第十四話 作戦会議
「そうさなぁ、ツクヨミに会っていかぬか?」
アマテラスは三人を促した。
ツクヨミは奥にある台座に鎮座していた。そう、「鎮座」という言葉がしっくりくるようなたたずまいだ。
そして、そこには驚く者が居た。
「親父!なぜここに?」
ニニギはアメノオシホミミが居ることに驚いた。
「おお、ニニギか。儂はたまに訪れておるぞ。叔父殿は恩人だからの。」
そうか、親父は知っていたんだ。ばぁちゃんがちゃんと話をしたんだな。
そう思っていた。でも、話しているうちに少しずつ違和感を感じた。
「えっ?ツクヨミのじっちゃんは親父かわいさに虚傷を引き受けたんじゃないの?」
「それもあるだろう。だが、一番の理由は儂の霊力が足りないからだ。」
霊力?初めて聞く言葉だ。
「霊力?それが無いとどうなるんだよ。」
「霊力には虚傷を抑える力がある。しかしその力が弱いとせっかく抑えた虚傷があふれ漏れてしまう。そして儂からあふれだした虚傷が世界を吞み込んでしまう。
そうなるとわかるだろう。もうこの世は存在しきれなくなる。」
背中がゾクッとした。
親父の霊力からあふれた虚傷は大事になる前にツクヨミが気付き、できる限り己の闇に取り込んだという。しかしそれは虚傷の幻、つまりは虚の虚であるがゆえ、いずれは勾玉を砕いて成したアメノオシホミミの中に戻ってしまう。そうなるとイザナギとイザナミが起こした大惨事がくりかえされてしまうだろう。
「そこでだ。ニニギ、お前は儂と違い豊富な霊力を持ち合わせている。儂は儂では抑えきれない虚傷をお前に託した。予想通りお前は自分で自覚もしないくらい難なく虚傷を抑えておる。何も知らない時点でだ。」
霊力というのが何なのかも知らない。だけど、その力があるという。
「また、お前の氣の流れを見ると、ある時を境に変化が起きている。気付いているか?」
アメノオシホミミによると、ニニギは虚傷を抑えている反動で体調をよく崩していた。でも、ある時を境に元気になった。その時期とはこの草原に越してきたころだ。単純に空気がいいのかと思っていたとのこと。
「だけど、アマテラスに言わせると、それはこのお嬢さんたちがお前を守っているということだ。」
ニニギは愕然とした。
あゝ、俺はいつもこの二人に守られているんだ。サクヤは命をイワナガは美しさを削って。
そして、元気になったのは、サクヤとイワナガに出逢った頃だと気が付いた。
それまで黙っていたアマテラスの口が開いた。
「虚傷はこの世と表裏一体じゃ。戦って滅ぼすものではない。今のこの虚傷は我らの母ともいえるイザナミの憎しみから生まれたものだ。それは慈愛で取り込み焼き尽くさねばならぬ。
だからこそ、イワナガとサクヤの慈愛の心と守る力が必要なのじゃ。」
「えっ、俺はイワナガを娶りたい。ばぁちゃん、さっきはサクヤと子を成すと言ったよな。イワナガでもいいならイワナガと子を成せばいいのだな。」
「それはできないわ。私、石女だもの。未来永劫それは変わらないわ。」
イワナガが叫ぶ。
ニニギは驚きつつも憔悴したような顔を浮かべている。
気を取り直し、
「じゃあ、二人とも娶ればいいじゃん。」
これに異議を唱えたのはアマテラス。
「そうはいかん。悪いがイワナガヒメ、そなたには大事な役割がある。八咫鏡を取ってきてもらう。鏡は、この岩戸の奥の奥、業火の海を超え、大瀑布の滝壺にある。
そこに行けるのは岩という不動な壁であるそなたにしかできぬこと。」
アマテラスは続けて
「虚傷には、恨みつらみが籠っておる。癒すにはまずは自覚じゃ。自分を見つめるために八咫鏡が必要なのじゃ。ただ焼いただけでは虚傷が増幅するだけじゃ。
だから八咫鏡がないといけない。わかるな。」
「というわけでな、ニニギ、お前はサクヤと結婚しろ。すぐに身籠るから安心するがよい。そしてイワナガは八咫鏡を取りに行け。産み月までには必ず戻って来いよ。」
まったく、ばぁちゃんは決めたことをすぐに命令する。人の気も知らずに勝手だよな。俺はサクヤのことが心配なのに。
出産時に焼かれるというサクヤのことを思ってしまう。
「ああ、サクヤは死なんよ。ちょいと苦しい思いはするが、なあに、出産は苦しいもんじゃて。カグツチ兄さんも助けてくれるゆうし。」
顔に出やすいニニギの思うところにピンポイントで答えるアマテラス。
この言葉で、あの火の神カグツチが居るなら大丈夫か。とホッと胸をなでおろす。
「だから天界への説明としては、サクヤと結婚したいと申し出る。これに傷心のイワナガが旅に出る、というのが流れがいいのう。ただ、あの娘思いの熱い山の神は、ただそれを聞いたらニニギを半殺しにしかねない。儂から事情を話すことにするよ。」
前にアマテラスが言ったように、少人数で物事を解決しようとせず、筋を通して仲間を増やす方向に舵は切られた。
こうして天界を揺るがす大プロジェクトが発動された。
ここで、突然叫び声が放たれた。
「おお、そうじゃ、このところ祭りごとがなくてつまらんと思っておった。いっそのこと天界を挙げて結婚式をしようではないか。」
これまで黙って鎮座していたツクヨミが瞳を輝かせて言った言葉だった。
ああ、これも決定事項なんだな。
ニニギは声には出さないが、諦めた目がそう言った。




