギターに合わせて、モトキとシンにリードされ初披露することになった。
歌いながらも、自分の声がこんなにきれいに響くんだと感動していた。




