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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第14章
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Stars Story7

深夜に目を覚ました光は、廊下から響く足音を耳にし───?

 深夜。


 光は、目を覚ました。


 微かな音が、耳に触れたような気がして、振り返る。


 すぐ隣で葵が、その向こうに優樹菜が眠っている。


 室内は真っ暗で、窓にかかった白いカーテンの色だけが、やけに映えて見えた。


 光はドアのすぐ近くの布団にいた。


 今、聴こえた気がした音は、なんだろう───?


 ドアを見上げる。


 その時───その向こう側から、「カタッ」という音が聴こえた。


 床を通して伝わる振動───足音……?


 誰───だろう。


 最初に聴こえた音は、きっと、オフィスのドアが開いた音だ。


 だとしたら、男子3人のうちの、誰か───?


(……もしかして……、萩原くん……?)


 そう───直感した瞬間、光は、体を起こした。


 葵と優樹菜を起こさないように布団から出て、そっとドアを開ける。


 廊下は、真っ暗だった。誰の姿も見当たらない。


 ドアの前に出していたスニーカーを、裸足の上に履く。


 この時間に部屋を抜け出して、一人で向かう場所があるとしたら───光は、衝動に突き動かされるまま、屋上への階段に向けて歩いた。


 頭の中に、オフィスで見た、いつもと違う翼の表情が焼き付いている───。


 ※


 光が屋上に出るのは、これが初めてのことだった。


 思っていた以上に思い扉を開けて、外に出る。


 冷たい風が、頬に触れる。


 空の色は、黒で間違いないはずなのに、純粋な黒とはいえない───淀んで不安定な色に見えた。


 光はゆっくりと、足を踏み出す。


 四方を囲んでいる柵を見回すと───左側に、人の背中が見えた。


 それは───やはり、翼だった。


 柵を両手で持って、立ち尽くしている───。


 光は、そっと、その姿に近づいた。


「……萩原くん」


 少し離れた位置から呼びかけると───翼は、びくっと肩を揺らして、振り返った。


「あっ───ごめん……」


 光が謝ると、目を見開いていた翼が───「───ううん」と、首を横に振った。


「大丈夫。でも、びっくりした。全然、音が聴こえてなかった」


翼は、そう言って、表情を和らげた。


 その笑顔と言葉がいつもの翼のもので、光は、安堵を感じた。


「けど……上村さん、どうして、ここに?」


翼に問いかけられ、光は、「ああ」と、顔を上げる。


「私、さっき、目が覚めて、そしたら、廊下を歩いて行く音が聴こえたから……もしかしたら、萩原くんかな?って思って、追いかけてきちゃった」


 隣に並びながら説明すると、翼は、「ああ……」と声を漏らした。


「そうだったんだ……。ごめん……起こしちゃって……」


 その言葉に、今度は、光が、「ううん」と首を振る番だった。


 そうして、視線を移し、目の前の景色を見て、光は思わず、目を見張った。


 暗闇の中に、ビルの壁が幾つにも折り重なって、浮かんでいる。


 その光景を、光は、不気味だとは思わなかった。むしろ、この空間の中で、穏やかな静けさを保ち、ただそこに佇むビルたちの姿に、感動さえ覚えた。


(外に潜む脅威から、私たちを守ってくれてるみたい……)


 ───そう、光は思う。


 光は、隣に立つ翼の姿を見つめた。


「すごい景色だね……」と語りかけようとして向いたはずなのに───光は、その言葉を口に出すことが、できなかった。


 翼も───彼もまた、ビルの方角を見つめていた。


 しかし、その目は、光とは違う感情を、写しているように見えた。


「……萩原くんは?」


 光が呼びかけると、翼が、はっと気が付いたように、光を向いた。


「えっ……?」


「萩原くんも目が覚めて……ここに来ようと思ったの?」


 静かな声を保って問いかけると、翼は、「ああ……」と、どこかぎこちない動作で、目を背けた。


「……なんだろう……普段と違う環境だからかな」


 光の目を見ないまま、迷うような口調で、翼は、答えた


「……うまく、寝付けなくて」


 そう、付け足すように、小さく、笑う。


 その姿を見つめて、光は、自分の中にあった不安が、確信に変わっていくのを感じた。


 やはり、翼の様子が、いつもと違う。


 ───そして、その原因は、きっと、自分の身近にある……。


「……もしかして……、何か、あった?」


 光は、そっと、翼の心に、入り込もうとした。


 翼が、弾かれたように、光を見る。


 一瞬、目が合って、そこに浮かんだ色を、光は、見逃さなかった。


 ───動揺、焦り……。


 光が、それに気付いた直後───翼は、いつものように、微笑んだ。


「……何でもないよ。大丈夫」


 ───光の頭の中に、ある光景が浮かんだ。


 高くそびえ立つ、木の扉。その真ん中には、鉄の鎖に結ばれた、巨大な南京錠が付いている……。どうしたら開くのか分からない扉───それはきっと、翼の心だった。


 光は、「……わかった」と、頷くことしか、できなかった。


「……何かあったら、いつでも言ってね。私、萩原くんの話なら、どんなことでも……何でも、聞くから」


 その扉を開くきっかけが、この言葉になればいい───そう、願いを込めて、光は、翼の目を、真っ直ぐに見つめる。


「……うん、ありがとう」


 翼は、もう一度、そう微笑んで、ビル群の方に、目を向け、


「……そろそろ、戻ろうか」


 再び、光のことを見た。


 光は、「……うん」と、頷く。


 屋上を出て、2人で、階段を降りる。


 空き部屋とオフィスに分かれる廊下で、翼が、振り返った。


「じゃあ───おやすみ。また、明日」


 暗い廊下の中で、翼の表情が、うまく読み取れない。───それでも、その声は、穏やかで、優しかった。


「───おやすみ」


 光は、その声に答える。


 そして、オフィスに向かっていく、翼の背中を見送った。


 オフィスのドア───その向こう側。


 毎日のように行っているその場所に、私は今、入ることができない───。



 ───萩原くんがいる世界に、私は、行けない……。



 ───不意に、そんな考えが浮かんで、光は、はっと、首を横に振った。


 そして、その考えを振り払うように、優樹菜と葵が眠る部屋へと、戻る。

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