Stars Story4
2泊3日の合宿───翼は、6人で本拠地に止まることに、ある思いを抱えていて───?
その日は、家に帰るまでの道が、いつもより長く感じられた。
晩御飯の後、「明日から、2泊3日で、友達の家に泊まりに行こうと思う」───そう、”父と母”に打ち明けると、2人は、翼が想像していた以上に、嬉しそうな反応を見せた。
「友達の家で寝泊まりかぁ、懐かしいな。父さんも、中学生くらいの時、よくクラスの子の家に泊まりに行ってたよ。夏休みなんて、友達の家をハシゴして、一週間くらい家に帰らなかった」
そんな思い出を語る父に対し、母が穏やかに微笑む。
「あなたに、そんな無邪気な子供時代があったのね」
「親が2人とも、仕事が忙しくて、ほとんど家にいなかったからね。一週間くらいいなくても、あまり気にされてなかったんだよ」
「その友達は、翼くんと同じクラスの子なの?」
「ああ、えっと……」
翼は、少しだけ、言葉に詰まった。
「───隣のクラスの子なんですけど、いつも、仲良くしてくれてる子です」
そう答えを返すと、2人は「そうなんだ」と、笑顔をみせた。
その反応に、翼は罪悪感を覚えた。
"ASSASSIN"のことは、2人に話せない───。
だから、本当のことは言えない。
自分にとって、"隣のクラスで、仲良くしてくれている"光のことを、この場を誤魔化すための嘘に利用してしまった。───父と母はきっと、この話の中の翼の友人のことを、男の子だと思っているはずだ。
───"父と母"は、翼の言葉を、疑わない。
それが、より一層、翼の心を、ざわめかせる。
翼の"父"である萩原 聖也は、この家から車でほど近い郵便局で働いている。温厚で、誰に対しても分け隔てなく優しい性格で、翼は彼が怒っているところを、一度も見たことがない。
"母"である桐乃は、駅にほど近い警備会社の、事務員として働いている。常に穏やかで柔らかい雰囲気を纏っているが、その根底に揺らぎない芯を持っていることを、翼は知っている。
翼が家で、学校の友達の話をする機会は、ほとんどない。
だからこそ、父と母は、翼がその話をすると、自分のこと以上に喜ばしい顔をする。
2人は、翼の言葉を疑わない───。
そして、自分たちが知らないところでの翼の行動を追求してくるようなことをしない。
翼が口に出さない翼の思考を、無理矢理、聞き出そうとしない。
───翼は、父と母に、自分が抱える不安や悩みを、打ち明けない。
だから───2人は、翼が今、何を思っているのか、知らない。
「明日、学校が終わるの、楽しみだね」
桐乃が優しい目で翼を見つめる。
「楽しんでおいで」
聖也が微笑む。
翼は、2人に笑顔を返しながら───心の中で、ぼんやりと、こんなことを思った。
───僕は、あの5人と本拠地で3日間過ごすことを、心の底から、楽しみだと思えているのだろうか?
※
金曜日の夜は、あっという間にやってきた。
夜7時。本拠地に向かう約1時間前、翼は近所のコンビニエンスストアに立ち寄った。
入り口を入ってすぐの棚の前に立ち、目的の商品を探していると───
「あれー?」
背後で間延びしま声が聴こえた。
翼は最初、それが自分に向けられたものだと、気が付かなかった。
「ばっさー?」
肩をトントンと叩かれて、翼は振り返った。
「あっ───」
自分を見つめる紫色の瞳と目が合い、翼は声を上げる。
「琉輝くん」
奈須琉輝。翼と同じ14歳であり、能力者専門の情報屋として活動する少年だ。
「奇遇だねー」
「あれ……?琉輝くん、このあたりに、何か用事があったの?」
琉輝が住んでいる場所は、駅の近くにあるマンションの一室だ。
彼の家の近所にあるコンビニならともかく、駅から離れたこの場所で買い物というのは、何か特別な理由があるのだろうか?と思った。
「んー、そんな感じー。ちょっと、気分転換に散歩してたんだよねー。で、目的地決めずにうろうろしてたらここに着いてさー、ちょっくら、アイスでも買ってくかーってなったわけー」
琉輝は、ひょいと、左手に持っていた棒付きアイスの袋を持ち上げた。
「ばっさーは、この辺が家なんだっけー?」
「うん」
翼が頷くと、琉輝はチラリと、翼が見つめていた商品に目を向け、
「んー?歯ブラシー?家のお使いー?」
そう、声を上げた。
「ああ、いや。これから泊まりに行くから、それ用の」
「泊まりー?」
琉輝は、首を傾けた。
翼は、これから本拠地での"合宿"が始まることを説明した。
「へーえー。なんか、楽しそうだねー」
琉輝は、本当にそう思っているのかいないのか分からない口調で答え、
「泊まりってことは、みんな一緒の部屋で寝ることになるのー?」
チラリと翼の目を見た。
「そうなる……のかな。本拠地の中で、寝られそうな部屋は限られてるし……」
翼は、答えた。
「そっかー」
琉輝は翼の瞳から目を逸らさずに頷き、
「ばっさーってさ、他の人と同じ部屋に泊まるの、抵抗ない人?」
そう、問いかけてきた。
「え───」
翼が、言葉に詰まると、
「いやー、自分は、あんまり得意な方じゃないからさー。同じ部屋で誰かと一緒に寝ること。ばっさーは、どうなのかなーって」
琉輝は、何気なく答えた。
「まー、でも、同じ建物に泊まることになってもさ、せめて、男女は分けた方がよさそうだよねー。男女同部屋は、なんていうかさー、トラブルの種になりそー」
翼が問いかけに答えを出すより先に、琉輝は、話を先に進めた。
「……そうだね」
それに乗る形で、翼は頷く。
琉輝は、自分がした質問を、特に気にしていないような様子で、頭上の蛍光灯を見上げ、それからもう一度、翼の瞳を見つめた。
「ちなみにねー、ばっさー」
琉輝は、表情を変えることなく、言った。
「さっき、楽しそうだねーって言ったことは、ほんとうだよー」
翼は、静かに、目を見開いた。
「リーさんとは最近全然会えてないけど自分の命の恩人なことはずっと変わらないし、後輩くんも人の気持ちが分かるいい子だしさー、それに、ばっさーもいるんでしょー。さっきも言ったとおり、人と泊まるのは苦手だけど、その3人がいる部屋なら、遊びに行ってみたいなー。女子3人も、いい人たちだしねー」
琉輝は翼の目をじっと見つめて、そう言い切ると、「じゃ、自分、お先にー」と身を翻して、レジの方へと向かった。
そして、帰り際、その場に立ち尽くしていた翼に向かい、「じゃあねー」というようにレジ袋を持ち上げた琉輝は、自動ドアをくぐっていった。
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