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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第13章
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March Story46

屋敷には、輝葉の帰りを待つ男がいた───。

 輝葉が屋敷に戻ったのは、もうすぐ空に朝日が昇る頃だった。


 時間というものが存在しないかのように、朝も昼も夜も暗い階段を上がり、自室へと向かう。


 部屋の鍵を開け、ドアノブをひねる。


 そこには、いつものように、一人の少年が立っている───はずだった。


「───お帰りなさいませ、お嬢様」


 部屋の中心で、こちらに向かい、深く頭を下げる人物を───輝葉は、冷たい目で見つめた。


「……一体、どういう真似事?」


 相手が、顔を上げる。


「ははは、開口早々冷たいなぁ。これでも随分、長い間、待っていたんですよ。一体、今まで、どこにお出かけされてたんですか?」


 そこにいた人物───五十四奏多は、本心の読めない笑みを浮かべた。


 輝葉は、奏多の言葉に答えず、素早く室内を見回した。


「……寿樹は?今、どこにいるの?」


「彼は、別室にいてもらっています。ただ、ついさっきまで、この部屋にいましたよ。2人きりで話したいと言ったら、お嬢様に何かしたら、次はないですよという条件付きで、移動してくれたんです」


 奏多は、笑顔のまま答えた。


「本当に、側近って言うのは厄介ですよね」


 奏多が、一歩、輝葉に近づいた。


「目的は君じゃないっていうのに───僕の目的と片時も離れずそばにいて邪魔をしてくる。───あなたにとっての、”ASSASSIN”みたいなものですかね」


 奏多の真っ黒な瞳の奥に、嘲るような表情が浮かんだ。


 輝葉は、心に沸き上がった感情を抑えるために、指先をきつく握りしめる。


 そして、ふっと、口元に笑みをたたえた。


「……それ、自分も同じことでしょ?」


 そう言葉を返すと、奏多は、いきなり、声をあげて笑い出した。


「違いますよ」


 笑い混じりの声を奏多は漏らす。


「僕にとっては、”ASSASSIN”なんていうのは、その気になれば簡単に片付けられる存在です。やろうと思えば、矢橋勇人くんを殺すことなんて、数秒あれば可能なんですよ。───あなたの邪魔が入らなければ」


 輝葉は、表情を消した。


「……本当に、心底憎いね」


 発した声に、抑えきれない怒りが滲む。


「私だってそうだよ。その気になれば、君を今ここで、1秒で殺すことができる───私がそれをしないのは、君が死ぬことによって、私に邪魔が入るからだよ。……こんなこと言いたくないけど、君は、他の誰よりも優秀な殺し屋だからね。そんな君が、いきなり私に殺されたら、その理由を嗅ぎまわる輩が現れる……」


「そして、他の奴らが、矢橋くんに辿りつくかもしれないということですか。そうなったら、最悪ですね」


 輝葉の言葉を遮るように、奏多が言った。


 輝葉は、じっと、その目を見据えた。


「───何で、あなたはそこまでして、勇人を殺そうとするの?」


 奏多は、ただ、黙って、輝葉の目を見つめ返し、


「クラリスは、”どうして、あなたは花が好きなの?”と聞かれて、理由を答えられますか?」


 そう、問いかけてきた。


 輝葉は、答えを出さなかった。


「好きとか、欲しいとかいうのは、感覚的な感情なんですよ。特に理由はありません。僕がそうしたいから───ただ、それだけです」


 奏多は、瞳さえ、一切動かさないまま、言った。


 輝葉は、重い息を吐きだした。


「……訳わかんない。本当に、相手にならないよ。整形手術が失敗して死んでくれてたらよかったのに」


 奏多は、「はははっ」と可笑しそうに笑った。


「さらっと暴言を吐かないでくださいよ、傷つくなぁ。これでも僕、"手術代"として、"記憶"を支払ったんですから。それで十分じゃないですか?」


 輝葉は、自分と同じくらいの背丈の、"少年"としか見えない相手を見つめる。


 ───記憶


 奏多は、ある記憶を、失っている。


 4年前───五十四奏多は、御神有馬から、「人間の血を吸うことにより、その人間が持っている能力を自身の手にすることができる」能力を授けられた。


 有馬は、当時から他の殺し屋に比べ明らかに群を抜いた才能を所有していた奏多に、大きな期待を寄せていた。


 そして───奏多のことを、自身が思う、”理想の殺し屋”に、作り変えようとしていたのだ。


 その一つが、奏多の体を、子供の体に整形すること。


 もう一つ───姿を消す能力を持った少年の血を奏多に吸わせること。つまり───勇人の能力を奪ったうえ、殺すこと。


 ───奏多は、その記憶を、4年前、勇人を殺そうした、あの記憶を、失っている。


 勇人の母、さくらが奏多───池逹準夜を拳銃で撃ち、その際に、準夜は、怪我を負った。その後、意識を失った状態で、殺し屋専用の医療室に運ばれ、怪我を治療すると同時に、体の整形を行われたのだ。


 その結果、目覚めた奏多は、御神有馬が死んだあの夜の記憶を、失っていた───。


「僕が死んだら理由を探る輩が現れる───か。けれど、クラリス。あなたが死んだとしても、その理由を調べようとする奴なんて、大していませんよ」


 奏多の声が、輝葉の思考を遮った。


「あなたは、ご自身が思っているよりも、()()()から、厄介で邪魔な存在だと思われてますから。あなたがいなくなってくれるなら───理由なんて、どうでもいいんですよ」


 奏多は、そこまで言い切ると、「そして───」と、口元を笑わせた。


「あなたの能力さえ抑え込むことができたら、僕はあなたを殺せる」


 その目には、紛れもない確信が浮かんでいた。


 直後───


「───けど、その前に、あの少年をどうにかしておかないといけない」


 奏多の目が、すっと、細くなった。


「本当に、ボスは、あの子に、あなた以上にとんでもない能力を託しましたね。───呪いをかける能力なんて、あまりにもタチが悪すぎる」


 輝葉の執事───柊寿樹。


 彼は元々、能力者ではなかった。


 身寄りのない子供が身を寄せあう施設から、御神有馬が引き取り、彼の体に、能力を与えたのだ。


 それは、御神有馬が、東市の中で見つけ出した、ある女性が所有していた力だった。


 他人に降りかかる未来を、自身が設定できる能力。


 例えば、ある人間に対し、「5分後に事故に遭って死んでほしい」と思えば、その思い通りの未来が訪れる───奏多の言葉通り、まさに、呪いのような力だ。


 しかし、その力は、あまりにも強大すぎて、輝葉の能力と同様、代償を必要とする───。


 輝葉の場合、その内容は、叶えた願いの大きさによって比例する。


 そして、輝葉自身、それがどれほどのものになるのか、予測することはできたとしても、完全に言い当てることはできない───。



 しかし───寿樹の能力は違う。



 彼の能力に必要な代償は、ただ一つに、決まっている。



「ただ、クラリス。僕が、あの少年に手出しをするのを止めるために、彼の能力を利用するのは、あなたにとっても、本意ではないですよね」


 奏多が、口を開いた。まるで───輝葉の心を、見透かしたように。


「大事な大事な執事の寿命を削ってまで、あなたが彼に対して、僕に呪いをかけるように命じる道を選ぶとは、思えない」


 輝葉は、指先を握りしめた。


 認めたくないが───奏多の言葉は、正解だ。


 寿樹の能力に必要な代償───それは、寿樹、彼自身の寿命を縮めることだった。


 輝葉は、強く、奏多を睨みつけた。


「……寿樹の能力を止めるために、寿樹になかしたら……許さないよ。……寿樹は、私と距離が近い存在だからね。大事な執事を守るために行動したって、変な疑いは立たないでしょ」


 警告の言葉に対し───奏多は、にっこりと微笑み、


「───ご安心を。あなたと彼、同時に、制御する方法を、これから考えますから」


 淀みのない口調で、そう言った。


 輝葉は、怒りを滲ませた息を吐きだした。


「……もう、帰って。これ以上話しても、時間の無駄」


 意外にも、奏多はすんなりと、「かしこまりました」と頭を下げ、輝葉の横を通り過ぎて行った。


「そういえば、クラリス」


 ドアを開ける直前───奏多が、何かを思い出したように、振り返った。


「あなたが何故か生かしている、あの男、清水清隆とか言いましたっけ。最近、様子を見に行きました?」


 輝葉は、奏多の目を見つめた。


 ───彼が、何を言おうとしているのか、分からなかった。


 奏多は、不敵な笑みを浮かべ、


「僕たち殺し屋は、スパイが行うものと同様の訓練を積んでいるんです。牢獄から抜け出すなんて、意識と体力があれば、いくらでもできますよ」


「じゃあ」という挨拶を残し、呆然と部屋に立ち尽くす輝葉を置いて、部屋を出て行った。

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