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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第14章
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Stars Story9

翼の様子の異変に気づき始めるメンバーたちと、差し伸べられる手に対する翼の反応は───。

 時刻が8時半をまわり、優樹菜は、昨日電池を買いに行ったコンビニに、朝ごはんを買いに行くことにした。


 そのことを告げると、(案の定)葵が、「あたしも一緒に行きたい!」と手を上げたので、女子3人で一緒に買いに行くことになった。


 3人で階段を下り、1階に辿り着いた時───


「優樹菜ちゃん」


 優樹菜は、後ろから、声を掛けられた。


 振り返ると、社長室のドアから、新一が顔を覗かせていた。


「おはよう。これから、朝ごはんの買い出しかい?」


「社長!おはよう!そうだよ!」


 優樹菜より先に、葵が答える。


「ちょうどよかった。みんなに、これを渡しておこうと思っていたんだ」


 新一は3人に歩み寄ってくると、ポケットから、あるものを取り出した。


 優樹菜はそれを見て、目を見開く。


「えっ───これ……」


「これで、みんなが好きなものを買っておいで」


 新一は、それを───1万円札2枚、優樹菜に手渡しながら、微笑んだ。


「私が買って用意するより、優樹菜ちゃんの方が、みんなの好みが分かるんじゃないかと思って、お昼ご飯と晩ご飯の分も、任せていいかな?」


「え……そんな……むしろ、受け取っていいんですか……?」


「みんなのお小遣いを使ってもらうことを考えたら、みんなの親御さんたちに申し訳ないからね。遠慮せずに、使ってほしい」


 新一は、穏やかな声で、そう答えた。


「ありがとう!社長!」


 葵が顔を輝かせて、喜びの感情を露わにさせる。それに続いて、「ありがとうございます」と、優樹菜と光が同時に、頭を下げる。


 葵が笑顔で新一を見つめ、


「前から思ってたんだけど、社長って、学校の先生っぽいよね!あたしたちの、担任の先生!」


 元気いっぱいにそう言うと───


 ───新一は、その言葉を認めているのか分からないような笑顔を、3人に見せた。


 ※


 外に出て歩き出すと同時に、葵が「そういえば」と優樹菜を見上げてきた。


「そういえば、優樹菜、昨日、勇人と大丈夫だった?」


「昨日?ああ……」


 優樹菜の脳裏に、昨夜、勇人と歩いた、この場所の風景が蘇る。


「うん。お互いに、ちょっと勘違いしてる部分があっただけ。何ともないよ」


 そう答えると、葵の顔が、ぱっと輝いた。


「じゃあ、光が言った通りだったんだね!」


「えっ?」


「昨日ね、優樹菜たちが出て行った後、あたし、どうして勇人、優樹菜と一緒に行ったんだろー?って思ってたんだけど、そしたら光が、”あの2人には2人にしか分からないことがあるんだろうけど、2人なら、きっと大丈夫”って教えてくれたの!」


 葵の言葉に、優樹菜は葵の隣を歩く、光の姿を見つめた。


「そうだったんだ……」


 優樹菜の呟きに、「はい」と光は、笑顔をみせた。


 ”あの2人には2人にしか分からないことがあるんだろうけど、2人ならきっと大丈夫”───優樹菜は、光が言ってくれていたという言葉を思い返し、「でも……」と苦笑を漏らす。


「私たちは、通じ合えたり、なかったり、だけどね。昨日だって、私が思ってたことが向こうには伝わってなくて、何か、ああいう空気になってたのが判明したし」


 自虐の意味を含めてそう言うと、光は、「───けど」と、優樹菜の瞳を、見つめてきた。


「そうやって、すれ違ったり、ぶつかったりする瞬間があっても───離れる度に、また元通りになれるって、すごく、素敵です」


 光の、その表情と声は───とても、真剣なものだった。


 海岸から差し込む太陽の光が、彼女の顔を半分を陰に、半分を明るく照らしている───。


 優樹菜は、光が続けて、何か言葉を発するような気がして、その横顔を見つめたが───光が、それ以上、何かを言うことは、なかった。


 ※


 女子3人が朝食の買い出しに出掛けている間、本拠地に残った蒼太たち男子3人は、それぞれの支度を行った。


 蒼太は畳んだ布団を壁際の方へと運び終え、ふうと、息を吐きだした。いつもベッドで眠っている蒼太にとって、この作業は、新鮮なものだった。


 いつも、6人でいる時は会話が絶えないオフィスだが、男子3人だけがいる今、先程から、会話らしい会話はなされていない。


 メンバーとなら、無言の時間が気にならない蒼太は、特にそのことを気にしていなかったのだが───不意に、翼が、その場に立ち上がったことで、その方向に、目を向けた。


 翼は、何も言わずに───無言で部屋を進むと、蒼太の前を、すっと通り過ぎ、部屋を出て行った。


 蒼太は閉められたドアから、目を、離せなくなった。


 そして───思いだした。


 昨夜、翼に感じた、微かな違和感を───。


 蒼太は、翼が先程までいた窓際の空間に視線を移動させる。───その視界の中に、勇人の姿があった。


「あっ……ね……ねえ……兄ちゃん……」


 蒼太は、勇人の方に、体を向けた。


「な……なんていうか……不思議な感じだよね……。朝起きた瞬間から、みんなと一緒にいるって……い、今までに、なかった、よね……」


 見切り発車で話し出した途端、言葉が、うまく繋がらない。


 そんな蒼太の挙動不審な姿を、勇人は冷めきった目で見つめ、


「───下手な誤魔化し方すんなよ」


 と、言った。


 その言葉に、蒼太は、”下手な誤魔化し”をやめ、床の上で膝を滑らせ、勇人の方に、体を寄せた。


「兄ちゃん……」


 すぐそばで、小声で、呼び掛ける。


「……昨日から……先輩……ちょっと、元気がない感じがするんだけど……気のせいかな……?」


 翼が出て行ったドアに目を向けて、問いかける。


 勇人は、蒼太の目を見つめ返した後、すっと、その目を逸らして、


「俺にあいつの体調が分かるわけねぇだろ」


 淡々とした口調で、そう答えた。


 蒼太は、「そ、そうなんだけど……」と、言葉に詰まる。


 感情が、うまく言葉にならない───。


 そんな蒼太に、勇人が僅かに視線を向け、


「気になるなら、本人に直接聞けばいいだろ」


 そう、言った。


「俺をわざわざ経由するな」と言われたような気がして、蒼太は、「は、はい……」と頷くしかなかった。


 本人に直接聞けばいい───それは、たしかに、そうだった。


 翼にとっても、知らないところで自分の噂をされるのは、決していい気分ではないはずだ。


 ただ───蒼太は、事前に決めたことを実行するのが、すごく苦手だった。


「この人にこれを聞かなきゃ、言わなきゃ」という思いを抱えていると、それを実行するまで、とてつもない緊張を覚えてしまうのだ。


 むしろ、その場の思い付きで動いた時の方が、自分でも思いがけないエネルギーを発揮できることがある───ああ、今がその時だったらいいのにと、何とも歯がゆい気持ちを感じる。


 蒼太が思考を泳がせているうちに───翼が、部屋に戻ってきた。


 相変わらず、何も言わずに、蒼太とも勇人とも目を合わせないまま、先程まで自分がいた場所に戻る───。


 蒼太は、その姿を、控えめに見つめるしかない。


 ───これは、単なる自分の考えすぎなんだろうか?


 本当は、翼には何もなくて、自分自身が、勝手な解釈を与えてしまっているだけなのだろうか?


 蒼太は、「先輩……」と呼びかけようとした。───しかし、声が、うまく出なかった。


 ───正体の見えない不安が、頭を過った。


 いつも、優しい翼。いつも、頼りになる翼。いつも、自分の言葉に笑顔で答えてれる翼。


 自分がここで、翼が持つ”何か”に、何の準備もなく踏み込だら───翼は、どんな顔をする……?



「───お前、他人ひとと寝泊りするのが嫌なんだろ」



 ───その声は、静まった室内に、はっきりと、響いた。


 声の主は、勇人だった。


 そして、その言葉は───蒼太に向けられたものではなかった。



「……え……」と、翼が、微かな、声を漏らす。


 勇人は、すっと、視線を斜め下の方向に移動させると、


「お前のことで、上村とこいつが立て続けに俺に引っ付いてきてんだよ」


 いつもどおりの───淡々としていながらも、どこか面倒くさそうな口調で、そう言った。


 翼の視線が、蒼太の姿を捉える。


 見開かれたその目を見つめた瞬間、蒼太の口から、「先輩……」という声が、ようやく、漏れた。


「先輩……昨日から、元気、ない……ですよね……?」


 声が、震えた。



 "───お前、他人ひとと寝泊りするのが嫌なんだろ"



 勇人の言葉が、頭の中で、鳴っている。


 ───それが、真実なのだとしたら───翼は、今まで、一体、どんな気持ちで、この場所に……。


 翼は───声を詰まらせるように、顔を、俯かせた。


 勇人が、再び、翼に視線を向けて、息を吐き出した。


「いつまでも黙ってんなよ。余計にややこしくなんだろ」


 その口調は、ぶっきらぼうだが、翼を責め立てるような音は、含んでいなかった。


 下に向いた翼の瞳が、微かに揺れていることに、蒼太は、気が付く。


「先輩……」


 蒼太は、固く閉じかけた翼の心に向かって、呼びかける。


「ぼくたちに……教えてもらえませんか……?」


 例え、それが、とても悲しい真実なのだとしても───。


 ───翼が抱えているものを、自分たちに、預けてほしい。



 やがて───翼が、ほんの僅かに、顔を上げた。


「……全然、聞いていて気持ちのいい話じゃないと思います」


 それは───とても静かで、感情を押さえ込んだ───蒼太が聞いたことのない、翼の声だった。


 翼の視線が向く先は、蒼太でも、勇人でもない───灰色のカーペットが敷かれた床に向けられている。


 蒼太は、その姿を見つめて、はっとした。


翼は、膝の上に両手を乗せ───その手を、強く、握りしめていた。───手の甲に、血管が浮き出るほど、強く。


それは、"聞いていて気持ちいい話じゃない"───翼がそう表現した物語の内容を、表しているかのような光景だった。

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