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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第14章
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Stars Story1

新学期を迎えたメンバーたちは、それぞれが新たな日常に踏み出さそうとしていた───。

 逢瀬高校は、3年間に一度―――2年生に進級する時にのみ、クラス替えがある。


 始業式の朝。いつも通りの登校時間に学校に行ったら、玄関前に貼られたクラス表に、人がごったがえしているだろうと予測をたてた優樹菜は、いつもより30分早く家を出た。


 結果、玄関には誰の姿もなく、優樹菜は、壁に貼られたクラス表を、1組からじっくりと眺めることができた。


 去年のクラスであった1組に、「中野優樹菜」の名前はなかった。続いて、2組の名簿をなぞっていく……。


 ―――2年3組。


(あっ……茜)


「角元茜」の名前を確認した瞬間、優樹菜の心臓が、ドキリと鳴った。


 残るクラスは、この3組と、4組のみである。


 この組に自分の名前がなければ、必然的に、今年は、4組ということになってしまう。


 下に下りる目線の動きが、自然と、ゆっくりとしたものになってしまった。


 大人から見たら、「クラス替えでそんな緊張しなくても」と苦笑いされてしまいそうだが、16歳の少女にとって、これからの2年間を、どんなクラスメイトたちと過ごすのかということは、とても重要だった。



 ───「中野優樹菜」



 名簿の、真ん中より下あたり───優樹菜は、その名前を、発見した。


 深い、息が漏れる。


 直後、じんわりと嬉しさが込み上げてきた。


(今年も、茜と同じクラスだ……)


 教室に行ったら、茜に報告の連絡を入れようと決意し、優樹菜は、再び名簿に目を向けて、「あっ……」と呟いた。


 優樹菜の出席番号の、一つ後ろ。


「花園奈穂」の名前を、見つけたのだ。


(奈穂ちゃんも、同じクラスなんだ……。しかも、出席番号近い───嬉しい)


 優樹菜の頭の中に、“ASSASSIN”の依頼者として出会った奈穂との思い出が蘇る。


 この学校で、ただ2人といえる友人が同じクラスであることを確認した優樹菜だが、もう一人───あの2人には申し訳ないが、2人以上に、どのクラスにいるのか気掛かりな人物がいた。


 きっと、名簿の一番後ろ付近に名前が載っているのだろうと気付きつつ、すぐに、そのあたりを見ることができない自分に、内心、もう一人の自分が呆れている。


 2年3組の生徒たちの名前───優樹菜がなぞる名字の頭文字が、「ま」行の終わりに差し掛かった時───



「また、お前と同じかよ」



 突然―――耳元でした声に、優樹菜は、文字通り、その場で飛び上がった。


「びっ、びっくりしたぁっ……!!足音くらいさせてよ!」


 振り返り、すぐ近くに立っていた彼に向かって叫ぶ。


 優樹菜の怒りに、勇人はいつものように反応を見せなかった。その無関心な様子に、優樹菜は、更に顔が熱くなった。動揺しすぎている私がバカみたいじゃないか。


「……ていうか、来るの早くない……?なに……?2年生になったから、心機一転しようとかそういうこと……?」


 優樹菜はいきなり叫んだせいで荒れた呼吸を整えながら尋ねた、


「なわけねぇだろ」


 即答された。表情は変わらないが、ごくごく当たり前のことを言っているような、そんな口調だった。


「じゃあ、なんで……あっ……、もしかして、お父さんに送ってもらったの?」


 優樹菜は、玄関のドアの向こうに覗く外の景色に目を向けた。


 勇人はいつも、優樹菜が乗っているのよりも一本遅いバス(遅刻ギリギリな時間)に学校に来る。


 ただ、その例外───今日のような日───が、1年生の時、ごくたまに存在していた。


 それは、勇人の父、亮助が職場である北山警察署に向かう途中に、勇人を学校に送っていく日だ。


(最近のお母さんもだけど……連日、夜遅くまで働いてるから、今日は、いつもより少し遅く家を出たのかな?)


 優樹菜は、亮助の事情を想像した。


 亮助はいつも、自分が職場に着く頃───7時半には必ずいると、以前に、母が言っていた。


 ということは、亮助は大体、7時頃に家を出ている計算になるが、その時間に、勇人が家を出られる状態にいるとは考えにくい。


 今が、8時を少し過ぎた頃なので、今日の亮助は、いつもより30分ほど遅く家を出ることにしたようだ。


 勇人自身も、バスを待つことや乗る手間を考えると、車の方が楽だと考えているのか、バスよりも早く学校に着くことに対して、不満を感じている様子はない。


 勇人の発言により、もう名簿を確認する必要はなくったのだが、優樹菜はチラリと後ろを振り返った。


 2年3組の名簿の下方に、「矢橋勇人」の名前があった。


「……ていうか」


 優樹菜は、先程の勇人の発言を思い出し、鋭い目を向けた。


「またお前と同じってなに?なんか悪い?」


 自分が胸の中で、そっと喜びを嚙みしめている分、余計に腹立たしかった。


 勇人は、優樹菜の睨みを、すっとかわすように視線を外すと、


「四十六時中、お前と顔合わせる羽目になるだろ」


 そう言って、階段の方に向かって歩きだした。


「……は?」


 優樹菜は、眉をよせた。


「何よ、今更」と、その背中を叩いてやろうかと手を伸ばした時───


「あっ……」と、優樹菜は、目を止めた。


 勇人が肩から下げている鞄に、見覚えのないものがぶら下っているのが見えたのだ。


「ねえ……それ……」


 尋ねようと視線を上げたが、勇人の姿は、優樹菜の声が届かない位置にあった。


 勇人の鞄の横で、赤い御守りが、ふわりと揺れた。


 ※


「萩原くん」


 3年生の下駄箱で靴を履き替えていた翼は、その声に、後ろを振り返った。


「ああ、上村さん」


 上村光は、「おはよう」と、笑顔をみせた。


 数日ぶりに会う光は、長袖のセーラー服の左胸あたりに、「3年2組」のバッジをつけていた。


「今日から、3年生だね」


 履いていたローファーを脱いで玄関に上がった光が、翼を見上げる。


「そうだね」と頷く翼の胸に、微かに、ざわりとした感触が訪れる。


 今日から、3年生───今年は、受験生。


 2人は並んで、3年生の教室がある2階へと向かった。


 この学校は、下の学年ほど、教室がある階が上になる。


 1年生は4階、2年生は3階、1年生は2階───職員室があるのも、2階だった。


(たしか、受験生が、分からない問題を、すぐに先生に質問しに行けるようにっていう、配慮なんだっけ……)


 翼は、階段を上がりながら、考えた。


 また、受験生───か。


 光に気付かれないように、肩を下した。


「3年生でも、クラス替え、あったらいいのにね」


 不意に、光が言った。


 翼が、「えっ?」と、顔を向けると、光は、翼の目を見て、微笑んだ。


「もし、そうだったら、萩原くんと今年、同じクラスだったかもしれないなって思って」


 その笑顔に───翼は、一瞬、答えに詰まった。


 光の気持ちに、共感できなかったわけではない。その期待が、迷惑だったわけでも、決してない。


 この学校は、逢瀬高校と同じように、クラス替えが、1年生から2年生に上がる年にしかない。


 2人は、2年生の時と同じクラスメイトたちと、これからの一年間を過ごすのだ。


 もし、そうじゃなかったら───?


 翼の脳裏に、そんな考えが過った。


 3年生になる年にも、クラス替えがあって、上村さんと同じクラスになっていたら───?


 僕は、どうしていただろう。同じ教室にいる僕を、上村さんは、僕をどんな目で見つめていただろう。僕は、上村さんを、どんな目で見ていたんだろう───。


 頭の中を、様々な幻想が駆け抜けていく。


 翼は、静かに、息を吐いて、


「───そうだね」


 笑顔をつくって、頷いた。


 ※


 小学6年生になったからと言って、蒼太の生活は、以前とあまり変わりそうにはなかった。


 教室は、去年と変わらぬ、1階の左端にある小さな教室───クラスメイトは、葵一人だけの、「特別クラス」という名のクラスである。


 担任も変わらず、去年に引き続き、浜田秀教諭であり、初めて会う人や、新しい環境に馴染むのに苦手な蒼太にとっては、願っていたことがすべて叶ったかのような、新学期を迎えられた。


 ただ、去年の4月から変わったことと言えば───家から、葵と一緒に登校できなくなってしまったことなのだが、下校時に、一緒に本拠地に行くことは、ずっと変わらない。


 春休みは、10日ほどの、2週間にも満たない期間だったのだが、蒼太は、その毎日を、とても長く感じていた。


 ”ASSASSIN”の活動は、ゴールデンウィーク、夏休み、冬休みといった長期休みの期間は、休止になることが決まっている。


 春休みは、夏休みや冬休みと違って宿題がなく、蒼太は、10日間の間、事あるごとに、「早く、春休み終わらないかな……」と、ぼんやりと考えていた。


 家には、勇人がいるし、春休みの間に一度、葵の家に遊びに行って、葵と優樹菜に会った。翼と光には会うことができなかったが、メンバー6人のチャットグループで、春休み明けの予定を優樹菜が送ってくれた時、メッセージ上でやりとりをして、2人が元気そうであることは、確認できた。


 たったの10日間。


 ───なのに、蒼太は、本拠地に行きたくてたまらなかった。


 本拠地に行って、6人が揃った、あの景色が、見たい───。


 蒼太は今、始業式を終え、帰り道を葵とともに歩いていた。


 今日は、午前中で授業が終わった。


 聞いたところによると、逢瀬高校も野ヶ崎中学校も同様らしいが、小学校とは、”午前授業”が終わる時間が、僅かに異なっている。


 そのため、今日までを、”ASSASSIN"の春休みとし、明日から活動を再開しようという話が決まっていた。


 2人の頭上には、校舎を囲むフェンスに沿って植えられた桜の木がある。


 蒼太は、スニーカーの音を響かせながら歩く葵の横顔を見つめて、


「葵……」


 そっと声を掛けた。


「明日……久しぶりにみんなが揃うの、楽しみだね」


 ぱっと蒼太の顔を見た葵が、「うんっ!」と、満面の笑顔を浮かべる。


「早く、明日になったらいいのにね!」


 跳ねるように地面に着地した葵の足元で、桜の花びらが舞い上がった。

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