March Story42
輝葉が"ASSASSIN"に抱いた憎しみの正体───。
「最初……”ASSASSIN”ができたばかりの時の勇人は、孤独だった。私が……私だけが、そこから救ってあげられると思ってた。私は、勇人の前に姿を現さないまま……どうにかして、勇人を元の世界に引き戻す方法を、考えたていた」
輝葉は、「……それなのに……」と、唇を、きつく噛みしめた。
「……私より先に、私にはできない方法で、それをしようとする子たちが現れたんだ。私、どうしようもないくらい、嫉妬したよ、君たちに」
蒼太は、その姿を、ただ───見つめることしかできない。
「私がいたはずの位置にいる君たち5人が、憎くて、仕方なかった。勇人がこれまで、どんなに苦しんできたか……その断片くらいしか知らないくせに、知ったような顔して、勇人と関わって……許せないと思った。勇人が経験したのと同じくらい……それよりもっと、苦しめばいいのにって思った。蒼太くん、君に対しても、思ったよ」
輝葉の口調は、淡々としていた。
「だから……君たち5人の中の誰かに、私の願いを押し付けてやろうと思った」
感情が読み取れない表情───それは、輝葉が、彼女の心に沸き立った激しい感情を、蒼太にぶつけることを、抑えているように見えるものだった。
「でも、君たちは、そんな単純な人間じゃない───それが分かったから、私は、あの方法を考えたの。あなたの願いを叶えてあげる代わりに、私の願いを叶えてって、君たちの誰かに、頼むこと……。私の能力に、代償が必要なことは黙って……ね」
輝葉の言葉に───蒼太の頭の中に、”あの日々”のことが、蘇る。
輝葉が、自分たち”ASSASSIN”のメンバーに接触し、自分たちの日常を、壊そうとしてきたこと───。
あの時───蒼太には、分からなかった。
何故───輝葉は、自信の願いを叶えるための”人材”を、誰か一人に、絞らなかったのか───。
───それは、勇人のそばにいる5人を、平等に苦しめるためだったのだ。
彼女の願いは───大切な人を救いたいというものから、その他の大勢を破壊したいという衝動に、変わっていった……。
輝葉は、蒼太の姿を、じっと見つめた後───
「……勇人が、元の人格に戻って、それが、他の誰かの人生を犠牲にしたうえで成り立ってるっていうこと───それを、勇人が知ったら、どうなるのか……私は、考えていなかった」
静かな声で、口を開き───「……いや……」と、首を、横に振った。
「……違う。……本当は、どこかで、分かってた。……分かったうえで、”それでもいい”って、思ってた……」
蒼太の口から、ようやく、「……え……?」という声が漏れる。
「……私が、あの時……一番、苦しめたかったのは……傷を負ってほしかったのは、勇人だった」
輝葉は、掠れた声を、発した。
「……今まで苦しかったのは……私も一緒なんだよ」
蒼太に語り掛けたいたはずの、輝葉の口調が───変化する。
「……私はそれまでの4年間で、何人もの人を殺した……私の、有馬の後継者としての人格がそうした。でも……時々、もう一人の私……いなくなってしまったはずの、元の私が、顔を出す瞬間があったの。……そんな時、私が、何度、死んでしまいたいと思ったか……そう思ってさえも、死を選ばなかったか……。……勇人がいるから……私は、生きなきゃと思ってたんだよ。……なのに、なのに……」
輝葉の顔に───様々な感情が浮かぶ。
怒り、後悔、悲しみ───それらが、混ざり合い、
「……私を忘れたように、私なんていなかったみたいに……一人で勝手に、私のいけない世界に、行かないでほしかった……」
その、微かな声とともに、弾けた。
「……矛盾してるよね」
僅かに視線を上げ、輝葉は、ふっと、口元を笑わせた。
「私が救うんだって、誓ったはずなのに───勇人が、光のある世界に戻る……そこに、自分が関われてないって知った瞬間……勇人のことを憎むなんて、おかしいよね」
彼女の目を見つめ返しながら、蒼太は、「自分は今、どんな顔をしているのだろう」───そんなことを、考えた。
───彼女と同じ、悲しみに満ちた顔をしているのか。───それとも、もっと、悲惨な目を、しているだろうか。
輝葉は、唇の笑みを消し───
「……でも、今は、そんな感情は……ないんだ」
ふっと───その瞳を、和らげた。
「……どうしてだろう。”ASSASSIN”のことも……勇人のことも、心の底から、憎いって、思ったはずなのに……」
輝葉は、そこで、深く、息を吸い込み、
「……私の中での勇人ってね、決して……強い人間じゃなかったの」
蒼太の目を、真っ直ぐに見据えた。
「出会った瞬間は……初めて話したばかりの頃は……誰にでも優しくて、頼りにされて、好かれる……きっと、そういう子なんだろうって、思ってた」
輝葉は、再び語りだした。勇人と、彼女の思い出を。
ただ───その声は、それを最初に語りだした時のものとは、違っていた。
「だから、私みたいな見ず知らずの女の子にも、優しくしてくれたんだって……。この子は、誰にでもこうなんだ。私が特別なわけじゃない……そう言い聞かせて、私は、勇人と接してた」
その言葉に───蒼太の頭の中に、”あの表情”が浮かんだ。
輝葉が今、同じように思い浮かべているはずの───勇人の、あの笑顔が。
「……だけど、時間が経つにつれて、段々と、その印象が変わっていった。……普段は、周りの人に見せないだけで、本当は、悩みも不安も、たくさん持ってるんだな……って。そしてそれを、私には……私にだけ、打ち明けてくれてるんだって。……家族でもない、学校の友達でもない、完璧を演じてない勇人を知ってる、私にだけ」
輝葉は、再び、唇を笑わせた。───でも、それは、先程にみせたものとは違う。───とても、優しい顔だった。
「……勇人は、自分にとって大切な人たちを守りたいと思ってた。……でも、そのための力を持っていなかった。だから……私の能力を頼った」
語られたのは、勇人が持っていた、”弱さ”だった。蒼太が知らない───知らなかった、勇人の姿だった。
「……私、あの時、私の能力で、世界を変えようとした勇人に、”そんなものに頼ろうとしないで”って、ビシッと言える人間でありかったな……」
輝葉は、そう呟いて、頭上に広がる空を見つめた。
「私たちだけでどうにかしようとしないで……誰か、信用できる人を頼ったらよかった。……そうしたら……未来は、きっと変わってた。能力なんかなくても……その人が持っている、ほんの小さな力だったとしても……組み合わせたら、変えられたはずなんだよね……私たちがいた、暗闇のような世界も……」
輝葉は、蒼太の目を見つめて───嘘のない瞳で───言った。
「今……君たち、”ASSASSIN”を見て、そう思うよ」
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