↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J-POP GOD Sustainer ー 神話の裏側に隠された若き神たちの奮闘 ー  作者: 神代針音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

第八話 イザナギの過ちと贖罪

 地響きは鳴りやまず、地の底からマグマが吹き出し、止まらない。

 海は荒れまくり、波は山まで覆いつくす。

 黄泉の国からあふれ出した悲しみは、世の理さえ揺るがした。


 そのことに気が付いたアメノミナカヌシは、突然の変化に驚き状況をみて愕然とした。そして後悔した。



 ああ、なんてことをしてしまったんだ!

 わたしは間違えてしまった。

 わたしのすべきことは、理を曲げてイザナミを再生させることではなかった。

 理は絶対だとイザナギを説得することだったのだ。

 理を曲げれば大きな代償を払うことになるとイザナギに根気よく説明することだった。

 そうすれば、イザナミは余計な苦しみに耐えることなく、将来無事に転生できた。



 イザナギは再生できる、と有頂天になり、理を軽んじた。

 理を曲げることの代償を軽く見ていた。

 再生すれば全て元通りとばかり、その裏にあるイザナミの痛みや苦しみを知ろうとしなかった。

 イザナミの苦しみは、全て彼の願いを叶えようとしたために起きたことだ。

 これはイザナギの我儘にほかならない。



 わたしのすべきは、イザナギの願いを叶えるのではなく、理をきちんと説得することだったのだ。

 さすれば、こんな悲劇は起きなかった。



 しかし、もう、遅い。

 今すべきことはこの世を救うことだ。

 国生み、神生みを任せた以上、気は乗らぬがイザナギを守らねばならぬ。



 アメノミナカヌシはイザナギが投げた髪飾りを山ぶどうの木に変え、実をつけた。

 ヨモツシコメたちはぶどうを食べるのに夢中になり、イザナギを追うのをやめた。

 それでも、ぶどうを食べそこなったヨモツシコメたちが再度イザナギを追いかけた。

 アメノミナカヌシは、今度は竹の櫛をタケノコに変えてヨモツシコメの気を逸らした。



 イザナギを追うのはヨモツシコメたちだけではなかった。

 イザナミの手、足、胴体、頭などに住み着いていた八柱の雷神。

 雷神たちもイザナミの気持ちを受け継いだのだろう。怒りを伴いイザナギを追いかけた。



 アメノミナカヌシは、雷神たちに追いかけられて立ち往生していたイザナギに桃の実を与えた。

 桃の実を投げつけられた雷神たちは正気を取り戻し、黄泉の国へ帰っていった。



 だが、最後にイザナミ自身がイザナギを害しようと現れた。

 もうだめかと思った最後の最後に、アメノミナカヌシは大きな岩を動かした。

 イザナギが自分で動かしたと勘違いしたようだが、それは創世の神でしか成しえない地殻を動かすものだった。

 イザナミはこれ以上イザナギを追うことはできず、黄泉の国とうつつよは完全に絶たれた。



 イザナミはこれ以上ない絶望に打ちひしがれた。

 これが、私を愛しているといった男のすることなのか。



「あなたの国の人を一日千人殺す。」

 この言葉は本心で人を殺したいために言った言葉ではない。

 そういうしかイザナギの心に届かないと思ったからだ。



 アメノミナカヌシはイザナミの心中を察した。



 どうすればイザナミを救うことができる?

 拗れた夫婦を元にするには、何をすべきか。



 イザナギはイザナミの恐怖からようやく逃れたと安堵した。

 もう、彼の中に、一緒に国を生み、神を生んだイザナミはもういない。



「ああ、とてつもなく汚い国だった。イザナミがあんなに醜い女だったとは、戻れなくてよかった。」



 そうして汚れた体を清めていった。

 清めた衣服や体から新たな神が誕生した。



「おお、イザナミが居なくともわたしだけで神を生めるのではないか。」



 そして最後に顔を洗うと、左目からアマテラス大神が、右目からツクヨミ神が、鼻からはスサノオ神を生んだ。



 これにイザナギは慢心した。

 自分の力でイザナミから逃げ切り、岩で閉じ込め、ついには三貴子を生んだのだ。

 もはや何も怖いことはない。





 アメノミナカヌシは心底がっかりした。



 私はそんな奴に分け御霊を与え、国づくりを命じたのか。

 誰のせいでイザナミが苦しみ、また、魂が彷徨ってしまったのか。

 そして、イザナギを無事にこの世に帰らせるために、私がどのように助力したのか。

 ぶどうもタケノコも桃も、そして大岩でさえイザナギは全て自分が成したことと思っている。



 そのときアメノミナカヌシは決心した。



 この男に国を任せるわけには行かない。

 虚傷まみれになってしまったこの国を救うにはイザナミの魂を癒さねばなるまい。

 ひとまずわたしはイザナミを救おう。



 どうすればイザナミを救える?

 そうだ。元凶であるこの男が改心してイザナミに寄り添うことなくしてはイザナミは救われない。



 イザナミの魂を癒すためにはイザナギの魂が必要なんだ。



 国を造るにはイザナギの力が必要だ。

 しかし、このままではこの世は虚傷にまみれてしまう。

 イザナギをここにおいてはいけない。



 幾度も思い巡らせ、熟慮の末、ひとつの解を導いた。



 国づくりは三貴子らに任せよう。

 方法はある。

 イザナギの子だ。わたしの分け御霊であることには違いない。



 アメノミナカヌシはイザナギには内密に三貴子にコンタクトを取り、計画を話した。

 三貴子は難しい顔をしながらも、最終的には同意してくれた。





 アメノミナカヌシはある日、自らの分け御霊、イザナギの体から魂を抜き取り、黄泉の国へ連れて行った。しばらくの間、肉体はアメノミナカヌシが管理することにした。



 いきなり、肉体から魂が離されたイザナギは戸惑った。しかも、黄泉の国に連れて行かれたのだ。あれほど汚いと忌み嫌った黄泉の国へ。



 そして、イザナギはイザナミの体に入れられ、追体験させられた。

 イザナミの体を通して、イザナミの心も手にとるようにわかる。いかにイザナギを愛していたか。幸せであったか。

 そして、カグツチの出産時、陰部を焼かれて命を落とす。その痛みも文字通り身をもって知った。



 イザナミは黄泉の国へ渡った。ここで救われるはずだった。

 しかしイザナギがそれを阻止した。ようやく苦しみから解き放たれたイザナミに対し、再度、苦しんで戻るようにと言った。

 なんて自分中心の身勝手さだったか。



 更に追い打ちをかけた。

 この苦しみの中再生中の彼女を穢らわしいと忌み嫌い、一目散に逃げ出した。

 何と非情なことか。何と酷いことをしたのだ。



 イザナギはイザナミの中に入り、彼女と同じ体験をすることで、ようやくイザナミの痛みを共有し、イザナミの愛の深さを知った。



 また、あの逃亡の際、アメノミナカヌシが助けてくれていたことを知り、イザナギは自分の傲慢さに情けなくなった。



 ああ、イザナミよ済まなかった。あまりにも浅はかだった。許してくれとは言えない。其方が虚傷になったのも当然だ。どうか償わせて欲しい。



「愛している。」



 ようやく、この言葉がイザナギの中から出た。

 その時、虚傷まみれになっていたイザナミは正気を取り戻した。



「愛しい人よ、何故泣いているのですか。」



「ああ、イザナミよ。許しておくれ。わたしは貴女を深く傷つけてしまったのですね。

 もう、わたしは貴女以外何も要らない。

 だから、もう一度、わたしの傍にいてくれ。」



 イザナギとイザナミは魂になってようやく本来のあり方に戻ったのだった。



「ほら、みてごらん。

 わたしたちの子が、こんなに国を豊かにしてくれているのよ。」

 イザナミは、そう言って黄泉の国からうつつよを見守っている。



 イザナギが殺したはずのカグツチもここでは純粋な魂だけである。

 魂は憎しみを持たない。

 あるのは慈愛の心だけ。



「お父さん、ボクはここで両親と暮らせて幸せだよ。

 うつつよはまだまだ発展して欲しいから、きょうだいたちに会えるのはまだ先だね。」

 生まれてすぐ殺されたカグツチは大人なのか子どもなのかわからない純粋な魂だ。



 そう、黄泉の国が汚いというのは、それを見るものの心がそれを映すのだ。

 だから、今のイザナギとイザナミには醜いところは見えない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。