プロローグ
焼け焦げる匂いが立ち込めている。家屋が焼ける、家畜が燃える、逃げ遅れたものが倒れ血を流す、
整地された道は赤黒く染まり、黒煙の匂いが残っている。焼け落ちた家の隙間を熱が冷めない風が流れてくる。
少し前までに叫び声や鳴き声が耳に残っている。目の前に広がる後景を眺めながら歩く男がいた。
背は普通の人間よりも身長が高く、黒々とした全身を覆う甲冑を身にまとい、顔は兜をかぶり、鼻から上は全て覆われている。見えるのは口元のみ、誰も彼の素顔も見た者はいない。しかし、彼が強いことだけは誰もが知っていた。
魔族軍の中の6人将の一人として恐れられている。
数名の部下の魔族兵が話かける。
「ヴァルド様、この村には兵は皆撤退し、おりません。捉え民間人は捕虜としてとらえております。今後の処理はいかがいたしましょうか。」と捉えた先を見て話す。
ヴァルドは「まず、このありさまは何だと尋ねる。」冷たく言い放つ。
魔族兵の一人副官がやってきて、「先行隊の仕業かと思われます。」という。「我々の領地でありながらここまで派手にされるとは。」と口にする。
ヴァルドが苦々しそうに「ホルリドュスの馬鹿兵か。」と呟き、副官のフィデスに「兵は捉えたまま、情報を吐かせろ。これに加担していない人間にはなるべく手を出すなと保護しろという。
フィデスは「先行隊に囚われている人間ともは、いかがいたしましょうか。」という。ヴァルドは「民間人はこちらに引き渡すように伝えろ。」と命を下す。
フィデスは側にいた兵に命令し、フィデス本人も村の処理に当たりますと姿を一瞬で消す。
ヴァルドはまた。村の中を歩きだし、倒れた兵や崩れた石垣、血に濡れた魔族軍の旗を眺める。
我々の領地の人間との境界付近にある村、不可侵条約にて二つの国は関わらないように取り決めされていたはずがと思うが、人間と魔族のいざこざは何百年も見てきている。交易をはじめ、二つの国が交わってさえいた時もある。しかし、必ずや戦争は繰り返されていく。終わらない戦いは続いている。
互いに味方であったこともあった。利害が一致し、共に手を取ったこともあったと。ヴァルドは深いため息をついて空を見上げれば人間側の領地は美しい夕日が沈んでいく。と目の前あるのは瓦礫と大量の死体だと。
その時、瓦礫の陰から音がした。かたと小石が転がる音がして側にいた兵が近づき、ヴァルドの前に警戒し、武器に手をかける。ヴァルドは片手をあげて制止させる。
「待て。私一人で行く」と兵たちは「危ないです。」というが「問題ない。」と伝え、音のなった瓦礫に近づく、近づきながら匂いを嗅ぐと人間の匂いがした。血の匂いもしている。と。
崩れた瓦礫の近く、荷馬車の下に小さい体が縮こまっていた。周りには重装備の兵が倒れており、魔術師が数名、女の僧も倒れていた。
荷台の下ですすり泣く声が聴こえてくる。怯え、恐怖に震えている。声を殺してしゃくりあげる声が耳に入る。
ヴァルドはしゃがみ込み、荷台の下を覗く。
「小娘。出てこい。」と冷たく言い放つ。返事がなく、怯えている匂いがして「出てこい何もしない。」と言う。
「そういってみんな殺された。」と荷台の下から幼い声がヴァルドにいう。
周りをみたら、確かにそう思うだろうと。しかし、魔族領の村に人間の子供がいるのが不思議に感じる。
それも少数の兵はあるが手厚く守られている印象がある。
瓦礫をゆっくりとどかすと、煤に汚れ淡い色の服があちこち裂けている。膝から血が流れ、細い手には擦り傷が無数に走っていた。
後ろから見ていた部下が「人間の子。」「始末を。」というが、ヴァルドは「フィデスに伝えた命を忘れたか。」と言いぎろりと振り返り睨みつける。顔は見えないが、怒気をはらんだその声に兵たちが後ろに下がる。張り詰めた空気の中。「申し訳ありませんでした。」とひざまずく。
少女を見ると震えており、小さい肩が震えている。全身で恐怖を感じている。私の見た目や、風貌は人間にとって恐怖の対象だろう。逃げられないと本能が感じているのか、その場で立ちすくんでいる。透き通るような絹のような金色の長い髪。大きい瞳に涙をためてこちらを見つめている。
手には拘束されていたような跡を見つける。
普段はこんな子供や大人など気にせずいたが、目に留まった。この小娘は震えていても。一度も目をそらさずにこちらを見続けている。ヴァルドは興味が沸いて、片膝をつく。巨体の鎧がきしむ音がしたがその動作はとてもしずかだった。
「殺しはしない。」と声をかける。
少女はさらに大きく目を開いている。魔族の騎士からそんな言葉が出るとは思っていなかったのだろう。周りでさんざん殺されたところを見てきていたはずだとヴァルドは思う。
「痛むか。」
返事もなくだた、少女は震えている。ヴァルドは小袋から包帯と魔法薬をだす。
「手当してやる。それか回復魔法をかける。こちらにこい。小娘」と声をかけた。
手元をみている。剣を先ほどから一度も抜いていないことに驚いている。
「お前を傷つけることはしない。」
ヴァルドは自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
少女の喉がひくりと動いた。やがてかすれた声が口から洩れる。
「ほんとに?」と問いかけてくるので、ヴァルド振り向かず答える。
「ああ。」と一言。
側にいた兵がざわめき始める。ヴァルドが「静かにしろ。」というと皆一斉に黙る。
ヴァルドが手を伸ばすと少女が怯えてまた震えだす。手を止めて
「膝を見せろ。」と言うと少女がゆっくり近づいてくる。
少女の側に近寄り、血が出ている膝に触れる。血の量は多いが、傷は深くなさそうだと思う。
血を布で拭き、軟膏をだして膝に塗布して包帯を巻く。
黒い鎧に、大きな体、恐ろしい存在だが、手つきは優しさを感じる少女。
「どうして。」
「どうしてたすけてくれるの?」と呟く。
ヴァルドの手が一瞬止まるが、すぐには答えることができなかった。兜の奥で、わずかに目を伏せる。
「気まぐれだ。私は半端物でな。」
少女は首を傾げるが、ヴァルドが「気にするな。」という。
「寂しそう。」と少女がヴァルドみていうが、ヴァルドは目を逸らして返事をせずに処置を続ける。
兵に水の入った水袋を預かり、手渡す。
「飲め。」いって少女を眺める。
恐る恐る手を伸ばして水を飲み始める少女。少しだけ飲んで少女も落ち着く。張り詰めていた空気は少し緩んだ。
背後から別の兵がヴァルドのもとへ駆けてくる。ヴァルドの耳打ちするように声を潜める。
「ヴァルド様!生き残りの中に王城仕えのものが吐きました。まだ。この村の中に人間が秘匿としていた人間がいると」
「そうか。」
「はい。今回の村への襲撃に何かしらの関与はしている可能性が高いと思われます。」
ヴァルドは目を細くする。
その時、少女の手から水袋が落ちる。からんと音を立てて地面に落ちた。
一斉に少女を全員で見る。少女は慌てて拾う。
水袋を取る小さな指先が震え、唇を嚙んでいる。
「お前。」と言いかけるヴァルド。「何か知っているのか。」と問いかけると。少女がびくりと肩を揺らして必死に首を振る。
「ち、ちが。」
「何が違う。」
ヴァルドは何か隠している。それは明らかだった。けれど、問い詰めればそう簡単には口は割らないだろうと判断した。
ヴァルドは少女を見つめ、立ち上がった。黒い外套が揺れる。
「この小娘は私が連れていく。」
部下たちはざわつき慌てる。
「異論は認めん。」
有無を言わせず間に誰も逆らうことはできない。
ヴァルドは再び少女の前に膝をつき、少女を見つめ黒い甲冑に覆われた大きな手を差し出す。
「歩けるか。」と
少女は恐る恐る手を差し出して手に触れる。
ヴァルドはなんとも小さくすぐに折れてしまいそうな手を握る。
「小娘。名前は?」
「リュシア」と迷いながら恐る恐る答える。
リュシアが歩き出そうとするが、膝が痛みで歩けそうになく、苦痛で買顔を歪めていたので、ヴァルドは小さいリュシアを軽々と抱き上げる。驚いた顔をリュシアがしたが、優しく抱き上げられたときに不思議な温もりも感じた。
ヴァルドは小さいリュシアを抱えながら移動する。
リュシアが「あなたのなまえはなんというの。」と尋ねると。
ヴァルドはリュシアをみながら答える。
「私はダルメス様配下の一人、暗黒騎士ヴァルドだ。」と答える。




