第5話 近衛翼竜聖騎士団アマゾルダル
心地いい旋律が響き渡り、乳香がくゆり、甘い香りが漂う、白き光に満ちた荘厳な玉座の間に鎮座している神聖エストラント公国を建国した初代女王でありリムラ教大司教エザベラアルーシャ・エル・イスラマラーマの瞳孔が大きく見開き、背筋に悪寒が走った。
「ありえない。あってはならないのじゃ。我の永劫の呪詛により存在せぬのじゃ。この感じた忌々しい波動は魔神アビゼビュートの波動。12の年になった黒髪赤目の魔神の子が存在するというのか。掟を破った不届き者が生かしたのか。今のうちすぐに消さねば。禍々しい大戦により神々が殺される」
神々しさ溢れる美貌の女神である創造神メヨーテセシュルの化身としてエルフ種族の最高位に君臨する齢1000年を数えるエザベラアルーシャ・エル・イスラマラーマは激しく狼狽した。
それに気づいてか、見た目は少女のように可憐で銀髪のおさげがよく似合う黒いメイド服を着た背の小さな傍使いのシャルーシャが駆け寄り、幼さ残る声で声を掛けた。
「どうなさいました陛下」
狼狽し焦燥しきった顔色した女王エザベラアルーシャは声を振り絞ってシャルーシャに命を告げる。
「シャルーシャ。エルザベータを呼べ」
「御意」
傍使いシャルーシャは影となり奥に消えた。
奥に消えたシャルーシャと入れ違いで露出度が高い白銀の甲冑に身を包み、白きマントを翻して悠然と歩む、一人の美しいプラチナブロンドを靡かせる女性聖騎士が歩み止め、玉座前で跪き頭を垂れ挨拶した。
「このエルザベータ、陛下の召喚の命に従い馳せ参じました」
「エルザベータよ。朕の命に従いて、すぐさま朕の指し示す者どもを消せ」
「御意」
「シャルーシャ。伝えよ」
影から姿を現した銀髪おさげの傍使いシャルーシャは、両手に宝玉を持ち頭上に掲げ女王の命を読み上げた。
「近衛翼竜聖騎士団アマゾルダル団長エリザベータ・シュトルツゥヴァイアーとその団員に命ずる。魔物の森バァグーガ近郊ヒョーデル村へ急行し、この宝玉の光が指し示す者を探し出して関係する者を処刑せよ。宝玉の光が指し示す者は、リムラ教の掟を破った黒髪赤目の忌子である魔神の子である。その者はその場で処刑せよ。ヒョーデル村を統治している村長であり領主である神父マルケス・エルンストの捕縛命令を下す。すぐさまに行け」
「御意」
女王陛下の命を受け、エルフ種族女性のみで組織された近衛翼竜聖騎士団アマゾルダルの団長エルザベータは兵舎に戻り次第、女王陛下の勅令を告げ、団長自ら率いる団員7名の小隊編成し、翼竜の準備に取り掛からせた。このまま順調にいけば、王都ペルンシリアからヒョーデル村まで騎馬兵団なら半日かかる距離だが、近衛翼竜聖騎士団アマゾルダルなら大空を滑空し二時間程度で到着し事を済ませ、夕食前頃には戻ってこられる計算だ。
脇から団員の一人エリッサ・シュトルツが団長に尋ねた。
「団長。私は怖いのです。人種族にだけ生まれる黒髪赤目の忌子は、リムラ教の掟にある”魔神アビゼビュートと同じ黒髪と赤目を持つ人種族の子が誕生したならば、生誕した赤子のまま魔神アビゼビュートが創りし魔物の森バァグーガに帰せ”とあり、教会で洗礼を受ける際に処分されている筈の忌子がいる事自体が有り得ないことじゃないですか。何か言葉に言い表せない違和感として何かが起こる胸騒ぎしてならないのです」
「考え過ぎだエリッサ。一人の忌子を消し、村人を処刑し、村長を捕縛するだけの勅令だ。事は夕食前には終わる。忌子である魔神の子の存在を意識して気負いしているに過ぎん」
そこに話へ割って入ったベルが鳴り響いた。
「翼竜の支度が終えた合図だ。行くぞ」
「はっ」
気丈に振る舞って翼竜に跨り手綱を引いたエリザベータの胸の内は、エリッサと同じ何とも言い難い違和感の胸騒ぎを抱きつつ勅令の絶対遂行のみを考え、魔物の森バァグーガ近郊ヒョーデル村目指し近衛翼竜聖騎士団アマゾルダル団員7名を率いて大空高く飛び立った。
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