第十話 アイドル誕生秘話
さっき受け取ったばかりの新譜。しかも私たち、さっき顔を合わせたばかりで打ち合わせすらしていない。
でも、ハモリが気持ちいい。
欲しいところに声があるって感覚、こんなの初めて!
「さぁさ、ちょっと踊ってみよう。こんな感じで。」
今まで黙っていたはずのシンが前方に来て手を大きく振る。
「今度はステップも混ぜてみよう。」
ステップ?ジャンプの間違いじゃない?なんて思うも、言われた通りにステップを踏む。
「うん、うん、いいね。君たち、とってもいいよ。初めてセッションしたとは思えないくらい息もピッタリだ。」
「それは、ボクの作曲がいいからでしょ!」
リューヤの自画自賛の声に笑いに包まれる。
「はいはい、それはそれはいい曲をありがとう。」
「ワタナベさん、投げやりだなぁ。」
笑いに包まれる空間。なんだか好きだなぁ。
「ところでね、ボクも今日、いきなり呼ばれたクチなんだけど、このリズム感といいハーモニーといい、キミたちには光るものがある。
是非、ボクの手で、キミらをメジャーに持っていきたい。」
ワタナベPは続けて、
「ボクはね、ここで見つけた原石を磨いてみたい。
どうだ?ここにはレコード会社のA&Rも居るよ。ね、アイカワさん、マキタさん。」
と、会場の中のでも、それぞれ離れた席に座る二人に声をかける。
二人とも大きくうなずく。
これって決まったことなの?
突然の方向性に焦っていると、
「すぐには決められないと思うけど、とりあえず親御さんとも相談してみて。
ボクは明日から一週間、17時にはここにいるから。」
「そうだなぁ、親御さん連れてこれなかったらひとりでもいいから来て。
ドリンク、ご馳走しちゃうよ。
カテキョ代わりにしていいからさ。こう見えてもK大理工学部卒だから。勉強くらい見れるよ。」
「やった!乗った!私、物理がわかんなくて。」
と、トモカがいう。
「私、既に大学生なんですけど。文学部の。カテキョって何を教われば?」
そうふてくされたようにつぶやいたのはヒマリちゃん。
私たちよりちょっとお姉さんらしいけど、見た目は幼く見える。
「ごめんごめん、ヒマリちゃんには別の特典を授けよう。リューヤのキスはどう?」
「全力でお断りします。私ジュンイチ推しなので。」
即答だった。ぼーっとしているように見えて頭の回転は早いようだ。
リューヤはここにいない別のメンバーの名指しにショックを受けたのか、
「あぁ、どうしよう。ワタナベさんのせいで、オレ、振られちまったよ。」
と泣きまねする。
また笑い声が高くなる。
何、これ。今までスターを眺める側であったはずなのに、今日は見られている。やばい。気持ちがめっちゃ高揚している。
「あたし、まだ中学二年生だし、受験もこれからなんです。」
えっ?私たち五人の中では一番背が高く、スタイルも抜群。歌唱力もあって雰囲気も大人っぽいリコちゃんが一番年下・・・・・。これ以上成長するのだろうか。末恐ろしい。
どこかの漫画では白目で「恐ろしい子」という場面なんだろうか。
「私は高三ですけど、卒業後はアメリカの大学に進学する予定なんです。」
コトハちゃんも爆弾を抱えていた。
ちょっと静まり返ったあと、ワタナベPは、
「ま、進学とかいろいろあるだろうけど、今の段階の君たちの気持ちを聞かせてほしい。」
と言った。
サクラコは、ワタナベPに言われてさっきの高揚感を思い出した。
そして声に出していた。
「私、やりたいです。今日会ったばかりの人ばかりですけど、声を合わせる快感をもっと味わいたい。」
「じゃあサクラコちゃんは決まりだね。」
「あ、でも、うちは親が厳しいから芸能活動とか許してもらえないと思う。」
「そこはね、これを解決するのが僕たちの仕事だよ。
それに、今思いついたけど、コトハちゃんがアメリカに移住したら拠点をアメリカにするのはどう?
向こうの作詞作曲、ダンスを取り入れてドバーっと売り出すの。
和製アイドルがどこまでいけるか、ワクワクしない?」
話が大きくなりすぎ~~~
ちょっと怖いけど、でも、この人についていけば大丈夫な気がする。
五人の中でだんだん気持ちが一つになりつつあった。
「先のことはともかく、キミたちにはボーカルとダンスのレッスンをしたいわけ。
だからまずは事務所と契約したい。
うちの事務所『アイ企画』はね、独自の規約で23歳未満は全員保護者の同意の上契約してもらっているんだ。
だからうちは業界一トラブルが少ないんだよ。」
少しずつだけど、芸能界に対する不安を取り除いてくれる、その姿勢に信頼感が生まれる。
明日、まだ期末試験前だけど、お父さんとお母さんを連れてここに来ようとサクラコは決意した。
◇ ◇ ◇
そして、後方の席では顔をベールで隠した女性とやたら明るい女性がこっそり話をしていた。
「ねぇ、イワナガちゃん、あの子たちいいよね。1+1+1+1+1=100くらいになってる。」
「ウズメちゃんがいいというならいいんじゃない。芸能の事は任せたわ。それより明日は早めに掃除しに来てね。」
「もう、イワナったらすぐ現実に戻す。」
「その呼び方はあの人にしか許してないんだからやめてね。」
「ハイハイ、わかりました、イワナガ様。明日はサルタヒコも連れてくるわ。力仕事がありそうだもんね。おやすみ。」
そういって、音守処を後にしたのだった。




