Stars Story6
幼馴染2人の間に流れる空気の真相。
そして、蒼太は、翼の姿に、いつもと違う雰囲気を感じ始め───?
本拠地から歩いて一番近い位置にあるそのコンビニエンスストアは、海岸のすぐ近くにあった。
夏休みになると海水浴客で賑わう店だが、4月の、特にこの時間には、客がいる気配がまるでなかった。
優樹菜は、一人で店に入った。言葉を交わしたわけでないが、勇人が店に入る気配を感じなかったのだ。
電池を見つけると、誰も並んでいないレジで会計をした。
お釣りを財布にしまいながら、優樹菜は、「結局、あいつ、何しに来たの……?」と考えた。
勇人は意味のない行動をするような人間ではない。むしろ、自分が積極的にやる必要がない事柄については、手を出さないタイプじゃないのか?
(懐中電灯だって、わざわざ持ってくる必要なかったのに……)
優樹菜は自動ドアをくぐり、外に出た。
自動ドアの左側に、勇人は立っていた。
優樹菜が、ぶっきらぼうな足取りで近づくと───
勇人が、優樹菜を振り返り、呆れたような目で、息を吐き出した。
「……ほんとのことかよ」
開口早々、そう言われ、優樹菜は、「は───?」と、目を見開く。
見つめた先では、勇人が左手に、懐中電灯を持っていた。
勇人の親指が触れている位置は、スイッチの場所で、スイッチは───"ON"の方に向いている。───当然、電池が切れているのだから、明かりは点いていない。
「なに……?どういうこと……?」
優樹菜は戸惑い───そして、不意に、気が付いた。
「もしかして……私が、電気点かないふりしてると思ってたの……?」
優樹菜は、そう口にしながら、戸惑いを、更に大きくさせた。
「なんで……?わざわざ、そんな嘘……」
───私がつかなきゃいけないの?
そう、続けて問いかけようとした直前───
勇人が、その目を細めて、優樹菜を見た。
「お前がいきなり、らしくもないこと言い出すからだろ」
「……え?」
優樹菜は、その目を見つめ返して、戸惑う。
……らしくもないこと……?いつの、何の話……?
優樹菜が答えを探るのに迷っていることを察したのか、勇人が、深く息を吐き出した。
「お前、普段は、こういう遊びみたいなこと、乗らないだろ」
勇人の赤い瞳が、優樹菜の目を、真っ直ぐに、捉えている。
「泊まりっていう理由にかこつけて、裏で俺たちに黙って一人で何かしようととしてるようにしか見えなかったんだよ」
その言葉に、優樹菜は、目を見開いた。
───勇人が何を言おうとしているのか、何を考えていたのか、ようやく、分かった。
「……なに、その言い方……」
優樹菜は、声を発した。
「やめてよ。まるで、私がいつも、みんなに隠し事してるみたいじゃない」
思わず、怒ったような声が出た───それは、勇人の言葉に、自覚を感じたからだった。
そうだ───自分は、自分のことを、自分一人で抱える癖がある。
誰かを頼ることが苦手。心配をかけることが申し訳ない。
だから───いつも、一人きりで、遠回りな道を選ぶ。
(……けど、だからって、自分の目的を果たす計画のために、みんなで本拠地に泊まろうとか、一人で行動する時間を作るために、懐中電灯が点かないふりしたりは……)
───流石に……しない。
優樹菜は、懐中電灯を握った、勇人の左手を見つめた。
昨日から感じていた、勇人に対する違和感───あれは、勇人が、勇人なりに、自分のことを気にして、自分の行動の真意を、考えてくれていたからだったのか。
───そう思うと、急に、勇人の目を見て話すのが、照れくさくなった。
だから、優樹菜は、そっと、目を逸らしながら、
「たしかに……みんなで本拠地に泊まりたいっていう葵の言葉に賛成したのには、理由がないわけじゃないけど……」
自分の思いを、口にする。
勇人が、自分のことを見つめている気配がする。自分の答えを、待っていることが分かる。
優樹菜は、一度、息を吐き出して、
「でも……言わない」
と、言葉を続けた。
チラリと視線を上げると、勇人が、「……あ?」というような目をしていた。
「なんだよ、それ」
うんざりしたような口調で言われて、優樹菜は、「別に」と、背を向ける。
「別に、深い意味はない。ただ、あんたに言っても、伝わらなそうだから、言わないだけ」
帰り道に向けて歩き出した瞬間───後ろから、頭に、ゴツンと、何かを当てられた。
「───ちょっと」
優樹菜は振り返って、勇人を睨む。
「何してんのよ。ていうか、それ返して」
自分の頭に当てられた懐中電灯を、勇人の手から取り上げる。
その時、勇人は、何も言わなかった。
優樹菜もそれきり、前を向いて歩いた。
帰り道は、ほとんど、何も話さなかった。
ただ、それでも、優樹菜にとって、その時間は、とても───心地いいものだった。
柔らかく吹く海風が、2人の髪を、穏やかに揺らしていく。
※
解決班の3人が帰宅し、6人が再びオフィスに揃ったのは、午前0時30分頃だった。
蒼太にとっては、普段、滅多にしない夜更かし───しかし、メンバーがいる空間にいるからか、全くと言っていいほど、眠気を感じなかった。
6人が揃ったことを見計らったようなタイミングで、新一が、オフィスに上がってきた。
「もうみんな、寝る支度を始めるかい?」
新一は、部屋に布団を運んだり、寝るスペースを確保する作業を手伝うよ、と、蒼太たちに告げた。
蒼太は、昨日、自分たちが計画していた"合宿"について、新一に話した時のことを思い出した。
そこで、蒼太たちは、新一から、本拠地2階にある”空き部屋”の押し入れには、7人分の寝具が常備されているということを知らされた。
その理由を葵が新一に尋ねると、
「昔、私の父の知り合いの人たちが、ここに泊まりにくる機会が多くてね、家族3人分の布団と、来客用の布団4つを用意していたんだ」
そう、答えが返って来た。
とはいえ、長らく使われていなかった寝具セットは、新一が昨日から今日の昼間にかけて、急いでクリーニングに出してくれた、ということだった。蒼太はその話に、いつでも自分たちのために、嫌な顔一つせず動いてくれる新一に、大きな申し訳なさと有難さを同時に感じた。
6人が泊まる場所には、何も家具が置かれていない空き部屋と、ソファを部屋の隅に寄せれば3人分くらいの布団は敷けるのではないかというオフィスを使うことになった。
「男子と女子とでどちらかの部屋に分かれようと思うんだけど、どっちがいい?……っていっても、特にどっちもそんなに変わらないか」
優樹菜は5人の前でそう言ってから、「じゃあ」と言葉を続けた。
「私たちが、空き部屋を使う。3人は、オフィスの方を使って」
その提案に、反論の声は上がらなかった。
依頼解決の予定まで、まだ少し時間があるので、6人は各々の部屋で荷物の整理や寝る準備などを行うことになった。
オフィスを出る直前、優樹菜が、部屋の中を振り返った。
「言っておくけど、空き部屋の方、入って来る時、合図かなんかしてよ」
「何で俺だけに言うんだよ」
すぐに、優樹菜に言葉を投げかけられた勇人が反応する。
優樹菜は勇人に鋭い目を向けた。
「翼くんと蒼太くんはともかく、あんたにそういうデリカシー無さそうだからよ」
優樹菜は、バタンと力強く、ドアを閉めていった。
※
依頼解決は、無事に終わった───帰宅した葵から、蒼太は、そう聞いた。
「あたし、あんな時間に町中歩くの初めてで、すっごくワクワクしちゃった!いつも聴いてる車の音とか人の声が全然なくってね、しーん!ってしてるの!でもね、そんな中、殺し屋がやって来ても、全然足音とかしないんだよ!あたし、関心しちゃった!危うく、”すごっ!!”って声にだしそうになっちゃった!」
蒼太の前で飛び跳ねるような勢いで、葵は話を続ける。
「それとね、もう一つ感動したのはね、先に男の殺し屋をあたしが倒したんだけど、それを見た女の殺し屋が、あたしに攻撃してこようとしたの!”よくもあたしの大切な人を!”みたいな感じで。あたし今まで殺し屋って、仲間同士って語ってても、実際は絆なんてなくて、すぐ裏切ったり見捨てたりするのかなって思ってたんだけど、そんなことなかった!あの2人は、ちゃんとした恋人だった!殺し屋にも、そういう人間らしい感情があるんだなーって思った!」
葵が、パチパチと両手を叩き合わせる。
「いつまで居座ってんだよ」
その姿に、勇人が、鬱陶しそうな目を向ける。
「もうちょっと!蒼太に教えてあげたいこと、まだあるの!」
「あっ、あのね……葵」
蒼太は、尚も話し続けようとする葵を、手で制した。
「教えてくれるのありがとうなんだけど……もう遅い時間だから、明日、また聞いてもいい……?」
勇人の「いつまで居座ってんだよ」という言葉は、「いい加減出てけよ」という言葉と同義である。
その意味を汲んで、遠回しに葵に「そろそろ部屋に戻ったほうがいいよ……」と伝えると、葵は素直に、「あ!たしかにっ!わかったー!」と返事をした。
「じゃあ、また明日、教えるねっ!ばいばい!3人とも!おやすみー!」
今の時刻をもろともしないような元気さを残したまま、葵は部屋を出ていった。───ちなみに、今の時刻は、もうすぐ、深夜1時をまわるところだ。
葵が去った後の室内には、嵐が去った後のような静けさが訪れた。
蒼太は、布団の上に座りながら、葵が出て行ったドアを見つめた。
そして───ふと、ドアの前にいる、翼の姿に、目を向けた。
3人が寝る位置は、自然と、ドア側から、翼、蒼太、勇人の並びに決まった。
翼は、蒼太と同じように、布団の上に、座っていた。
───蒼太は、翼の姿を見つめて、その様子に、違和感のようなものを覚えた。
翼は、じっとしたまま、自身の足元を見つめている。
───それはまるで、蒼太と勇人の姿が、見えていないかのような様子だった。
(……そういえば……)
そこで、蒼太は、あることに、思い至る。
(さっき、葵が来てたときも、先輩、葵の言葉に、何も答えてなかった……)
いつもなら、葵の明るさに、優しく対応しているはずの翼が───。
蒼太は、このまま、ずっと見つめ続けていたら、翼が気付いて、笑いかけてくれるのではないかと思った。───そうしたら、これは自分の勘違いで、翼は、いつもどおりの翼、ということになる。
───しかし、翼は、蒼太のことを向かなかった。
部屋の中には、ただ、時計の針が進む音だけが響いた。
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