第十二話 サクヤとの約束、守れたよ
明日、サクヤと遊んでいて、と言われて、遊びを考えながら眠りにつく。
うーん、キツネの頃なら弓矢を射って追っかけっこしてたけど、今のサクヤはキツネじゃないからなぁ。絶対当たらないとは思うけど、サクヤに矢を向けるのが嫌なんだよな。
他にも子どものころ、従兄弟たちと遊んだことをいろいろ考える。
ま、その時で考えよう。とりあえず渓谷行くんだから、魚捕りの罠を用意して、とそのほかは成り行き任せだ。
明日のことを思いつつ、ニニギは眠りにつく。
◇ ◇ ◇
翌朝、渓谷で魚の罠を用意しているとサクヤがやってきた。
「にぃにぃ、何しているの?」
「うん、魚を捕まえようと思って。あ、濡れるからちょっと離れといて。」
「平気、平気。これくらいならすぐ乾くから。それより水が気持ちいい。」
そう言って、はしゃぎながらニニギのそばに寄る。
ニニギとサクヤは半濡れになりながらも一緒に罠を仕掛けていく。
サクヤは罠の仕掛け方をニニギに聞いては、その通りに仕掛けていく。途中、石刃の使い方がおっかないところもあったが、その都度刃の持ち方から教える。
「よし、準備が終わったから、おっかけっこでもしようか。(あの頃のように、と心の中でつぶやく)少しの間、目をつぶっておくから、逃げてごらん。」
サクヤは狐の頃と変わらぬ軽快さで、草むらから岩場へ、岩場から木の上へ跳ねていく。追いかける方が大変だ。でも、もうサクヤの命は縮めたくない。自分がケガしないように気を付けて追いかける。
ああ、楽しいぜ。あの時の約束、サクヤは覚えていないだろうけれど、ちゃんと守れてるよ。
ふと、草むらを見るとキジがノソノソと虫をついばんでいるのを発見する。
ニニギは思いついて、手ごろな生木の枝を切る。ちょうど股になるところに蔦をきつく巻いて石ころを挟み、強く引いて石を飛ばす。いわゆるスリングショットであるが、ニニギたちは『エセユミ』と呼んでいた。
日ごろからエセユミで遊んでいる成果を発揮、一発でキジに命中させた。
哀れなキジは脳震盪を起こしたのか、ピクピクしたまま動かなかった。
ニニギはすかさずキジの足を縛り、獲物を担ぐ。
「えっ?何?私にもやらせて。」
何にでも興味津々のサクヤはニニギからエセユミを奪い、真似て石を放つ。
初心者の上、力も弱いサクヤではなかなか思ったように狙えなかったが、それでも小一時間もすると飛距離を伸ばせるくらいにはなった。
「初めてでこれだけ飛ばせればすごいよ。練習すれば、ウサギくらい狙えるようになるよ。」
ニニギはサクヤの運動能力に感心しながら褒めた。
そして渓谷の罠を見ると、魚が思った以上に捕れていた。
いきなり、サクヤは足元の水を掬って「えいっ!」とニニギに向かってかけてきた。
あっという間にびしょ濡れだ。
「やったな!お返しだ!」
ニニギも笑いながらサクヤの足元と指先を狙って水をかける。
「きゃー、冷たい。にぃにぃの意地悪~。」
どっちが先に水をかけたんだよ、全く。
さすがに全身を濡らすわけにはいかないよな。俺は構わないけど。
しばらく水をかけっこしたあと、枯れ枝を拾って火をくべる。
「すっかりぬれちまったな。さっさと乾かそうぜ。」
少し火の近くに寄り、服は着たまま乾かす。さすが、この季節は乾きも早い。
さて、魚でも焼くか、でも全部は食えねぇぞ、と少し考えて、4匹だけ焚火で焼く。この後イワナガに会った時に渡そう。残りは目刺しにしてお土産だ。
焼きあがった魚は調味料がなくても美味かった。一匹ずつサクヤと笑顔で食べた。
その時、イワナガからニニギのすまほにメッセージが入る。
「あのね、渓谷から少し南の方角に岩の洞窟があるの。ここに来てくれない。迷わないように入り口に赤い布を結んでおくわ。」
「さて、お呼びだよ。申し訳ないけど、これは持ってくれる?」
とサクヤに串に刺した焼き魚を持ってもらい、自分は目刺しにした生魚をぶら下げる。
◇ ◇ ◇
「よく来たな、ニニギ、そしてコノハナサクヤヒメ。」
「えっ、ばぁちゃん。なんでここに。」
ニニギが驚くのも無理はない、ここにいたのはイワナガの他にアマテラスオオミカミその人だったからだ。
それでもおぼっちゃまメンタル最強のニニギはすぐに気を取り直し、ちょうどいいとばかりに焼きあがったばかりの魚をアマテラスとイワナガに手渡し、目刺しの束をその辺の岩に吊るす。
「これは、さっき、僕とサクヤが捕って焼いた魚だから、食べて。」
「ほう、これはこれは。ここで孫の手料理にありつけるとはな。なんと至福なことよ。」
料理なんてほどでもない、ただ焼いただけの魚だ。それでもばぁちゃんは喜んでくれている。隣のイワナガも美味しそうに食べている。
なんとなく、こういうのっていいなと思う。
「さて、お前たちを呼び出したのは他でもない、大事なお願い、いや、使命と言ってもいいかもしれぬ、それを伝えたいのじゃ。」
三人は、声にすることもなく、アマテラスの次の言葉を待った。




