第十三話 アマテラスの懺悔
無言になる三人。
「うむ、何から話したらいいのかのう。かなりさかのぼっておるのじゃが。」
口にすることさえ憚るように、重い言葉をひとつずつ吐き出していく。
イザナギとイザナミのこと。アメノミナカヌシがやってしまった罪。これは未来永劫隠し通さねばならない神の罪であること。また、それにより世にひずみが生じたこと。その虚傷を抑えるため、アメノミナカヌシが行動したこと、等々できる限り順を追って話していく。
「まず初めに言っておく。虚傷は決して無くならない。しかし、大地を揺るがすような虚傷は愛と光で癒さねばならない。これは虚傷とどう付き合って調和を図るかが肝心じゃ。
儂の失敗だが…… 原因をと問えば、ひとえに他の神たちを信じなかったに尽きる、のじゃろうな。」
ひとつひとつ、贖罪するように言葉を紡ぐ。
「まずは驚くなかれ。
先に話した通り、イザナギは既にここには居らぬ。黄泉の国へ行ったままじゃ。イザナミと固く結ばれたようで、魂は生まれ変わることをせんだろうな。」
自分の親のことなのに、随分醒めた調子で話をする。
「今居るイザナギは実はアメノミナカヌシなのじゃ。」
へっ?そんな!これはトップシークレットというものじゃないか!こんなこと、俺らが聞いていいものなの?
「ふふ、実にニニギの考えていることは、すぐに顔に出るなぁ。あーわかりやすい。」
アマテラスは笑ってニニギを見つめる。
「もちろん、当事者なんじゃから聞いとくれ。
儂とスサノオの間にはもうひと柱、神が居ることは知っておるな?
そう、本来ならツクヨミが居るんじゃ。
今、ツクヨミはアメノオシホミミの身代わりになって虚傷をかかえておるんじゃ。
そしてツクヨミは今、この岩戸の奥に鎮座しておる。」
いきなり親父の名前が出て驚いた。
親父、何をしでかしたんだ?
ニニギの顔を見てアマテラスはふっと笑う。そして、慈しむような目を向けて
「いや、アメノオシホミミが何かをしたわけではない。生まれたばかりのかわいい甥を見てツクヨミが自分で決めたんじゃ。」
「アメノミナカヌシはのう、三種の神器のひとつ『勾玉』に虚傷を閉じ込めたんじゃ。
その勾玉は儂が預かったんだが、虚傷を引っ張り出すには男神の力が必要だったのじゃ。
だから儂はスサノオに頼んで五男を生んでもらったのじゃ。
その一柱がアメノオシホミミでのう。
アメノミナカヌシは、はじめはアメノオシホミミに虚傷を包み、焼き消す予定だったのじゃ。」
えっ、それじゃあ本当なら親父は死んでいたということ?
「心配せんでもええ。肉体は焼けても魂は残る。またいつか生まれ変わる。」
顔に出やすいというニニギの心を読み取り、アマテラスは諭すように言葉を繋げる。
「ただ、いづれにしても、肉体の焼ける苦しみは想像を絶するであろう。赤子であろうともな。
ツクヨミは甥であるアメノオシホミミをたいそうかわいがっていてな、その役目を引き受けようとしたのじゃ。」
そうして引っ張り出した虚傷をツクヨミは自らの身体に包み込んだ。
実は虚傷は焼いたからといって完全に消えるわけではない。神と調和することで厄災を打ち消すのだ。そのことに気付いた三貴子は他の方法を探した。そうすると見つかったのだ。それもツクヨミとアマテラスでなければできない方法を。
ツクヨミは月の神であると同時に夜の神闇の神でもある。だから闇の中に閉じ込める方法が取れる。だがそれには1000日も太陽を隠す必要があった。
「だから、儂とツクヨミはこの岩戸に籠ったのじゃ。当時はそのことを知るのは三貴子だけであった。三貴子だけで一度曲がった神話を矯正しようとしたのじゃ。」
アマテラスはひとつひとつ言葉を選び、紡いでいく。
三人は真剣に聞いている。
ところが、アマテラスが岩戸に籠り、闇の世になってしまったとき、天津神らは非常に焦った。このまま日を見ないのか、と。
ここで、何も知らない神々はどうにかアマテラスを引っ張り出そうと宴を催した。
「あとは知っての通り、神々は協力して儂を岩戸から出しよった。
おかげでこの計画がつぶれてしまったのじゃ。」
「じゃあ、宴をしていなければよかったということ?」
「いいや、そうではない。三柱で事を済まそうとしたことが間違いだったのじゃ。
最初からアメノミナカヌシの罪を天津神に話し、一緒に解決しようと願えればよかったのじゃ。
特に、アメノウズメには悪いことをしてしまったな。」
あの、開闢は嬉しいこととして伝わっている。
けど、ばぁちゃんの話を聞くと、大失敗だってことだなんて。。。
沈黙はまだ続く。
「そこで、おぬしらにお願いじゃ。改めて虚傷を癒してほしい。儂らは一度失敗してしまった。もう、闇に包む事はできぬ。
それはニニギ、お前はアメノオシホミミの子だ。お前のY遺伝子に既に虚傷は居る。今、厄災の虚傷だけはツクヨミが封じておるが、それとていつまで持つだろうか。時間は迫っている。おぬしに託すしか無くなった。
そして、コノハナサクヤヒメ、おぬしが火中で子を守りながら出産するしかない。」
と言われた瞬間、イワナガだけは、その言葉の先にあるものを理解する。
火の中で子を守る。それが何を意味するのか。
イワナガには分かってしまった。
サクヤが、死んでしまう。
「それは、サクヤが死ぬということではないですか!」
今まで黙っていたイワナガが大声で叫ぶ。
アマテラスはそれを想定していたように静かに言う。
「だからこそ、おぬしが必要なのじゃ
これはニニギとサクヤにしかできない芸当じゃ。イワナガはそれを支えてほしい。
このとき生まれた子の子孫がこの大和の国を導くことになる。」
「いや、俺が娶りたいのはイワナガなんだ!勝手に決めないで欲しい。」
ニニギは叫んだ。先人の神の尻ぬぐいでイワナガと結ばれないのは困る。
そしてサクヤを見る。
「うん、わかってる。にぃにぃはねぇやが好き。ねぇやもにぃにぃが好き。これは魂が惹かれあっているの。私にはわかる。そして二人とも私を大事にしていることも。」
ニニギとイワナガは両脇からサクヤを抱きしめた。
この世の夜明けと思われた岩戸の開闢。それが失敗だったなんて驚きですね。
さて、四日おきの更新はここまで。
次回から一週間ごとの更新とさせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。




