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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第13章
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March Story38

予期せぬ、故郷への帰還───そして。

 輝葉に、今の父の居場所を調べてもらって、分かったのは───父が今住んでいるのが、北山町であることだった。


 北山にある───勇人の生家。母と父が離婚する前、家族4人で暮らしていた家だ。


 父がどうして、その家にいるのか───それは分からなかったが、その家の場所を、勇人は、今でも、はっきりと思い出せた。


 輝葉が能力で連れて来てくれた場所は、町の中心から少し離れた、とある公園の敷地だった。


 まだ、夜は深いが、人に姿を見られない場所の方がいいという判断からだった。


 勇人が、公園の敷地外に踏み出そうとした瞬間───隣にいる、輝葉の体が、揺れた。


 ふらりと、足の力が抜けたように前のめりになった輝葉の体を、勇人は驚きと同時に、受け止めた。


「大丈夫……!?」 


 声を掛けると、輝葉は、勇人の顔を見上げて、弱々しく笑った。


「ちょっと……能力を立て続けに使い続けちゃったせいかも……」


 たしかに───能力を短い間に使い続けると、体に疲労がたまりやすいということは、勇人も知っていた。


 輝葉は、この数時間の間に、何度も能力の使用を繰り返している。それに気づかず、彼女を頼りすぎていた自分を、勇人は責めたくなった。


「どこかで、休む……?」


 そう尋ねると、輝葉は、「……うん」と、頷いた。


「……ちょっとの間だけ、休憩したら、大丈夫だから……」


 輝葉の体が、勇人の手から離れる。


 勇人は、輝葉の体を支えた時───手に触れた彼女の肩が、強張り、震えていることに気付いていた。


 ───でも、それを、彼女に確認することは、できなかった。


 一瞬、自分から目を背けた輝葉の姿に、強い意志のようなものを感じたからだ。


 きっと───その意志は、壊していけないものなのだと、そう思った。


 ※


 2人は、公園の中心にあった、ゾウの形をしたすべり台の下へと入った。


 ゾウの前足と後ろ足の間にできたスペースは、子供2人が入ってちょうどいい広さで、頭上を覆うゾウのお腹の裏側が、天井のような役目をしていてくれた。


 勇人は、隣に座る輝葉が、じっと、無言のまま、地面を見つめていることに気付き、自分も口を噤んでいようと、スニーカーのつま先を見つめた。


 ここまで、ほとんど歩いて移動していないはずなのに、足に、ずっしりと疲労がたまっていた。重いものは、上から下に落ちていくけれど、体中に溜まった疲れという名の重りが、足元に流れていっているのだろうか。


「……勇人」


 その声に、勇人は、視線を上げた。


 見ると、輝葉が、真っ直ぐに、自分を見つめていた。


「……もうすぐ、終わるね。私たちが考えた計画……全部」


 輝葉の顔は、半分が影になっていて、表情をうまく読み取ることができなかった。


 勇人は、「……うん」と頷いた。


 父に会えたら───その瞬間に、計画は完了する。


 独りよがりな願いを込めた計画───でも───一人きりではなしえなかった計画。


「……輝葉」


 勇人は、輝葉を呼んだ。


 そして、その目を真っ直ぐに見つめながら、息を吸った。


「……ありがとう。ずっと、離れないでいてくれて……一緒にいてくれて、ありがとう」


 輝葉は、勇人の目を、大きな瞳で見つめ返したまま───動かなかった。


「いつか、必ず、返すから……輝葉からもらったもの、全部。……輝葉の願いは、俺が絶対、叶えるから」


 勇人は、言った。


 ずっと伝えたいと思って、伝えられずにいたことを───輝葉に、伝えた。


 輝葉の瞳が、微かに、揺れた。


 そして───輝葉は、勇人の目を見つめて───ふっと、優しく、微笑んだ。


「……絶対、叶えてね」


 それは、勇人が初めて聞く、輝葉の声だった。


 自分の意志を封じ込められながら生きてきた輝葉が───自分に見せてくれた我儘。


 それを受け止めて、勇人は、「うん」と頷いた。


 じんわりと、温かい感情が、心を埋め尽くしていく。


 輝葉が望むもの───願いたいことは、何なのか。


 勇人は、その時、聞かなかった。


 どんなことでも、自分が必ず、叶えるんだ───。


 それが、輝葉を、幸せにするのなら……どんなことでも……。


 ※



 ───私の願いは……



 ───私の願いは、勇人が、ずっとこの先、幸せでい続けられることだから……。



 ※


 目を開けた瞬間───勇人は、はっと激しく息を呑みながら、体を起こした。


 しまった───眠ってしまっていた。


 輝葉の姿を確認しようと、左を向く。


 ───しかし、そこに……。



「……輝葉……?」



 その姿は、なかった。


 外にいるのだろうか?───と遊具から顔を出してみる。


 辺りを見回す───でも、輝葉は、いない。


「どこ……行っちゃったんだろう……」


 呟く声を、風が運んでいく。


 見上げた空の色は、眠ってしまう前から、あまり変わっていないように見える。


 きっと、眠りについていたのも、数十分の間くらいで───その間に、輝葉がいなくなった……?


 輝葉は、能力を使えば、どこにでも行くことができ、離れた場所でも、勇人の居場所を知ることができる───しかし、勇人には、それができない。


 いかに、自分が輝葉と比べて無力なのだろうと痛感しながら、勇人は、「どうしよう……」と、左手で、頭を掻いた。


 輝葉がいなくなった理由……それは、一体……?


 輝葉が、急に何かを思いつき、でも、眠ってしまった自分を見て、「勇人には言わないで行こう」と思った……?


 そう考えると───それは、とても、輝葉らしい行動だと思った。


 少ししたら、戻ってきてくれる───そう信じて、勇人は、待つことにした。


 ゾウの遊具を出て、勇人は、公園の奥にあるベンチへと、足を向けた。


 何故、そこに場所を移そうと思ったのかは、分からない。───ただ、一人になった瞬間、ゾウがつくる、真っ暗な洞穴の中にいるのが、少しだけ、恐ろしくなったのだ。


 ベンチに座り、背中に背負って来たリュックを膝に乗せる。


 その瞬間───胃の中が、空っぽになっていることに気が付いた。


 リュックの中には、昨日、コンビニエンスストアで買っておいた、菓子パンが入っている。


 父が東市のアパートにいて、すぐに会えるという保証がなかった昨日───念の為にと、用意していたものだ。


(輝葉は……お腹空いてないかな……?)


 勇人は、パンを取り出して、端の方をちぎり、一口だけ食べた。


「……輝葉?」


 勇人は、ゾウへと近づいた。


 ※


 ゾウの中には───人がいた。


 しかし───輝葉ではなかった。


 見知らぬ、男の子だった。


 勇人の目を、見開いた目で、見つめている。


 灰色の髪に、紫色の瞳───能力者の子だった。


 輝葉かと思って覗きこんだ場所に男の子の姿を見つけた勇人より、いきなり覗きこまれた男の子の方が、驚きが大きかったのだろう。男の子は、やせ細った体を、石のように強張らせていた。


「───お腹空いてない?」


 気付けば、勇人は、男の子に、そう声を掛けていた。


 男の子が、声にならないような声を発する。


「パン、食べる?……あ……でも、食べかけのだから……だめかな。ちょっと待って、今、買ってくるから」


 勇人は、男の子の返事を待たず、公園を飛び出し、すぐ近くにある24時間営業のコンビニに向かった。


 菓子パンを一つ取って、持っていくと、レジの奥から出てきた男性店員は、気の抜けたような様子で、レジを打った。この深夜に、小学生が一人で店内を訪れていることを、特に気にしていない様子なのが、助かった。


 勇人は公園に戻り、ゾウの体の下で自分を待っていた男の子に、レジ袋を差し出した。


「これ、よかったら食べて。ごめんね……このまま、ずっと一緒にはいられないんだけど……」


 勇人は、リュックの中からノートとペンを取り出すと、父の家がある位置の、地図を書いた。


「何か困ったことがあったら、この家に来て。力になってあげられると思うから」


 男の子の手に地図を渡し、勇人は、「じゃあ───」と、ゾウの体を出た。


 このまま、男の子の隣で、輝葉を待つのは、男の子に迷惑をかけてしまうかもしれないと思った。


 自分たちの計画に、彼を巻き込んでしまってはいけない───勇人は、別の場所で、輝葉の帰りを、待つことにした。

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