第十五話 婚礼衣裳の注文は一筋縄ではいかない
いきなり結婚式を挙げることになってしまったニニギたち。当人たちの感情をよそに、アマテラスとツクヨミのテンションが高い。スサノオは、突然の呼び出しに驚いたものの、二柱の言動をおとなしく聞いている。
「こうなったら、あの姉と兄は止まらないからなぁ。諦めな。」
スサノオはニニギにそう耳打ちする。今までの言動から「そうだな」と納得するしかなかった。
「でもよ、世間ではスサノオじっちゃんがやべぇヤツって認識じゃん。こんなおとなしいのにさ。」
「うん、俺は月の、つまりはツクヨミの影響を受けるからな。今は新月だしな。満月の時は、自分でも制御できんくらい、パワーがこう溢れてくるんだ。
とはいえ、ツクヨミが虚傷を抱えてからはそんなに酷くは無くなったがな。」
「じっちゃんも苦労してるんだな。」
「ま、ツクヨミはツクヨミで、寡黙だというイメージがあるから苦労してるしな。」
「「それって、周りが勝手に作ったイメージに自分が合わせているということ?」」
おお、きれいにハモった。
実は前から思ってたんだよな。この二人、声の波長がピッタリだと。歌わせれば絶対きれいにハモる!
それはそうと、俺らとスサノオじっちゃんは、アマテラス、ツクヨミの突飛な思いつきに翻弄される運命共同体を感じてしまった。
ま、話は白熱しているので、静観することにする。
「さてとな、まずは斎主を誰に頼むとするかのう。」
一柱ずつ候補を挙げては却下していく。すると、
「おう、そうじゃ、カムムスヒ様がしがらみが無くてよい。そうと決まれば早速頼むとするか。」
アマテラスは、早速『だいれくとめっせーじ』でカムムスヒに打診した。
返信はすぐに届いた。
「喜んで承る、とのことじゃ。早々に日程調整せにゃならぬな。」
「それより姉上、婚礼の儀はいいとして祝言の宴は我が仕切るぞ。姉上が居ると、いつも日の目をみないからな。宴は夜に執り行うぞ。」
「仕方あるまい。儂は裏工作もせんと意見し、岩戸から覗くとしよう。だが条件がある。リアルタイムで岩戸と実況を結ぶのじゃ。そうすればお祝いのスピーチもできるわな。おっほっほ。」
なんやかんや言っても仲のいい姉弟である。弟思いのアマテラスは引き際もわきまえている。発案者のツクヨミに花を持たせるつもりだろう。
話し合いが進み、大まかな骨子が出来上がってきた。
・斎主 カムムスヒ
・祝言の宴司会 ツクヨミ
・花嫁介添え イワナガ
・料理 トヨウケ
・歌と踊り アメノウズメ
・舞台装置 タヂカラオ
他にも、まぁよくぞここまでってくらい細かい役割が並ぶ。
「衣裳なんだが、それは華やかにせんとなぁ。神事の大切な行事じゃ。織姫に特急で頼むとするか。とするとアメノタナバタヒメに話を通さぬとなぁ。」
おもむろに『すまほ』を取り出し、電話する。
「あ、タナバタヒメかいの?ちょっと相談があるのじゃが。」
嘘つくんじゃない!相談と言ってもお断り不可だろうが。タナバタヒメが不憫すぎる。
「今度、孫が祝言を挙げるんでな。どうじゃ、織姫に衣裳を作ってもらいたいんだが。」
「それは難しいです。織姫は彦星と一緒になっては遊び過ぎたので、向こう三年分の仕事が溜まっております。三年後でしたらお請けできますが。」
「それでは間に合わん。三か月で仕上げてくれ。特急料は惜しまん。」
しばらく考えこんでいたタナバタヒメが、重々しく口を開いた。
「・・・アマテラス様、それでは織姫に直接交渉してくださいませ。妾が口利きしたと思われれば神界のスキャンダルになりかねません。どうぞご理解くださいませ。また、織姫は目上の者へのマナーがなっておりませぬ。これも併せてご理解くださいませ。」
タナバタヒメは保身に走ってしまった。まぁ、神々の力関係を考えると仕方のないことかもしれない。
◇ ◇ ◇
ここからはアマテラスの独壇場となる。無理難題をうまく交渉できるのか、見ものである。
「其女が織姫じゃな?儂はアマテラスじゃ。」
「うん、知っている、アマテラス様。あたしが織姫よ。仕事が溜まっちゃってさ、最近残業続きなんよ。タナバタヒメの機嫌は悪いしさ、織元から出られないから彦星には会えないしさ、ストレス溜まるつーの!」
一気にまくし立てられた。
そうか、これが織姫か。確かにマナーもなっとらんな。けれど腕は一流だし、ここは儂の出番だな。さて、どう攻めるか。
「だからさ、これ以上仕事しろってんならお断りよ。機織りばっかりし過ぎて肩凝るし、目も疲れるわ、手は腱鞘炎で痛いったらありゃしない。お願いだから仕事、減らしてくんない?」
「それは大変じゃな。仕事を請け負うのはタナバタヒメの所轄だから儂にはなんも言う権利はないぞ。儂がアドバイスしてやれるのは其女の働き方改革だけじゃ。」
「えっ?それ何?初めて聞く言葉だけど。」
「其女は自分の機織りが一流だと知っておるか?」
「もちろん知っているわ。だからお父様に『この技術は誰にも知られてはならぬ。知られたらお前の価値はなくなるぞ』といわれているわ。」
「それがそもそもの間違いじゃ。受け継ぐ人がおらぬと後にすたれてしまうぞ。其女の価値を後世に残したいのなら信頼できる仲間を作ることじゃ。」
織姫は、アマテラスの提案に驚き、はじめは半信半疑のまま黙り込んだ。何より自分がこれまで苦労してきた意味を見失いそうになった。けれど、この環境が改善されるならとアマテラスを信じてみることにした。
「まずは其女の織を近くで見ていたものはおらぬか。それからすすめてみよう。気に入らなければいつでも断っていいぞ。」
「それなら、織場の掃除などしてくれている娘たちがいるわ。ちょっと呼んでくる。」
織姫は、イト、アヤ、ツムギの三人娘を呼んだ。
アマテラスは娘たちを面接した。三人とも機織りの仕事にあこがれており、話はスムーズに進んだ。
「なぁ織姫。一番多い仕事は何じゃ?」
「それは天女の羽衣だよ。あいつらいい男を見つけるとすぐ地上に降りたがるからさ。それも張り合っているんだよな。羽衣の質も落とせないし、困ったもんだよ。」
「決まりじゃな。羽衣はイト、アヤ、ツムギに任せよう。なあに心配せんともよい。一つのものに集中すると上達は早い。しかも今はライバルがおる。ライバルがおるのは強いのう。
おお、そうじゃ、機織りするときはこういった音楽を共にするとよいぞ。」
アマテラスはノリのいいJ-POPをセレクトしてかけてあげた。
そして、毎日、織姫の手元を見てきた三人である。
アマテラスの言った通り、三日もすると三人は織姫のものと比べても遜色のない羽衣が織れるようになっていた。
「アマテラス様、働き方改革というのが少しわかった気がするよ。これからは抱え込まないようにするよ。でも『ぶらんど』は守りたいから、この子たちが成長するまでは内緒にしてね。」
「どうじゃ、手はいくつあってもよいものじゃろ?ひとまず解決したということで、改めて婚礼衣裳を頼みたい。期限は三か月じゃ。」
「えっ?アマテラス様、無茶を言わないでよ。いくら何でも・・・」
「他のは後回しにすればよい。なあに、羽衣を納品していれば仕事しているように見えるわい。その間に三人娘の腕も上がるじゃろう。そうすれば逆に納品は早くなるはずじゃ。」
「そんな~、さすがに婚礼衣裳を三か月は厳しすぎよ。」
「そうじゃな、風邪でもひいてもらっては困るなぁ。ユ●ケル皇帝ロイヤルプレミアムを差し入れしちょる。これで風邪はひかんじゃろ。肌のためにチョ●ラBBも毎日飲むとよいぞ。なぬ?それでまだ不満か?S●-Ⅱのスキンケアセットもつけてやろう。ヴァー●ルがよいか?」
「いえ、S●-Ⅱで…」
もう、織姫は引き返す術をうしなった。




