戦火の中で
ヴァルドはリュシアを抱き上げたまま。村のはずれに待たせていた騎獣のもとに向かう。
リュシアは抱きかかえられたまま、周りの様子を見てぎゅっと目を瞑り、ヴァルドに抱き着く。
周りは焼け野原で見渡せば死体の見えてくる。子供に見せるものでは確かにない。あまり良い感情は沸くことはない。人間であれ、魔族であれ誰かが死ぬことはある程度の知性があれば死者を弔うこともある。だが、今回の状況に関しては人間に対しての哀れみを感じることはない。人間側が魔族の領土に侵攻してきた。特段最近は人間と揉めていたとも軍議に上がっていなかった。
ヴァルドは兜越しに自分にしがみつき怯えている、リュシアをみる。魔力はないわけでもないが、見た目は普通の小さい子供、この場にいたということは何かしらこの進行に関与しているのか。
それとも、人間側の奴隷か何かで連れてこられたのか。まだこの少女に尋ねることは難しいと思った。
自分の後ろでは何か言いたげについてくる部下を後目に歩みを続ける。
瓦礫と炎名残が残る場所に黒く大きい体躯の漆黒の毛色をしている。日が沈んだ夜に馴染み今は闇と溶け込んでいる。額には鈍く湾曲した角が一本角生えている。四本の四肢は太く、筋肉が隆々としているが、しなやかさも兼ね備えておいる。地面を蹄を踏むならすと低く、大きい音が響く。目は闇の中で金色に鈍く光っており、穏やかにこちらを見つめている。
魔族領で育てられる重騎兵用の騎獣、馬のような姿だが、馬よりも賢く、体格もよい。ヴァルドのは特別に大きく感じられ、静かにその場にいるだけで威圧感を感じる。
リュシアはヴァルドの腕の中で大きいな騎獣を眺める。
「お、おおきい・・・おうまさん」
「馬ではない。騎獣だ。」
「おうまさんじゃない。」と尋ねると、ヴァルドは騎獣に触りながら「馬には似ているが姿形だけだ。こいつは知性もあり、賢い。馬と一緒にするな。特に私の騎獣は他の物よりも特別だ。」
「とくべつ。」と呟きながらリュシアも手を伸ばす。
騎獣は鼻を近づけてリュシアの匂いを嗅ぎ、鼻をフンっとならして静かに頭を下げる。口ではみはみリュシアを甘噛みしており、リュシアはくすぐったいと触りながら笑う。
「うごいた・・・あまがみされた。」ヴァルドに嬉しそうに話す。
「生きているからな、当たり前だ。動く。」低い声で淡々とリュシアに返答する。
待機していた部下がヴァルド様の騎獣が人間の前でおとなしくしていることに驚きを隠すことができずにいた。
気にせずヴァルドは「こいつは暴れたりしない。お前が暴れたり、泣こうが喚こうが気にしたりしないし、勝手に振り落とすこともないだろう。」と首をなでると嬉しそうに騎獣がブロロと声を出してすり寄る。
「ほんとうに・・・?」とリュシアが尋ねるとヴァルドは「メンシスはお前を気に入ったようだし、脅したりするつもりもないみたいだな。」というとリュシアにメンシスが顔を近づけて鼻息をかける。リュシア手で顔を隠すが間に合わず、してやったとメンシス嘶きご満悦。
ヴァルドはメンシスにまたがり、リュシアに手を伸ばして慎重に抱き上げて自分の前に乗せる。リュシアは地面から足が遠くなり、不安になる。後ろから支えてはいるがリュシアが驚きながら目をパチパチとしながらヴァルドの腕と胸から垂れていた外套に小さい手でしがみつく。
「怖いか。」とリュシアの頭越しに話しかけると「すこしこわい・・」と言う。
ヴァルドは片手で手綱をもち、もう片方の手でリュシアを落ちないように囲う。メンシスはこちらを見ていたが、前を向いて歩み始める。ゆっくりと上に乗っているリュシアを気にしているように。時々リュシアを振り向いてみているとリュシアがびくっとさらに腕に強くしがみつく。
「大丈夫だ・」
「ほんとに、おちない・・・?」
「メンシスが万が一落としても私が落とさない。」とリュシアを落ちないように抱える。
その言葉は確かに重く、確かだとリュシアも感じた。少しうつむいてまた、小さく頷いた。
揺れも思っていたより少なく安心するリュシア。しかし、焼けた村が高い位置からよく見えてしまう。
崩れた屋根、道に倒れてい死んでいる人間や魔族。リュシアは怖くなり、目を固く瞑ってヴァルドにしがみつく。
ヴァルドは静かにリュシアに見たくなければ目をつぶっていろ。という。リュシアがさらにぎゅっとしがみつく。ヴァルドは前をみながら低い声で尋ねる。
「お前はなぜここにいたんだ。」と。
リュシアの肩がぴくっと揺れて、黙ってり、すぐに返事が返ってこなかった。
暫くしてかすれた声で少し涙声で返事をする。
「ちちうえに、いきなさいといわれた。ほんとうはいきたくなくて、いやだっていったの。けど、つれてこられた。きゅうにねむくなって、おきたらたくさんのひとがたおれてて、こわくて・・・にげだしておそわれそうになったからにばしゃのしたにかくれたの。」
「父上?お前には家族がいるのか。」
「ちちうえ、ははうえ・ねいさま。」と呟くと大きい瞳に涙をためて「あいたいよう。」と泣き出してしまう。
ヴァルドは腕の中で泣いているリュシアに何も言わずに自分の外套が涙で濡れていく、小さく震えている少女をだた、見つめることしてできなかった。
「おうちにかえりたい。」としゃくり泣いているリュシアに「そうか。」と言う。
この少女は親に利用されてここにいるのかとなんとなく察する。しかし、膨大な魔力があるようにも感じない。この少女の親とはいったい何者なのか探る必要があるとヴァルドは思う。
ヴァルドはリュシアに「今すぐに、家に帰すことができない。」と言う。
そして、そのまま互いに無言でメンシスは歩み続けている。リュシアの鳴き声が次第に小さくなっていき、暫く無言で進み続けているとリュシアが口を開く。
「あなたはへいきなの?」
「こわいのとないの・・・こんなにたくさんのひとがたおれてるのにへいきなの?」と
「ある。」と即答する。「だが、恐怖に陥るときもある、判断に悩むこともある」と
「・・・どうして。」
「顔に表情にでれば舐められるだろう、また部下が不安になり、私に従わなくなる。」
リュシアはヴァルドの兜越しに顔の覗き込む。ヴァルドは続ける。
「私は今まで生きてきて自分で判断し、誰にも頼らず上り詰めた。自分だけを信じここまできた。不安や恐れを顔に出せば相手に隙を与え、つけ入る隙間ができる。そうすれば私は殺されていただろう。」
ヴァルド自身も妙なことを口走ったと思う。こんなこと人間の少女にいうことではない話だった。
「忘れろ。こんな話」
リュシアは首をかしげる。そしてさらに、ヴァルド不器用な言葉を吐く。
「・・・恨むなら恨めばいい。」
リュシアの身体がこわばる。ヴァルドは前を見たまま続ける。
「なぜお前がここに連れてこられた理由は分からないが、私はお前たち人間といがみ合っている側だ。」
「・・・・」
「しかし、この村は魔族領下の村だ。ここの村にも魔族は住んでいた。人間と同じように。だから。魔族側も人間を恨むだろう。」
「・・・」
ヴァルドは続ける。
「しかし、人間側も魔族に防衛とはいえ、殺されている。それを知れば生きている人間どもは我々を恨み、攻撃を繰り返すのだろうな。だから。終わらないのだろうな戦は」自嘲気味に笑う。今まで何人の人間を殺してきたことを思い出す。泣いてすがるものや怯える兵士を殺してきた。私が直接この場で手をだしていなくても恨まれる対象であることは理解している。
リュシアはなにも言わないが、ヴァルドの外套を掴む小さな手に力が入る。
「連れてこられたお前の理由は知らないし、気の毒だと思う。しかし、お前の知り合いや身内を殺しているかもしれない。だから、私を憎むなら、それでいい。」
その言葉は冷たいようだが、諦めにも似ていた。
言われて慣れている物の言葉と声だった。
リュシアはしばらく黙っていたが、やがて本当に小さい声でヴァルドに尋ねる。
「じゃあ、なんでたすけたの・・・」
ヴァルドは答えずにメンシスの足音が一定に続いている。
「気まぐれだと先ほども言っただろう。」
「きまぐれ?」
「いや、本当は分からんな。」
「わかんないの?」
「・・・分からなくても手を伸ばすときはある。」
リュシアはは黙ってその言葉を黙って聞いていた。沈黙が続く。しかし、少しだけ刺々しさが薄まった。
暫くしてリュシアはそっと尋ねる。
「あなたのおかおは。」




