Stars Story8
昨夜の翼の様子に気掛かりを感じる光は、その理由を探るため、勇人に話しを聞きに行き───?
翌朝───光は、誰よりも早く、目が覚めてしまった。
時刻は、6時ちょうど───あの時、屋上で翼と会ってから、3時間ほどしか、経っていない。
隣の布団ではまだ、優樹菜と葵が眠っているので、起き上がることはできなかった。
きっとまだ、オフィスにいる男子3人も、布団の中にいるのではないだろうか───。
(……萩原くん……あの後、眠れたのかな……?)
頭を過るのは、翼のことだ。
どうか───何も、悪い夢を見ず、眠れていてほしい。
光は、布団の中で、両手を強く、握り合わせる。
※
8時を回ると、女子3人は皆、布団から出て、朝の支度を始めた。
「男子たちももう、起きてるかな?」
優樹菜が、壁越しに様子を伺うように、オフィスがある方向に、視線を向ける。
「朝ごはん、買いに行こうと思って……何がいいか、聞きにいきたいんだけど」
「たぶん、蒼太と翼は起きてるんじゃないっ?勇人は、どうか分かんないけど」
「私、歯磨きしに行くついでに、部屋の様子、見てきましょうか?」
光が手を上げると、優樹菜は、「ううん」と、首を振った。
「大丈夫。私が行ってくるから、光ちゃんはそのまま、洗面所の方に行って。その、起きてるかどうか分かんない一人を起こすの、めちゃくちゃな重労働になるから」
優樹菜が、その大仕事に向けてか、「おいしょ」と、立ち上がる。
光は、その姿を見て、「たしかに、勇人くんのことは、ゆきさんに任せるのが一番よさそうだ」と、考えた。
そして───同時に、思う。
───勇人が起きてくるのを待ってるのは、自分も同じだということを。
※
本拠地の洗面所で、顔を洗う機会なんて、これから訪れるか分からないな───そう思いながら、光は鏡越しに、自分の姿を見つめた。
2階の廊下の再奥にある洗面所には、壁を仕切った向こう側に、トイレがある。
光は、この場所を新一が清掃している姿を今まで見たことがないのだが、いつ利用しても綺麗な印象があるので、きっと、自分たちが学校にいる時間帯に新一が掃除をしてくれているのだろうと思っている。
歯を磨き、洗顔を終えて"女子部屋"に戻ろうと、廊下に出て、ふと、目を向けると───オフィスのドアが、開くのが見えた。
部屋の中から姿を現したその姿に、光は、足を止めた。
そして───
「───勇人くん」
呼びかけながら、駆け寄った。
「ちょっと、いいいですか?」
勇人の瞳が、光の姿を捉えた。
※
光は、他の4人や新一がやって来なさそうな場所───1階の倉庫室へと、勇人を誘った。
「何だよ、いきなり」
「すみません。あの……」
光は、静かに、深く、息を吸い込んだ。
「変なことを聞くかもしれないんですけど───勇人くんって、最近、萩原くんとの間に、何か、ありましたか?」
それは、光が、昨夜、翼と話してから、ずっと考え続けていた疑問だった。
昨日、依頼解決に行く前に、優樹菜が懐中電灯の電池を買いにいくのに、勇人が同行したことが、勇人らしくないと、葵たちと話したこと。
その直後に、翼の様子がいつもと違うのに気付いたこと───。
屋上で、翼から、「いつもと違う環境だからか、うまく寝付けない」と打ち明けられたこと───。
それらが重なって、光に、その疑問を生ませた。
そして、それを投げかけた、勇人の反応は───
「変なことって前置きして、そのまま変な質問する奴がいるかよ」
そんな言葉とともに、呆れたよう目を向けられた。
「何かもなにも───話した記憶さえねぇよ」
その答えに、光は、静かに、目を見開いた。
「じゃあ……」
心の声が同時に、呟きとなって、外に出る。
「……じゃあ……、昨日の萩原くんの様子は……何だったんだろう……」
目を伏せて、首を傾けると、その自分の姿を、勇人がじっと見つめている気配を感じた。
光は、「あ……」と視線を上げ、事情を説明することにした。
「昨日、ゆきさんが電池を買いに行った時、勇人くんが一緒に行った後ーーー萩原くんの様子が、いつもと違って見えたんです。それだけで勇人くんと結びつけるのは、無理があると思うんですけど……勇人くんがゆきさんの買い物について行ったことも、いつもは見ない行動だったなって、勘繰ってしまって……。それから……」
光は、昨夜、翼が部屋を抜け出して屋上に行っていたことを口にした。
「萩原くんと勇人くんが、昨日、同じ部屋で過ごしてことを考えて……それで、2人に何かがあったんだとしたら、その気まずさで、部屋に居にくかったのかな?とか……色々、考えてしまったんです」
そう言葉を止めると、勇人が呆れたように息を吐きだした。
「どんな妄想力だよ」
「そうですよね……」
光は、我ながら、苦笑する。
そして、直前まで自分が感じていた疑念を思い出し、「でも……」と、声を発した。
「2人が普段あんまり関わりを持つ方じゃないからこそ、何かあった時の何かが大きいものだったんじゃないかって、不安になってたんです。萩原くんに、昨日、"何かあったの?"ってふわっと聞いてみたんですけど、”大丈夫”って答えられてしまって……。……萩原くんは、大丈夫?って聞いた時……”大丈夫”って答える子だから……絶対、何かがあったはずだって、想像が膨らんでいって……」
「でも……勇人くんと話せて───2人に何かあったんじゃないかっていう不安が晴れて、よかったです。ありがとうございます」
そう、頭を下げると、少しの間の後で、勇人が口を開いた。
「それでも、お前の中で、あいつの様子がおかしく見えるのは、変わんないんだろ」
その言葉に、光は「……はい」と、静かに頷く。
絶対的に、勇人と翼の間に何かがあった確信があったわけではなかった。
───でも、自分の予想が全く違ったのだとしたら、一体、翼は、何を抱えているのだろう。
さらに───分からなくなってしまった。
光は、膝の上で組んだ両手に、ぎゅっと、力をこめる。
「……無理に、教えてほしいとは思わないんです。言いたくないこと、隠しておきたいことは、誰にでもあるから……。……でも、私、萩原くんの力になりたいんです。萩原くんには……嘘じゃない、本当の感情で、笑っていてほしいんです」
昨日───翼が自分に向けた、「大丈夫だよ」という言葉と、笑顔。
───でも、ごめん。萩原くん。
───私は、あの笑顔が、”本当”のものだとは、思えない。
「お前みたいな、直感で突き進むような奴に踏み込まれて答えないんなら、相当な壁作ってんじゃないのか」
勇人の言葉に、光は、視線を上げた。
「……そうですね」
思わず、そう頷いてしまう。
そして、「……でも」と、自分の心に、首を振る。
「私、諦めないです。萩原くんのためにできることがあるなら……なんでもやります」
自分自身の気持ちを確かめる意味も込め、そう告げると、勇人は、静かに、息を吐き出した。
「お前もお前で、めんどくさい奴だな」
自分に向けられたその言葉は、とても淡々としていて、どんな感情がこもっているのか、分からなかった。
───でも、光は、その言葉に、そっと背中を押されたような、そんな思いを、感じた。
よろしければ、評価・ブックマーク登録、感想など、よろしくお願いいたします!




