Stars Story5
"合宿"開始直後───メンバーたちの間に、すれ違いの予感が……?
夜8時半。
本拠地、オフィスに、メンバー6人が集合した。
蒼太にとって、夜に本拠地を訪れることは、これが初めてではなかった。
つい1ヶ月ほど前───深夜に勇人とともに"彼女"に呼ばれた、あの日以来だ。
ただ、あの時と決定的に違うのは、メンバー6人が本拠地に揃っているということだ。
いつもと違う時間、いつもと違う荷物の量ながらも、オフィスに6人が揃うと、そこに流れる空気はいつもと同じものになる。
つい、本拠地に2泊するというイベントに思いが先行してしまっていた蒼太だが、まず、自分たちがやるべきは、この”合宿”のきっかけとなった依頼を解決することだ。
「今回の標的は、男女のペアですね」
翼が、パソコンの画面を5人に向ける。
画面の中には、若い男と女の顔写真が並んで表示されていた。
「男の方は、板垣瑠偉、28歳。女の方は、上島秋華、同じく28歳。ともに、非異能力者です」
「男女ってことは、カップルってこと?」
葵が首を傾ける。
「その可能性が高いね。同じ時間、同じ場所を2人で歩くということは、かなり親しい関係なんだと思う」
「力のことを考えると、男の方を先に倒して、後から女の方がいいかな……」
光が画面を見つめて呟いた。
「じゃあ、あたしが先に板垣の方を倒して、それから、光にサポートしてもらいながら上島を倒す!」
葵が光の言葉に答え、作戦会議が進んで行く。
その様子を見つめていた蒼太は、ふと、斜め向かいに座る優樹菜に目を向けた。
いつもなら、こういった話し合いを率先して進めてくれるはずの優樹菜が、先程から口を開いていないことに気付いたのだ。
蒼太は、その姿を見つめて、「あれ……?」と思った。
優樹菜は、手に、懐中電灯を持っていた。
そして、それを手の中に握りながら、首を傾けていた。
「優樹菜さん……?」
呼びかけると、優樹菜は顔を上げた。
「困った……これ」
優樹菜は、そう呟きながら、懐中電灯を持ち上げた。
「家から持ってきたはいいけど……電池、切れちゃってるみたい」
「えっ!!点かないの!?」
葵が目を見開く。
「事前に確かめておけばよかった……。標的が来る予定の場所、たぶん、周り真っ暗だよね……」
優樹菜は答えを求めるように、パソコンの画面に目を向ける。
「殺し屋が夜に出歩く場所だと考えると、きっとそうですね……」
翼が優樹菜の問いに答える。
蒼太は、優樹菜の手元にある懐中電灯を見つめて、「どうしよう……」と心の中で声を発した。
解決班が殺し屋が現れる予定の現場に向かう時は、葵の瞬間移動を使わずに、徒歩で移動することが大半だった。
現場周辺の道や建物の配置をある程度把握していた方が、万が一、殺し屋を取り逃がしてしまった時に、応用が利く、という判断だった。
そして、今回はそれを、真っ暗な町中で行わなくてはならない。
そのため、優樹菜が、移動中の足元を照らせるようにと家から懐中電灯を持ってきていた───ということだ。
「まだ、依頼解決まで、時間あるよね」
優樹菜が、時計を見上げた。
時刻は8時半を少し回ったところだ。
優樹菜は時刻を確認して、何かを決意したように前を向くと、
「私、電池買いに行って来る」
そう言って、立ち上がった。
「あたし、送ってこうかっ?」
葵が手を上げたが、優樹菜は「ううん」と首を横に振った。
「葵は、このままここにいなさい。まだ、作戦会議、途中でしょう」
壁際に置いてあったショルダーバックを、優樹菜が持ち上げた瞬間───
人一人分挟んで、蒼太の隣に座っていた勇人が、唐突に立ち上がった。
蒼太は、「えっ……?」と、その姿を見上げる。───と、同時に、優樹菜もまた、勇人のその行動に気が付いたようだった。
「どうしたの?」
優樹菜が尋ねると、勇人は、優樹菜の目を見て、
「行くんだろ」
そう、答えた。
「えっ?」と、優樹菜が目を見開く。
そんな優樹菜の反応に触れることなく───勇人は、部屋を横切って、ドアの方へ向かった。
部屋を出ていく勇人の姿を、蒼太は、「兄ちゃん……?」と、見つめる。
※
「なんなの……?」
廊下に出た直後、優樹菜は、戸惑いの目を勇人に向けた。
電池くらい自分一人で買いに行けるし、普段なら自分の方から何か頼みごとをしてもすぐには動かないような勇人が、何故、今、一緒についてくるんだ───?
───しかし、探るような目で見つめても、勇人は何も答えなかった。
優樹菜のことを数秒見て、顔を背けた。
その何気ない動作に、優樹菜は、違和感を覚えた。
思えば───昨日、”合宿”を提案してから、自分を見る勇人の視線に、意味深なものが浮かんでいるような気がした。
(昨日、葵が本拠地に泊まりたいって駄々こねてた時は、いつもと同じ様子だったのに……何で?)
記憶の中に答えを探ろうとしても、思い浮かぶものは何もなかった。
ふと視線を上げると、勇人は優樹菜のことを振り返らずに階段を下りだしていた。
「ちょっと待ってよ」と、その背中を追う。
※
ビルとビルの間をすり抜ける風が冷たい。
4月───季節は春といえども、まだ、この時間は冷えるようだ。優樹菜は「上着を着てくればよかったかも」と、長袖のシャツを着た腕を見下ろす。
優樹菜と勇人、2人が地面を踏む音だけが辺りに響いていた。
ビル群を抜け、”立ち入り禁止”のコーンに向けて歩きだした時、不意に、勇人が口を開いた。
「どこ行くんだよ」
その声があまりに唐突に聞こえたので、優樹菜は一泊、答えるタイミングを逃した。
勇人の方を向いてから「コンビニ」と、短く答える。
「ていうか……それ、何で、ずっと持ってるの?」
優樹菜は、勇人が左手に持ったままの懐中電灯を指して言った。
勇人の目が、ゆっくりと優樹菜の瞳を捉える。
「───持ってたら悪いか?」
その言葉に、優樹菜は、反射的に、「……は?」と鋭い声を返した。
「───別に、悪くないけど」
無意識に、いつもより強い口調になってしまった。
勇人は、優樹菜の答えに対し、何も言い返してこなかった。
ただ、優樹菜の目を数秒見つめて、目を逸らした。
優樹菜は、ムッとした。
(何なのよ、さっきから……)
訳が分からない。───勇人が何を考えているのか、分からない。
感じた腹立たしさは、勇人に向いているようで、実際には、勇人の心情を読み取ってあげられない自分に向いたものだった。
※
「なんで勇人、優樹菜と一緒に行ったんだろうね?」
葵が2人が出て行ったドアを見つめて首を傾ける。
「優樹菜さんは一人でいけるからいいって言ってたけど……夜だから、一人だと危なそうって思ったのかな……?」
蒼太が窓の外に目を向ける。
「だとしたら、勇人、めっちゃ優しいじゃん!」
ぱっと顔を輝かせた葵は直後、「うーん」と天井を見上げた。
「けど、優樹菜って、そんなか弱い女の子に見えるかなぁ?むしろ、勇人は優樹菜のこと、火の中をくぐり抜けても生き残るタイプって思ってるような気がするんだけど」
それは、あおちゃんの中でのゆきさんのイメージじゃない……?───心の中でそう思いつつ、光は、「……たぶん」と口を開いた。
「勇人くんの中で、何か気になるようなことがあったのかも」
「なにか?」
葵が、きょとんとした目をする。
「勇人くんとゆきさんの関係だからこそ分かるようなことが───何か」
光は、自分の予測を口にしながら、それはそれ以上、他の言葉で表せない感覚なのだ、と思った。
確証があるわけではない。ただ───何となく、そんな気がするだけ。
「うーん、たしかにでも、あの2人のことだから、あたしたちが心配しなくっても大丈夫か!翼、依頼解決で他に何か気にした方がいいことって、ある?」
葵が明るい口調で、翼に問いかける。
───が、翼は、葵の言葉に、反応しなかった。
葵の声そのものが聴こえていないかのように、じっと、パソコンの画面を見つめていた。
「翼?」
葵が、不思議そうにその顔を覗き込むと、翼は、はっとしたように肩を揺らした。
「あっ……ああ、ごめん……」
翼は、ふっと、目元に笑みを浮かべた。
「ちょっと考え事しちゃってた。えっと……依頼解決のこと、だよね」
何かの考えを振り払うように頭を動かして、葵の問いかけに答える翼の姿を、光は、見つめた。
そして───胸に、微かな胸騒ぎのようなものを感じた。
(萩原くん……今日、いつもと比べて、元気ない……?)
───それは、唐突に降って来た予感だった。
よろしければ、評価・ブックマーク登録、感想など、よろしくお願いいたします!




